特集 2012年12月12日

「大飯まつり」で真の山盛り飯を見た

コレ、ご飯です
コレ、ご飯です
長らく農耕中心の生活を送ってきた日本には(ま、海外もそうかもしれないけど)豊作を祈ったり、感謝したりするためのお祭りが多い。

中でも新潟県長岡市の「米百俵まつり」山形県米沢市の「米澤米まつり」山梨県武川市の「むかわ米米まつり」秋田県由利本荘市の「米まつり」などなど……「お米」をテーマにしたお祭りというのは各地で開催されている。やっぱ米は日本人の心ですからねぇ。

そんな「お米」祭りの中でもひときわ気になるお祭りを発見してしまった。それが茨城県桜川市で行われる「大飯(おおめし)まつり」。要は名前の通り、みんなで集まって大飯を食らうというイベントらしいんですが……何ソレ、フードファイト的なこと?

とりあえず見に行ってきたんですけど、色々すごかったです。
1975年群馬生まれ。ライター&イラストレーター。
犯罪者からアイドルちゃんまで興味の幅は広範囲。仕事のジャンルも幅が広過ぎて、他人に何の仕事をしている人なのか説明するのが非常に苦痛です。変なスポット、変なおっちゃんなど、どーしてこんなことに……というようなものに関する記事をよく書きます。(動画インタビュー)

前の記事:「おべんとうばこのうた」の弁当を食べたい!

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大飯を食らう祭りとは?

色々と気になるこの「大飯まつり」だが、まずは「大飯(おおめし)」という響きに心をつかまれる。

「大飯」って意外に使わない言葉でしょ? 辞書を調べてみても「大飯食らい=役に立たない人をののしっていう」とか書かれちゃってるし、そんなにポジティブな意味では用いられないんじゃないだろうか。

そんな「大飯」をみんなで食らう祭り……テンション高く大量のご飯をワッサワッサ食らってしまうのだろうか!? 気になるっ!
まあこんなのをイメージしますよね
まあこんなのをイメージしますよね
さて、期待感をふくらませながらやって来たのは茨城県桜川市の下泉地区。

稲作などが活発に行われている地域らしく、まあその収穫を祝うために生まれたお祭りなんだろうけど、会場である下泉公民館近くまでやって来てもお祭りっぽい雰囲気が皆無なのだ。
この辺が会場のハズだけど……
この辺が会場のハズだけど……
お祭り……やってるの?
お祭り……やってるの?
ホントにここで「大飯まつり」をやってるのかな? と思い、窓からのぞき込んでみると……。
うおおおーっ、やってる!
うおおおーっ、やってる!
……というか、すっげえ飯の量!
……というか、すっげえ飯の量!
「大飯まつり」の名に恥じない、まさに「大飯」といった感じにガッツリ盛られまくったご飯!

小さい頃『まんが日本昔ばなし』の食事シーンを観て、「昔の人は大食いだったんだなぁ……」なんて思ったものだったが、これはそれ以上のてんこ盛りだ!
貧乏人でも米だけは山盛り食ってたような
貧乏人でも米だけは山盛り食ってたような
あれ、こちらは随分と小盛りですね(ま、普通に考えたらコレでも相当大盛りだけど)
あれ、こちらは随分と小盛りですね(ま、普通に考えたらコレでも相当大盛りだけど)
……と思ってたら手で山盛り部分を乗っけたー!
……と思ってたら手で山盛り部分を乗っけたー!
パイルダー・オン!
パイルダー・オン!
これで完成です
これで完成です
茶碗にいっぱいいっぱいまで盛った上に、さらに山型に固められたご飯の塊をドスーンと乗っける合体方式! 確かに茶碗に直でよそっていったら、ここまでうずたかく盛るのは難しそうだからねぇ。

ここで、控え室(?)の方に行ってみると、山盛りパーツだけがいっぱい用意されていた。
わーっ、壮観!
わーっ、壮観!
準備していたおっちゃんたちに聞いたところ、この山盛りパーツは「モッソウ」というんだそうな。んで、土台となる茶碗に山盛り部分は「ざぶとん」と呼んでいるらしい。

「モッソウ」が乗っかるから「ざぶとん」というのは何となく分かるけれど(形もそれっぽいし)、その「モッソウ」って何? おっちゃんたちに聞いてみたが、返ってきた答えは

「さあ……昔っからそういってっからなぁー」

とのこと。あ、知らないんだ。
山盛りご飯の断面図
山盛りご飯の断面図
家に帰ってからインターネットで調べてみたところ、お弁当や懐石でご飯を盛りつける時に使う抜き型のことを「物相(もっそう)」というらしく、おそらくはそこから来てるんじゃないかと……。

ちなみに、この山盛りの「モッソウ」も木の型にギューギューご飯を詰めて作ってるそうです。
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大飯をもそもそ食らう

さて、宮司さんによる儀式や市長さんの挨拶が終わり、いよいよ「大飯まつり」のスタート! ……まあ、お祭りというよりは儀式的な行事っぽいですね、この雰囲気は。
宮司さんや
宮司さんや
市長さんのあいさつが
市長さんのあいさつが
そして宮司さんの「それじゃあいただきましょう」という合図で、みんなすごいイキオイで大飯を食らいはじめる……かと思いきや、わりとイキオイを感じさせないスローなスタート。あれ?
「じゃあ、まあ食いますか」とでもいうべき雰囲気。今ひとつテンション高くない
「じゃあ、まあ食いますか」とでもいうべき雰囲気。今ひとつテンション高くない
しかも、手で山盛りご飯をちぎってる!
しかも、手で山盛りご飯をちぎってる!
ちょっとづつ手でちぎって、それを直でオニギリのように食べたり、小皿に乗っけて箸で食べたり、それぞれ自由なスタイルで大飯を食らってるんだけど、いずれもそんなにスピード感なくもそもそと食らっております。
「今年の米もうんめぇなぁ~!」
「今年の米もうんめぇなぁ~!」
もっと、山盛りのご飯をわっさわっさとかっこんで……みたいなのをイメージしてたのに!
ま、こんな大人数がもそもそ大飯を食らっているのも中々すごい光景ですが
ま、こんな大人数がもそもそ大飯を食らっているのも中々すごい光景ですが
ただ、わっさわっさとイキオイよくかっこめないのにも理由があるのだ。

というのもこの山盛り大飯、特に「モッソウ」部分は木型でギューギュー押し固めてあるから、箸で食べようとしてもつかみようがなくて難しいみたい。

ボクが物欲しそうな顔で見ていたら、ご飯をちょっと分けてくれたのですが。
か……硬い!?
か……硬い!?
ホント、ギューギューに固められてて、ちぎったご飯もおにぎりというよりはおモチのような状態になっている。ひとつかみ分を食べるだけでも結構なボリュームがあるのだ。

それじゃ、ひとり分にどれくらいのお米が詰まっているのかというと、茶碗部分に一合、ざぶとん部分が二合、そしてモッソウ部分は五合! なんと茶碗一杯に約八合のご飯が盛られているらしい。

見た目からもかなりの大盛りには見えるものの、それにしても八合分も詰まっていたとは!
計八合!
計八合!
……というかみなさん、ひとり当たりのノルマが八合もあるってことでしょ!?

ひとり暮らしで八合も米を炊いたら一週間は米ばっかり食い続けられそうなもの。いくら「大飯まつり」の伝わる地区とはいえ、そんなに大飯食らいばっかり集まってるの!?
「いやー食えねぇよ。昨日から飯抜いたりしとかなきゃ……」
「いやー食えねぇよ。昨日から飯抜いたりしとかなきゃ……」
ちなみに、こんだけの量を食べるのも大変だけど、炊く方も大変みたいで、今回は一俵半もの量のお米を炊いたとのこと。……「俵」単位!
この巨大な釜で8回炊いたそうです
この巨大な釜で8回炊いたそうです

大飯無間地獄!

ご飯だけじゃなく、おかずもドンドン運ばれてきます
ご飯だけじゃなく、おかずもドンドン運ばれてきます
漬け物に煮物、汁物、焼き魚など、ご飯に合うおかずがたっぷり用意されているので飽きずに食べられるのですが、さすがに量が量だけに……。
あ、でもかなり減りましたね。あと少し!
あ、でもかなり減りましたね。あと少し!
……と思ったら
……と思ったら
ドスーン!
ドスーン!
強制的にモッソウをパイルダー・オンさせられ元の状態に。これは終わりなき戦いだ!
強制的にモッソウをパイルダー・オンさせられ元の状態に。これは終わりなき戦いだ!
ところで、パイルダー・オン後、みんなこのように箸を突き立ててたんですが……
ところで、パイルダー・オン後、みんなこのように箸を突き立ててたんですが……
この箸、何か昔から伝わる儀式的な意味があるのかと思いきやそうではなく「モッソウが倒れないように」突き刺してるらしい。
杭みたいな役割なんですね
杭みたいな役割なんですね
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大飯の神様が降臨

8合ものご飯がドーンと盛られているので食べても食べても減らず、しかももうちょっとで食べきる……と思ったらドーンと追加されてしまうエターナルご飯システムで、ホントに終わりの見えない「大飯まつり」。

さすがに参加者たちの手も止まりがちになり、おしゃべりが多くなってきた。
全然ご飯が進んでません
全然ご飯が進んでません
もうあんまり展開ないかなー? と思い、再び控え室の方に行っておっちゃんたちに色々話を聞いてみることに。
山盛りのモッソウ、まだまだ残ってますよ!
山盛りのモッソウ、まだまだ残ってますよ!
――参加してる人たちって大食いの人が集められてるんですか?

「いや、そういうわけでもねーよ。地域の活動をしてる人らの中から毎年テキトーに決められてんだ」

――そういえば女性の方は参加されてないみたいですけど。

「昔っから女人禁制って来まってんだよぉ。男に飯をいっぱい食わせて精をつけて、畑仕事と子作りをがんばらせる……みたいな意味があるらしいけど」
やっぱり儀式的な意味合いが強いんですかね?
やっぱり儀式的な意味合いが強いんですかね?
なんとこの「大飯まつり」は500年以上も続いているお祭りなんだそう。

飽食の時代である現在の参加者たちからはあんまり「いっぱい食べられて嬉しい!」というのは感じないが、食べ物に不自由していた時代には食べ役に選ばれるのはすっごく嬉しいことだったみたい(食料難だった第二次世界大戦中にも途切れることなく続けていたんだとか)。
ん、何やってるの?
ん、何やってるの?
そうこうしていると、控え室の隅でニンジンを細く削り、木の棒の先に空けられた穴に突っ込んでいるおっちゃんが……。それ、何やってるんですか?

「知んね!」
ニンジンを細く削って
ニンジンを細く削って
木の棒の先に突っ込む! でも意味は「知んね!」
木の棒の先に突っ込む! でも意味は「知んね!」
「まあ、昔からそう決まってんだよぉ」

色々と不思議な作法は昔からちゃんと伝えられているものの、その作法にどういう意味があるのか……というのはちゃんと伝わってないみたいね。

で、コレを何に使うかというと。
こう使うわけです
こう使うわけです
停滞気味だった会場に妙な緊張感が走る
停滞気味だった会場に妙な緊張感が走る
両手に木の棒(先っぽにニンジンが刺さってる)を持ち、頭と体に縄を巻き付け、背中にはわらじをぶら下げた謎の男出現! この人は「イマハマ」という名の神様役なんだそうな。

この神様は果たしてどんな御利益を授けて下さるのか……。
ご飯をもっと食べろと勧めてくる
ご飯をもっと食べろと勧めてくる
「ヤレ食え、ソレ食え」と、ちょっと怖い顔でグイグイご飯を勧めてきます
「ヤレ食え、ソレ食え」と、ちょっと怖い顔でグイグイご飯を勧めてきます
お腹いっぱいで、もうギブアップ寸前の人たちにさらにご飯を勧めてくるとは、何という迷惑な神様!

昔は「もっとくれるの!?」とありがたい存在だったんですかねぇ?
仕事を終えた神様と
仕事を終えた神様と
それにしても、両手の棒は(お察し下さい)子宝の象徴かなと思うけど、背中のわらじにはどんな意味があるのだろうか? 神様に訊ねてみると。

「イヤー、聞いたことないですねぇ。昔っからこうしてるみたいですよ」

……伝統行事ってそーゆーもんなのかな。
参加者にも安堵の表情が
参加者にも安堵の表情が
満腹状態なのにグイグイご飯を勧めてくる神様もいなくなり、会場は再び静けさを取り戻した。

すると「そろそろお開きにすっか」と……。まだご飯がいっぱい残ってるのに?
あ、みんなビニール袋にご飯を入れだした
あ、みんなビニール袋にご飯を入れだした
こう見るとますますモチっぽい
こう見るとますますモチっぽい
余ったご飯はこうやって持ち帰って家族みんなで食べるらしい。うん、これだけあれば家族みんなお腹いっぱいだ!

女人禁制で選ばれた者だけが参加可能といいつつ、昔もこうやってお腹を空かせて待ってる家族に山盛りご飯を持って帰ってあげたんでしょうかね。

まだ他の「大飯まつり」が存在する!?

今回の「大飯まつり」は公民館で開催されていましたが、本来は毎年持ち回りで誰かの自宅で開催するものだったそうです。

「でも、担当になった家は準備も大変だし、大掃除したり畳貼り替えたりしなきゃならないからよぉ~。最近は公民館でするようになったんだよ」

とのこと。でも、誰かの家にみんなで押しかけて大飯を食らいまくる……というのも見てみたかったような……。何でも、茨城の別の地区ではまだその風習が残っているらしいので、今度は是非そっちに……そして自分も参加してみたいです! 最近、年のせいかめっきり食が細くなっちゃってるけど。
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