特集 2013年7月26日

実社会で役に立つ時間割を考える

実用的な時間割を考えます
実用的な時間割を考えます
「学校で習うことは社会に出てから役に立たない」なんて話をよく聞く。僕自身も全部がムダだったとは思わないが、確かに社会人になってから円周率や大化の改新の知識が役に立った記憶はない。逆に、学校でこんなことを教えてほしかったと思うことも少なくない。

そこで、十数年の社会人経験をふまえ、僕が個人的に学んでおきたかったことを中心に「社会に出てから役に立ちそうな時間割」を考えてみることにした。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

義務教育に実用性を

文部科学省の小学校新学習指導要領はその総則において、「学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,児童に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で,基礎 的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくむとともに,主体的 に学習に取り組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に(以下、略)」 と定めている。

つまり小学校の教育は子どもに基礎的・基本的な知識や技能、考える力等を身につけさせることが主な目的であり、そもそも社会で役立つことを教えるものではないのかもしれない。

ただ、個人的な感覚としては、それでももう少し実用的なことも教えてほしかったと思ってしまう。
ちなみに音楽が嫌いでした(音痴だから)
ちなみに音楽が嫌いでした(音痴だから)
世の中には僕と同じように感じている人も多いらしい。「小学校 役に立たない」などと検索すると、小学校での勉強内容に違和感を抱いている人の声がわんさか出てくる。4番目に出てくる「どうしてパパは役に立たないのでしょうか?」というママの切ない叫びも気になるが、本稿の趣旨とは関係ないので先に進もう。

さて、前述の学習指導要領では各教科ごとに年間でこなすべき授業時間数が定められている。たとえば小学6年生だとこんな感じだ。
こうして見ると、なかなかバランスいいですね
こうして見ると、なかなかバランスいいですね
この年間授業時間数に基づき、毎週の時間割が作成されるわけだ。
時間割にするとこんな感じか
時間割にするとこんな感じか

各教科に意味がある

次に学習指導要領に記載されている各教科における目標を見ていこう。
【国語(こくご)】年間授業時数175時間
【国語(こくご)】年間授業時数175時間
国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる。

(文部科学省「新学習指導要領・生きる力」より)
【算数(さんすう)】年間授業時数175時間
【算数(さんすう)】年間授業時数175時間
算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てるとともに,算数的活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き,進んで生活や学習に活用しようとする態度を育てる。

(文部科学省「新学習指導要領・生きる力」より)
【社会(しゃかい)】年間授業時数105時間
【社会(しゃかい)】年間授業時数105時間
社会生活についての理解を図り,我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て,国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。

(文部科学省「新学習指導要領・生きる力」より)
【理科(りか)】年間授業時数105時間
【理科(りか)】年間授業時数105時間
自然に親しみ,見通しをもって観察,実験などを行い,問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに,自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り,科学的な見方や考え方

(文部科学省「新学習指導要領・生きる力」より)
【体育(たいいく)】年間授業時数90時間
【体育(たいいく)】年間授業時数90時間
心と体を一体としてとらえ,適切な運動の経験と健康・安全についての理解を通して,生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の基礎を育てるとともに健康の保持増進と体力の向上を図り,楽しく明るい生活を営む態度を育てる。

(文部科学省「新学習指導要領・生きる力」より)

ムダなんてない疑惑も浮上

とりあえず主要な5教科についてまとめてみたが、こうして見るとどれも素晴らしい理念だ。じつはムダな授業なんて何ひとつないのかもしれない。

…しかし、改革を恐れていては日本の教育は向上しないので、気にせずメスを入れていきたいと思う。
改革じゃ!
改革じゃ!
なお、写真は近代教育の父と呼ばれたコメニウス先生だ。具体的に何をした人なのかは知らないが、肖像画が自由に使えるのでご登場いただいた。
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新科目を考える

では「大人の社会で役に立つ」科目とは何だろう。

まず、長い人生を見据えた場合、大事な三要素といえば仕事、趣味、健康ではないかと思う。これはぜひ学校でしっかり教えるべきだ。
【仕事】
【仕事】
改めて考えると「仕事」について誰かにきちんと教えてもらったことがない。もちろん会社に入ればその仕事のやり方は先輩が教えてくれるかもしれないが、その前段階の「仕事そのもの」については学校できっちり教えるべきなんじゃないのか。

「仕事」とは何なのか? 世の中にはどんな仕事があるのか? 自分に合った仕事はどうやって見つければいいのか? むしろ無職でもいいのか? 世間は無職にどれくらい冷たいのか? そういうことを、みんな就職前になって慌てて考えるんじゃなくて、ちゃんと学校で機会を作ってじっくり考えればいいと思う。きっとお父さんのことを尊敬する子どもも増えるだろう。
【趣味】
【趣味】
イギリスの医学者、ウィリアム・オスラーは「何か一つ趣味を持たない限り、人間は真の幸福も安心も得られない」との名言を残したという。確かに熱中できる趣味がある人は人生楽しそうだ。

僕の人生がイマイチぱっとしないのは趣味がないことも大いに関係していると思うのだが、長年無趣味で生きてきた人間からすると、自分に合った趣味を見つけることがまず、とてつもなくハードルが高いのだ。

これも仕事同様、「趣味の見つけ方」や「どんな趣味があるのか?」といった基礎から指南してくれる授業があると有難い。

【健康】
【健康】
病気にならないためには若い頃からの生活習慣が大事だというが、健康なうちはつい自分の身体を過信してしまう。しかし、若かりし頃の無茶を引き受けるのはおっさんになった自分。誰だってどうせなら健やかなおっさんになりたいものだ。

そこで「健康」の授業。ここでは「ガンマGTPの基準値」や「中性脂肪の減らし方」など主に30代から気になる健康関連のキーワードと改善方法を教える。

小学校のうちから健康の尊さをしっかり学ぶことで、日本中に元気なおっさんが溢れるに違いない。
時間割にはめるとこうなる。ワークライフバランスを考え仕事と趣味は3コマずつにした
時間割にはめるとこうなる。ワークライフバランスを考え仕事と趣味は3コマずつにした

それ教えてといてくれないと困る

次は僕自身が社会に出てから必要だと感じたこと。大人になると誰も教えてくれないけど、ちゃんとしないと怒られるという理不尽なことがよくある。たとえば税金の納め方なんて一回も習ったことないのに、ちゃんと納めないと怒られる(というか捕まる)。
【税金】
【税金】
私ごとだが約2年前に会社を辞めて個人事業主になった時、確定申告、すなわち税金の納め方がよく分からず難儀した。社会の授業で「納税は国民の義務」とは教えるのに、その納め方について教えてくれないのは無責任じゃないか。もう納めないぞ! なんて理屈はもちろん通じないのでどうにか税務署員の方の助けを借りて納税したのだが、税金のシステムは色々ルールが複雑でややこしいのになぜ誰も教えてくれないのだろうと常々思っていた。これはぜひ学校で教えるべきだ。

授業内容としては、「サラリーマンも確定申告でお金が戻る」「気をつけろ! 住民税のトラップ」などが考えられる。なんか「SPA!」の特集っぽいけど。
【プレゼン】
【プレゼン】
ライターとしては致命的なことなのだが、僕は人と話すのが苦手だ。ここだけの話、取材や打ち合わせの前は、いつも憂鬱な気持ちになる。

人前で話すのはさらに苦手で、プレゼンなどはもってのほか。とはいえ、ビジネスにおいてプレゼン能力の重要性はよくいわれるところだ。でも、話し方教室に通ったり、ビジネス書で学んだりするほど意識高くないので義務教育で教えてほしい。

小学校にプレゼンの授業があったらジョブズみたいな大人がいっぱいできるかもしれない。
木曜はビジネス色の強い時間割になった
木曜はビジネス色の強い時間割になった

現代社会に必要な授業

また、現代社会の実情に合わせた変化も必要だろうと思う。小学校には「道徳」の授業があるが、道徳は道徳でも今の時代に特に求められるのは、インターネットの世界における道徳だ。
【(インターネットの)道徳】
【(インターネットの)道徳】
昨今のSNSにおける炎上騒ぎなんかを見ていると、10年前にツイッターとかなくてよかったと心から思う。今は僕も大人になりそれなりに分別があるから大丈夫だが、狂犬みたいに尖っていた10年前だったら、血気盛んなツイートをして社会的に抹殺されていたのは確実だ。

今やつぶやきひとつで人生が狂うこともある。ネット社会を生きる子どもたちには、こんな授業も必要なんじゃないか。
【地球】
【地球】
社内公用語を英語にする企業が増えるなど、やたらグローバル化が叫ばれる昨今。今の時代に求められる国際感覚をを育てるにはもはや「世界史」や「英語」という授業だけでは賄いきれないのではないか。

そこで地球規模の視点をもった人材を育てる「地球」という授業を考えた。そこにはエコや自然といった理科的な要素と世界史、地理といった社会的要素、英語をはじめとする語学要素も含まれる。よって理科と社会と外国語の授業は全て「地球」に統合する。
地球はカリキュラムが壮大なので週3コマにした
地球はカリキュラムが壮大なので週3コマにした
いちおうこれで完成。なかなかスキのない時間割だ。まあ、じっさいにこの時間割だったら一生懸命勉強したかと言われればたぶんしなかったと思うが。

義務教育に喝

子どもの頃は、大人になったら知らないことなんかひとつもなくなって勉強から解放されると思っていたけど、実際には知らないこと、勉強しなきゃいけないことだらけだ。たとえば冠婚葬祭のマナーとか、未だによく分からない。

国語とか算数とかも大事なのかもしれないけど、法事で困らない知識を教えるのも義務教育の務めではないのだろうか。
あと、恋愛の方程式も教えてほしい
あと、恋愛の方程式も教えてほしい
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