特集 2013年11月22日

さらに「マンションポエム」を分析する

郊外のマンションポエムが禅問答化!(誠賀建設株式会社「セイガステージ仙川」のチラシより)
郊外のマンションポエムが禅問答化!(誠賀建設株式会社「セイガステージ仙川」のチラシより)
高級マンションの広告宣伝文句「マンションポエム」。さいきんぼくはすっかり夢中だ。

工夫を凝らした結果、驚くべきところへたどり着いた感のあるこれらのコピーは、まるでコロンブスの大航海のようだ。そこはインドじゃないですよ!っていう。

…たとえがよく分からないですが、それはここ数週間、ずっとマンションポエムに没頭してせいでぼくの言語感覚がおかしくなっているからです。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:切れかかった蛍光灯「息切れ蛍光灯」を愛でる

> 個人サイト 住宅都市整理公団

みんなからポエム通報をいただく日々

おかげさまで好評だった前回のマンションポエムの記事。話題を呼んで先日NHKの取材を受けました。
おかげさまで好評だった前回のマンションポエムの記事。話題を呼んで先日NHKの取材を受けました。
以前「高級マンション広告コピー『マンションポエム』を分析する」という記事を書いた。

この「マンションポエム」とはぼくの造語だ。本記事冒頭の画像にもあるような、もはや詩のようになってしまっている高級分譲マンションのうたい文句を指している。折り込みチラシや駅の広告などでみなさんいちどは目にしたことがあると思う。これがちゃんと読み込むと実におもしろいのだ。
前回記事で多くのみなさんが注目した「あえて、深大寺。」すごいよねこれ。
前回記事で多くのみなさんが注目した「あえて、深大寺。」すごいよねこれ。
ぼくがマンションポエムを集め出したのは2004年頃。高級マンションはたいていそれぞれ独自のウェブサイトを設けているのでポエム探しは簡単だ。みなさんもぜひ見てみてほしい。

そのほか、ぼくが集めていると知って写真に撮って送ってくれたり、チラシをくれる方のおかげでずいぶん集まった。ありがたい。

上の名作ポエム「あえて、深大寺。」も友人でありライター仲間である伊藤さんが送ってきてくれたもの。冒頭の、成城でもなく仙川でもないけど成城でもあり仙川でもあるものも、いただきものだ。ありがとう!
これもいただきもの。ありがとう!この系統のポエムは「世界征服系」と呼んでいる。今まで見た世界征服には「ここに住むこと。それは、札幌都心のすべてを手中にすること。」(「リビオ中島公園アルファタワー」より)や「天王寺・阿倍野エリアを手中に収める暮らし。」(「パークタワーあべのグランエア」より)がある。あんまり気軽に手中に収めない方がいいんじゃないかなあそこらへんは。
これもいただきもの。ありがとう!この系統のポエムは「世界征服系」と呼んでいる。今まで見た世界征服には「ここに住むこと。それは、札幌都心のすべてを手中にすること。」(「リビオ中島公園アルファタワー」より)や「天王寺・阿倍野エリアを手中に収める暮らし。」(「パークタワーあべのグランエア」より)がある。あんまり気軽に手中に収めない方がいいんじゃないかなあそこらへんは。

地域別ポエム分析へ

で、これらいただいたチラシに共通しているのは「郊外はやぶれかぶれ」という点だ。
これお気に入り。パークホームズLaLa新三郷より。埼玉の郊外物件だ。ポエムとは呼べないかもしれないけど。これ詠んだ方とお話ししてみたい。
これお気に入り。パークホームズLaLa新三郷より。埼玉の郊外物件だ。ポエムとは呼べないかもしれないけど。これ詠んだ方とお話ししてみたい。
郊外のこのキュートなやぶれかぶれっぷりを見て、エリア別マンションポエムの傾向分析をしてみたいと思った。今回やるのはそういうことです。

前回の記事では、2007年を分水嶺にマンションポエムの傾向が変わってきているのではないか、という仮説だったが、今回は地理的な視点で見てみようというわけだ。

結論から言っちゃうと「臨海部、やばい!」です。
前回、集めたマンションポエムを品詞に分解して、どういう語がどれぐらい使われているかを年代別に比較した。まず2008年以降「歴史・伝統」系がランクアップしてる。
前回、集めたマンションポエムを品詞に分解して、どういう語がどれぐらい使われているかを年代別に比較した。まず2008年以降「歴史・伝統」系がランクアップしてる。
いったん広告です

あれか、リーマンショックか!

これも前回の分析より。
これも前回の分析より。
その前に少し前回のおさらいと追加。

前回最後にマンションポエムに出てくる語をグループ化し、その数の比較を行った。ここで追加報告したいのは、上の図の「歴史・伝統」系と「時・時間」系の台頭だ。これは記事公開後に、デイリーポータルZ記事に登場してもらったこともある友人の内海さんに指摘されたもの。【内海さん登場の記事→「あの可哀想な人」「100均フリーダム」】
このような鋭いご指摘をいただきました</a>。なるほど!ありがとう内海さん。というか、そんな真剣に読み込む人がいると思わなかったよ!
このような鋭いご指摘をいただきました。なるほど!ありがとう内海さん。というか、そんな真剣に読み込む人がいると思わなかったよ!
「変える」「変化」などの語はランク外へ。
「変える」「変化」などの語はランク外へ。
各種カタカナの語も2008年以降ずいぶん減っている。
各種カタカナの語も2008年以降ずいぶん減っている。
なるほど。総合すると、2008年以降、マンションポエムにおいて「保守化」が起こっているということなのではないか。威勢のいい、ハイセンスで未来的なものよりも、伝統や安定を求めている、ということなのかもしれない。

たくさん見ているうちに、なんとなく2008年ぐらいから傾向が変わってるなー、と思ってさしたる根拠もなくここで区切ったのだが、これはあれか、リーマンショックの影響か。

って、なんでも「リーマンショックの影響」っていえばそれらしいよね。

エリアもなんとなくで区切ります

で、本題だ。

前回記事の後も集め続けた珠玉のマンションポエムを、その所在地でもって地図にマッピングした(といっても首都圏だけですが。いずれ大阪や名古屋など他の都市でもやりたい)。

そのうえで「ここらへんでポエムの傾向が変化しているなー」ってところでエリアわけしてみた。それが下だ。どーん!
まず東京都内のマンションポエムを3つにエリアわけしてみた(大きな地図で表示
おおむね「山手線の内側」とそれ以外「荒川区・墨田区・江東区・江戸川区など東の方」と今回の主役「臨海部」との3エリアだ。ポイントは文京区内の、本郷通り-白山通りのラインで分けている点だ。

重ねて申し上げるが、このエリアわけには根拠らしいものはない。ぼくがポエムを読みながら「んー、このあたりのポエムってちょっと毛色が違うなー」って思った、ってだけだ。もっと有意な分け方があるかもしれない。

そして下が第4のエリア。
そして第4地区。わが心の千葉と、埼玉のマンションだ(大きな地図で表示
合計、この4つを比較します。さて、分析開始だ!
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すげーたいへん!

来る日も来る日もひたすら表計算ソフトとにらめっこの日々(久しぶりに部屋を片付けたので記念の意味も含めて写真を撮ってみました)
来る日も来る日もひたすら表計算ソフトとにらめっこの日々(久しぶりに部屋を片付けたので記念の意味も含めて写真を撮ってみました)
いやー「分析開始!」とか言ってみたものの、これがすごくたいへんで。

あんまりここで苦労話をじっくりしても退屈なだけなので詳しくは書きませんが、ほんと泣きそうになった。こういうの得意じゃないんだった、ぼく。

なにがたいへんって、まずポエムを全部打ち直さなきゃならないわけですよ。マンションのウェブサイトがFLASHだからテキストコピペできないの。

あと、それをマッピングするのも、所在地がはっきりしないものが多くて。
でもいちばん悩んだのは、品詞に分解した語を、同じような意味でまとめる、っていう作業。「悠久」と「歴史」はいっしょでいいよね?いや、ちがうか?「由緒」は?って。もう言葉の形だけじゃなくて、意味すらゲシュタルト崩壊ですよ。

上のわざとらしい写真は、現実逃避で部屋の片付けなんかしちゃった成果ですよ。

大学で教授がめんどくさい作業を学生にやらせる気持ちがよく分かった。これはいい大人がやるものじゃない。目・肩・腰がやばい。

と、結局苦労話を書き連ねてしまったところで、それぞれのエリアの語をまとめたものを以下に!どーん!
山手線の内側エリア。品詞分解した結果、語の数は2708。
山手線の内側エリア。品詞分解した結果、語の数は2708。
なんというか、デイリーポータルZの記事って、こんなふうに表を見せられるようなものじゃないと思うけど、辛抱していただきたい。 めんどくさかったら次のページまで飛ばしてください。

次は荒川区・墨田区・江東区・江戸川区など東京の東側の部分の結果。
東京東側。総語数は2690。
東京東側。総語数は2690。
問題の臨海部。
臨海部。総語数は少なくて1390。これは収集できたマンションが他と比べて少ないため。今後もっと集めていかねば。
臨海部。総語数は少なくて1390。これは収集できたマンションが他と比べて少ないため。今後もっと集めていかねば。
最後に、千葉+埼玉エリア。
千葉+埼玉。総語数は多くて、千葉が2212、埼玉が3725、計5937。がんばって集めすぎた。
千葉+埼玉。総語数は多くて、千葉が2212、埼玉が3725、計5937。がんばって集めすぎた。
なんかずらずら並べてしまって申し訳ない。でもほら、内海さんみたいにまたじっくり読み込んでくれる方がいるかもしれないし!

さあ、これらを比較してみよう。
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ポエムではあるけれど現実も見ている千葉と埼玉

方針として、山手線内側のエリアを「真性ポエムゾーン」として、ほか3エリアをそれぞれこのゾーンと比較していこう。

なぜここを「真性」とするかというと、やっぱりなんだかんだいって港区あたりの2億円するような超高級マンションのポエムは格別だからだ。だって
ここでの暮らしは、どこかニューヨークのそれに似ている。

Mid Southern Style

やすらぎは、にぎやかさのすぐ横にある

東京、まん中、やや南

人は、この場所を「ミッドサザンエリア」と呼ぶ。

さあ、御殿山の、あの森へ。

御殿山の静寂と煌めきの中で始まるタワーライフ。
なんていう名作ポエムがあるエリアだもの(「ミッドサザンレジデンス御殿山」三菱地所レジデンスより)

さて、この「真性ポエムゾーン」と千葉+埼玉を比べてみよう。
千葉+埼玉は「詩的リアリズムゾーン」と名付けたい(フランス映画の分類とは関係ありません)。
千葉+埼玉は「詩的リアリズムゾーン」と名付けたい(フランス映画の分類とは関係ありません)。
前述のように母数がぜんぜんちがうので出現頻度数はあまりあてにならない。順位だけ見ていただきたい。

傾向としては、千葉+埼玉エリアは「駅前」とか「日当たり」とか「環境」「便利」などの具体的な語があるが、都心にはそれがない。変わりに「本質」とか「哲学」などのいかにもポエムな語は都心だけに見られる。

興味深いのは「ともに・一緒」「家族」などが 千葉+埼玉エリアに特有で、それと対比されるように都心には「自分」「わたし」が目立つ。これは郊外のマンションのファミリー重視と都心の金持ちシングルも視野に入れたマンションとの違いだろうか。

意外だったのは「歴史」系は共通して上位にある。会わせて「上質」とか「快適」とか「静けさ」も共通していて、これらはマンションポエムの基本ワードといえそうだ。

ただ、千葉+埼玉の「新しい」系と「開発・発展」系の 優勢と、縄文から江戸、昭和までの歴史を動員しっぷりを見ると、「歴史のなさへのコンプレックス」も感じる。

そんな中で謎なのは「継ぐ・継承」系が郊外に特有な点。これもコンプレックスの裏返しだろうか。

以上から、千葉+埼玉エリアはポエムでありながら具体的なメリットを謳うという特長から「詩的リアリズムゾーン」と呼びたい。

さて次は東京東部だ。

郊外と都心のいいとこ取り「江戸ゾーン」

荒川区・墨田区・江東区・江戸川区など東京東部エリアと都心とを比べた。東部エリアはやはり「江戸ゾーン」と呼びたい。
荒川区・墨田区・江東区・江戸川区など東京東部エリアと都心とを比べた。東部エリアはやはり「江戸ゾーン」と呼びたい。
「カンで文京区内の、本郷通り-白山通りのラインで分けた」と解説したが、カンは当たったようだ。やはり傾向が異なる。

「歴史・伝統」系が東部に多い。ランキング同じぐらいじゃない?とお思いかもしれないが、さきほどの千葉+埼玉とちがって、この2つは語の母数がほぼ同じなのだ(東部エリア:2690、都心:2708)。それを考えると27と17の差は大きい。

そしてやはりというかなんというか「和」とか(ちなみに"Wa"は【いまも変わらない 和 と、変わり続ける Wa が、 心を和ませる。】という絶妙のポエムが元) 「江戸」が多いのが下町っぽい。

この「歴史・伝統」と「和」「江戸」からも分かるが、印象としてもこの東部エリアの「江戸推し」は顕著だ。したがってこの東部エリアは「江戸ゾーン」と呼びたい。
江戸ゾーンの具体例。随所に絵に描いたような「和」が。
江戸ゾーンの具体例。随所に絵に描いたような「和」が。
一方でおもしろいのは「東京」がすごく多いのと「区内」という特有の言い方だ。江戸・下町という武器で港区あたりと対抗しつつも、「いやでもれっきとした23区内だし!」という主張も忘れない。

同時に「緑」「駅前」「家族」といった千葉+埼玉の特長も併せ持っている。つまりここ東部は「江戸」というキーワードで「真正」と「リアリズム」のいいとこ取りをしているのだ。なかなかやるな!

マンションポエム界の火薬庫「臨海部」

なんだかデイリーポータルZらしからぬ表ばかりの記事でもうしわけない。でもおもしろいでしょ?おもしろくない?おもしろいよねえ?

さて、最初に「結論:臨海部やばい」と書いたが、いよいよその臨海部だ。なにがどうやばいのか。まずは具体例を読んでいただきたい。いまマンションポエム界で最もアグレッシブな作品だ!
世界へ 挑む、 東京。

東京を駆け抜ける人々へ。

その充実の日々は、いつしか"東京"という巨大な都市に根付く夢の塊を突き抜けて、世界へ向かい始めていることでしょう。

「忙しい」や「多忙」という生き様の言葉を日本流に解釈する時代は終わりました。

あなたは、その「忙しさ」をしなやかに包みこむ空間を所有すべき時にいます。

既存の東京、すなわち夢の塊で膨張した街に所有すべき空間を探すことでは、世界基準には到達できません。

「無色の東京」が東京の中にあります。

それはフロンティアの場所。 フロンティアとは、未開地を意味するのではなく、「国境」を指す。

東京の中の世界のフロンティア。

東京ベイエリア、晴海のアドレスが有する進化ポテンシャル。

世界へ挑む、あなたにふさわしい「私極」の空間が、そこに誕生します。
どうですかこのすばらしいポエム!住友不動産の "DEUX TOURS" というマンションのものだ。たくさん見てきて、いささかスレちゃったぼくもこれにはびっくり。今のところポエム最高峰に据えている名作だ。

さて、テンションが上がったところで比較を見てみよう。
他3エリアにはない独自の世界観が光る。「キラキラゾーン」と呼びたい。
他3エリアにはない独自の世界観が光る。「キラキラゾーン」と呼びたい。
前述したように、申し訳ないことに臨海部の語数は少ない。都心エリアのおよそ半分1390しかない。なので、いささか信頼性に欠けるがご容赦いただきたい。 デイリーポータルZは論文ではないのである。

さて、まず目に付くのは他エリアにはないポエム単語だ。同じ「生活・暮らし」系だが、臨海部においてはそこに「生き様」という語が含まれている。「都市・都心」系にも「アーバン」という語がいる。

他にも数は少ないながら「フロンティア」「惑星」「銀河」「プラネット」といった香ばしい語が散見されることと、「煌めき」系が強いことと合わせて、ここ臨海部エリアを「キラキラゾーン」と呼ぶ次第だ。ただでさえポエムなのに、その中でもなお存在感を放つとは、まさにマンションポエム界の火薬庫である。

興味深いのは「歴史」がないこと。これはその大部分が埋め立て地なのだから当然だが、同時に「未来」系も弱いのが意外だ。いわば臨海部には「現在」しかないのだ。そして「景色」もない。

一方で「東京」が第1位。これは江戸ゾーン以上の東京であることの主張だ。 これはぼくには「東京なのにそうは見えないことへのコンプレックス」に見える。

以上を合わせて考えるに、前述の実例に「無色の東京」とあったのは臨海部のメンタリティをよく表していると思う。
ということで、これが現時点での暫定「マンションポエムゾーニング」だ(大きな地図で表示
今後もマンションポエムを見ていきたいが、特に臨海部に特に注目したい。これはやばい。

見つけたら教えてください

いささか理屈っぽい(?)記事になってしまったがどうだろうか。おもしろいよねえ。

集め始めた当初は「こんな言い方しちゃってー」と半笑いだったが、いまやぼくは真顔である。

【告知】マンションポエムももちろん話します!2013年11月30日(土)イベント『 千葉 vs. 東京 』

千葉っ子のアイデンティティを賭けて、その名も「千葉 vs. 東京」というイベントをやります。今回のマンションポエムの千葉と東京の比較から、以前デイリーポータルZで書いた「どこまで東京?」など、あの手この手で千葉と東京を対決させてみます!詳しくは【→こちら
台地の形を重ねたら津田沼は上野に相当します。なんかしっくり。
台地の形を重ねたら津田沼は上野に相当します。なんかしっくり。
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