特集 2014年2月24日

超リアル! ダンボールアートの世界

ダンボール100%のライオン
ダンボール100%のライオン
先日、ダンボールを使って作品を作るアーティストに出会った。その手にかかれば、どんな物体も意のまま。木彫りの彫刻と見紛うようなクオリティで形にしてしまうという。

さっそくアトリエを訪ねてみた。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

とにかくクオリティがすごい

埼玉県にあるとある倉庫。そこにダンボール造形作家・玉田さんのアトリエはあった。
3年前から利用しているというアトリエ
3年前から利用しているというアトリエ
驚くべきはその作品のクオリティ。特に生物をモチーフにしたものは、今にも動き出しそうな躍動感がある。
ガオー
ガオー

「あちゃー」みたいな表情としぐさがかわいいこのライオン。約30箱分を使用した、純ダンボール製だという。ダンボールという無機質な工業製品からこれほどまでに生々しく力強い質感が生まれるとは驚きだ。
こちらが作者の玉田多紀さん。ダンボールアート歴7年
こちらが作者の玉田多紀さん。ダンボールアート歴7年
美大在学中、ダンボールという素材に魅せられた玉田さん。以来、今日まで7年間で約150体の作品を制作してきた。

なお、作品に使うダンボールは主に商店で余ったものを貰ってくるそう。

「薬局とかコンビニですね。何軒か行きつけのお店があります。一番いいダンボールが出るのはドラッグストアです」

──いいダンボールってどんなのですか?
「大きくて薄くてやわらかいものですね。軽いんだけど量があるもの、例えば紙おむつを梱包するためのダンボールなんかベストです。逆に家電などの重いものを運ぶダンボールは丈夫すぎて扱いづらいです。あとは食品系も匂いと虫がつくので素材としてはイマイチですね」
ダンボールのストックは常に欠かさない
ダンボールのストックは常に欠かさない
同じ茶色でも、「黄色っぽい茶色」や「赤っぽい茶色」など特徴があるとか。そんな色の違いを駆使して生き物の模様を表現する
同じ茶色でも、「黄色っぽい茶色」や「赤っぽい茶色」など特徴があるとか。そんな色の違いを駆使して生き物の模様を表現する
さすがに7年やってるだけあって、ダンボールに関する目利きはかなりのものだ。造形作家だけに造詣も深い。街中で大きなドラッグストアを見つけると、つい「いいダンボール出そうだな…」などと考えてしまうという。
接着には木工用ボンドを使用。骨組み用の針金などはいっさい使わずに強度を保っている
接着には木工用ボンドを使用。骨組み用の針金などはいっさい使わずに強度を保っている

作り方は?

ちなみに作り方だが、まずはダンボールをグニャグニャとなめし、やわらかくなるまでこねくりまわす。十分にやわらかくなったら、ちぎったり、まるめたり、ねじったりしながら各パーツの形をつくり、水で溶いた木工用ボンドで接着。クリップで20~30分固定し、ボンドが乾いたら骨格は完成。その上から、水にひたし薄く剥がしたダンボールを細かく貼って肉付け、筋肉の質感や皮膚のたる み、シワなどを再現して完成となる。
制作中は徹夜でアトリエにこもることもしばしば
制作中は徹夜でアトリエにこもることもしばしば
──そもそも、なぜダンボールなんですか?
「もともと美大で油絵を専攻していたんですが、ライバルが多く絵描きとしては一番になれそうもなかったので、それなら人と違うおもしろいことをやってみようと」

──それでダンボール。
「はい。他の紙製品にはない汚れた感じというか、ダンボール独特の質感がいいなと思って。それまでもダンボールの作品はありましたが、こんなふうにちぎって使う人はあまりいなかったので」

──当初はどんな作品を?
「最初は抽象的な…というか、訳の分からないものをけっこう作っていましたね。細胞とか」

──細胞??
たしかに細胞だ。たしかに訳が分からない
たしかに細胞だ。たしかに訳が分からない
初期はこうした抽象的な作品が多かったが、徐々にリアルな作風にシフト。なんでも、訳の分からないものを作りたいブームと、リアルな作品を作りたいブームが自分の中で交互にやってくるのだという。
筆者的には恐竜シリーズに心惹かれる
筆者的には恐竜シリーズに心惹かれる
かっこいい!
かっこいい!
おっさん顔のうさぎもクール。夢に出てきそう
おっさん顔のうさぎもクール。夢に出てきそう
こうした、ダンボールとは思えないリアルな作品が徐々に評判を呼び、今では制作依頼も増え、展覧会やワークショップイベントにも招かれるようになったそうだ。

「特に、転機になった作品が、この4メートルのサイです」
肌の質感までリアルに再現したサイ
肌の質感までリアルに再現したサイ
「だんだん技術が上がって大きいものを作れるようになってきたので、等身大の生き物に挑戦してみようと。当時はアトリエがなく6畳の自室で制作していたため、完全に部屋をサイに占領されてしまいましたけどね(笑)。でも、このサイの画像がネットで広まったのを機に、少しずつ問い合わせが来るようになりましたね」
これまでに作った最も巨大な作品は15メートルの恐竜
これまでに作った最も巨大な作品は15メートルの恐竜
アフリカ好きの社長さんの要望を受け、オフィスのオブジェも制作。動物園に通い、しりの形を研究したという力作
アフリカ好きの社長さんの要望を受け、オフィスのオブジェも制作。動物園に通い、しりの形を研究したという力作
最近はショッピングモールなどで行われるイベントのディスプレイ用に作品を依頼されることも多い
最近はショッピングモールなどで行われるイベントのディスプレイ用に作品を依頼されることも多い
──最近はどんな作品を?
「最近ハマっているのは植物ですね。ちょうど今作っているのも『木』です。もともと木が原料のダンボールで木を作って、それを森の中に戻したらどうなるだろうって。また訳の分からないことをやろうとしています」
鋭意制作中のダンボールツリー
鋭意制作中のダンボールツリー
「じつはこれ、もともとはイカのゲソだったんですよ。去年ダイオウイカブームが来た時に作りました。一度作ったものでも上からダンボールを張り足せばまた別の作品になる。それもダンボールの良さですね」
確かに、よくみるとところどころにゲソ時代の名残(吸盤)が
確かに、よくみるとところどころにゲソ時代の名残(吸盤)が
また、これからは家具などの生活用品も作っていきたいそう。こちらはダンボールのベンチ。ブタの足がかわいい
また、これからは家具などの生活用品も作っていきたいそう。こちらはダンボールのベンチ。ブタの足がかわいい
強化ダンボール仕様で強度も十分
強化ダンボール仕様で強度も十分
なお、これまでに作った作品はすべて2階の倉庫に保管してある
なお、これまでに作った作品はすべて2階の倉庫に保管してある
保管の仕方がけっこうワイルドなのでせっかくの作品が潰れてしまわないか心配になるが、ダンボールは意外と強度があるので大丈夫なのだと玉田さん。
片づけはあまり得意ではないようだ
片づけはあまり得意ではないようだ

才能がまぶしい

ゴミとして捨てられる運命のダンボールに命を吹き込み、素晴らしい作品を生み出し続ける玉田さん。ゴミみたいな工作しか作れない僕にとって、その才能は眩しすぎた。これからもカッコいい作品をお願いします。

なお、玉田さんへの制作依頼やイベントのご相談は下記よりどうぞ。

☆ダンボール造形作家 玉田多紀活動日記☆
呼吸するカバ
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