特集 2014年8月29日

農村を走る学園都市線に乗ってきた

学園都市線の典型的な沿線風景
学園都市線の典型的な沿線風景
初めて知ったのは時刻表の路線図だっただろうか、北海道の札幌から北に延びる路線がずっと気になっていた。駅が30近くあって、終点までほかの路線にまったく接しない行き止まり路線なのだ。

その路線の名は札沼線。だけど今回改めて地図を見てみたら学園都市線という名前になっていた。

沿線はどんな風景なのか、終点の駅はどんな雰囲気なのか。気になったので乗ってきた。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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途中で路線図のノリが変わる

学園都市線は札幌駅を出ると西に進み、隣の桑園駅で北向きに進路を変えて函館本線と分かれ、あとはどの路線と接することもなく石狩川沿いを終点の新十津川駅までおよそ76km走る。
上の段が学園都市線。途中で色や大きさが変わってるのが気になる
上の段が学園都市線。途中で色や大きさが変わってるのが気になる
前半は現代風の駅名が並ぶが...
前半は現代風の駅名が並ぶが...
色が変わって小さくなった後半は駅名も野性味を帯びてくる
色が変わって小さくなった後半は駅名も野性味を帯びてくる
切符を買ってホームに行くと、そこにはいかにも学園都市を走ってそうな感じのシルバーの小綺麗な電車が停まっていた。昼間で20分おき、朝晩は15分おきと本数もそれなりにある。
その名に偽りのない学園都市を走ってそう感
その名に偽りのない学園都市を走ってそう感
なぜか終点まで直通の列車はなく途中で乗り換えが必要
なぜか終点まで直通の列車はなく途中で乗り換えが必要
終点までまっすぐ1本の路線だけど、なぜか終点まで直通の列車はなく、ちょうど路線図に色がついていて大きな字の駅までの列車と、そこから終点までの列車に分かれているようだ。なんだこのノリの違いは。

やがて電車は札幌駅を発車。車内は明らかに沿線の大学に通う風の若者のほか、お年寄りやサラリーマンなどで席はほとんど埋まっていた。
高架の札幌駅を出発
高架の札幌駅を出発
スキーのジャンプ台が見えた。さすが札幌!
スキーのジャンプ台が見えた。さすが札幌!
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何の変哲もない通勤路線

札幌を出発した列車はビルが建ち並ぶ街中を高架で進み、隣の桑園駅を出ると右に大きくカーブして、小樽の方に向かう函館本線から離れて行く。
いよいよ学園都市線独り立ちのとき
いよいよ学園都市線独り立ちのとき
地平線まで住宅地が広がる
地平線まで住宅地が広がる
やがて車窓は一面の住宅地になり、線路の高さも徐々に下がってきた。駅の風景なんか東京近郊の通勤路線と何も変わらない感じ。ニュータウンっぽい駅名もあって、きっと沿線は札幌のベッドタウンとして開発されたんだろう。
いかにもベッドタウンという街並み
いかにもベッドタウンという街並み
線路が地上に降りた
線路が地上に降りた
駅の風景は東京の通勤路線とほとんど同じ
駅の風景は東京の通勤路線とほとんど同じ
でもときどき北海道らしい景色も挟み込む
でもときどき北海道らしい景色も挟み込む
ニュータウンぽい駅名もあったりして
ニュータウンぽい駅名もあったりして
その後列車は石狩川を渡る
その後列車は石狩川を渡る
都心から郊外へ、徐々に建物の高さが低くなり、密度が薄くなり、駅名が新しくなってきたところで、線路は長い鉄橋で石狩川を渡った。

すると、沿線の雰囲気が一変した。
人家がほとんどなくなり、広大な農地の先に鉄塔の列
人家がほとんどなくなり、広大な農地の先に鉄塔の列
車窓からは人家がほとんどなくなり、広大な敷地の農地が広がった。北海道がついに本気を出してきた感じである。

やがて列車は石狩当別駅に到着。この電車はもう1駅先の北海道医療大学駅が終着だけど、学園都市線の終点である新十津川駅に行く列車はここが始発なので、降りて乗り換えることにする。
札幌から乗ってきた電車とはここでお別れ
札幌から乗ってきた電車とはここでお別れ
ちょっとした基地のようなものもある
ちょっとした基地のようなものもある
ここまでやってきた。そして先はまだ長い...
ここまでやってきた。そして先はまだ長い...
乗り換えと言っても新十津川行きの出発まで1時間以上あるので、改札の外に出て石狩当別駅の周辺をぐるっと散歩してきたのだけど特にこれと言って見どころを見つけられず戻ってきた。

切符を買ってホームに戻ると、これから終点まで僕を運んでくれる列車が既にスタンバっていた。
1両編成のディーゼルカー!
1両編成のディーゼルカー!
ここに来るまでは6両編成の電車だったことを思えば、同じ路線なのに劇的な変化である。取り調べが血気盛んな若い刑事から温厚なベテラン刑事に交代したような落ち着きを感じる。

やがて時間になり、新十津川行きのディーゼルカーはエンジンの唸り声を響かせて重い腰を上げるように出発した。
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究極のツンデレ路線

石狩当別駅を出発した列車は、先ほどまで乗ってきた電車の終着駅、北海道医療大学前駅に到着、そしてすぐ出発。

ここから先は架線がなくなるのでもうこのディーゼルカーしか走れない。この学園都市線、ここまでの通勤通学路線もひとつの顔だけど、ここから先のローカル区間がもうひとつの顔なのだ。
この路線最後のでかいビルでした
この路線最後のでかいビルでした
この駅で架線が終わる
この駅で架線が終わる
ここから先に乗る乗客は、これまでの通勤路線っぽいツンツンした感じから、一気に超ローカル線のデレデレになる様子を味わうことができる。

さ、学生はみんな降りたし、足を崩して楽にしてくださいな、という雰囲気で、エアコンはついていないので窓を開けて外の風を入れたり、靴を脱いで向かいのシートに足を投げ出したり、お弁当を出して食べはじめても文句言う人はいない。
景色はほぼ広大な農村地帯に変わり
景色はほぼ広大な農村地帯に変わり
乗客は数人の地元民と乗り鉄っぽい人だけ
乗客は数人の地元民と乗り鉄っぽい人だけ
いきなり車掌車を改造した駅舎が出てきた
いきなり車掌車を改造した駅舎が出てきた
しかも2駅連続!ここまでデレるかというほど
しかも2駅連続!ここまでデレるかというほど
もう駅舎自体がない駅も出てくる
もう駅舎自体がない駅も出てくる
かと思えばこんな昔ながらの駅舎が残っていたり
かと思えばこんな昔ながらの駅舎が残っていたり
もう典型的なローカル線の駅である
もう典型的なローカル線の駅である
通り過ぎる駅、通り過ぎる駅がすばらしくローカルで、でもあっという間に発車してしまうので外側からあまり写真が撮れなかった。以前に乗った肥薩線(→この記事)のようにのんびり進む観光列車を運転してもいいんじゃないかと思うけど、それほど見どころもないか。

でも次の駅の秘境っぷりはすごかった。
道が一本通っているだけで周囲に何もない豊ヶ岡駅
道が一本通っているだけで周囲に何もない豊ヶ岡駅
森の中に細いホームがあるだけなのだ
森の中に細いホームがあるだけなのだ
あとで写真を見直したら撮影している人がいて驚いた
あとで写真を見直したら撮影している人がいて驚いた
周囲数キロは人家も何もないんじゃないか、という場所に細いホームだけがある。当然誰も乗り降りしなかった。

こんなところ誰もいないだろう、と思っていたら、家に帰って写真を見ると僕の乗った列車を撮影している人が写っていた。もしカメラを構えた僕が写っていたら申し訳ない限りである。
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ようやく終点へ

その先も、終点までのどかな景色や駅が続いた。
これが「学園都市線」の景色である
これが「学園都市線」の景色である
もうすぐ終点
もうすぐ終点
もはや学園都市は数十キロ先である
もはや学園都市は数十キロ先である
やがて遠くに街並みが見えてくると列車にブレーキがかかり、終点の新十津川駅に到着した。

これだけ長い路線の終着駅だけど線路とホームは1本だけで、来た列車がそのまま折り返すだけのシンプルな構造だ。
え、これが終点?と目を疑った
え、これが終点?と目を疑った
というわけで長いようで短い旅が終わった
というわけで長いようで短い旅が終わった
新十津川駅の全景
新十津川駅の全景
新十津川町は明治時代に大洪水の被害に遭った奈良県十津川村の住民が移住してきたところでこういう名前がついた。

町の中心部は駅からやや離れているようで駅前にはほとんど何もなかった。
駅前通りにはミニ図書館とLPガス屋さんだけがあった
駅前通りにはミニ図書館とLPガス屋さんだけがあった
なぜか駅前にいたポニー
なぜか駅前にいたポニー
駅前に小さな牧場があって、ポニーの親子(?)が放牧されていた。そのポニーと戯れているうちに、僕が乗ってきた列車は発車ベルを鳴らすこともなく、折り返して発車してしまった。
あー!...行っちゃった...
あー!...行っちゃった...
仕方ない、次の列車を待つか、と思って時刻表を見たら、6時間以上も先だった。何しろこの駅まで来る列車は1日に3本しかないのだ。
6時間なにしよう...
6時間なにしよう...

来たかったけど早く帰りたい

ずっと乗りたいと思っていた札沼線(学園都市線)。途中までは確かに学園都市を走る路線だったけど、後半は対照的に農村をのんびり走る路線で、途中駅を境にしたその対比が楽しかった。

後半の部分はきっと赤字だろうしいつ廃止になってもおかしくない気がするけど、楽しいのでみんな乗りに来るといいと思います。
新十津川行きディーゼルカーの車内にあった路線案内でも省略されていてそりゃないだろう、と思った
新十津川行きディーゼルカーの車内にあった路線案内でも省略されていてそりゃないだろう、と思った
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