特集 2014年10月21日

ウシガエルはラーメンにしても美味い

スパゲッティにしてもよし。
スパゲッティにしてもよし。
ウシガエル。食用に北米から持ち込まれた大型の外来カエルで、食用ガエルという何のひねりも無い別名も持つ。

今年の夏から秋にかけて、僕はこのウシガエルにハマってしまい、夜な夜な散歩ついでに捕獲しては食べていた。もう今シーズンだけで40匹くらいは胃に収めたのではないか。こんなことを書くと正気を疑われそうだが、それもひとえにウシガエルという生き物がおいしいからに他ならない。

ウシガエルがいかに食材としてすぐれているかを広く伝えるため、今季に作ったウシガエル料理の一部を紹介していこうと思う。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

カエルは美味い。それは事実。

ウシガエルが食用になるということはよく知られているが、それでもやはりカエル料理というと、どうしてもゲテモノ扱いされがちである。まあ仕方のないことではあるが、そういう偏見を持たない身としては少々歯がゆくも思える。

そもそも、僕が「カエルは美味い!」と強く実感したのは本サイトでも取り上げられた横浜中華街のレストランでカエル料理を食べた折であった

ところで考えてもみてほしい。鶏肉でも牛肉でも簡単に手に入るこの時代、(中華料理店の場合が多いとはいえ)日本の飲食店に、わざわざカエルを使用したメニューが存在しているのだ。しかも、普通に買うと下手な鶏や豚、牛の肉よりも値が張るのにである。これはカエルにはカエルの、食材としての長所あるいは個性があるということの証拠ではないか。
食べられる店が近所に無いなら自分で捕るまで。ウシガエルは田園地帯やため池に多いよ。
食べられる店が近所に無いなら自分で捕るまで。ウシガエルは田園地帯やため池に多いよ。
しかし、その後僕は九州へと引っ越し、横浜中華街へはなかなか行きづらくなってしまった。それ以来、カエルを食べたくなると自分で捕って料理するようにしているのだ。そうすりゃタダだしね。
ウシガエルは夜行性の傾向が強い。水中から顔だけ出していることが多いが、こうして上陸していることも。チャンス。
ウシガエルは夜行性の傾向が強い。水中から顔だけ出していることが多いが、こうして上陸していることも。チャンス。
ウシガエルという名は、鳴き声が牛のそれにそっくりであることからついたとされる。実際、ウシガエルが生息している水辺では夏の夕暮れになるとモーモーという大きな鳴き声がこだましているものだ。おいしいおいしい食材がここにいるぞと宣言しているのだ。捕ってくれと言っているのだ。

捕まえ方についてだが、タモ網や釣り竿を使えばかなり効率よく捕獲することができる。だが、慣れれば手づかみでもOK。道具さえ要らない。魚やほかの獣に比べれば格段に捕まえやすい。

こんなに簡単にあのおいしい肉が手に入る!素晴らしいことだ。
コツさえつかめば手づかみで捕れるぜ。カエルに限らず、動物に触ったら必ず手を洗おうね。
コツさえつかめば手づかみで捕れるぜ。カエルに限らず、動物に触ったら必ず手を洗おうね。
さて、捕れたウシガエルには速やかにおいしい料理になってもらうわけだが、当然その前に下処理をしてやらなければならない。

この下処理が実に面倒くさ…くないのだ。意外や意外、驚くほど簡単。魚より楽。この辺も食材としてすぐれている点だと思う。

肉がまともに付いているのは後ろ脚だけ

締めたら、まず内臓と皮を取り除いて下ごしらえ。魚よりうんと簡単。
締めたら、まず内臓と皮を取り除いて下ごしらえ。魚よりうんと簡単。
苦手な方もいると思うので詳細な描写は控えるが、下ごしらえの過程をざっくりと説明。

まず頭をバーンッてやって締めて、お腹にチチッと切れ込みを入れてアレをブリンッてやって、皮をビリビリズルルンッて靴下脱ぐみたいに剥いたらもうおしまいである。

慣れると1匹あたり3分もかからなくなる。

(ウシガエルは『外来生物法』の定めるところの特定外来生物に指定されており、生かしたままの輸送は禁じられているので注意。)
一見たくましいが、実は上半身は骨ばかりで身が少ない。でもダシは取れるので捨てずにおく。
一見たくましいが、実は上半身は骨ばかりで身が少ない。でもダシは取れるので捨てずにおく。
唯一肉付きが良いのは後ろ脚(というか腿)。料理店ではたいていここしか使われない。
唯一肉付きが良いのは後ろ脚(というか腿)。料理店ではたいていここしか使われない。
動物というのは、当然よく動かす部位に筋肉つまり身が多く付く。たとえば鳥類なら翼を動かすために胸部の筋肉(胸肉)が発達しているし、その中でも地上をよく歩くニワトリなどでは、脚を支持し動かす腿の筋肉(もも肉)もたっぷり付いているという具合である。

で、ウシガエルの主な行動というか運動のパターンは
(1)ピョンピョン飛び跳ねる
(2)水を蹴って泳ぐ
のわずか二通りである。…これらの運動で用いるのはいずれの場合も後ろ脚の筋肉。ということはつまり、後ろ脚にしかろくに身が付いていないのだ。
調理時は台所が異様な雰囲気になるが、すぐに慣れる。安心しろ。
調理時は台所が異様な雰囲気になるが、すぐに慣れる。安心しろ。
上半身も一見するとボリューミーに思えるが、実際は頭部が占める割合が大きく、胴体には内臓が詰まっているのみで肉づきがよくないのだ。前脚も貧弱だし。

よって、ウシガエルの主な可食部は後ろ脚となる。販売されているカエル肉も、一般的には後ろ脚のみである。確かに、お店でから揚げや焼き物を注文しても腰から下しか出てきた試しが無い。だが、自分で捕まえる場合は上半身もダシ取りなどに活用することができる。できるだけ無駄なく使いたい。

どう料理しても美味い

では、これまで作った料理の一部を紹介していきたい。
フライドフロッグ。我が食卓の最多登板メニュー。
フライドフロッグ。我が食卓の最多登板メニュー。
まず、とりあえず油で揚げておけば間違いないだろうということでから揚げや竜田揚げなどにしてみた。

これが鶏のから揚げやフライドチキンによく似ていて実に美味かった。こうしたウシガエルの揚げ物は定番メニューと化し、その後も何度も何度も食卓へ上ることとなった。

そういえばこの頃はまだ野生のカエルを信用しきっておらず、臭みを警戒してスパイスを多用したりやニンニク醤油で強く下を味付けたりしてしていた。今にして思えば完全な杞憂だったのだが。
ウシガエルのローストチキン。もとい、ローストフロッグ。ここで、ウシガエル料理を人様に見せる場合はつま先を落とすべきだと悟る。
ウシガエルのローストチキン。もとい、ローストフロッグ。ここで、ウシガエル料理を人様に見せる場合はつま先を落とすべきだと悟る。
揚げ物が鶏肉っぽかったので、お次はローストチキンを意識してオーブンで焼き上げてみた。これも当たり。美味い。また、揚げ物よりも素材の特徴を確認しやすい。やはり鶏肉に近い味わいで、肉質はもも肉と胸肉の中間といったところ。ただ、少しだけ魚っぽい味わいも感じられる。それもフグとかハリセンボン辺りの魚である。鶏もも肉と鶏胸肉とフグを足して3で割った味、といったところだろうか。
チキンと見せかけて実はフロッグカレー。
チキンと見せかけて実はフロッグカレー。
そこで「鶏肉を用いる料理ならば何にでも合うのでは?」という考えに至る。試しにチキンカレーの鶏をウシガエルに置き換えた「フロッグカレー」を作ったところ、やはり美味い。

スパイスでわずかな魚っぽさが飛んでしまうので、黙って食べさせたら誰もがチキンカレーだと誤認するであろうという味。
棒棒鶏ならぬ棒棒蛙。蛙という字の虫偏がいかんな、虫偏が。
棒棒鶏ならぬ棒棒蛙。蛙という字の虫偏がいかんな、虫偏が。
とりごぼう…じゃなくてかえるごぼう煮。
とりごぼう…じゃなくてかえるごぼう煮。
さらにさらに、棒棒鶏や鶏とごぼうの煮物も侵略。ウシガエルはここでも何の問題も無く代打の役目を果たす。ほんの少し魚っぽさが顔を出した気もしたが、生臭さなどがあるわけではなく、むしろおもしろいアクセントになっていると思えた。
ウシガエルとモクズガニのスパゲッティ。ウシガエルを探しているとモクズガニやスッポンなどのオマケ食材を得ることもしばしば。
ウシガエルとモクズガニのスパゲッティ。ウシガエルを探しているとモクズガニやスッポンなどのオマケ食材を得ることもしばしば。
チキンライ…フロッグライス。ほぐし身にしてしまうと、もうまったくカエルだとはわからない。当たり前だが。
チキンライ…フロッグライス。ほぐし身にしてしまうと、もうまったくカエルだとはわからない。当たり前だが。
トマトソースで味付けしたスパゲッティやチキンライス(のチキンをフロッグに置き換えたもの)も大変美味。和洋中問わず、鶏肉料理なら何にでも応用できるだろう。
どれもこれも大変おいしゅうございました。本当に。
どれもこれも大変おいしゅうございました。本当に。

「鶏肉の代わり」じゃないメニューを!

…とまあ、ウシガエルはとてもおいしく、鶏肉の代役を十分に務め上げられる食材であることが確認できた。だが、いつもいつまでも鶏の代用扱いではなんとなくウシガエルに失礼な気がする。「私はあの女(鶏肉)の代わりなの!?」と言われてしまうだろう。言われないか。

それに読者諸君からは「鶏肉に似てるならスーパーでお金出して鶏肉買えばいいじゃん」という無粋なようで極めてまっとうな意見も出ることだろう。というわけでここはひとつ、カエルという素材に正面から向き合い、カエルならではの料理を作ってみたい。
原産地に倣ってケイジャン風ウシガエル。
原産地に倣ってケイジャン風ウシガエル。
世界のカエル料理について調べていると、アメリカではケイジャン料理の材料にカエル肉がよく使われていることがわかった。おそらくウシガエルを使用したものだろう。これは先ほどまでの我流鶏肉料理もどき群とは違う、まさにカエルのために編み出された、れっきとした由緒正しいカエル料理と言えるだろう。……まあひょっとしたら、ケイジャン文化においても鶏肉の代用品的に使われていたのかもしれないけど。

そこでさっそくケイジャン風の味付けで焼き上げてみると、エスニックな香りがマッチして、これまでのどのメニューより野趣が引き出されたように感じられる。

ケイジャン料理ではカエルの他にワニやカミツキガメなどの肉が用いられることもあるようなので、あの独特の香辛料の配合はこの手の水棲動物をおいしく食べるために進化してきた面もあるのかもしれない。知らんけど。

鶏ガラでもなく、魚介でもない。カエルのダシで作るラーメン

鶏とも魚ともつかない味のウシガエル。この素直なようで実は個性的な食材を活かせる料理は他にないものか…。思案に暮れていると、ある閃きが脳裏に走った。ラーメンはどうだ!
カエルの上半身をネギ、ショウガ、ニンニクと煮込む。
カエルの上半身をネギ、ショウガ、ニンニクと煮込む。
学生の頃、大学のキャンパスで数名の教授らが塩ラーメンのスープに関して、自身が鶏ガラベース派であるか魚介系ベース派であるかという極めてアカデミックさに欠ける議論を真顔で繰り広げている現場に遭遇したことがある。ナスビのヘタよりどうでもいい話だと思ったが、塩ラーメンにおける「鶏」と「魚介」には大きな隔たりがあり、それは彼らのようなラーメン通にとっては重要な事柄なのだろう。

鶏と魚。その両方の要素を兼ね備えているカエルなら、通も唸るような新たな味わいのスープが産まれるかもしれない。そうなったらおもしろいではないか。
じ~っくり煮込む。
じ~っくり煮込む。
というわけで、さっそく後ろ脚を外した「上半身」をたっぷり鍋へと放り込み、臭い消しの薬味とともに長時間煮込んでスープを作る。採れたスープを塩だれで割って麺を投入すると…。
カエルだしの塩ラーメン、もも肉乗せ。
カエルだしの塩ラーメン、もも肉乗せ。
カエルラーメンの完成である。チャーシュー代わりのトッピングが炙ったウシガエルのももである点以外、見た目はごく普通の塩ラーメンである。香りは…鶏ガラベースのものに近い。なかなかおいしそうだが、味はどうだろうか。
いただきます!
いただきます!
美味いっ!
美味いっ!
とりあえずレンゲでスープを飲んでみると…。…美味い!麺もすすってみると…。…美味い!!いやー、普通においしい普通の塩ラーメンだこれ。それで十分。細かい味とかどうでもいいよ。

と、言いたいところだがそうはいくまい。一応分析してみると、スープは鶏ガラスープの味にかなり近い。だが、どこかにそれとは異なる風味が隠れている。しかし、それが鰹節や煮干しから採れる一般的な魚介スープに通じるものであるかといえば違う気がする。この風味こそがカエルならではのサムシングなのだろう。

予想とは少し異なったが、まあ結論としては「ウシガエルを使うと、ほんのり個性的でおいしい塩ラーメンができます」ということで、ここはどうかひとつ。

オタマジャクシは魚味らしいよ

実は今回、ラーメンを試食するくだりで、自分の舌が信じられなくなってしまった。カエルの美味しさを伝えるつもりで、的外れなことばかり書いていたらどうしようと不安になり、ネットでカエル料理のレビューを読み漁ったりした。結果、やはりみなさん基本的には「鶏肉+魚」という感想を抱いているようであった。

ちなみに、僕の友人はウシガエルのオタマジャクシを食べた経験があるらしいのだが、そちらはほぼ魚類の味だったそうな。じゃあ、後ろ脚が生える、前脚が生え揃う、尻尾が短くなるとか各段階で食べ比べると、成長に伴う味の変化が分かったりするんだろうか。
ウシガエルはオタマジャクシもデカい。
ウシガエルはオタマジャクシもデカい。
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