日本一歴史の長い時刻表のイベント
現在、日本で全国版の鉄道時刻表を出版している出版社は2社あり、そのうち、JTBパブリッシングが発行している「JTB時刻表」は、今月号(2015年4月号)で創刊90周年を迎えた。
その創刊90周年を記念したイベントを、鉄道マニアの聖地、神保町の書泉グランデで行うらしい。
もらったPDFのプレスリーリースをみると、恰幅のいい男性が「さあ、ぼくと握手だ!」といった顔で、にこやかに右手をさしだしている。
もらったPDF資料。とってもいい写真
世の中に、鉄道ファンや時刻表マニアがたくさんいることは知っている。
かく言うぼくも鉄道はけっこう好きな方で、もちろん時刻表もマニアほどではないものの、古いものを買って見比べるぐらいには好きだ。
でも、だからといって、編集長と握手って意味がわからない。そもそも、人が来るんでしょうかこれ。
いろいろと興味深いので実際に行ってみた。
行列できてた
エレベーターに貼ってあったポスター。ホントにやるんだ
神保町の書泉グランデは、鉄道関連書籍の充実ぶりがものすごく、鉄道マニアの聖地とされている。
さて、イベント会場前にはどれほど人が並んでいるのか……。
ぬわー、並んでる!
予想に反し(失礼)握手会場からはみ出るほど、かなりのひとがならんでいた。ざっと見積もっても30~40人はいる。
でもよく考えてほしい、この前にいるのはおっさんですよ、握手の相手。おい、みんな、しっかりしろ、目を覚ませ!
ほんとに握手してる……
サインまで!
うれしそうに握手する人々、持参の時刻表にサインを求めるファン……そこには鉄道がすき、時刻表がすきだという純粋な気持ちしかない。
ここでふと思う、ぼくははたしてこうやって冷やかし半分で、握手するひとたちを見ていていいのだろうか?
どっちかというとそっち側なんじゃないのか?
時刻表を買ってきた
さぁ、手をこちらに
いつも読んでおります
サインお願いします!
どやぁ
ミイラ取りがミイラになった
なんだろう、この満足感。
あのJTB時刻表の編集長と握手できた上、サインまでもらえた。これはうれしい。理由はわからないけどうれしい。
さっきまでの時刻表編集長握手会に対する懐疑的な態度はどこかへ吹っ飛んでしまった。
しかも、時刻表購入者がもらえるおみやげがすごい。
おみやげ多すぎ
クリアファイル多数にボールペン、時刻表専用カバー、ぬれ煎餅、路線図……公民館のクリスマス会だってこんなにおみやげもらえたことない。
中でも、いちばんすごかったのは校正原稿をラミネート加工したやつ。
校正用の原稿のプレゼント
これはよっぽどすきじゃないとただのゴミでしかない。
校正の原稿なんてふつう、校了したらしばらくは保存するかもしれないけれど、基本的に捨てちゃうものだ。
まさに、ゴミ。ゴミなんだけど、時刻表マニアにはとってうれしい。「下肥」ということばが脳裏をよぎったが、特に深くは考えないことにする。
昔の時刻表に興奮する
握手会会場の横では、90年前の創刊号(復刻版)から歴代の時刻表がずらっと並べてある。これがまたたまらない。
ズラッと並べられた時刻表たち
戦前の時刻表
背表紙が「ヒゲタ醤油」
昔の時刻表は、背表紙も広告枠だったらしく、商品名が時刻表のタイトルよりもでかいので「ヒゲタ醤油の本」みたいになっている。
で、やはりきになるのは昔の路線図、東京のあたりを見てみる。
総武線がつながってない。
総武線が両国あたりで途切れているのが目立つが、飯田橋のところに盲腸線のようなものがあるのも気になる。
これは現在の水道橋駅と、飯田橋駅のちょうど真ん中辺りにあった「飯田町駅」のことだろうか?
北海道の路線図にしれっと樺太の路線図が入ってるあたりもたまらない
5、6時間は時間潰せる
昔の時刻表は、古いものはJTBパブリッシングでも保存していないものもあるらしく、とくに創刊号の復刻版を出版したさいは、本物を持っている人に創刊号を借りて、それをコピーする形で復刻版を出版したらしい。
歴代編集長のトークイベント
さて、握手会がひと通り終わると、今度は歴代編集長4人が集まってのトークイベントが始まった。
左から現在の編集長大内さん、16代目編集長石川さん、14代目編集長高山さん、11・13代目編集長木村さん
一般の人にとっては「紙の時刻表をなぜ使うのか?」という疑問があると思う。
今はネットで「東京駅から大阪駅まで」と入力すればたちどころに列車の時刻が出てくる。しかし、それは条件に合ったルートひとつしか出てこない。
選択したい列車の候補が複数ある場合、眺めて比較することができるのは、ネットの時刻表にはない便利さでもある。木村さんはこの便利さを「紙の時刻表は一覧性がある」と表現していた。
また、持ちはこびやすいという点も重要だ。大内さんによると、特に大きな時刻表は必要な部分だけをコピーして持ち歩く人も多い。
そこで、JTBの時刻表はコピーしたときになるべく見にくくならないよう、罫線の位置を裏と表で合わせているという。
罫線の位置が裏表で同じ場所に
罫線の位置がズレている他社の時刻表
時刻表には、こういった細かい工夫が随所になされている。
大内さんは「先輩から、ライバルの時刻表に勝つには、やはり時刻表の部分でないと勝てない、と言われた」そうだ。
あえて、ライバル誌と同じ情報になってしまう時刻表の部分にどれだけ工夫できるか?
「新しく開通した東京上野ラインをどう見せるか悩んだ挙句、読者は上野から東京まで電車がどのように動くのかを知りたいのではと思い、上野と東京に番線をいれたんです」
大内さんがこう言うと、観客席からどよめきと拍手が起こった。
上野と東京の発着番線が書いてある。
いったい、なぜ、どよめきと拍手がわきおこったのかはよくわからないけれど、発着番線がいちいち書いてあるというのは、よっぽどのことらしい。
掲載されている時刻の情報は同じだから、時刻表は別にどっちを買っても同じだろ。と思っていたけれど、考えを改めなくてはいけない。
同じに見えるけど違う時刻表
結局、情報はJRから貰う時刻のデータなので、どうしても情報部分が同じになってしまう。
時刻表は、そこをどう見せるのか? を常に工夫しているということがわかった。
ちなみに、去年の新幹線開業50周年のときの時刻表は、ライバル誌に付録をつけられて「やられた!」と思ったらしい。
たしかに、付録ついてたら確かに付録ついてるほう買っちゃうな。