特集 2014年4月11日

町でやらないことを競技化する

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この冬、冬季五輪を観て抱いた一番の感想は、「危ないなぁ」だった。急斜面をスキー板で滑降したり、ジャンプして回転したり。一歩間違ったら大怪我につながることばかりやっている。何故、選手たちはあんなに危ないことをやっているのか?

競技だからだ。

ルールに基づいた競技だからがんばっているのだ。ということは、日常生活の中で「危ない」とされていることもルールをつけて競技化すれば、新たなスポーツとして定着するかもしれない。

例えば、歩きスマホだ。
1970年神奈川県生まれ。デザイン、執筆、映像制作など各種コンテンツ制作に携わる。「どうしたら毎日をご機嫌に過ごせるか」を日々検討中。


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陸上競技場で歩きスマホの競技化を検証

歩きスマホは本当に危ない。それでも駅構内や街中で、歩きながらスマホを操作している人たちは結構多い。急ぎのメールが入ってどうしても返信しないといけない、約束の時間に遅れているからいち早くメールを入れておきたい。それぞれ色々な事情があるのは分かるが、歩く時はしっかり前を向いて歩かないと危険である。

そんな危険な「歩きスマホ」を、本格的な陸上競技場で競技化してみたいと思う。
本格的な陸上競技場
本格的な陸上競技場
サッカーやラグビーの試合が出来るグラウンドと、一周400メートルの本格的な陸上トラックがある立派な陸上競技場だ。ここで、僕と林さんが歩きスマホの競技化を検証する。
精一杯スポーティーな格好で挑む林、住
精一杯スポーティーな格好で挑む林、住
グラウンドに一礼
グラウンドに一礼
事前のやりとりで林さんから「短パンで挑みます」とメッセージをもらっていたので、僕もスポーツ用品店に行って短パンを購入した。店の中で一番短い短パンを選んで買ったのだが、林さんの短パンはそんなに短くない。平成の子どもが履く半ズボンの長さだ。僕だけ昭和の子どものようで恥ずかしい。

「短パンって言ってましたよね?」

と林さんに確認したら、

「これが僕の短パンです」

と悪びれる様子がない。レース前に短パンの長さでナーバスな精神状態になってしまったが、ここは気持ちを切り替えないといけない。


8レーンあるトラックのうち、僕たちが使えるのは6~8レーンである。
トラック利用の諸注意
トラック利用の諸注意
僕たちは6~8レーンを使用
僕たちは6~8レーンを使用
僕たちがトラックに降り立った時間はお昼の12時過ぎ。ちょうどランチタイムということもあり、トラックを利用している人は誰もいない。他に練習している人たちがいたら邪魔になってしまうかも、という事前の不安がなくなり、これで心置きなく検証が出来る。

男子歩きスマホ100メートル 第一走者:住

歩きスマホを競技化するにあたり、以下のようにルールを設定した。

・スマホで文章を打ちながら100メートル歩きタイムを競う
・コースを外れたら失格
・走ってはいけない
・文章を打ち終える前にゴールしてはいけない
・打った文章をゴールするまでにメールで送信すること
・打った文章に誤字、脱字があった場合1文字につき1秒加算される

基本的には100メートルを歩くスピードを競う訳だが、そこに「メールの正確さ」という技術点が加味される仕組みだ。

歩きながら打つ文章は以下のようにした。
件名:ありがとうございました

お世話になっております。●●(競技者の名前が入る)です。
先日はありがとうございました。
また、ご一緒出来ればと思います。
よろしくお願いいたします。
あるプロジェクトの打ち上げで盛り上がった翌日、相手に送るありがとうメール。という設定だ。

これを100メートル歩く間に打ち終えなくてはならない。

まずは、僕からやってみる。
第一走者、住正徳
第一走者、住正徳
位置について
位置について
よーい
よーい
ドンっ
ドンっ
スタートしてすぐ、スマホの画面が見えづらいことに気づく。画面の明るさを最大にしていたのだが、それでも良く見えない。また、コースアウトすると失格になってしまうので、時々前方を確認する必要がある。

歩きスマホ、想像以上に難しい競技である。
スマホでメールを打ちながら
スマホでメールを打ちながら
時々前方を確認
時々前方を確認
メール送信!
メール送信!
そして
そして
ゴール
ゴール
なんとか100メートルの間にメール送信までを完了した。

そのタイムは?
50秒35
50秒35
僕の記録は、50秒35であった。

しかし、歩きスマホ100メートルはここで終わらない。林さん宛に送ったメールの内容を確認しないといけない。
メール確認
メール確認
本文に誤字・脱字はなく完璧であるが、件名の入力を忘れてしまった。普段から「件名なし」でメールを送る悪い癖が出てしまった。

お題では「ありがとうございました」と件名を入れることになっていたので、11文字の脱字である。その分をタイムに加算しないといけない。

その結果、最終的な僕の記録は、

男子歩きスマホ100メートル
住の記録:61秒35


であった。

男子歩きスマホ100メートル 第二走者:林

引き続き、長めの短パンで林さんが挑む。
第二走者、林雄司
第二走者、林雄司
位置について
位置について
よーい、ドンっ!
よーい、ドンっ!
僕の歩きを事前に見ていたからだろうか、林さんの歩きにはためらいがない。軽快な足取りでずんずん進んでいく。
僕よりもハイペースで
僕よりもハイペースで
歩く林さん
歩く林さん
しかし、歩きが早過ぎて
しかし、歩きが早過ぎて
ゴール直前までメールが完成しなかった
ゴール直前までメールが完成しなかった
歩きがハイペースだったことで、林さんはゴールまでにメールを打ち終えることが出来なかった。ゴール直前での足踏みがどれくらいタイムに響いているのか?
48秒28
48秒28
なんと、僕よりも2秒も早くゴールしていた。林さんには歩きスマホの才能があるのか。しかし、そう判断するのはまだ早い。僕宛に送ったメールの正確さを確認しないといけない。
メール確認
メール確認
件名はしっかりと入力されていたが、メール本文に脱字が目立つ。本来なら「林で。」のまま送信するようなことはないと思うが、歩きスマホ100メートルでは本文を確認する余裕がないのだ。その他、句読点のミスなども含め、林さんには5秒追加される。

男子歩きスマホ100メートル
林の記録:53秒28


それでも60秒を切る好タイムである。やはり、林さんには歩きスマホの素質があるようだ。

男子歩きスマホ100メートル 決勝

2人のタイムトライアルを終え、男子歩きスマホ100メートルは決勝を迎える。

記録的には林さんの方が僕よりも約8秒早い。だが、僕は件名を打ち忘れて11秒加算された上での結果だった。件名の打ち忘れをなくせば、充分林さんのタイムとやり合える。

決勝の舞台で林さんを破り、歩きスマホ100メートル日本代表の座を勝ち取りたい。
男子歩きスマホ100メートル 決勝
男子歩きスマホ100メートル 決勝

男子歩きスマホ100メートル 決勝

快晴無風の競技場にて、記念すべき「男子歩きスマホ100メートル」の第1回決勝が行われる。

決勝のコースを歩くのは、住(自己ベスト61秒35)と林(自己ベスト53秒28)の2選手だ。
スタートラインに並ぶ2選手
スタートラインに並ぶ2選手
無観客試合
無観客試合
無観客試合ということもあり、スタジアム内は静寂に包まれている。静まり返った競技場を緊迫感が支配していく。

位置について、よーい…

静寂を打ち破るように、スタートの号砲が鳴り響いた!
好スタートを切った2選手
好スタートを切った2選手
前半は横並び
前半は横並び
しばらく横並びの展開が続く中、50メートルラインを超えたあたりで僕から仕掛けてみた。
50メートル付近で
50メートル付近で
仕掛ける住
仕掛ける住
ここでレースは大きく動き、僕が約2歩分のリードを奪う。林さんは僕のスピードについてこれない。2歩分のリードをつけたまま、僕は一気にゴールまで歩き抜けた。
住リードのままゴール
住リードのままゴール
タイムは53秒16
タイムは53秒16
53秒16。まずまずのタイムである。そして、林さんは僕から1秒遅れでゴールした。

今回はしっかり件名も打ったし、本文も完璧だと思う。タイプミスによる秒加算は少ないはずだ。


まず、僕に届いた林さんからのメールを確認する。
林さんからのメールを確認。
林さんからのメールを確認。
林さんのメールの誤字・脱字は2カ所3文字であった。よって、林さんの決勝レースでのタイムは、

男子歩きスマホ100メートル決勝
林の記録:57秒16


である。

僕のタイプミスが3文字以内なら、僕の優勝だ。そんなに間違えているはずがないから、僕の優勝は決まったようなものである。

林さんにメールを確認してもらうと、思いもよらない事態が起きていた。


なんと、僕のメールが届いていないと言うのだ。
僕のメールが届いていない
僕のメールが届いていない
自分のスマホを確認すると、確かに未送信のままメールが残っていた。

送信出来ていない、という痛恨のミスである。
ほらほら、とメールが未着なことをアピールする林さん
ほらほら、とメールが未着なことをアピールする林さん
ルールによって、僕は失格となってしまった。

こうして、「男子歩きスマホ100メートル」最初の日本代表は林さんに決まった。
勝利を喜ぶ林さん
勝利を喜ぶ林さん
自分で考案した競技で負ける、という屈辱的な結果に終わってしまった。

今度は、「男子駆け込み乗車」という競技で林さんと対決したいと思っている。閉まるドアまでの距離が遠ければ遠いほど勝ち、という競技である。

今回の企画は、決して歩きスマホを推奨するものではない。むしろその逆である。障害物のない競技場でやってみても、歩きながらスマホを操作して真っすぐ歩くことの難しさが分かった。これを人が沢山いる街中や駅のホームでやったら危ないに決まっている。どんなに急いでいても、一度立ち止まってからスマホを操作していただきたい。競技として歩きスマホを楽しむ場合は、周囲の環境に充分注意してルールに基づいてやりましょう。

歩きスマホ100メートルの選手目線動画
ソニーアクションカムで撮影
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