特集 2014年10月13日

公衆トイレの非常呼出ボタンに見る葛藤

圧倒的な存在感
圧倒的な存在感
先日、外出先でビルのトイレに入ったところ、上の写真のような表示が目に留まった。

流すボタン、なんでこんなにでかく書く必要があるのか。
そんなに流してほしいのだろうか。流さない人がいるからか?

違う。
これには深い理由があるのだ。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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間違ったボタンを押さないでほしい

この表示は、流すボタンを押してほしいからこんなに大きいわけではない。
間違って別のボタンを押してほしくないから、こんなにでかいのだ。

別のボタン?いったいどれのことだろうか。
それが、これだ。
禁止マークまでついている
禁止マークまでついている
非常呼び出しボタンである。
トイレ内で急に体調が悪くなったり、その他の緊急事態になった際に押すボタンだ。

非常呼び出しボタンの葛藤

非常呼び出しボタンには、葛藤がある。

・非常時にすぐ押せるよう、押しやすくしなければいけない、
・押しやすくしすぎると、流すボタンと間違って押されてしまう

そのせめぎあいの末に生まれたのが、先ほどの巨大「水を流す→」だ。

手を尽くす

葛藤しているのは先ほどのトイレばかりではない。
いろんなトイレを回って、この問題にどう対処しているか、調べてみた。
まずは基本形。プレーンな呼び出しボタン。
まずは基本形。プレーンな呼び出しボタン。
こちらは目立つように「非常用」の文字が書き加えられている
こちらは目立つように「非常用」の文字が書き加えられている
さらに大きくなったのがこちら。
さらに大きくなったのがこちら。
個人的にはこういう手作り感のあるものが好きだ
個人的にはこういう手作り感のあるものが好きだ
ボタン周りに加え、引っ張り式のスイッチの持ち手も囲んであるのがかわいい。
こういう「必要に迫られてやったんだけど、いざはじめてみるとちょっと凝ってしまった」みたいなの、すごくお茶目でいい。
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言葉に出さなければ伝わらないこともある

前ページで挙げた例は、緊急呼び出しボタンがあくまで緊急用であることを強調することで、「うかつに押さないでね」ということを間接的に伝えている。
(緊急時にわかりやすいように、という意図ももちろんあるだろうけど)

そうした「察してね」という姿勢は日本人的な心遣いではあるものの、素通りされてしまう可能性もある。
もうちょっと直接的に伝えるべきシーンもあるのだ。
説明の上、「押すな」といわんばかりの横テープ
説明の上、「押すな」といわんばかりの横テープ
別の場所。こちらは風化により封印が解かれつつある
別の場所。こちらは風化により封印が解かれつつある
何が起きるか具体的に説明することでプレッシャーを強めていく。(あと、でかい)
何が起きるか具体的に説明することでプレッシャーを強めていく。(あと、でかい)
ついに「緊急時以外は絶対に手を触れないで」と直接的なメッセージが登場
ついに「緊急時以外は絶対に手を触れないで」と直接的なメッセージが登場
それをさらに推し進め、もはや懇願するスタイル
それをさらに推し進め、もはや懇願するスタイル
最後は人情に訴えかける。それも手だ。

逆転の発想

それに対して、もっと違った角度からの解決方法がある。

トイレに入った人がなぜ緊急呼出ボタンを押すかというと、別にいたずらしたいからではない。流すボタンと間違えるからなのだ。

ということは、流すボタンがすぐわかるようになっていれば、誰も間違えて緊急呼び出しボタンを押さないのではないか。
王道のテプラ
王道のテプラ
縦バージョン
縦バージョン
もともとの「流す」のすぐ上にさらにプレートを追加し、「流す」を二重化
もともとの「流す」のすぐ上にさらにプレートを追加し、「流す」を二重化
蛍光色で目立たせた上で、二ヶ国語対応
蛍光色で目立たせた上で、二ヶ国語対応
そしてこうした流すボタンの強調、その究極の形が、冒頭に挙げたこれである。
何度見ても圧巻
何度見ても圧巻

トイレ編まとめ

・トイレでは水を流すため、絶対にボタンを押す
・緊急呼出ボタンは目立つ位置に設置したい

この2つの条件が重なって、ボタンの押し間違いという不幸が生まれた。
解決策としては、こんな方法でがんばっている。

・緊急呼出ボタンを、そうとわかりやすくする
・押さないでくれと頼む
・流すボタンのほうを目立たせる

つぎは、もうひとつの緊急呼出ボタンを見てみます。
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エレベーター編

町で見かける緊急呼出ボタンといえば、トイレと、もうひとつはエレベーターだ。
左上の、これ
左上の、これ
こんな風にデフォルトで目立っているボタンも多い
こんな風にデフォルトで目立っているボタンも多い
それでも防衛しきれない場合、フタがつく
それでも防衛しきれない場合、フタがつく
上の写真はフタがよくできているので一見さいしょからついていたように見えるが、よく見ると点字の上に重ねて貼られており、後付であることがわかる。
これも同じ後付けパターンか
これも同じ後付けパターンか
こちらも文字にかぶっていて後付っぽいのだが
こちらも文字にかぶっていて後付っぽいのだが
もげて蝶番だけになってしまっているものもあった
もげて蝶番だけになってしまっているものもあった
個人的に一番好きなのがこちら。丸の形が不器用なのがたまらない
個人的に一番好きなのがこちら。丸の形が不器用なのがたまらない
斜めから見るとこの手作り感。いとおしい。
斜めから見るとこの手作り感。いとおしい。

ちなみにこのボタンはホームセンターのエレベーターだ。DIY精神がこんなところまで行き届いているのか、と感動的であった。

トイレはハードモード

こうしてみると、エレベーターはトイレに比べるとやさしいように思う。

トイレでボタンを押すとき、人はボタンめがけて一目散である。あの動作はほとんど反射に近い。
しかしエレベーターにはたくさんのボタンがあり、人はその中から自分の目的に合ったものを選んで押す。押す前にワンクッション、考える動作があるのだ。

だから、エレベーターの緊急呼出ボタンは必死さがワンランク下。というか、防衛側視点で考えると、トイレがハードモードすぎるのだろう。

こういう攻防戦が見たい

つい先日も、ライターの三土さんが、必死度の高い駅の案内表示についてレポートしていた。
「案内サインは必死によびかける」

案内表示にしろ呼出ボタンにしろ、単に風景のバリエーションとして見ても面白いんだけど、それに加えてそれを作った人の意図とか、工夫、戦略みたいなのが透けて見えるのがすごくいいと思う。
いっぽうで、それにまったく無頓着で、だからといって悪気もなく、ボタンを押し、出口を間違えてしまう利用者たち。
公共空間は、常に管理者と利用者の戦場なのである。
最終的にはこういう、あからさまに仰々しいのが一番防御力が高い気がする
最終的にはこういう、あからさまに仰々しいのが一番防御力が高い気がする
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