特集 2015年4月13日

うま味調味料食べ比べ

5種類のうま味調味料を食べ比べてみました。
5種類のうま味調味料を食べ比べてみました。
人間の味覚には「酸・甘・塩・苦」の4つに加えて「うま味」が存在すると提唱し、昆布に由来する「グルタミン酸」を発見したのが、池田菊苗(きくなえ)博士。

以来、料理に「うま味」を追加するための調味料が多数作られ、良くも悪くも世界中の店や家庭で広く使われることとなった。

今回はその良し悪しは置いておいて、純粋に味覚の面だけで、うま味調味料の味を試してみたいと思う。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:公園とかで採取できる春のうまいキノコ、アミガサタケ探し

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うま味調味料の味を知るために

一昔前までは「化学調味料」という通称が一般的だったのだが、いつの間にか「うま味調味料」と路線変更をしたこの調味料を、忌み嫌う人は多い。

私も自分の作った料理に使うと、なんだか化学の力に負けたような気がしてしまうので、家の調味料棚には置いていない。たぶんグルメマンガの影響だ。
味の素、ハイミー、いの一番が、家庭用うま味調味料の御三家ですかね。
味の素、ハイミー、いの一番が、家庭用うま味調味料の御三家ですかね。
だがしかし、いくら家の使用を控えたところで、外食や買い食いをする以上は避けられない存在なのだから、まったく受け入れないというのは相当な覚悟を持たない限り非現実的だ。

ここはひとつ、安全性とか健康問題とか常習性とかは置いておいて、正面からうま味調味料とぶつかり合い、その味がどんなものなのか、どれくらい使うと外食のあの味になるのかを、自分の舌で理解してみたいと思う。
試食には味にうるさいであろう製麺仲間にお付き合いいただきました。
試食には味にうるさいであろう製麺仲間にお付き合いいただきました。
用意したうま味調味料は、一般的なものから業務用まで全5種類。

でもよく調べてみたら、それらはL-グルタミン酸ナトリウム(以下グルちゃん)と5'-リボヌクレオタイドナトリウム(以下リボちゃん)という、2種類のナトリウムの組み合わせで構成されていた。

まずはそのまま舐めてみよう。

エントリーNo.1 味の素

うま味調味料の元祖ともいえる『味の素』。私が生まれた頃には、各家庭の食卓に迷いなく置かれていた気がする。

うちの母親はよく白菜やキュウリの漬物に、これをバサバサと掛けて食べていた。子供の頃によく舐めたという人も多いだろう。
味の素株式会社の『味の素』 ■参考小売価格:1グラムあたり2.35円
味の素株式会社の『味の素』
■参考小売価格:1グラムあたり2.35円
細かく砕かれた水晶のようなヴィジュアル。
細かく砕かれた水晶のようなヴィジュアル。
ぺろりと舐めてみると、舌にブワっとうま味が広がり、それが長く残った。ザ・化学調味料と言うべき、記憶にある例の味である。
構成比はグルちゃん97.5対リボちゃん2.5。
構成比はグルちゃん97.5対リボちゃん2.5。

エントリーNo.2 ハイミー

「ハイミ~、パッパッパッ」というCMが懐かしいハイミーは、味の素社の高級バージョンともいうべきうま味調味料。

味の素に比べるとちょっと値段が高く、リボちゃんの割合が少し多くなっている。原材料からだけは、その割合以外の違いが読み取れない。
味の素株式会社の『ハイミー』 ■参考小売価格:1グラムあたり5.68円
味の素株式会社の『ハイミー』
■参考小売価格:1グラムあたり5.68円
味の素に比べると、結晶に白い粉をまぶしたようになっている。
味の素に比べると、結晶に白い粉をまぶしたようになっている。
値段の差による先入観があるかもしれないが、その味は和風ダシに通じる高級感があるかも。後味が味の素よりは自然な気がした。
構成比はグルちゃん92対リボちゃん8。
構成比はグルちゃん92対リボちゃん8。

エントリーNo.3 いの一番

いの一番は、お蕎麦屋さんでバイトをしていた時に、つゆにドバドバと入れているのを見て驚いた思い出の調味料だ。

協和発酵工業の協和発酵フーズと、武田薬品工業のキリンフードテックが統合してキリン協和フーズが生まれ、そこにメルシャンの加工用酒類事業が統合し、さらに三菱商事グループの一員になって、MCフードスペシャリティーズに至るそうだ。
MCフードスペシャリティーズ株式会社の『いの一番』 ■ 参考小売価格:1グラムあたり5.68円
MCフードスペシャリティーズ株式会社の『いの一番』
■ 参考小売価格:1グラムあたり5.68円
グラニュー糖のような粒になっており、噛むとシャリっとする。
グラニュー糖のような粒になっており、噛むとシャリっとする。
成分にあるグルタミン酸ソーダはL-グルタミン酸ナトリウムと同じものらしいので、ハイミーとは同じ原材料かつ同じ割合なのだが、こちらのほうが塩分を強く感じ、ちょっと違う味がする。
構成比はグルちゃん92対リボちゃん8。
構成比はグルちゃん92対リボちゃん8。

うま味調味料の材料について

ここでちょっと理屈を挟むが、グルちゃんは昆布に含まれるうま味であり、リボちゃんは鰹節に含まれるイノシン酸ナトリウムと、椎茸に含まれるグアニル酸ナトリウムを主成分とした混合物。

ハイミーやいの一番には、「鰹節、昆布、椎茸の3つのうま味」と書かれているが、それらが原材料に使われているのではなく、あくまで同じうま味の成分が入っているという話のようだ。
実は鰹節も椎茸も昆布も入っていない。無果汁のオレンジジュースみたいなもんですかね。
実は鰹節も椎茸も昆布も入っていない。無果汁のオレンジジュースみたいなもんですかね。
実際の原材料はサトウキビの糖蜜やトウモロコシの澱粉などで、そこから微生物の力やらなんやかんやらによってうま味成分を製造するらしい。

ただ昆布や鰹節の味がグルタミン酸やイノシン酸だけかというと、もちろんそんなことはない。サツマイモから作った本格焼酎と、サトウキビから作った無色透明の甲類焼酎が、同じアルコール度数でも別の味がするように、ちゃんととったダシとうま味調味料を水で溶いたものは、同じ味にはならない。でもやはり似てはいる。

エントリーNo.4 グルエース

ここからは業務用の化学調味料を試してみたいと思う。まずはMCフードスペシャリティーズに商号変更する前のキリン協和フーズ時代の在庫品、グルエース。

家庭用のうま味調味料がグルちゃんとリボちゃんのコンビなのに対し、これはグルちゃんオンリー。うま味はグルちゃんとリボちゃんが掛けあわされることで相乗効果を発揮するというが、果たしてその味は如何に!
キリン協和フーズ(現在はMCフードスペシャリティーズに商号変更)株式会社の『グルエース』 ■参考小売価格:1キロあたり864円
キリン協和フーズ(現在はMCフードスペシャリティーズに商号変更)株式会社の『グルエース』
■参考小売価格:1キロあたり864円
さすがはグルちゃんオンリーだけあって、混ざりもののない純粋な結晶という感じ。これはやばい。
さすがはグルちゃんオンリーだけあって、混ざりもののない純粋な結晶という感じ。これはやばい。
業務用だけにうま味が濃いかとも思ったら、これが薄味に感じられてしまうのだ。他の方からも、味がぼんやりしてるとか、シンプルすぎるとか、そんな評価が集まった。コンビを解散したピン芸人か。

うま味はやっぱり単体だと弱いらしい。某ラーメン屋がこの調味料を使っているという噂だが、そこはスープに豚肉のイノシン酸がたっぷりなので、グルタミン酸だけを補えばいいという判断なのかもしれない。あるいは単純に安いから。
100%グルちゃん。1キロでラーメン何杯分だろうか。
100%グルちゃん。1キロでラーメン何杯分だろうか。

エントリーNo.4 リボタイド

こちらのリボタイドは、グルエースとは真逆でリボちゃん100%の調味料。

その価格はグルエースの4倍近くもする高級品であり、リボちゃんの割合が多いハイミーやいの一番が、味の素よりも高い理由がわかった気がする。
MCフードスペシャリティーズ株式会社の『リボタイド』 ■参考小売価格:1キロあたり3048円
MCフードスペシャリティーズ株式会社の『リボタイド』
■参考小売価格:1キロあたり3048円
サラサラと粉状。ハイミーの拡大画像をみると、グルちゃんとリボちゃんの組み合わせだとよくわかる。
サラサラと粉状。ハイミーの拡大画像をみると、グルちゃんとリボちゃんの組み合わせだとよくわかる。
リボちゃんは鰹節と椎茸に含まれているうま味成分らしいが、なるほど干し椎茸っぽい味がする。鰹節らしさはわからないけれど、なんとなく動物性のダシっぽさは感じるかな。

グルちゃんにくらべるとどことなく満足感や高級感がある味なのだが、そのまま舐めると舌にまとわりつく感じがなかなか強烈だ。
100%リボちゃん。1キロの袋を開けちゃったけど、一生かけても使いきれないぞ。
100%リボちゃん。1キロの袋を開けちゃったけど、一生かけても使いきれないぞ。
これらの調味料以外にも、グルタミン酸ナトリウムに核酸をコーティングした『キーパー』や、野菜のうま味成分のアスパラギン酸ナトリウムと貝のうま味成分のコハク酸ナトリウムを配合した『ミック』、IG-Na2を8%配合した『ミタス』など、世の中にはたくさんのうま味調味料が存在するらしい。

うま味調味料そのものの味は、舌にまとわりつく感じがやっぱり苦手なのだが、これらの味を試してみたくなってきたのも事実。でも小売りが1キロ単位なのでもう買わない。
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豚汁と合わせてみよう

ここから先は応用編である。うま味調味料というくらいだから、調理に使ってこそ真価が発揮されるもの。今までは塩を舐めて塩辛いと文句を言っているような内容だ。

豚肉だけで作ったダシの足りないスープを精製塩と濃口醤油のみで味付けして、そこにうま味調味料をそれぞれ入れて、飲み比べをしてみたいと思う。
シンプルな豚汁を塩分だけは足りるように味付けした。
シンプルな豚汁を塩分だけは足りるように味付けした。
先に結論を書いてしまうと、どれもわずか0.2グラムのうま味調味料が加わっただけで、豚だけで作ったスープの物足りなさが、明らかになくなった。

もちろんもっとおいしくなる要素はあるのだが、これでも十分という感じがするのだ。
そのまま飲むと、ものすごく物足りない味がします。
そのまま飲むと、ものすごく物足りない味がします。
お茶碗1杯に対して、0.2グラムのうま味調味料。
お茶碗1杯に対して、0.2グラムのうま味調味料。
以下に味の感想を書いてみたが、リポタイドだけが独特で、あとは本当に微妙な差のようだ。

■味の素:甘みとうまさが追加されて、ちゃんとスープとして成り立った。

■ハイミー:より味に深みが加わり、さらにおいしくなった気がする。

■いの一番:これは料亭の味に近い(いったことないけど)。独特の塩気が好き。

■グルエース:まっすぐにうま味がくるが、これくらいなら嫌な感じではない。

■リボタイド:他とは甘味の質が違う。キノコ鍋っぽいぞ。

チャーハンと合わせてみよう

続いてもう一品。うま味調味料といえばチャーハンだろうということで、ご飯、ネギ、豚肉だけのチャーハンを、やっぱり精製塩と濃口醤油だけで味付けしたものを用意。

そこに茶碗一杯あたり0.2グラムのうま味調味料を加えてみる。さっきのスープと同じような実験なので、同じような結果になるかなと思ったが、やっぱりそうなった。
ひと味足りないチャーハンに仕上げてみました。
ひと味足りないチャーハンに仕上げてみました。
感想としてはスープの時とだいたい同じである。ただ試食を繰り返していくと、もう少し味が濃くてもいいかなと思ってしまうのがおもしろい。

もし私が中華料理店のコックだとして、毎日味見をしていたら、少しずつうま味調味料の量を増やしていってしまうだろうなという気がする。
みんなうま味調味料の試食に舌が飽きてきて、呼びかけても集まってくれなくなってきた。
みんなうま味調味料の試食に舌が飽きてきて、呼びかけても集まってくれなくなってきた。
参加者が作った無添加スープの手打ちうどんが、試食で疲れきった舌にことのほか優しかった。
参加者が作った無添加スープの手打ちうどんが、試食で疲れきった舌にことのほか優しかった。
■味の素:なんだか急にうまくなった。

■ハイミー:こりゃ上品でうまいな。

■いの一番:しょっぱくてうまいぞ。

■グルエース:シンプルにうまいね。

■リボタイド:椎茸が入っているみたい。

物足りない味に対してうま味調味料を加えると、ちゃんとうまくなって悔しい。そしてその味は、やはりグルちゃんとリボちゃんの割合によって、ちょっと違うようだ。

いの一番はなぜかしょっぱく感じて、この味が一番好きだという人も多かった。
口直しに飲むほうじ茶が、口の中のうま味と混ざって昆布茶みたいな味になるぞ。
口直しに飲むほうじ茶が、口の中のうま味と混ざって昆布茶みたいな味になるぞ。
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ちゃんとしたスープにうま味調味料を入れてみよう

せっかくなので、今度はちゃんと作ったスープにうま味調味料を加えてみたらどうだろうかという実験をしてみよう。

鰹節と昆布でとったダシに、シイタケ、ネギ、豚肉を入れ、味付けはやっぱり精製塩と濃口醤油。

うま味の要素が増えたので、これだけで飲んでも十分な味なのだが、さてどういう結果になるだろうか。
被験者はライターの小野法師丸さん夫妻。なぜか反復横跳びを始めた。
被験者はライターの小野法師丸さん夫妻。なぜか反復横跳びを始めた。
用意したのは、何もいれていないもの、味の素、ハイミー、いの一番を各0.2グラム入れたものの4種類。
どれに何が入っているのかは教えずに、予備知識なしの試食をしていただいた。
椎茸も鰹節も昆布も最初から入っているスープにうま味を足すという実験。
椎茸も鰹節も昆布も最初から入っているスープにうま味を足すという実験。
果たしてその結果は、味の違いはなんとなくわかるけれど、どれもうまいというものだった。あえていうなら味の素入りが好みかなとのことだが、その差は微妙のようだ。

どれがうま味調味料抜きかという問題は、小野さんはだいぶ迷っていたが、奥さんは一瞬で分かったようだ。
「全部おいしいですよ~」
「全部おいしいですよ~」
無化調のスープがちゃんとしていれば、わざわざうま味を足す必要はないと思うが、適当に作るときは化学調味料も手軽で有効ではというのが小野夫妻共通の意見だった。

ちなみに延々とうま味調味料の舐め比べをしていると、このレベルの問題であれば、これはいの一番とか、これは味の素とか、判断がつくようになったりもする。うま味調味料の違いがわかる男になろう。

最後のシメはラーメンで

うま味調味料を語る上で欠かせないのがラーメンだろうということで、最後はラーメンにうま味調味料は本当に必要なのかという実験で締めてみたいと思う。

これぞシメのラーメンである。
無化調(化学調味料ナシという意味のラーメン用語)の手作りラーメンを用意します。
無化調(化学調味料ナシという意味のラーメン用語)の手作りラーメンを用意します。
片方には1グラムのうま味調味料を加える。
片方には1グラムのうま味調味料を加える。
スープは豚骨、鶏ガラ、昆布などでとったコッテリタイプで、味付けはシンプルに醤油のみ。

これのうま味調味用のアリとナシの2種類を、どっちに入っているかは教えずに試食していただいて、好きな方を答えてもらった。

こっち(アリ)の丼がおいしかった人は手をあげて!
はーい!
はーい!
結果としては、7対3でうま味調味料がナシの勝ちとなった。ちょっと入れすぎて味がわざとらしかったかな。

「ラーメン屋っぽいのは断然アリ!の方」とか、「高校生だったら絶対こっちだろ!」とか、「一口だけだったらアリよ!」とか、うま味調味料のアリを擁護する声も多かったが、アラフォーの集まりだったので無化調の自然な味が有利だったか。

また味の違いがマイナスイメージのあるうま味調味料の有無であるという情報を先に与えたのもフェアではなかったか(ナシをうまいと答えた方が食通っぽいから)。

今度は加えるうま味調味料を半分にして、何も伝えずにこっそり実験をしてみたいと思う。

うま味調味料、舐め比べてみるとおもしろいよ

いろいろ試してみた結果、個人的には化学調味料は無くてもいいんだけれど、もし使うのであれば、全面的に味を支配するような使い方ではなく、その味の特製を知った上で、あくまで隠し味として足りない味を補ったり、うま味の相乗効果を狙うくらいがいいんじゃないでしょうかと、わりと普通の結論に至りました。

うま味調味料の味の違いは、塩とか醤油の舐め比べよりも、成分の差がハッキリしているのでおもしろいです。舌がモヤモヤっとしますけど。
これは素材の持ち味にパンチを加えるというエキストラート。奥が深い世界です。
これは素材の持ち味にパンチを加えるというエキストラート。奥が深い世界です。
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