特集 2015年4月15日

マスター、「南新宿」ください

「南新宿」を作るマスター
「南新宿」を作るマスター
飲み屋のマスターに“その街をイメージしたお酒”を作ってもらうシリーズ。代官山・蒲田、新橋・巣鴨、梅ヶ丘・桜新町と続き、今回は「北品川」と「南新宿」を訪問。ドキドキの飛び込み取材。筋書きのないドラマ。どんなお酒が出てくるのか、乞うご期待。
ライター。たき火。俳句。酒。『酔って記憶をなくします』『ますます酔って記憶をなくします』発売中。デイリー道場担当です。押忍!(動画インタビュー)

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秋には「しながわ宿場まつり」が開催

「ターミナル駅の隣駅って、なんか気になりますよね」。編集部・古賀さんが言うのである。なるほど、大木の陰に隠れがちながら、そこで咲く花にはキラリと光る個性があるはずだ。

今回は、その切り口でいってみよう。
「行くなら今でしょ!」
「行くなら今でしょ!」
まず、訪れたのは「北品川」。ご存知、東京の西の玄関口である品川駅から京急線でひと駅だ。
雨に濡れる巨大ターミナル「品川駅」
雨に濡れる巨大ターミナル「品川駅」
こちら「北品川駅」です
こちら「北品川駅」です
電車に1分揺られるだけで、様子はかくも異なる。
駅を出て、踏切を渡る
駅を出て、踏切を渡る
駅前には第一京浜と並行するように北品川本通りが伸びている。これが北品川のメインストリートと言っていいだろう。
いわゆる“旧東海道”だ
いわゆる“旧東海道”だ
毎年秋には「しながわ宿場まつり」が開催され、おいらん道中や仮装行列パレードで賑わう。
まち歩きマップの看板も
まち歩きマップの看板も

氷型キューブが七色に光る

一本入った路地に、さっそく気になる店を発見。その「北品川」っぽい佇まいに惹かれて扉を開けた。
「飲み食い処 十三屋」とある
「飲み食い処 十三屋」とある
店内には数名の先客がいる。
実家に帰ったかのような雰囲気
実家に帰ったかのような雰囲気
マスターに趣旨を説明したところ、二つ返事で「ああ、いいよ」とのお答え。聞けば、「モヤさま」や「きたなシュラン」など、テレビ番組でも何度か取材されているお店だという。
マスターの会津晃さん(59歳)
マスターの会津晃さん(59歳)
じゃあマスター、「北品川」ください。
これが「北品川」550円だ!
これが「北品川」550円だ!
出てきたのは、雨に煙るネオンのような色合いのお酒だった。

「焼酎をスイカサイダーで割った、うちのオリジナルのやつね。会社のグループとかで来た時に、女の子も飲みやすいお酒を用意しようと思って」
スイカだけに夏を思わせるさわやかな飲み口
スイカだけに夏を思わせるさわやかな飲み口
さらに、カウンターにジョッキを置くと氷型キューブが七色に光った。
女の子を相当意識している
女の子を相当意識している

青森B級グルメ「つゆ焼きそば」

マスターは15年前に脱サラして、この店を始めたそうだ。

「IT関係だったんだけど、仕事が嫌んなっちゃってね。料理も素人だったから、さんざん飲み歩いて研究したんだよ」
こだわりのフードメニュー
こだわりのフードメニュー
「ギャオスの足跡」とは何だろうと思ったら、「近くにゴジラが上陸したスポットがあるんだけど、ゴジラのメニューは思いつかなかったからギャオスにした」とのこと。しかし、それが何なのかは聞き忘れた。

さらに、青森B級グルメ「つゆ焼きそば」というメニューも発見。マスターが青森出身ゆえ、出しているという。これを注文してみた。
「つゆ焼きそば」650円
「つゆ焼きそば」650円
おお、これ美味しいですね。

「青森の黒石市っていうところの名物ね。麺は焼きそばでスープがラーメンなんだよ」
北に想いを馳せながら
北に想いを馳せながら
隣にいたスーツの男性に話しかけると、なんと名古屋から単身赴任で出てきたばかりだという。

「すぐ近くのマンションだから、周辺の飲み屋を全部回ろうと思って。ここも初めて来たけど、いい店ですねえ」

渋い飲み屋が好きだというと、名古屋の伏見にある創業明治40年の「大甚」という居酒屋をオススメされた。おお、行ってみたい。
いつの間にかマスターもカウンターに
いつの間にかマスターもカウンターに
マスターいわく、「品川駅周辺はチェーン店ばっかりになっちゃったけど、このあたりはまだ個人の店でがんばっているところも多い」そうだ。

美味い酒に、美味い食事。ごちそうさまでした。
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駅の真裏に何軒かの飲食店が並ぶ道

続いて向かったのは「南新宿」。新宿駅から小田急線でひと駅。こちらも、乗車時間は1分だ。
大都市「新宿」
大都市「新宿」
そして「南新宿」
そして「南新宿」
南新宿は、ほぼ住宅街だった。
おお、銭湯だ
おお、銭湯だ
しかし、駅の真裏に出ると何軒かの飲食店が並ぶ道を発見。その中でも、気になる店にチェックイン。
「Bar Flat」
「Bar Flat」
店内は、北品川で飲んだ「スイカソーダ割り」のような色合いのライティングである。
どことなく「南新宿」な風情
どことなく「南新宿」な風情
マスターの名は飯嶋聡さん(28歳)。

大学を卒業後にサラリーマンになったものの、1カ月で退職。その後はクラブ(踊る方)の店員やホテルのバー勤務などを経て、昨年6月にこの店をオープンしたそうだ。

「南新宿」という地名はない

この場所を選んだのは、「ちょっと外れた場所でヘンなことをやりたかった」から。たしかに、エアポケット感のあるちょっと不思議なエリアなのだ。

ふと、先の銭湯の話を振ると、なんと今月末で閉めてしまうとのこと。

「日本一駅から近い銭湯だったらしいんですが。このへんは風呂なし物件もありますけど、みんな近くのジェクサーっていうスポーツジムでシャワーを浴びちゃうみたいで。あと、お父さんが足を悪くしたっていう話も聞きました」

そんな街情報をひととおり聞いたのちに、満を持してオーダーした。「マスター、『南新宿』ください」
シェイカーを振り始めるマスター
シェイカーを振り始めるマスター
おお、久しぶりに本格的なやつが出てきそうだ。
これが、「南新宿」900円だ!
これが、「南新宿」900円だ!
「僕の何となくのイメージなんですが。自家製のしょうがウォッカに、グレナデンシロップとコアントロー、レモンジュースを加えています」
ひと口飲むと
ひと口飲むと
これが美味しいのだ。しょうがは粒のまま漬け込まれており、ピリッとした辛さが癖になる。これこそが、「新宿」の南でキラリと光る「南新宿」そのものだ。

「とはいえ、『南新宿』っていう地名はないんですけどね。僕らなんかは『代々木』だと思っています(笑)」

知らないおじさんがベッドに寝ていた

ところでマスター、壁に貼ってあるいろんな紙が気になるんですが。
謎の化学式
謎の化学式
「たしか、アルコールの何かだった気がします。お客さんで理系の研究者がいるから、喜んでくれるかなと思って」
さらに、漢詩
さらに、漢詩
こちらも、お客さんに漢詩を教えている先生がいるから貼り出したそうだ。

フレンドリーなマスターに最近のトピックを聞くと、「仕事が終わって家に帰ったら、知らないおじさんがベッドで寝ていた」というハードコアなエピソードを教えてくれた。

「前の住人の友達みたいで、合鍵を持っていたんですよ。泊めてあげてもよかったんですが、疲れていたのでお巡りさんに連れて行ってもらいました」
トイレのメッセージ
トイレのメッセージ
さらに、代々木駅前の「牛丼太郎」が閉店を迎えるにあたって、最終日に行った話もしてくれた。

「若いカップルが記念にといって丼をもらってたんですよ。だから、自分もと思って店の人に頼んだら、じつは1個1000円でした。最後なんだから、タダでくれてもいいのに」
「タモリカップビール」もいただきました
「タモリカップビール」もいただきました
「タモリさん主催の『タモリカップ』という仮装ヨットレースがあるんですよ。これは、その打ち上げで行われるBBQパーティー用に、タモリさんがプロデュースしたビールですね」

そんな珍しいビールも飲める「Bar Flat」。お茶目なマスターとともに、オススメです。

それぞれの味わいを堪能

「北品川」ではお客さんとの交流を楽しみ、「南新宿」ではマスターの面白事件簿に笑った。そして、それぞれの街をイメージしたお酒は、ターミナル駅からひと駅離れた立地だからこその、しみじみとした味わいがあった。では、また5月に会いましょう。
お見送りしてくれた
お見送りしてくれた
<取材協力>
十三屋(HPなし)
Bar Flat(http://www.barflathq.com
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