惣菜が100円、弁当が280円
まずは、「砂町銀座」に向かった。最寄駅はないので、錦糸町駅から15分バスに乗る。着いたのは、全長670mの商店街の入り口だ。
常時「フェアー」を開催中
店舗数は約180。過去には『日本経済新聞』の「訪れてみたい商店街」ランキングで、巣鴨、横浜・元町に次いで3位に選ばれたこともある。
日本の原風景ともいえる佇まい
威勢のいい掛け声が飛び交う中、地元の人々がのんびりと買い物をしている感じだ。歩くスピードも、少し緩めたくなる。
オシャンティな老眼鏡は1980円
そして、何よりも商品の価格が都心に比べて安い。ある店では、惣菜が100円、弁当が280円で売られていた。
前方にせり出す陳列スタイル
ただでさえ安いのに、さらに毎月10日は「ばか値市」と呼ばれる大安売りを行っており、1日に1万人以上の買い物客が訪れるという。
恒例の七夕まつりももうすぐ
のんびり歩いている場合ではなかった。取材である。しかし、商店街沿いにはバーらしき店が見当たらない。砂町の神様に祈りつつ、歩を進める。
広告会社のデザイナーからの転身
そうこうするうちに、路地裏によさそうな店を見つけた。時間は早いが営業しているようだ。
ダイニングバー「KO-UN TO-RAI」
いぜ、店内へ。毎回ガチの飛び込み取材なので、この瞬間が一番緊張する。
店主は女性らしい
取材趣旨を説明すると、こころよくOKしてもらえた。砂町の神様、ありがとう。
オーナーの今庭淑子さん
聞けば、オープンは4年前。広告会社のデザイナーからの転身だそうだ。
「この場所を選んだ理由? 住んでたマンションが近かったからですね。商売をやってみてわかったんだけど、すごくあったかい街なのよ」
本格的なフードメニュー
以前、上司と銀座を歩いている際、道で倒れている人を助けようとしたら、上司に「何があるかわからないから、やめなさい」と止められたそうだ。
「でも、こっちの銀座は助け合いの精神だから。すぐに大勢駆け寄るのよ。今じゃ、こっちの生活の方が正しいんだな、と思えるようになりました」
戸越が一番安いと聞いて、偵察に行った
店内では、イギリス製のアンティークや、メーカーから直接仕入れた雑貨も販売している。いずれも表示価格より、さらに値引きをして売るというから、砂町銀座の安売りスピリットはすごい。
ここだけ見ると飲食店とは思えない
戸越銀座についても聞いてみると、「戸越が一番安いと聞いて、偵察に行った知り合いがいるんですよ。でも、焼き鳥1本50円で買えるこっちの方が安かったって(笑)」
そこかしこにくまモングッズが置いてあるのは、「故郷が熊本で、実家の近くにくまモングッズの製造会社があるから」とのこと。
カウンターの椅子に座るくまモン
また、「KO-UN TO-RAI」(幸運到来)という店の名前の通り、店内各所には開運アイテムが置かれていた。
「だって、お客さんに幸せになってほしいじゃないですか」
頭をなでると金運がよくなるという置物
「教員試験に合格したとか、パチスロで大勝ちしたとか、そういう報告は嬉しいですね」
他のお客さんが注文した開運効果がありそうなサラダ
がんばっている人にはやさしい街
さて、本題だ。砂町銀座ください。
シェーカーを降り始める今庭さん
「はい、砂町銀座です」
おお、想像を超えるものが出てきた。
「青リンゴシロップ、ドライジン、ライム、ミント、オリーブが入っている『アダムとイブ』というカクテル。もともと、砂町銀座をイメージして作った看板メニューなんです」
ひとくち飲むと…
おいしいのだ。甘くてやさしい味だが、ドライジンが全体をピリリと引き締めている。
「ここは、がんばっている人にはやさしい街。でも、怠け者には厳しいのよ。そんなイメージのお酒です」
今庭さんいわく、砂町銀座は閉鎖的でも開放的でもない、不思議な街。人情には厚いが、店の入れ替わりも激しく、「ここでやっていけたら、どんな街でもやれる」という店のオーナーもいるそうだ。
ダンスネームは「imany」
最後になにげなく趣味を聞くと、「ブレイクダンス」というご回答でひっくり返った。今はやっていないそうだが、往時は頭でくるくる回っていたという。いろんな意味で、ごちそうさまでした!
全国各地の「○○銀座」第一号
続いて向かったのは「戸越銀座」。五反田駅から東急池上線で3分だ。
かわいらしい改札口
関東大震災後、銀座の瓦礫をここに運んで湿地等を埋め立てたことから「戸越銀座」と命名。全国各地の「○○銀座」第一号だという。
老舗と新店が同居する街
商店街の全長は約1300m。砂町銀座の2倍の長さだ。
商店街は地図中央を縦に走る
この長さは関東有数で、「日本一長い商店街」とも称されるが、実際の日本一は約2600mの大阪・天神橋筋商店街のようだ。
「ビンボー」はスナックの店名でした
少し歩いてみたが、ここでもいわゆる“バー”がなかなか見つからない。戸越の神様に祈ろう。
実質的に共同オーナーのような感じ
やがて、スポーツショップらしき店が目に入った。
オープンなスタイル
店名は「Pivote(ピヴォーテ)」
カウンターの中には若い青年が立っていた。彼が店のオーナーだった。
益子雄樹さん
あれ?
隣は実の兄の健亮さん。実質的に共同オーナーのような感じだという。
「二人ともサッカーが大好きなので、生まれ育ったこの街で2年前から始めた店。『ピヴォーテ』はスペイン語、サッカーのポジションですね」
完全にサッカーひと筋の人生
サッカーは幼稚園から高校まで続け、今でも品川区内の小学生に指導しているそうだ。ちなみに、「ピヴォーテ」とはどんな役割なのかと聞くと、「試合全体のかじ取り役。攻撃もすれば守備にも回るポジション」とのこと。
どうぶつmeetsサッカー
二人とも「野球やバスケはほとんどやったことない」というから、完全にサッカーひと筋の人生なのだ。
ユニフォームなども販売
しかし、好きなプレイスタイルでは雄樹さんが「パス」なのに対し、兄の健亮さんは「ドリブル」。
これは、弟が高い技術で美しいプレイを展開するスペインリーグ、兄は球際が激しく「バッチバチ系」(本人談)のプレミアリーグという、お互いの好みの相違によるものだった。
サッカー関連の本や雑誌
「特定のチームを応援することはないですね。好きすぎて、どんな試合でも全部見ちゃう」
指導者のスキルを披露
さて、華麗なリフティング技を堪能したタイミングで本題を切り出そう。
地元意識が強くて、お祭りもすごく盛り上がる
マスター、戸越銀座ください。それは、すぐに出てきた。
こ、これは?
奇しくも砂町銀座と同じ色味である
ひとくち飲むと…
おお、青汁だ。青汁ハイだ。
「そうなんです、青汁を甲類の焼酎で割ったものです。野菜ジュースみたいに、飲みやすいでしょ」
たしかに、苦くない。聞けば、あの雪国まいたけが作った、まいたけエキス入りの特製青汁で、この商店街とコラボするプロジェクトを始めたらしい。
「戸越銀座は地元意識が強くて、お祭りもすごく盛り上がる街。だから、おしゃれなカクテルよりはウーロンハイ的なお酒が似合う。それにサッカー場の芝生のイメージを加えて開発しました」
「MDフラクション」がまいたけエキスのこと
リピーター続出という“戸越銀座バージョン”の青汁ハイ、おいしくいただきました。
奇遇にも同じ「青〇〇」が出てきた
「砂町銀座」と「戸越銀座」。どちらも地元愛に満ちた商店街だった。また、示し合わせたわけでもないのに、「青リンゴ」と「青汁」という緑ベースのお酒が出てきたことも面白い。益子さんいわく、サッカーが上手になるコツは「可能な限り、ボールに触ること」だそうだ。お酒も飲み続ければ、いつか煩悩の彼岸にたどり着けるのだろうか。