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コネタ


コネタ678
 
波ダッシュを探して
波ダッシュの定番は夏の自販機

「〜」という記号の正式名称は「波ダッシュ」だ。とトリビアでやっていた。
波ダッシュ。
なんか海辺ではしゃぐ中学男子が考えた罰ゲームのような、水泳部の特訓のような印象の名前だ。どっちも具体的に何をするのか思いつかないが、とにかく夏っぽい。
あと波ダッシュが入った言葉は脱力感がある。それも夏っぽい。

じゃあ波ダッシュ看板を集めて夏を体感しよう!
そう思って街に出てみました。

(text by 神田ぱん

波ダッシュ問題にぶち当たる


まずは波ダッシュが入ったお店を探そう。iタウンページで検索してみた。

全国の電話帳を当たるときは、丸の内の「旅の図書館」とか行かなきゃいけなかったのに、家のパソコンからすぐ検索できる。まさにIT革命だ。
IT革命を寿ぎながら「〜」、東京都、検索!

しかし結果はゼロ。iタウンページで「〜」はものすごく見つからないです。


せっかく寿いだのに……やばい。どうしよう。どうしていいかわからず、サーチエンジンにお伺いを立ててみたが無駄だった。


「もしかして」とも言ってくれない

どうやら波ダッシュはブランクとして認識されて(というか認識されないで)しまうらしい。

そしてコンピューターの世界では、波ダッシュと全角チルダが混乱して、いろいろの問題をおこしているらしい。
海辺の爽やか野郎みたいに思ってた波ダッシュだが、意外と闇を抱えていた。確かに、は困った人の眉毛のようでもある。

ネットで情報が得られぬまま、とりあえず中央線に乗った。

もしも〜し。コールをするとガールが来る

波ダッシュが多そうな街とは

電車に揺られながら波ダッシュについて考えた。
例)
デイリーポータル
デイリ〜ポ〜タル

もともと「うっかり系コンテンツ」と銘打っているDPZだが、長音記号を波ダッシュにするといっそう「うっかり」する。

旅ばあ〜ん。お大尽旅行か、と思いきや「ドイツ語で道、鉄道の意味」ですと。

「ああ、うっかりしてんだな」と気を許してしまいそうだ。
もし店名に波ダッシュを使うとすれば、客の気持ちを「うっかり」させたい。気を許してもらいたい。そんなお店が使うだろう。

逆に言えばそれは、「気を許してチョーダイ!」と切望するほど気が許せない印象の店、お客が二の足を踏む店、怖い店。

そんな店があるのは……やっぱり新宿か。

 

お尻かギターか? ニュ〜ア〜ト

華やかな浮かれ意匠としての波ダッシュ

と書いておきながら、新宿で真っ先に見つけた波ダッシュは、デザイン的な理由から採用されていた。
たとえばストリップ劇場の『ニューアート』。たぶん、まっすぐよりもクネクネしてたほうが色っぽいな。このくびれ看板を作った時にそう考えたのだろう。

コマ前のカ〜ニバル

老舗のゲーセン『カーニバル』もそんな感じ。波ダッシュにつられて全部の字がクネクネしちゃってる。

デザインしたロゴに、華やかさや楽しさを添える。波ダッシュにはそんな効用もあるようだ。

 

会員制の波ダッシュ店はむしろ怖い

ひらがな+波ダッシュの心理

怖がらせないための波ダッシュ店も、もちろんあった。なぜかいずれも「本来カタカナ表記であるはずがひらがな」で、かつ波ダッシュ採用。
媚び過ぎである。
「ぼくたちぜったいわるいことしないよ!」
そんな声が聞こえてきそうで、むしろ緊張。

「くらもとまい」さんが出てました
激増中の無料案内所。風俗店より儲かる?

新宿南口のポスターを波ダッシュにねつ造。波ダッシュのサ〜ファ〜は本物の波乗りだ

波ダッシュをねつ造する

確かに新宿には波ダッシュ店があった。
だが脱力どころか下心が見え見えのニセダッシュ。

私が探してんのは、もっと膝がかくんとするような、あははぁと笑えるような、そういう波ダッシュなんですよ。

厳しい看板も波ダッシュでなごやかムード

あまりに波ダッシュがないので、長音記号が入った看板やポスターを見るたびに、ああこれが波ダッシュなら…と思ってしまう。
試しに、ちょっと画像をいじってみた。

これはいくらなんでもあり得んな。
本当にこんな看板が立ってたら、千代田区はふざけてる。路上喫煙取り締まりも本気じゃない、と苦情が殺到するだろう。
空想のねつ造じゃ、ダメだ。

 

大勢のファンのみなさんが並ぶサイン会会場

人の手を借りてねつ造する

どうせねつ造するなら、姑息に棒をにょろっとさせるだけではなく、いっそいちから書いてしまってはどうだろう。
そこで、かねてよりファンである小野法師丸さんに波ダッシュ文を書いていただこうと、吉祥寺の『ブックス・ルーエ』へ赴いた。

波ダッシュ飲料「お〜いお茶」がある

法師丸先生は、さきごろ自身のサイト「テーマパーク4096」の記事をまとめた「コラム息切れ」という御本を出版されたため、ルーエでサイン会を開かれたのである。

予約はしていたものの、開始40分前に到着したらすでに行列。ぎょえ。すごい人気。こんな中で、「私のコネタに協力して下さい」って図々しいよな。不安。


いよいよ自分の番が来た。「あの、いま波ダッシュって、その、ニョロを集めておりまして、ぜひ法師丸さんにもお書きいただけたらと思いまして、その、“神田ぱ〜んさんへ”って、ニョロ入りで書いていただけますか」と、鎧姿の先生へ手短かにお願いする。
ふつうなら「あ?」「は?」とか聞き返されるのに、先生は「はいはい、わかりました」と書いて下さった。さすが、鎧でドライブされたりファミレスに行かれたりなさるだけあって、器が違う。


手っ甲は「意外に動かしにくいのでほどきました」と法師丸先生

「ひとことメニュー」から「おなら1」というのを書いていただいてる間、通りすがりのアベックが「誰だれ? 鎧着てる!」「ほら、ハムの人だよ」「ハムの人かぁ」とささやいてるのが聞こえた。ハムの人自体の認知度にも驚いたが、「ハムの人なら鎧も当然」みたいな納得のされ方も素晴らしい。


この達筆ぶりがすでに「真顔で屁」を実践

達筆にて、ねつ造完了! 波ダッシュがかなり激しくうねっており、「ぱ〜ん」は破裂音のようでもある。法師丸先生、ありがとうございました。

目白の無垢な波ダッシュ

しかしねつ造したから何なんだ。という気もする。それによく考えれば、ねつ造波ダッシュは、パソコンや本の中だけにしかない。街で、誰もが見れて、かくんとなるような脱力系の波ダッシュを探していたはずなのに。

まあ歌舞伎町のような心理的意図がない限り、せっかくお店を出そうという時に、わざわざまぬけな波ダッシュをつける必要はないよね。この不況下、ふざけている余裕はないだろう。
看板やポスターにしたってそうだ。
「ポイ捨て禁止〜」「立ち入らないで下さ〜い」なんて注意書きじゃ、きっと誰も言うこと聞きゃしない。

あ〜あ。もっといっぱいあると思ってたのになあ……すっかりあきらめムードで、しかしあきらめきれずに目白を歩いていたら、こんなポスターを発見した!


お調子者の司会者が叫んでいるかのごとき「おたっしゃタ〜イム」

これこれ! これですよ!!
やっぱり空想のねつ造とはひと味違う。予測できないところからパンチが来る感じ。
「気を許してもらいたい」とか「デザイン的に可愛い」とか、そんな下心はみじんもない。なんと無垢な波ダッシュであろうか。こんな波ダッシュ企画に参加できるなんて、豊島区の住民がうらやましくなった。

心のつぶやき波ダッシュ

漫画とか本とかメールとかネットとか、パーソナルな世界にはあふれかえっている波ダッシュが、街の中には驚くほど少なかった。
限りなく話し言葉に近い書き言葉だけに、突然目に飛び込んでくると「馴れ馴れしい」とか「図々しい」といった抵抗を覚えるのかもしれない。
きっと波ダッシュは、ひそやかであたたかな場所を好むのに違いないと思った。

波ダッシュあしらいがフレンドリー

 

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