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特集


はっけんの水曜日
 
初恋と座間のヒマワリ

「ひまわりがいっぱい咲いているところに行きたい……」と、前々回の当連載で書いたところ、こういうメールを頂いた。
「北海道雨竜郡北竜町の『ひまわりの里』に行ったことがあるのですが、『ひまわり関連商品』『ひまわり使用食品』がすごいんです。お茶とかアイスクリームはもちろん、『ひまわりラーメン』もあります。是非取材してきてください。もしひまわりを見に行く先がこの『ひまわりの里』でなければ、是非ここに変えるべきです。なんか旅費はいつも潤沢に出ているようだし」
……すばらしい情報だ。行きたい。行ってひまわりラーメンを食いたい。しかし、旅費が潤沢に出るというのは誤解だ。遠出取材している人は自腹だ。私はお金が無いので、首都圏から出られないでいる。恥ずかしながら、近場をぐーるぐる。

そんなわけで、今回も関東です。
ネットで検索をかけて、首都圏で、今咲いているひまわり畑を探してみたところ、神奈川県座間市が「ひまわり畑」を作って、観光資源にしているということを知った。
ざ、座間……。
ピリピリッ、と私の頭に、嫌な痛みが走った。
実は座間は、初恋の人の故郷だ。
くうだらない話ですが、ちょっときいてください。あれは、今から10年以上も前のこと……。

(text by 大塚幸代


今やひとりで居酒屋に入って、生ビールをブッハーと飲んで、「ぬた」とか「イカの沖漬け」に舌鼓をうっているような、しょうもない30女だが、こんな私にも、いたいけな少女期があった。
温室のような女子校を出て大学生になった時、私はある音楽サークルに入った。一生懸命無理をして、初めて大酒を飲み、初めてタバコをすった。同世代の男の人と友達になったのも、やはり初めてだった。
その時、好きになった男の子が、座間市出身であった。
「座間からだったら、学校まで、通えるんじゃない?」
埼玉から1時間半かけて自宅通学していた私は、中央線ぞいで仕送りアパート暮らしをしている彼が、うらやましかった。
「いや、何にもないとこだしね……」
そう言って、彼は食パンを何も付けずに、むしゃむしゃと食べていた。貧乏だったのだ。でも若い時代には、不自由でお金持ちよりも、自由で貧乏なほうが、断然いいに決まってる。
座間ってどんなところなんだろう、と想像した。好きな人の出身地だから、特別に思えた。



小田急で新宿から1時間弱の座間駅は、思ったよりもずっとずっと、こじんまりとした駅だった。



駅前にはスーパーとミスタードーナツ、喫茶店。
警官のいない無人の交番で、ひまわりマップを勝手にもらって、歩きはじめる。

「ウチのお母さん、すごい可愛いんだよ、俺の部屋に入ると、ベットにポンッて座り込んできちゃって。喫茶店と画廊を経営してるんだけど、客にファンクラブもあるんだよ、まいっちゃうよ」
……と彼が言っていたのを思い出した。どこにあるんだろう、そんな店。

地図では、現在ひまわりが咲いている場所まで「徒歩30分」とあった。
適当に歩いていったら、方向音痴の私は……あっさり迷った。
隣の市の看板を目にして、焦って、またあてずっぽうの方向へ歩く。
「たぶん、あっちだ!」サクサク決断してサクサク迷う。私の人生の駄目な所、そのものみたいだ。



駅から15分も歩くと、緑だらけになった。
こないだ行った、所沢のトトロの森よりも、緑が多いなあ」と思いながら坂になっている場所を降りて行くと、景色はパーンと開け、田んぼの稲の良い匂いが、ムウウッとしてきた。



見渡す限りの畑と田んぼ。でかい送電線。そこらじゅうに水路。

「………座間、めちゃくちゃいいところじゃない?」と思った。
とくに水路が素敵だ。水がきれいだ。


 

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