（text by 大塚 幸代）

たまに時間が開いたとき、検索ワードに「変な店」「変わった店」「変な　メニュー」「変わった　食べ物」なんて入れて、サーチすることがある。良いひまつぶしになる。
その時にたまたま見つけたのが、「大根ステーキ」に関する情報だった。
亀戸に大根専門店があって、そこで食べられるのだという。
「……っていうのがあるらしいんだよね」と、友人Ｒ子に言うと、
「そりゃ行かなくちゃダメでしょう」
「行かないとダメかな？」
「そりゃそうでしょう」
「……身体にいいのかな？」
「いいんじゃないの、わかんないけど」
「今、風邪ぎみなんだけど、風邪なおるかな？」
「大根は風邪にいいっていうし、なおるかもねえ」

……そんなわけで、軽い好奇心で、亀戸に行った。到着は６時。「升本」は立派な料亭風の店で、
入り口はこんなで、

わりと高そうで、普段の私たちだったら中々入らない類の店だった。
亀戸名物だという、亀戸大根もディスプレイしてあった。小ぶりな大根だ。

「……料亭だねえ」
「料亭のたたずまいじゃん」
「……でも、ここに置いてあるメニュー表を見る限りでは、そんなムチャ高なわけでもないよ」

大根ステーキは700円、と書いてあった。

「そりゃあ……厳選素材かもしんないけど、大根は大根だからねえ」
「ああ、まあ、そうか」

中に入る。早い時間だったので、余裕で着席出来るかと思っていたら、なんと満席であった。
「ああ、しまった忘年会シーズンじゃん！」
「そうだよ、世間は忘年会だよ……」

待ってても座れないだろうか、ときくと、数時間は無理かもしれないと言われた。「お席が開きましたら、携帯にご連絡いたしますよ」と言われ、携帯の番号を伝えて店を出る。

駅近くにあった『さくら水産』にて時間をつぶした。居酒屋チェーン店の中でも最も安い店だ。

「……電話かかってこなかったらどうしよう」
「さみしいねえ、それは」
「しかし人気店なんだねえ」
「大根料理専門、っていうとキャッチーだからねえ」

そんなことを言いながら、安いツマミで軽く飲む。マグロの刺身は294円だ。

「これ、ひょっとして私たちの忘年会？」
「そうかもね」
「今年、なんかあったっけ？」
「……微妙な変化しかないねえ」
「なんにもいいことなかったね」
「……そうかなあ」

果てしなくダウナーに１時間半ほど飲んでいると、携帯がふるえた。
「きたきたっ」

……さっそく『升本』に向かう。
店内は、年配男性のグループと、やはり年配のカップルなど、こう、平均年齢が高めであった。

「お、はしおきも大根だ」
「ほんとだ」

なんて言いながら、メニューをふたりで覗き込む。

「………」
「………」

「さくら水産」である程度食べたので、食欲はある程度満たされている。
ここは好奇心のみを発揮して、珍しいメニューベスト３をチョイスすることにした。

「大根寿司と、大根ステーキと……」
「仕込みに72時間　骨までいける　荒煮だって！」
「じゃ、それ！」
「あとは日本酒だね。すいませーん、注文お願いしまーす！」

店オリジナルの酒、「升本」を２合、冷やで頼んだ。

静かに飲んでいると、隣の男性年配グループが、会社の今後について、熱く熱く語っているのがきこえた。
「最近の若いやつは……」みたいな話であった。

私とＲ子は目を見合わせる。
「なんか、隣の席と、すごい段差を感じる」
「そうだね……」

最初に来たのは、大根寿司であった。３個４００円。

「つけものの味がする」
「つけものだねえ」
「……シメに食べるにはいいかもしれないけど」

次は大根ステーキだ。

「これ、フォワグラのソースだって」
「濃厚！　つーか美味しいけど、これは大根の美味しさなの、フォワグラの美味しさなの？」
「うーん？」

最後に荒煮だ。

「大根、あまーい！」
「いや、美味しいけど」
「うん、美味しいけど……」
「うーん？」

ダイコン料理は、美味しかったけれど、ものすごいインパクトがある食べ物ではなかった。
あくまで上品。組み合わせる材料によって、まったく味が変わってくる「よりそい系」の味。

いや、今までだって日常的にダイコンを食べてきたのだし、そんなことは軽く予想出来たはずなのだが……期待しすぎてしまったんだろうか。

「なんか結果的にだけど、『さくら水産』でちょっと先に食べておいたのって、正解だったかもね」
「うん。先に『升本』に入れても、『さくら水産』に帰りに寄っちゃったかもしれないなあ……」

亀戸の駅まで、フラフラ帰る。「もう、しばらくは、ここ来ないだろうなあ」と思いながら歩いた。
ちなみに風邪は……まだなおってません。