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コネタ


コネタ1105
 
シャッターを頼まれる

私は観光地をウロウロしていると、「シャッター押してください!」とよく頼まれます。
写真を撮るのは好きなので頼まれるのは苦ではなく、むしろひとさまの思い出の1枚を撮れるのだから、自分としてもちょっとうれしい。

そんなわけで、皆さんの思い出づくりのお手伝いになればと、さりげなく他人のシャッターを押しに行ってみました。

(text by 加藤 和美

今回、シャッターを頼まれるにあたり、
「自分から『シャッター押しましょうか』と声はかけない」
という、マイルールを決めた。
強制的に思い出をつくらせるのはスマートではない、という理由により。
というか自分からシャッターを押しに行くなんて、ただの不審人物だ。

まず近場で、写真を撮るのがメインの観光地に向かう。


おなじみ札幌の観光スポット、時計台

実はこの撮影日は12月中旬、水っぽいボタン雪が降りしきる悪天候。
冬場は札幌にとって観光のオンシーズンのはずなのに、悪天候のせいか、観光客もチラホラ見える程度しかいない。とりあえず、時計台の前をウロウロしてみる。


では、シャッターを頼まれるべく、時計台の前にたたずむ。それにしても寒い。この日の気温マイナスは4度くらい。
水っぽい雪に負けて傘を差す。この横断歩道前のポジションでは、通行人ばかりで観光客がいないということに気づく。
横断歩道の前ではただの通行人と間違えられるので、時計台の正面側に移動することに。すると…!
 

なんと、時計台の真正面で、タクシーのおじさんが「どっから来たの〜、写真撮るよ〜」と、道行く観光客に声をかけまくっているではないか!
対抗しようにも、おじさんは私のことも観光客だと思ったのか、「どっから来たの〜」と近寄ってきた。
わわわ、ダメだ、このタクシーのおじさんがいるかぎり、シャッターは頼まれない。
「交差点前である」という立地、そして「正面側をタクシーのおじさんが張っている」という悪条件により、撤退!


本来の「タクシーの客引き」という目的を放棄してまでシャッターを押すおじさんと、そのおじさんをうらやましげに眺めるわたくし。

時計台前の失敗から3ヶ月。
時計台とは違う「写真を撮るのがメインの存在を観光地」を思い出し、リベンジすることにした。
その場所とは、


また来ちゃった…羊が丘展望台

「クラーク博士のあのポーズ」でもお世話になった羊が丘。
ここは写真を撮る以外他にすることがない観光地……と思って来てみたのだが、冬の羊が丘は「足湯」「歩くスキー」「スノーモービルで牽引するソリ」など、冬場ならではのアトラクション(?)が多々あって、意外と盛りだくさんな冬シーズン。今まで雪のない時期にしか来たことがなかったので、意外な事実を知った。

それはともかく、3月も半ばだというのに、周囲はいまだ一面の雪。
今日の最高気温は0度。そのうえ高台なので強風で寒い!手袋なしだと手が痛い!

観光客の人数はボチボチといったところか。
さっそくシャッターを頼まれるべくクラーク博士像の前をウロウロしてみる。


「ひとり旅だろうか…撮ってあげたい…」と心の中でモジモジしながら、背後に立つわたくし。
「スゲー!4人そろって“あのポーズ”だ!」と今回のネタを間違えて撮影するわたくし。
「あー、ちっちゃいこどもが2人でかわいいなあ」とぼんやりするわたくし。
写真を取り合うグループがいると、すかさず近づくわたくし。

1時間ほどシャッターを頼まれるのを期待してウロついてみるが、全然声をかけられない!
いつもなら、観光地にいれば絶対1回は頼まれるのに!
げんに以前「クラーク博士のあのポーズ」の取材で羊が丘に来たときも、じつは2回ほどシャッターを頼まれていた。なぜ今日にかぎってシャッターを頼まれないのだろうか……。

不思議に思いながらも、さらにクラーク博士の前を右往左往。


ふと見ると、別々の観光客グループ同士が、お互いにシャッターを押し合っていた。
「どうもありがとうございましたー」「いえいえー」とほがらかにあいさつを交わす人々。
「ありがとうございました」「あのー、こっちも撮ってもらっていいですか?」「いいですよ!」と、美しいギブ・アンド・テイクな光景。
「ヨコよりタテの方がいいですよねー」「クラーク像が入るようにしますねー」と、カメラアングルを相談する他人同士。
マトリックスのポーズで、こだわりのアングル撮影をしている男性。すばらしい献身。
 

なんと、急に私以外の観光客同士が、シャッターを頼みあうという状態に!
どうも「1人が頼んだら、頼みやすい空気になった」っぽいのだが、なぜ私だけ頼まれない!?
周囲からは「はい、チーズ!」「撮れてますか?」「大丈夫です、ありがとうございました」と、和気あいあいとした会話が聞こえてくるのに。

軽く混乱した私は、少し離れたところで観察をしていた同行者に、「なぜ、私だけ、声をかけられない!?」と相談してみた。ずっと私の様子を見ていた同行者いわく、

  • 観光客は一種浮かれた雰囲気を持っているが、私にはそれがない。焦ってキョロキョロしているのが不審。
  • ほとんどの人が仲間連れなのに、1人でボーッと立っている人には話しかけにくい。
  • 自分がシャッターを押してあげた人に、自分もシャッターを頼むというのがやはり一般的(おたがいさま)

以上のことから、観光客のフリをしていても、「写真撮らせろー撮らせろー」と内心念じている私からは、異質な雰囲気が出ていてて、シャッターを頼みたくないらしい。
シャッターを押したい気持ちが強すぎて、誰からも頼まれない……。

ガッカリしながらも「じゃあしょうがない」とあきらめて、最後に羊が丘の風景写真を撮っていたら、学生さんらしいグループに声をかけられた。
「すいませ〜ん、シャッター押してもらえますかぁ〜?」
ええーっ、来た!!!


な、なぜかすごい緊張〜!2つカメラを渡されたので、それぞれのフレームに合わせて撮影!
「どうもありがとうございましたー」「いえいえー」
私もできたよ、この会話が!
ちゃんと撮れたか画像を確認しているのを待っている。小心者。
「ちゃんと撮れてます」と言ってもらって安堵。かなりうれしくて、ニヤニヤしている素のニヤケ顔がこれだ。

■狙ってはいけない

いつもなら観光地で「シャッター押してください」と頼まれる私なのに、今回はなかなか頼まれずに焦ってしまった。

やはり同行者の言うように、観光地にたった1人で、「誰かシャッターを頼んでくれないかな」と狙う目でウロウロしているのが不気味らしい。

というわけで今回わかったことは

「目は口ほどにものを言う」
「無欲こそ勝利」

ということであった。
うーん、真理だ。
先人の言葉はすばらしい。

ひとさまのシャッターを押す話が、「人間の真理」の話にまで進展してしまったが、今後は無欲で生きて、おいしい思いをしてきたいと思う……。
ってそれはもう無欲ではない。
無欲になるのは難しい。

羊が丘の羊は、前髪がすごかった。
暖かくなったら刈られるのだろうか。

 

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