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セブンイレブン焼おにぎり醤油

セブンイレブン焼おにぎり醤油
焼おにぎり醤油 セブンイレブン 110円(近所のローソンがなくなるみたいです)

「さわやか3組」という番組があった。
NHK教育テレビで放送されていた教育ドラマで、小学生の中学年をターゲットにしたドラマだった。道徳心を養うことが目的で、学校の内外で起こる何気ないことを主人公達が乗り越えて行き、そこから何かしらの教訓を得るという内容だったと思う。

それはたとえば、「人のものを盗んではいけません」とか「正直でいましょう」とかそんな単純なものだ。小学生の中学年がターゲットだから決して難しい内容ではなく、学校の授業内でしばしば見ることもあった。

僕が唯一覚えているお話がある。
「さわやか3組」は小学生の頃に見ていたので、どんなお話があったかは全く覚えていない。でも、たった一つだけ覚えている話があるのだ。

そのお話はこうだ。
タバコ屋の自販機の1台に、おつりの取り忘れがあることを男子2人が見つける。その金額は50円。その50円をその2人はネコババしてアイスを買ってしまう。しかし、2人の内の1人が『本当にいいのかな?』と後ろめたさを感じる。そんなお話だった。

そこまでは別にいい。
いかにも小学生の道徳心を養う感じがするストーリーだ。でも、このお話には続きがあって、「本当にいいのか?」と疑問を感じた男子が、タバコ屋からちょっと離れたベンチに座りタバコ屋を見ている。すると、そこにスーツを着たサラリーマンが走って来て、自販機のおつりの出るところに手を突っ込んで「あれ、ないな」的なことを言うのだ。さらに、タバコ屋のおばあちゃんに「50円取り忘れて、届いてないですか、駅から戻ってきたんですよ」的なことを必死に言うのだ。

小学生の僕は呆気にとられた。
大人がわざわざ50円を取りに来るのか、と。50円はもちろん大切だ。自分で50円を稼ぐのは大変なことだ。しかし、わざわざ取りに来るのか、大人が、と当時の僕は何度も思った。あんな大人になっちゃダメだとすら感じだ。器が小さすぎる。小学生ながらにそう思ったのだ。そのお話の本来の狙いではないところで、僕は大切な何かを感じ、そういう大人にならないでいようと心に誓ったわけだ。

しかし、そういう大人になってしまった。
家のテーブルに置いてあった50円が無くなって、大掃除のように部屋中をひっくり返して50円を探した。いつか出てくるさ、ではなく必死に探したのだ、つい最近。さわやか3組のような大人になってしまった。

そして、「焼おにぎり醤油」には大人の食べる上品な味わいがあった。
噛んだ瞬間に上品なカツオだしが口いっぱいに広がり、こんがりと焼きあがっているからこその、香ばしさという幸せが僕らを包み込んでくれる。子供には分からない大人の味だ。いつまでも変わらぬ味でいて欲しいと願ってやまない、おにぎりだった。 ( 2010/12/05 22:00:00 )




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