特集 2011年7月6日

手ばなし運転する路線バスに乗ってみた

名古屋にガイドウェイバスというバスがあるらしい。
このガイドウェイバスは、その運行区間の一部で、運転手が「手放し運転」をする区間があるという。一体どんなバスなのか、名古屋に行って実際に乗ってみた。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)


> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

実は何回かとりあげている

最初に正直に白状してしまうと、名古屋にガイドウェイバスがあるということは、数年前のデイリーポータルZの記事(「空中を走るバスは手放し運転」名古屋のびっくりバス」)で知った。

それ以来、一度は乗ってみたいとずーっと思っていたのだけど、さすがに前に1度取り上げたものをまた取材するのはどうかと遠慮していた。しかし、改めて取材してみたいですと編集部に打診してみたところ、それほどの熱意なら…ぜひお願いします!ということだったので、今回、乗って来た。
セクシーな曲線
セクシーな曲線
改札らしきもの
改札らしきもの
ガイドウェイバスの始発駅、名古屋の大曽根に到着。
一見したところ、普通のモノレールや新交通システムにしか見えないこの高架。これがガイドウェイバスの高架だ。なかなかいい曲線をしている。
ガイドウェイバスの大曽根駅は改札らしきものもみえるけれど、そのまま勝手に入っていける。

ほんとに手放し運転してるっ!

ソロリソロリとホームに近づく
ソロリソロリとホームに近づく
改札されない改札を通って、ホームに向かうと、ごく普通のバスが近づいてきた。これがガイドウェイバスだ。
さっそく乗り込み、運転席の斜め後ろの座席を確保。
中は普通の路線バス
中は普通の路線バス
そして、おもむろにバスが発車、運転手の手を見てみると……おぉ!手放し運転してる!
ハンドルにノータッチ!(クリックで3D表示)
ハンドルにノータッチ!(クリックで3D表示
しかし、運転手は本当にハンドルを触らない。ぼくは「手放し運転する」という話だけは聞いていて「まあ、手放し運転つってもハンドルに軽く手をかけるぐらいはするだろ」とタカをくくっていたのだけど、ほんっとうに一切ハンドルを触らない。みててちょっと心配になるくらい触らないので、ちょっと心配になってきた。
勝手に動くハンドルがまた奇妙
どうも、バスです(クリックで3D表示)
どうも、バスです(クリックで3D表示
そして、手放し運転もさることながら、高速道路でもない、モノレールの高架でもない不思議な道を、普段よくみる普通のバスが軽快に走っているというさまも、ぼくのような乗り物好きには堪らないシュチュエーションだ。この感動と興奮。伝わりますでしょうか?
見た目は普通のコッペパンなのに、具がタクアンだった!でも美味い!というような時の衝撃にちかいものがあるかもしれない。よくわからないが。
高架のアップダウンがけっこうあって、ちょっとしたアトラクション気分を味わえる
高架のアップダウンがけっこうあって、ちょっとしたアトラクション気分を味わえる
速度規制の表示が道路と一緒だ!
速度規制の表示が道路と一緒だ!

最初は戸惑った乗客も居た

質問に答えて頂いたガイドウェイバスの松田さん
質問に答えて頂いたガイドウェイバスの松田さん
名古屋ガイドウェイバスの松田さんにお話を伺った。

--さきほど、大曽根から小幡緑地までの高架部分に乗車させて頂いたんですが、ジェットコースターみたいで、大変面白かったです!
「ありがとうございます(笑)」

--ところで、やはり運転手さんが手放し運転されている所なんですが、まあ、大丈夫だとは思うんですが、……大丈夫なんですよね?
「このガイドウェイバスは、法的には『軌道』になるんです。一般的に、路面電車が『軌道法』、鉄道が『鉄道法』、バスが『乗合自動車の法律(※道路運送法の一部)』と、規制される法律が違うんですが、ガイドウェイバスは、ガイドレールに沿って運行している間は『軌道法』で規制される軌道事業なので、逆にハンドルを持っちゃダメなんです」
--持っちゃダメなんですか!?
「えぇ、持たずに運転してください。ということになってるんですよ。だから、慣れないと非常に不思議な感じがするんですね」

あの手放し運転は、運転手による「ほーら、このバスはハンドル持たなくても運転できるんだよー」という、小学生の自己顕示欲みたいなものでそうしているのではではなく、法的に「持たないでください」と決められていることだったのだ。さすが、バスの運転手、大人である。

--最初は戸惑ったお客さんもいたんじゃないですか?
「最近はもう皆さん慣れてらっしゃるから、なんともありませんが、むかしはそういう方も居らしたでしょうね」

軌道の免許とバスの免許の二枚持ち

特別に見せていただいた司令室。高架部分の駅の様子を常にモニタリングしている
特別に見せていただいた司令室。高架部分の駅の様子を常にモニタリングしている
--やはり、運転手さんはバスの免許と軌道の免許とそれぞれ持ってらっしゃるんですか?
「そうですね、路線バスの免許と軌道の免許、2枚持ってます」

--すごいですね
「ですので、市バスの運転手さんが来てもガイドレール部分には乗れないんです

ガイドウェイバスの運転手は、バスの運行を委託している名鉄バスや名古屋の市バスの運転手の中から、とくに優秀なひとが選ばれてなるのだという。

手放し運転の秘密は「ガイド輪」

よく見ないと見落としそう(クリックで3D表示)
よく見ないと見落としそう(クリックで3D表示
--ガイドレールに沿って進む時はガイド輪を出すんですよね
「そうです、バスの前後左右に4つ付いています。普通の道路を走るときは前の2つを収納して走るんです、ガイド輪の出し入れは高架部分の終わる小幡緑地のスロープ部分『モードインターチェンジ』で行うんです」

ガイドウェイバスは、地上>高架、高架>地上の切り替えのさい、ガイド輪を出したり引っ込めたりして、モードチェンジをするらしい。せっかくなので、特別に許可を頂いて、ガイド輪の出し入れを実際に見せてもらうことにした。
ガイド輪収納準備!(クリックで3D表示)
ガイド輪収納準備!(クリックで3D表示
収納完了!(クリックで3D表示)
収納完了!(クリックで3D表示
あー、頑張って3D写真にしたにも関わらず、動きが地味すぎてわかりにくい! しかし、安心してほしい。動画でも押さえたのでぜひ見ていただきたい。
さらにもう一歩近づいて……。
遠目にみるとわりと地味なモードチェンジだけど、近くで見ると、巨大ロボの変身の一部みたいでかっこいいことに気づく。「ウィーン」とか「ガチャン」といったメカメカしいサウンドも好感度が高い。 そんなガイド輪を収納したガイドウェイバスの姿は、変身解除した人間状態のクラークケントといった風情も漂う。なかなかの貫禄、恐れ入った。

法規制の賜物?

地上モードのガイドウェイバスも凛々しい(クリックで3D表示)
地上モードのガイドウェイバスも凛々しい(クリックで3D表示
ガイドウェイバスが、営業の認可をお役所から受ける際、今までない形態の交通システムだったため、鉄道法、軌道法、道路運送法のどの部分に当てはめて認可するか、かとても苦慮したそうだ。
その結果、トロリーバスなどと同じように、軌道法で認可する事になったらしいけれど、地上部分をバスとして走行するさい、前のガイド輪があるとマズイため、わざわざ収納する仕組みをバスにとりつけたのだという。
地味にかっこよかったガイド輪の出し入れは、複雑な法規制の副産物のようなものだった。
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