特集 2011年7月9日

カブトムシよりレアな虫、それはタガメ

感動の代償はパンパンに腫れあがった右手。
感動の代償はパンパンに腫れあがった右手。
子供の頃は虫採りが好きで、友達と一緒に野山を駆け回っていろいろな虫を捕まえて遊んでいた。
子供たちに人気だった虫はカブトムシやクワガタムシをはじめ、トンボやセミ、バッタ、タマムシなど体が大きくて見栄えのするものだった。そんな大型昆虫の中でも幼少の僕がとりわけ強い憧れを抱き、探し求めたがついに出会えなかった虫がいる。それが日本最大の水生昆虫タガメである。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

タガメに会いに片道4時間

カブトムシやクワガタは数こそ多くなかったが、子供の脆弱な知力、体力、行動力を以ってしても近所の山などに分け入れば、なんとかその大きな体を小さな手の中に収めることができた。

しかしタガメはそうはいかないのだ。ちょっとやそっとの自然に足を伸ばした程度では到底見つからない。ありとあらゆる手段を駆使して情報を集め、綿密な計画を打ち立て、体一つで本気の採集行に出なければ対面できないような虫なのである。
大人になってついに手にした原付。白き体躯はさながら天馬(ペガサス)。
大人になってついに手にした原付。白き体躯はさながら天馬(ペガサス)。
そんなこんなでタガメ情報をあさっていた矢先、ある信頼できる筋から有力な情報が入った。
「北関東のとある池にはまだタガメが住んでいる。」
なんと!わりと近場だ!!自慢の原付をもってすればあっという間に着くだろう。そうとわかれば居ても立ってもいられない。地図もろくに改めずにその場の勢いで出発してしまった。
現場到着は夜明け
現場到着は夜明け
…4時間もかかった。想像以上にずっと遠かったのだ。そりゃそうだ。あこがれのタガメ様がそんなに身近にいるはずがないのだから。この長距離移動は車などの足をもたない子供が一人で行えるものではない。大人になった今だからこそ可能な荒技だ。
タガメを探すには暗いうちが良いと聞いていたので夜のうちに家を出たのだが、目的の池にたどりつく頃にはもう日が昇り始めていた。

カエルにホタル、メダカまで!

さっそく池の周囲を見て回る。
水辺にはトウキョウダルマガエルや
水辺にはトウキョウダルマガエルや
ツチガエルがたくさん鳴いている。
ツチガエルがたくさん鳴いている。
なんとヘイケボタルの姿も
なんとヘイケボタルの姿も
うーむ。さすがはタガメが住むといわれる場所。自然が豊かだ。これは期待できそうだ。さっそく水の中に入ることにしよう。
over
変身!(マウスオーバーで変身)
水着とウェーダー(胸まで水に浸かれる長靴)に着替える。こんな装備も大人になってそれなりの経済力を身につけたからこそ備えられるのだ(と言ってもしめて数千円ですが)!
いざ出陣。
いざ出陣。
ウェーダー越しに触れる夜明けの水が程よく冷たくて心地良い。うーん、水遊びはやはり夏に限る。

腰まで水に浸りつつタガメの潜んでいそうなポイントを探っていく。
水中に積まれた石の隙間や
水中に積まれた石の隙間や
アシの生え際や
アシの生え際や
水面に浮かぶスイレンの周りを探すも
水面に浮かぶスイレンの周りを探すも
いない。一匹もいない。ガセネタをつかまされたのか?せっかく4時間もかけてきたのに!帰りも考慮すれば8時間だよ!!飛行機を使えば中国くらいまでなら往復できるんじゃないか。

だがこんなことではあきらめない。大人になった僕にはそれだけの精神力が備わっているのだ。目視による捜索が難しいならば他の手段をとるまでだ。
ガサガサ
ガサガサ
水草の根元など、生き物が潜んでいそうなところをひたすら網でガサガサ掬う採集法、通称「ガサガサ」!うーん、そのまんまだ。
名前も内容も雑な採集法だが、これが結構効率が良く、いろいろな動物が採れるのである。その成果の一部を御覧に入れたい。
スジエビ
スジエビ
モツゴ
モツゴ
ヨシノボリ
ヨシノボリ
ドジョウ
ドジョウ
なんと絶滅危惧種のメダカまで。
なんと絶滅危惧種のメダカまで。
いろいろな生き物がどんどん網の中に入る。しかし肝心のタガメは入らず。
まずい、泣きそうだ。
やはりいないのかとあきらめかけたその時!

ついに発見!

岸際で枯葉にまぎれて何かがピクリと動いた。
ん?
ん?
これはまさか…!防水のデジカメを持ってきていたので水中撮影を試みる。
うおお!間違いない。
うおお!間違いない。
タガメだ!いなかったんじゃない。落ち葉そっくりに擬態していたせいで気付かなかっただけなのだ。

ついに長年の夢と対面することができた。ここまできたらいっそこの手で捕まえてみたい。もう完全に心は少年時代に戻っていた。
捕獲!タモ網なんて無粋なものは使わない。
捕獲!タモ網なんて無粋なものは使わない。
昆虫というよりエイリアンのような形相がかっこいい。
昆虫というよりエイリアンのような形相がかっこいい。
捕まえた!この手に握った!大きい!かっこいい!
おそらくこの瞬間の僕は喜びと驚きと緊張の入り混じったおよそ人に見せられないような顔をしていただろうと思う。それくらい興奮したのを覚えている。

もっとだ。もっと見たいぞ、タガメ。できることなら贅沢に両の手に彼らを握ってみたい。
というわけで捜索を続行することに。
タガメ…じゃない。
タガメ…じゃない。
するとタガメに似ているがタガメ以上に落ち葉っぽい虫を発見。
サソリのような造形がイカす。
サソリのような造形がイカす。
タガメより二回りほど小さいこの虫の名前はタイコウチ。泳ぐときの動作が太鼓を打っているように見えることからこんな名前をつけられたのだそうだ。英名はその容姿からウォータースコーピオン。どちらもなかなかセンスのいいネーミングだと思う。

よし、やつらを探すコツをつかんだ。「動いてる、もしくは異様にデカい落ち葉に注意」だ。
小魚を食べているタガメを発見。タガメは肉食です。
小魚を食べているタガメを発見。タガメは肉食です。
食事中のタガメだ。結構大きい魚を捕まえているが驚いたことに片手で押えこんでいた。見た目に違わずパワフルだ。捕まえて食事の邪魔をしては悪いので観察するだけにとどめておいた。

タガメに毒を注射される。

え、嫌だなぁ。わたしゃ枯葉ですよぉ。
え、嫌だなぁ。わたしゃ枯葉ですよぉ。
そしてその後ついにフリーのタガメを発見!
先ほど見つけた二匹にも同じことが言えるが、よほど自分が枯葉に似ていることについて自信があるようで、捕まえようと近寄ってもまったく逃げようとしない。
なので遠慮なく捕まえようと手を差し出したところ…。
!? がっちりホールドされる。
!? がっちりホールドされる。
なんと向こうから指にしがみついてきた。しかもものすごい力で。
ワハハハ。そんなに捕まりたいのか。と面白がって写真を撮っていたその時
ヂクリ!
ヂクリ!
痛たたた!咬みつかれた!敵とみなされたか、あるいはひょっとして獲物と間違えてるのか!?なんにせよアグレッシブに攻撃された。デカいだけが取り柄じゃないぜと言わんばかりに。
最初は針で刺したような痛みだったが徐々にヂクヂクした鈍い嫌な痛みに変わっていく。
それもそのはず。あまり知られていないがタガメには毒があるのだ。
あまりの痛さにまたちょっと泣きそう。鼻の穴も広がる。
あまりの痛さにまたちょっと泣きそう。鼻の穴も広がる。
毒にやられて腫れあがった右手中指(上)。左手(下)と比べると一目瞭然。
毒にやられて腫れあがった右手中指(上)。左手(下)と比べると一目瞭然。
翌日には腫れが手の甲全体に広がった。
翌日には腫れが手の甲全体に広がった。
この毒の正体は獲物を食べる際に用いられる消化液である。つまり僕の右手は消化されかかってしまったわけだ。
それにしても本当に痛い。結局その後痛みは数日続いた。のんきに刺されている様子をカメラになんて収めず、すぐに振り払っていればこんなにひどい症状は出なかったと思われるが。
大きくてかっこいいだけでなく強力な毒まで備えているなんて!なんと魅力的な生き物だろう。ますますタガメのことが好きになってしまった。

僕には昆虫を収集する趣味は無いので今回の取材中に捕獲したタガメは二匹とももといた場所に帰してやり、晴々とした気分で片道4時間の帰路についた。また来年会いに来るからな!

楽しい!大人の虫採り

いやあ堪能した。
大人になってから子供時代の遊びに本気で取り組むというのは存外に楽しいものだ。当時よりもいろいろな面でずっと無理がきく分成果も上がりやすく夢中になれる。
それに幼少の頃からの夢が叶うというのは実に爽快な気分である。今回はちょっと痛い目にもあったけどそれも過ぎてしまえばいい思い出だ。
そういえば子供の頃から憧れている生き物はまだまだたくさんいる。夢は尽きない。
タガメピース!
タガメピース!
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