特集 2011年7月22日

鏡の中のアドベンチャー

いざアドベンチャー
いざアドベンチャー
普段は当たり前に感じているが、日本の道というのは何とまあ歩きやすいことか。土地を耕し、アスファルトで舗装された道は文明社会の賜物である。

それはとてもありがたいことではある。だが、ひとつ言わせてもらえば、そこにはアドベンチャーが足りないのではないか。利便性は抜群だが、男の冒険心はこれっぽっちもくすぐられないのだ。

そこで、都会の道でアドベンチャー気分を味わう発明を考案した。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

前の記事:メガネ曇る問題と向き合う、葛西ラーメン食べ歩き

> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

見上げればそこにアドベンチャーがあった

まず、みなさんも今いる部屋の天井を見上げてほしい。そこには梁やら照明やらがあり、平坦な床に比べて起伏に富んでいることだろう。これを障害物に見立てて歩いたら、それはそれは楽しそうだと思いませんか?

とはいえ天井を歩くといった忍者みたいな芸当はできないので、目線に天井の風景を落としこむソリューションを発明した。
天井を映した鏡を目の前につるす
天井を映した鏡を目の前につるす
すると、目の前にアドベンチャーが出現します
すると、目の前にアドベンチャーが出現します
鼻と口で鏡を挟んで安定させる
鼻と口で鏡を挟んで安定させる
何かをたくらんでいるような自分の顔が映り込んだ
何かをたくらんでいるような自分の顔が映り込んだ

にわかに広がるアドベンチャー

つまりこういうことだ。目の前に天井を映した鏡をつるす。すると視覚的には天井の風景が、目の前に道として広がっているように感じられるのである。
実際の地面は見えていないので恐る恐る移動
実際の地面は見えていないので恐る恐る移動
例えばこんな美しく舗装された床にはアドベンチャーのかけらもないが
例えばこんな美しく舗装された床にはアドベンチャーのかけらもないが
広く平坦な床。目をつぶっても歩けるくらい、なんの変哲もない道である。

だが、今の僕にはここが3000m級の過酷な登山道に思える。なぜなら、こんな風景が見えているからだ。
巨大なクレバス。落ちたらひとたまりもないですね
巨大なクレバス。落ちたらひとたまりもないですね

クレバスを飛び越えろ

登山家の命を容赦なく奪ってきた深いクレバス(じっさいには天井の隙間)。それが今、目の前に広がっている。いや実際にはそんなものはないが、視覚的には恐怖の谷底がバッチリ映っているのだ。
覚悟を決めて
覚悟を決めて
危険なクレバスを
危険なクレバスを
ジャンピング
ジャンピング
…言いたいことはなんとなく分かってもらえただろうか。要は天井の風景を床に見立てるということだ。すると様々な危険地帯が目の前に出現するのである。

この方法を使えば、ノーリスクでアドベンチャーを満喫することができる。
危ないところだった
危ないところだった
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そうさこの世はアドベンチャー

天井が床になった(ように見える)世界には思った以上に危険が多く、一瞬も気を抜くことは許されない。

傍から見れば普通に床を歩いているようにしか見えないが、実際にはこの人は今、スリル満点の冒険をしていると思ってください。
ふいに足が止めたその先には
ふいに足が止めたその先には
崖っぷち。落ちたら確実に死ぬでしょうな
崖っぷち。落ちたら確実に死ぬでしょうな
このビルは通路からロビーに出ると、吹き抜けの天井が広がっている。それが今の僕には深い谷底に見えるのだ。ちびりそうなくらい恐ろしい。
この人には↑こんなふうに見えています
この人には↑こんなふうに見えています
バンジーのジャンプ台に立たされた気分
バンジーのジャンプ台に立たされた気分
ビルの中だけではない。外にはさらなる恐怖の世界が広がっているのだ。例えば、こんな何の変哲もない電線があるだろう。
ハトが止まってのどかな雰囲気だが
ハトが止まってのどかな雰囲気だが
僕には今、これが綱渡りのロープのように見えている。しかも下は底なしである。足を滑らせたら最後。地獄の底まで落ちていきそうだ。
底が見えない、超ド級の綱渡り
底が見えない、超ド級の綱渡り
しつこいですが↑こう見えています
しつこいですが↑こう見えています
バランスをとりながら
バランスをとりながら
慎重に渡る
慎重に渡る
こんな場所に綱渡りがあるはずないと頭では分かっていても、視覚が本能を刺激し、恐怖心を呼び起こす。これぞバーチャルリアリティと言っていいのではないか。使っているのはただの鏡だけど。
本当に体が左右に揺れてくるから不思議
本当に体が左右に揺れてくるから不思議

空が怖い

歩く目線に空の風景を落とし込むと、まるで自分が天空の世界にいるような気分になってくる。これからは山に登る必要も、飛行機に乗る必要もない。鏡があれば、地上数千メートルの世界へトリップできるのだ。
おすすめビューポイントはビルなどの軒先
おすすめビューポイントはビルなどの軒先
遥かなる下界を見下ろす気分
遥かなる下界を見下ろす気分
何度でも言いますが↑こんなふうに見えています
何度でも言いますが↑こんなふうに見えています
地上5000メートルのスリルを体感中(実際には地上10cm)
地上5000メートルのスリルを体感中(実際には地上10cm)
ふう
ふう
ビルからビルへと飛び移る。筆者は今アクション映画のワンシーンのような体験を味わっている。

当初の想像よりかなり楽しいこの遊び。もしかしたら流行るんじゃないか? すでに鏡をもってまさに今、外に飛び出さんとしている読者の姿が目に浮かぶ。

そんな人たちのために、次ページからはアドベンチャー気分が味わえるオススメのスポットを紹介していこう。
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アドベンチャースポット(1) 「棒」

常に落下の恐怖がつきまとうアドベンチャーの世界においては、「棒があったらとりあえずしがみつけ」が鉄則である。
棒
こんな感じで、天空からのびているように見える棒
こんな感じで、天空からのびているように見える棒
蜘蛛の糸にしがみつくカンダタのような気分が味わえることうけあい
蜘蛛の糸にしがみつくカンダタのような気分が味わえることうけあい

アドベンチャースポット(2) 「東屋の屋根」

公園などに設置されている東屋で、天井部分が骨組みだけで形成されているもの。これもかなりオススメのアドベンチャーだ。
こういうのが
こういうのが
こんなふうに見えています
こんなふうに見えています
気分は骨組みだけの危険な足場を渡る鳶職。一瞬のミスが命取りになるスリリングな現場の雰囲気を体感できる。早く親方のようになりたい。
超高層ビルの建設現場を思わせる
超高層ビルの建設現場を思わせる
こ、こわい。。。
こ、こわい。。。

安藤さんも夢中

僕のアドベンチャーを横から見ていた編集部の安藤さんも、どうやら冒険心を掻き立てられてしまったらしい。「やりたい」と言うので、鏡を貸してあげた。
安藤昌教さんの冒険が始まる
安藤昌教さんの冒険が始まる
何かを発見した様子
何かを発見した様子

アドベンチャースポット(3) 「木の下」

突然、手で何かをかきわけるような動きをみせる冒険家。どうやら上空に生い茂る木々の葉が目の前に広がり、さながらジャングルの様相を呈しているようだ。

彼はいま、密林の中を冒険しているのだ。
安藤視点(イメージ)
安藤視点(イメージ)
ジャングルを冒険する安藤氏
ジャングルを冒険する安藤氏
密林をかきわけて進む
密林をかきわけて進む
猛獣の気配に怯えているのかもしれない
猛獣の気配に怯えているのかもしれない
しかし、こうして冷静に傍から見ていると、この人なんてバカなことをやってんだろうという気になってくるが、その姿は先ほどまでの自分である。
「この人バカだなー」と感じてしまったが、そんな目に遭わせたのは他ならぬ自分だった
「この人バカだなー」と感じてしまったが、そんな目に遭わせたのは他ならぬ自分だった
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アドベンチャースポット(4) 「地下街の看板」

次なるポイントは店舗の看板が連なる地下街である。
天井に看板が設置された地下街
天井に看板が設置された地下街
アドベンチャー視点では看板がハードルになる
アドベンチャー視点では看板がハードルになる
バリアフリーの精神を一切無視し、床から出っ張る看板。危ないったらありゃしない。
もうおわかりでしょうが↑こんなふうに見えています
もうおわかりでしょうが↑こんなふうに見えています
なぜこの人はこんなにも大股なのか
なぜこの人はこんなにも大股なのか
それはハードルをよけているからです
それはハードルをよけているからです
無事に踏破
無事に踏破

アドベンチャースポット(5) 「階段」

平坦な道に比べ、階段などではより一層不可思議な感覚が味わえる。例えばこの昇り階段。
実際には昇っているのに
実際には昇っているのに
見えているのはこんな崖っぷちの風景
見えているのはこんな崖っぷちの風景
昇っている感覚なのに、目の前には崖っぷちがある。落ちそうなのに、上がってる。そんな、トリックアート的な楽しさが味わえるのだ。
階段を昇っているだけなんですが
階段を昇っているだけなんですが
↑こう見えているのでへっぴり腰に
↑こう見えているのでへっぴり腰に

アドベンチャースポット(6) 「商店街のアーケード」

ラストは商店街のアーケードだ。細い足場をいかに攻略するかがポイントである。
歩道脇にある、こういうちょっとしたアーケードがいい
歩道脇にある、こういうちょっとしたアーケードがいい
左端のわずかな足場を歩く。下に落ちると電流が流れる、などといった設定を付け加えると、よりスリリングに
左端のわずかな足場を歩く。下に落ちると電流が流れる、などといった設定を付け加えると、よりスリリングに
下には100億ボルトの高圧電流が流れている(という設定)ため、落ちれば死が待つ。左端のわずかな足場をゆっくりと歩く必要がある。
命を賭して挑む最後のアドベンチャー
命を賭して挑む最後のアドベンチャー
これを書いている今もヒヤヒヤする。落ちんなよー
これを書いている今もヒヤヒヤする。落ちんなよー
10メートルほどのアーケードを10分かけ
10メートルほどのアーケードを10分かけ
まもなくゴール
まもなくゴール
無事に高圧電流エリアを通過できるかと思いきや、その先には非情な運命が待っていた。
なんと! 足場が途切れている
なんと! 足場が途切れている
これでは、100億ボルトの電流に焼かれるか、数千メートル下の地上に叩きつけられるかの二者択一だ。どちらにしても助かるまい。
まあ実際には地上50cmですが
まあ実際には地上50cmですが
と、死を覚悟したところで、今回のアドベンチャーを終了したいと思います。

本当に楽しいので、やってみてください

じつにいい遊びを思いついた。何ら特徴のない住宅街で、公園で、商店街で、僕の心は踊りっぱなしっぱなしだったのだ。

山やジャングルに行くのはめんどくさいが、こんな冒険なら大歓迎だ。心がアドベンチャーを求める時、また鏡をもって出かけようと思う。
ゲームオーバー
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