特集 2011年8月16日

お寺プロレスに行ってきた

プロレスのリングを中心に踊るフラダンサー。地方の奇祭ではない。
プロレスのリングを中心に踊るフラダンサー。地方の奇祭ではない。
先日記事で書いた「『一休さん』で踊りまくるお寺」。アレを見た友人から「あそこのお寺も変わってる」「ここのお坊さんも変だ」という情報を次々といただきました。みんなお寺やお坊さん好きだなー!その中で自分的に一番気になったのが「お寺プロレス」。お寺、そして自分の好物であるプロレス。一体どういう融合を見せているのか?
1972年佐賀県生まれのオトナ向け仕事多数のフリーライター。世間の埋もれた在野武将的スゴ玉の話を聞くのが大好き。何事もほどほどに浅く広く、がモットー。

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ただのプロレスではない慈善事業ユニット

ここ最近、学生プロレスや社会人による「アマチュアのプロレス」が気になっていて、いろいろ情報収集してるうちに「お寺プロレス」の存在はなんとなく知っていた。うっかり見ることはそうないが、一度見たら気になるキーワード。
情報収集にブログとツイッターは何のジャンルでも基本です。
ブログとツイッターは何のジャンルでも基本です。
文字どおりお寺で試合するプロレス、それがお寺プロレス。でもそれだけではなく「学生プロレスのOB、OG、現役を主体とした慈善事業ユニット」なのです。

主宰の雫あき選手はベビーシッターの資格を持つ尼僧の卵。プロ団体にも上がる選手であり、レスラーとしての実力も相当なツワモノ。そんな彼女を中心にチャリティ興業として行われるのが「お寺プロレス」。近々行われる大会は先の地震で被災し、この近辺に避難してきた方々もお客さんとして招待しているのだとか。
男前な感じが伝わってくる雫代表。
男前な感じが伝わってくる雫代表。
ということで、今回開催される埼玉県は越谷市の慈眼寺に行くことにしました。「一休さん」の時の総持寺とは違って、一般住宅の中にぽっかり佇む「町のお寺」といった風情のお寺。ちなみにこの日がお寺プロレスとしては二回目の興業だそう。
普段なら気づかないであろう参道、でもこの日はお祭り仕様でちょっと派手。
普段なら気づかないであろう参道、でもこの日はお祭り仕様でちょっと派手。
「笑いあり、涙あり」売りが演歌っぽい。
「笑いあり、涙あり」売りが演歌っぽい。
あちこちに貼られたむだ絵風な何か。
あちこちに貼られたむだ絵風な何か。
なんとなく風流ではあります。
なんとなく風流ではあります。
路沿いにあるのはコンビニ・ディーラー・ホテル・山田うどん…そんな郊外らしいバイパスからちょっと離れたところにある慈眼寺。公道からちょっと奥まった場所にあるのもあって、この日のような祭りの飾りがないと見逃してしまいそう。正直「ここでプロレス?」て感じだ。

しかし、きらびやかな豪華さがあるわけではないけど、素朴な中に目に飛び込んでくるお祭り感は「知らないけど、地元」みたいな気にさせられる。
門も木造で素朴なつくり。でも提灯が絵になりますね。
門も木造で素朴なつくり。でも提灯が絵になりますね。
お寺の本堂の入り口。これも提灯の色遣いが目に鮮やかですなー。
お寺の本堂の入り口。これも提灯の色遣いが目に鮮やかですなー。
上の看板にもありましたが、地元自治会の盆踊りとプロレスの合同興業(プロレス寄りな言い回し)。盆踊りといえばお祭りのやぐら、そしてプロレスといえばリング。それだけに会場はこんな光景が。
祭りらしいやぐらとその横にリング。あまりない組み合わせです。
祭りらしいやぐらとその横にリング。あまりない組み合わせです。
逆側から。盆踊りはどちらの周りを踊るのだろう?ふつうやぐらだよね~(伏線)。
逆側から。盆踊りはどちらの周りを踊るのだろう?ふつうやぐらだよね~(伏線)。
張り出されたプログラム。プロレスは前後編。
張り出されたプログラム。プロレスは前後編。
車両班&撮影班担当はこの方。
車両班&撮影班担当はこの方。
今回のお寺が駅からやや遠く、車で行った方がいい場所なこと&本人の売り込みもあって、DPZライターの玉置さんもこの日は一緒。服装が俺以上に追っかけの人みたいだ。

さて3時となり、まずはお寺プロレス第一部のはじまりはじまり。お寺という特殊な磁場で行われるプロレスはどんな光景になるのか?
チャリティーというだけではないのがお寺プロレスなのです。
チャリティーというだけではないのがお寺プロレスなのです。
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悪は許さない!のがお寺プロレス

3時にプロレスがスタート!といってもお祭りの本番が夜なのもあってか、お客さんの入りはぼちぼち。地元の子供とか見に来てるかと思ったらそうでもない。都心から見に来た知人友人マニアな方、それと地元のおじさんおばさんが主な観客。あとお寺の方も。先の入場式を終えて、第一試合の選手たちが入場!
テントの合間から出てきた第一試合の選手たち。
テントの合間から出てきた第一試合の選手たち。
特別リングサイドも最後列ももちろん無料。
特別リングサイドも最後列ももちろん無料。
ちなみに旗の文字、気になりますよね?学生プロレスにちょっと触れた人なら分かると思いますが、選手名とか基本シモネタ寄り。ほら、みんな非リア充だから許してあげて!映画でそう言ってたから!ただそういうのってお祭りの主宰である自治会とかお寺的にどうなんすかね?と思ったら
みなさんゲラゲラ笑ってました。ならばよし!
みなさんゲラゲラ笑ってました。ならばよし!
あ、ぜんぜん手叩いて笑ってらっしゃるから問題ないですね!ちなみにネーミング以外はそれほど下品じゃないです。むしろさっきまでTシャツジャージで練習してる兄ちゃんだった彼らが、突然しっかり「プロレス」してるのを見て地元のおじさんたちも大喜び。微妙に遠巻きに見てたりする人も席を離れない。
渾身のパワーファイト、この距離だと表情も伝わる!
渾身のパワーファイト、この距離だと表情も伝わる!
トップロープからの技はやっぱり湧く!
トップロープからの技はやっぱり湧く!
お寺の日陰寄りに座ったおじさんたちもこの笑顔。
お寺の日陰寄りに座ったおじさんたちもこの笑顔。
お寺という場、そして夏の真っ昼間らしい空気。決して皆が知ってるレスラーはひとりも出てないけれど、彼らが渾身の力でぶつかりあう姿は、ちょっと肌に流れる汗を涼しくしてくれるような。

これがホールや体育館だとまた違うはず。このお寺に現れた、日常と非日常のぐんにゃりした感じが面白みをさらに与えている、ような。お寺とリングとやぐらと提灯、そんな夏の日。
お寺をバックに試合中。自然なようで不自然な光景。
お寺をバックに試合中。自然なようで不自然な光景。
なんというか、かつての村相撲とかこんな光景だったのかもしれないなあ…と思ってたら3試合目、それまでに比べると明らかに悪いレスラーが入場!いわゆるヒール。セコンドまで加わり相手のレスラーを攻め立てる。おお、一気にプロレス的構図になったぞ。
見るからに悪いヒール軍団。
見るからに悪いヒール軍団。
客の目の前で暴行!悪い!
客の目の前で暴行!悪い!
さらに観客に撮影を強要!悪い!
さらに観客に撮影を強要!悪い!
ヒール軍団の客へのアピールが達者なのもあって、ムードは一変。さらに試合では正統派レスラーの方が負けてしまった。そこで雫あき代表が「お寺プロレスが悪に負けたままじゃ終われませんよ!メインイベントで勝負つけますから!」のマイク。そうだ、お寺で悪党が勝っちゃ情操教育的によろしくない。
「こんな悪行許していいんですか?」悪は許さないのがお寺プロレス!
「こんな悪行許していいんですか?」悪は許さないのがお寺プロレス!
というマイクが観客に向けられたところで前半終了。しばらく別の催しがあったあと後半2試合が行われるようだ。そしてここからがお寺でありプロレスであり夏祭りな光景が繰り広げられるのです。リングがまさかこんなに必要とされるなんて…。
ちなみに一部控え室はブルーシート。
ちなみに一部控え室はブルーシート。
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リングの周りを囲むダンサーたち

さて夜の第二部までしばらく時間はあるものの、ここは越谷。地理も不案内なのもあってウロウロも出来ない。雨も降りそうだし。とりあえず盆踊りの時間まではお寺に腰を落ち着けることにしました。

その合間にお寺の方では法要が始まった。この日一番のお寺らしいシーンです。さっきまでオリャオリャ言ってたのがキュッと背筋が伸びる感じに。
空には雨雲がもくもくと。不穏。
空には雨雲がもくもくと。不穏。
今回一番お寺らしいシーンですね、たぶん。
今回一番お寺らしいシーンですね、たぶん。
そして法要が終わったところで「○○町婦人会による盆踊りが行われます」のアナウンスが。そういえば黄色と黒というタイガースというかエレクトリックな色の着物の女性が多いと思ってたけども、町別の着物だったんですな。ではやぐらを囲んでみんなで埼玉音頭を踊りますか!ウリャホイ!
お姉さんたちの盆踊り。櫓を囲むと思ったら、
お姉さんたちの盆踊り。櫓を囲むと思ったら、
リングを中心に盆踊り。たしかにスペース的にはちょうどいいけど!
リングを中心に盆踊り。たしかにスペース的にはちょうどいいけど!
スペース的に盆踊りで櫓中心に輪をかくには難しいかな…と思ってたけど、まさかリングの周りだとは。ビヨンド・ザ・マットならぬアラウンド・ザ・マットだ。

さらに踊りの途中で小雨が降り始め、選手たちがブルーシートをリングにかけはじめた。もし中止にでもなったら、悪が勝ったままで終わっちゃうよな…。ある意味ピンチ、お寺プロレス!

そんなことを考えてると次の婦人会のみなさんがリングの周りに。今度は…フラガール!たしかにここ数年、女性サークルでやってるのを全国でよく見るけども、ここで見るとさらにインパクトが。むしろブルーは青いハワイの海として見立てられた…わけじゃないよね。
小雨対策で貼られるブルーシート。
小雨対策で貼られるブルーシート。
この人たちのための海ムードに見えなくもない。
この人たちのための海ムードに見えなくもない。
外国人が見たら驚きそうな光景。サイタマ奥地にはこんな祭りが!
外国人が見たら驚きそうな光景。サイタマ奥地にはこんな祭りが!
リングを囲んで踊るフラガール…なんかもうこれは「戦後直後にプロレスリングとフラダンスに衝撃を受けて以来、外部の刺激を拒んで来た山村の奇祭」てな光景だ。

さらにフラガールを囲んで楽しむ町内のおじさまたち。うーむ、シュールだこれは。楽しそうでいいけど。
ある意味、地域の祭りらしい光景。
ある意味、地域の祭りらしい光景。
プロレスとプロレスの合間に挟まれた盆踊りコーナー。いいアクセントというか、和みムードに包まれました。プロレス界の名言に「相手がワルツを踊れば私もワルツを踊り、ジルバを踊れば私もジルバを踊る」というのがあるけれど、ダンスとプロレスは相性いいのだろうか。

お姉さんたちの盆踊りやフラダンスに目を奪われてる間にけっこう暗くなり、提灯の灯りもほどよく目立ってきた。これぞ夏祭り。
暗くなって祭りムードになるとお客さんも増えてきた!
暗くなって祭りムードになるとお客さんも増えてきた!
天気もギリギリ小雨で済みそうで、さあ後半戦開始です!プロレスでキッチリ締めていただきましょう。
盆踊りのお姉さんと選手のタイツが相似色。
盆踊りのお姉さんと選手のタイツが相似色。
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正義は勝つ、でなくてはいけない!

やはり祭りといえば夜。しかしギリギリの小雨がいまだ降り続ける…それでも7時から始まったプロレス後半戦はお客さんも増えて賑わいアップ!子供も増えたし、祭りムード。とりあえず悪の勝利→雨天中止、は免れた。

後半戦最初の試合は善悪関係ナシな大型選手ふたりのシングルマッチ。プロではなくても、ぶつかりあいの迫力は言葉なしで魅せるプロレスの王道。
昼から比べると席もずいぶん埋まりました。
昼から比べると席もずいぶん埋まりました。
時にはバッチンバッチン張り合い、
時にはバッチンバッチン張り合い、
強烈なスープレックスでも見せる!
強烈なスープレックスでも見せる!
豪快な試合展開もあって、選手の友人系のお客さんから「地元であるから来てみた」系のお客さんまで惹きつけた後半初っ端。こんな時間だけに、お酒も進んだ人も多いのもまた良し。
順調に増えていく机の上の瓶の数。
順調に増えていく机の上の瓶の数。
そしてメインイベントは主宰の雫あき選手が登場。過去取ったメダルを鷲掴みにして現れるのがイカス!初見でも「この人はどうやら凄いらしい」とイッパツで伝わります。

対するは前半戦で反則を繰り返してたヒール軍団!お寺プロレスの名前を賭けての一戦です。仏教が勝つか?悪が勝つか?漫画でいえば『孔雀王』みたいな対決だ。
女子選手と舐めるなかれ。実はアマレスの実力者でもある雫代表。
女子選手と舐めるなかれ。実はアマレスの実力者でもある雫代表。
しかしセコンドも割り込む相手チームにボコボコに。
しかしセコンドも割り込む相手チームにボコボコに。
声援もいっそう飛ぶ!
声援もいっそう飛ぶ!
玉置さんも凝視する!
玉置さんも凝視する!
30分近くのロングマッチ、最後は雫代表の大技2連発でピンフォール!無事お寺プロレスは勧善懲悪を果たすことが出来たのでした。勝敗によって「看板偽りあり」になっちゃう団体てのも斬新ですね、考えてみると。
ラストは代表自らリングに突き刺す!
ラストは代表自らリングに突き刺す!
試合後は笑顔の代表からのマイクで「この日の募金は全国の乳児院に送られる」という発表が。さらに「この日集まった悪いレスラーも募金を集めたくて集まった仲間なんです」という言葉も。あの悪い人たちも実は!中指とか立ててごめんよ!
やり遂げた笑顔がさわやかな雫選手。
やり遂げた笑顔がさわやかな雫選手。
最後は日本と東北にエールを送り終了!
最後は日本と東北にエールを送り終了!
決してそれほどでかい規模だったわけでない慈眼寺のお祭り。でもその古めかしいお寺と地元の人々との近い距離、それにプロレスという戦後から続くエンターテイメント、それとその中でお寺らしい「勧善懲悪」な展開。それらの相性がとてもよくて、妙に居心地良かったです。こういう形で伝える場、伝わるものもあるのだなと。

最後にレスラーの皆さんが持つ募金箱にお金を入れて帰りました。ギリギリまで雨が本降りにならなかったのも彼らの徳ゆえでしょう!いわゆるプロの興業とは違う空気と目標を持つお寺プロレス、次は君の街のお寺に現れるかもしれない!
協力:お寺プロレス

ブログツイッター

かき氷も美味しそうだったなあ。
かき氷も美味しそうだったなあ。

大きすぎない祭りっていいやね。

お祭りといえば露店ですが、こちらのお祭りで出てたのは3軒ほど。あとは地元の人がビール売ってたり、饅頭売ってたり。都心では見ないタイプの地元感にほっこりしました。なんだろな、地元じゃないのにこの地元感。
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