特集 2011年10月1日

トカゲを釣るよ!

ターゲットとなるのはこちら。オキナワキノボリトカゲ。
ターゲットとなるのはこちら。オキナワキノボリトカゲ。
沖縄生まれ沖縄育ち、変な生き物はだいたい友達という友人に、「トカゲ釣り」なる遊びを教わった。

キノボリトカゲという日本本土では見られないトロピカルな容貌のトカゲをちょっと変わった方法で捕まえるのだが、なんでも沖縄の子供たちには本土におけるザリガニ釣りと同じようによく親しまれている遊びであるという。なかなか楽しそうであったので実践してみた。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

釣竿を作ります。

釣りと言っても、魚釣りのように専用の竿や釣り糸、釣り鈎を用意する必要はない。そのあたりで適当な草をむしってくればよいのである。それに簡単な細工を施せば釣竿の完成である。
細くしなやか、かつ丈夫な草が理想的。イネ科の植物の茎が適しているそうだ。
細くしなやか、かつ丈夫な草が理想的。イネ科の植物の茎が適しているそうだ。
草の先で輪っかを作り、
草の先で輪っかを作り、
かた結びの要領で結び目を作って…
かた結びの要領で結び目を作って…
軽く締めこめば完成!簡単でしょ?
軽く締めこめば完成!簡単でしょ?
輪っかを何かに引っ掛けて柄を引っ張ると
輪っかを何かに引っ掛けて柄を引っ張ると
輪が締まる仕掛け。もうどうやって使うかは大方想像がついただろう。
輪が締まる仕掛け。もうどうやって使うかは大方想像がついただろう。

トカゲを探すよ!

まずはターゲットのキノボリトカゲを探さなければならない。
キノボリトカゲを見つけるには公園内の緑地や林道沿いなど、ある程度開けていて樹木が多い場所が良いようだ。
キノボリトカゲを見つけるには公園内の緑地や林道沿いなど、ある程度開けていて樹木が多い場所が良いようだ。
キノボリトカゲというだけあって木の幹にしがみついていることが多い。
キノボリトカゲというだけあって木の幹にしがみついていることが多い。
キノボリトカゲ自体は沖縄本島の自然が豊かなところに行けば個体数は少なくないのだ。しかし、慣れないうちは探すのに一苦労する。その理由は下の写真を見ればお分かりいただけると思う。
いた!目を凝らすと写真中央にトカゲの姿が確認できるはず。
いた!目を凝らすと写真中央にトカゲの姿が確認できるはず。
このトカゲ、まるでカメレオンのように自身の体色を登っている木の樹皮に合わせて変えることができるのである。なるほど、地上よりも隠れる場所の少ない樹上を生活の場とする上で適した能力である。

おっと、感心している場合ではない。今回はこいつを釣りに来たのだ。
…しかしこのトカゲ、樹皮になりきっているのだろうか。案外動かない。これなら先ほどの釣竿を使わずとも素手で捕まえられるのではないか。
そーっと手を伸ばすが…
そーっと手を伸ばすが…
残念!逃げられた。
残念!逃げられた。
あっという間に高みへと登って行ってしまった。
あっという間に高みへと登って行ってしまった。
思いのほか敏感である。手を伸ばした瞬間に目にも止まらぬ速さで逃げられてしまった。やはり素手で捕まえるのは少々難しいようだ。

本当に釣れた!

かと言って、これほど敏感で俊敏な野生動物をあんなに簡単な仕掛けで捕らえることができるのだろうか。正直なところ、まだ素手の方が信頼できるのだが…。
そんなことを考えているうちに二匹目発見。
そんなことを考えているうちに二匹目発見。
しかもちょうど手ごろな高さに陣取っているではないか。これはチャンス。
逃げ出さないギリギリまで竿を持って近付く。
逃げ出さないギリギリまで竿を持って近付く。
そっと輪っかを差し出し、
そっと輪っかを差し出し、
トカゲの首に掛ける。驚いたことに体に輪っかが触れても逃げ出さない。こんなか細い草きれなど外敵とみなしていないのだろう。
トカゲの首に掛ける。驚いたことに体に輪っかが触れても逃げ出さない。こんなか細い草きれなど外敵とみなしていないのだろう。
そして素早く、かつ優しく柄を引っ張って輪を締めこむ!!
そして素早く、かつ優しく柄を引っ張って輪を締めこむ!!
つつつ、釣れたー!!釣られたトカゲは何が起きているのかわからない模様。
つつつ、釣れたー!!釣られたトカゲは何が起きているのかわからない模様。
おお!本当にトカゲ釣れちゃったよ!すごく嬉しい。
確かにこの方法ならトカゲは逃げ出さなかった。子供の遊びとバカにするなかれ。これはしっかりとトカゲの生態を把握したうえで考案された極めて合理的な狩猟技術であったのだ。
それにしてもこの遊び、ほどよくスリリングで楽しいぞ!ぜひもう一回やりたい。次なるターゲットはどこか。
お、いらっしゃった。続いてのステージは複雑に入り組んだガジュマルの木の幹だ。
お、いらっしゃった。続いてのステージは複雑に入り組んだガジュマルの木の幹だ。
引っかけて…
引っかけて…
締めあげる!「グエッ!」
締めあげる!「グエッ!」
「く、苦しいー!」
「く、苦しいー!」
あ、まずい。興奮してちょっと強く締めすぎてしまったようだ。だらしなく口を開けはなっている。ごめんごめん。すぐに緩めてやろうと手をかけると…
あげーっ!噛みつかれたやっさー!ところで歯並びきれいですね。
あげーっ!噛みつかれたやっさー!ところで歯並びきれいですね。
歯も立派だけれど顎の力も大したもので、噛みつかれると結構痛い。
歯も立派だけれど顎の力も大したもので、噛みつかれると結構痛い。
ところでみなさんはこのトカゲの体色が釣りあげられた前後で大きく違うことにお気づきだろうか。環境に合わせて体の色が変わることは先ほど書いたが、実は興奮している時もこのトカゲは鮮やかな緑色に変色するのである。捕らえられてよほど怒ったようだ。

こうして見るとグリーンイグアナのようでとても格好がいい。沖縄とはいえ日本にもこんなに魅力的な爬虫類が生息しているというのは、なんとも喜ばしいことではないか。

イリュージョン?トカゲに催眠術をかける

最後におまけとしてもう一つ、このキノボリトカゲを相手にした沖縄の子供の遊びを紹介したい。それはなんと「催眠術」である。
やり方はとっても簡単。捕まえたトカゲの目を優しくふさいで、2、3回静かに揺らしてやり
やり方はとっても簡単。捕まえたトカゲの目を優しくふさいで、2、3回静かに揺らしてやり
そっと仰向けにしてやると
そっと仰向けにしてやると
まるで死んだように眠る。
まるで死んだように眠る。
でもフラッシュを焚いたりして刺激を与えると簡単に目を覚まして逃げ出します。
でもフラッシュを焚いたりして刺激を与えると簡単に目を覚まして逃げ出します。
さて、一通り遊んでもらって満足したのでキノボリトカゲには沖縄の森にお帰りいただこう。
釣り上げられたり眠らされたり、トカゲたちにしてみれば散々だっただろうが勘弁してほしいものだ。
こんなのが本土にいたらびっくりするだろうなあ。沖縄すごい。
こんなのが本土にいたらびっくりするだろうなあ。沖縄すごい。

受け継がれろ、トカゲ釣り

実際に挑戦してみて、沖縄の子どもたちはこんなに楽しい遊びを知っていたのか!うらやましい!と思ったが、話によると最近はこの遊びを知らない子どもも増えてきているそうだ。それもそうだろう。昔ならばいざ知らず、今となってはいかに沖縄と言えど、どこもかしこも自然が豊かなわけではない。こんな遊びができるのはある程度恵まれた環境にある子供だけだろう。

キノボリトカゲ自体も環境破壊に加えてマングースなどの外から持ち込まれた生き物のせいでその数を次第に減らしているのだとか。この珍しくも面白い遊びの文化が沖縄の美しい自然とともにいつまでも受け継がれることを切に願おう。
大人がやってもでーじ楽しい。
大人がやってもでーじ楽しい。
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