特集 2011年11月3日

残り300m、アラシロ先頭!~自転車ロードレース初観戦

この瞬間、あたりは興奮のるつぼと化した
この瞬間、あたりは興奮のるつぼと化した
スポーツの秋である。

秋は世界の強豪が来日するような大きな大会が目白押しだ。F1日本グランプリ、バイクのモトGP、体操の世界選手権、バレーボールのワールドカップ、競馬のジャパンカップなどなど。

そんな中、自転車レースも世界の強豪が来日する大会が行われた。日本では公営競技としての競輪のイメージが強すぎて、いまいち知られていない自転車ロードレース。会場はどんな雰囲気か、間近で見るレースはどんな迫力か。初観戦してきた。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:登って滑ってポッカール!

> 個人サイト ダムサイト

右も左も分からず会場へ

今回観戦に行ったのは、栃木県宇都宮市で毎年開催されているジャパンカップ。3日間にわたってさまざまなイベントやレースが行われ、なかでも目玉は世界の強豪が集まり、市内に設定された1周14kmの市街地コースを11周、総距離およそ150kmで争われるロードレースだ。
3日間さまざまなイベントやレースが行われる
3日間さまざまなイベントやレースが行われる
マラソンや駅伝はよく市街地コースで行われているのをテレビで見るけど、日本で自転車の大会は見たことがない。どのくらい混雑するのか分からず、とりあえず夜中に車で出かけて、まだ暗い早朝に観客用駐車場に入ったところ、広い駐車場には数台の先客がいるだけだった。

これならゆっくり寝て朝出てきても良かったかな、と思いながら車の中で仮眠をとり、明るくなって目を覚ましたら驚いた。
知らない間に満車になっていた
知らない間に満車になっていた
メイン会場から比較的遠い駐車場だけど、いつの間にか満車。しかも、皆さん車の中や外で自転車のユニホームに着替えていた。さらに、車の中にマイ自転車を積んできたらしく、着替え終わると組み立てや整備に余念がない。もちろん、ほとんどがロードバイクだ。
車と自転車で色を揃えるというお洒落
車と自転車で色を揃えるというお洒落
お気に入りのユニホームを着て観戦、というのは今では一般的なスタイルだけど、さらにマイ自転車を持って来られるのは市街地イベントならではだろう。1周14kmもある会場内を移動するのに便利だし、あと自転車のユニホームはあまりに身体にフィットしていて、それ単独ではやや着て歩きづらい、というのもあるかも知れない。

まだレーススタートの10時まで2時間以上あるけど、準備ができた人から愛車に跨がってすいーっと出発していった。僕は初めてで右も左も分からないけど、もう10年ここから歩いて観に来てます、みたいな顔してスタート/ゴール地点があるメイン会場に向かった。
とりあえず人の流れる方へ向かおう
とりあえず人の流れる方へ向かおう

メイン会場へ

レースがスタートしたらコースとなる道路を歩いて、メイン会場にやってきた。さすが自転車の大会、入ってすぐの場所に巨大な駐輪場があった。
駐輪場はいま見えている3倍くらいの大きさ
駐輪場はいま見えている3倍くらいの大きさ
しかもほとんどがロードバイク
しかもほとんどがロードバイク
メイン会場はスタート/ゴール地点を取り囲むように、自転車関係の企業のブースや地元商店の出店が建ち並んでいた。考えてみれば当たり前だけど、やっぱり自転車業界と地元地域にとってはフェスなのだ。
ブースエリアに自転車に乗った人がいても違和感がないほどの自転車濃度
ブースエリアに自転車に乗った人がいても違和感がないほどの自転車濃度
こういうところに飾られるのはやっぱり高嶺の花なのだろうか
こういうところに飾られるのはやっぱり高嶺の花なのだろうか
予想以上に食も充実していた
予想以上に食も充実していた
市街地レースとは言っても、周辺は農村地帯なので食べ物とトイレが心配だったけど、出店は想像以上の数が出ていて安心。食べ物が充実しているイベントは間違いなく楽しい。きっとジャパンカップ名物もあるんだろうけど、もちろん初めてなので何も知らない。トイレもあちこちに設置されていた。

これは想像していたより大規模なイベントだ。観客席などないので、観戦する場所を探そうとスタート地点に行ってみるも4重5重に人垣ができていて断念。
スタート地点はイスを持参した本物の常連さんでいっぱい
スタート地点はイスを持参した本物の常連さんでいっぱい
そのまま2、300m進んで、ちょうどスタート地点が見下ろせる坂の途中で観戦することにした。初めての観戦だけど、我ながらなかなかの場所をゲット!
横向いてる車の奥がスタート地点
横向いてる車の奥がスタート地点
そうこうするうち時間が迫ってきた。周りにも観客が増え、みんなスタート地点を見守っている。
反対側も観客がびっしり
反対側も観客がびっしり
なかなか派手なコスプレの観客もいた
なかなか派手なコスプレの観客もいた
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選手が近い!

そのとき、下の方から歓声が聞こえてきた。振り返ると、選手がウォーミングアップで坂を登ってきた!初めて見る生自転車選手である。
けっこうきつい坂道を談笑しながら軽々登ってくる
けっこうきつい坂道を談笑しながら軽々登ってくる
鼻の高い外人って何着ても似合うなあ
鼻の高い外人って何着ても似合うなあ
知り合いの選手に手を振ると笑顔で答えてくれるくらいの距離感
知り合いの選手に手を振ると笑顔で答えてくれるくらいの距離感
彼らが何を凝視しているかというと
彼らが何を凝視しているかというと
途中で自転車を止めて
途中で自転車を止めて
派手なコスプレのお姉さんと記念写真を撮っていた
派手なコスプレのお姉さんと記念写真を撮っていた
近い!観客と選手がいろんな意味で近い。こんな光景を間近で見られたらまた来年も!と思ってしまうだろう。お姉さんのコスプレも一層派手になるかも知れない。

レーススタート!

やがてウォーミングアップの選手たちも戻り、スタート地点が物々しくなった。どうやら選手の前に先導の車が走るらしい。
いつの間にか隊列が整っていた
いつの間にか隊列が整っていた
まず実況(?)を乗せた車が通り過ぎ、観客を煽って盛り上げる
まず実況(?)を乗せた車が通り過ぎ、観客を煽って盛り上げる
この車はパンクした選手にチーム関係なくタイヤ交換してくれるらしい
この車はパンクした選手にチーム関係なくタイヤ交換してくれるらしい
楽しいのは、こういった選手やチームと関係のない車のドライバーや乗っているスタッフもみんな、観客に手を振りながら通り過ぎて行くのだ。それに観客も声援で応える。なにこのピースフルなコールアンドレスポンス!観客もスタッフも、この日を待っていた、というような雰囲気が溢れている。

その直後に号砲一声!ついにレースがスタートしたらしい。
一団となって走り出した!
一団となって走り出した!
ウォーミングアップを見ながら「観客と選手が近い」と思っていたけど、このあと僕はもうひとつ別の意味で、というか物理的な意味で近いことを知る。
道路幅いっぱいになって登ってくる自転車の集団
道路幅いっぱいになって登ってくる自転車の集団
みんな真剣な顔でさっきまでの笑顔はもうない
みんな真剣な顔でさっきまでの笑顔はもうない
カメラ覗いててあまりに近くて驚いた
カメラ覗いててあまりに近くて驚いた
そして見よ!鍛え抜かれたこの凄まじいふくらはぎを!
そして見よ!鍛え抜かれたこの凄まじいふくらはぎを!
カラフルなウエアに身を包み、道幅いっぱいに広がった選手たちは、本当に手を伸ばしたら触れるくらいの目の前を通り過ぎて行く。近いなんてもんじゃない。観客が気をつけないとぶつかってレースを台無しにしそうだ。

選手が通り過ぎても安心するのはまだ早い。選手たちの集団の後を、報道カメラマンを乗せたバイク、そして各チームの監督やスタッフが乗った車が次々と追いかけて行くのだ。これは知らないと危ない。
各チームの車が数珠つなぎで選手を追いかける
各チームの車が数珠つなぎで選手を追いかける
最後にケガをした選手を収容するための救急車が通り過ぎると、観客が一斉に移動を始めた。選手たちが1周してくるまでの間に別の観戦ポイントに向かうのだろう。僕も、もう少し先まで歩いて行ってみることにした。
一斉に大移動が始まった
一斉に大移動が始まった
レースは11周、ゴールまでだいたい4時間くらいかかるらしいので、いろいろ歩きまわって場所を変えながら観戦した。スタート地点、平坦な道、急な上り坂など、好きに見てまわれるので飽きない。
湖沿いの平坦な場所に移動したり
湖沿いの平坦な場所に移動したり
いちばんの難所である急坂で観戦したり
いちばんの難所である急坂で観戦したり

観戦方法もフリーダム

コース沿いを歩いていると、観客の皆さんはそれぞれ思い思いのスタイルで観戦している。折り畳みの小さなイスを持ってきている人はもちろん、コース脇の空地にテントを張っている本格的な人々もいた。きない。
見た中でいちばん本格的だった人々
見た中でいちばん本格的だった人々
さらに進んで行くと、ところどころに食べ物の屋台が出ていた。お腹が減ったので何か食べようと思ったら、ちょうど選手たちが通り過ぎるタイミングと重なり、屋台の店員さんたちもみんな応援に行ってしまった。鍋を持って。
小腹が減った
小腹が減った
買おうと思ったら店員のおばちゃんが鍋持って外に
買おうと思ったら店員のおばちゃんが鍋持って外に
何とのどかなことよ
何とのどかなことよ
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コースの途中にダムがある

ところでこのコース、スタート/ゴール地点のすぐ脇にダムがある。レースも気になるけど、ダム好きとしてはこちらも見逃せない。まだゴールまでは時間もあるし、途中でダムを観に行った。
コース脇にある赤川ダム
コース脇にある赤川ダム
このダムは、栃木県が農業用の水を貯めるために1970年に建設した赤川ダム。アスファルトフェイシングフィルダムという、日本では10数基しか存在しない、割と珍しいタイプのダムだ。

土や岩を積み上げて、湖側の表面をアスファルト舗装することで水をせき止めている。
上流面が黒く舗装されているのがポイント
上流面が黒く舗装されているのがポイント
それにしてもこの子は痛そうだ
それにしてもこの子は痛そうだ
放流設備は、右岸側に自然越流式の洪水吐が設置され、湖の真ん中へんには取水塔が。ちょっとダム好きが見ればまさしく利水、しかも農業用水専用、と分かる雰囲気を醸し出している。
年季が入っていてなかなかの迫力の洪水吐
年季が入っていてなかなかの迫力の洪水吐
その先はすべり台のように下まで続いている
その先はすべり台のように下まで続いている
高さは17.5mとダムとしての下限(15m)に近いけど、長さが221mもあって割と大きく見える。天端とダム下を結ぶ階段があって、自由に行き来できるのが嬉しい。この日は天端が駐車場になっていた。フィルダムの上にこんなに車を停めてしまって大丈夫なのだろうか?
ダムの下と上を繋ぐ階段が2ヶ所もある
ダムの下と上を繋ぐ階段が2ヶ所もある
天端は駐車場と化していた
天端は駐車場と化していた
ダムを見ている間にも選手たちの集団は何度も横を通り過ぎ、レースは終盤になってきた。最後はゴール直前の攻防を見たい、と思ってゴール手前に向かって歩きはじめた。
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レース終盤!

途中で歩き回ったりごはん食べたりダム見たり、長かったレースもあと1周。ゴール地点を通り過ぎてコース上を歩いて行くと、同じようにゴール前を見たい人々で道路は埋め尽くされていた。リタイアしてゆっくり帰って来る選手とすれ違いながら進むと、ゴールまで300mの地点でようやく人が途切れた。ちょうど直線で見渡せるので、最後の観戦場所はここに決めた。
歩く観客の間をリタイアした選手がゆっくり通り過ぎる
歩く観客の間をリタイアした選手がゆっくり通り過ぎる
この場所で最後を見届けることにした
この場所で最後を見届けることにした
やがて、ずっと選手の集団の前を走ってレース状況を観客に伝えていた実況車が通り過ぎた。このとき、先頭が有力な日本人選手だということが分かり、周囲は騒然となった。「アラシロが先頭だって!?」皆口々に叫ぶ。
「現在アラシロ選手先頭でーす!」
「現在アラシロ選手先頭でーす!」
アラシロとは日本期待の星、新城幸也選手。世界最大の自転車レース、「ツール・ド・フランス」でも上位でゴールしたことがある「世界で戦える日本人」だ。これまで、ジャパンカップ19回の歴史の中で日本人の勝利は1回。ひょっとしたら、彼ならやってくれるかも知れない。

そんな期待が徐々に高まっていると、奥のコーナーから選手が飛び出してきた。白と赤のユニホーム!やっぱり新城だ!残り300m、新城先頭!(事件は現場で起きてるんだ!みたいなテンションで)

このとき、会場は興奮のるつぼとかした。「ゆきやー!」まわりの観客がみな、新城選手の名を口々に叫ぶ。
いま改めて見るとキツそうな表情だ
いま改めて見るとキツそうな表情だ
新城選手と直後につける外国人選手がものすごい勢いで通り過ぎる。その直後、すぐ後ろまで迫った10人くらいの集団が、前の2人を凌ぐスピードで駆け抜けて行った。このままゴールまで行ってほしい!
しかし、実はこのとき新城選手にはほとんど余力が残っていなかったらしい。結局レースは後ろの集団にいたオーストラリア期待の若手、ハース選手が優勝。新城選手は最終的に11位でゴール。残念だけど、心臓が高鳴る活躍を見せてくれた。
2位と3位は日本人選手が僅差で入った
2位と3位は日本人選手が僅差で入った

こんな楽しい観戦あったのか

初めて観戦に行った自転車ロードレース。右も左も分からなかったけど、独特の雰囲気やしきたりがあり、そしてそれ以上に自由な観戦のスタイルがあり、すっかり楽しんでしまった。来年は僕も駐車場から自転車で出発して、もっといろいろな場所で観戦したいと思っている。そしていつか本場ツール・ド・フランスを観に行きたくなってしまった。
また来年!
また来年!

ダムマニア展やります

自転車とはまったく関係ないのですが、11月19日から25日まで、神奈川県立相模湖交流センターというところで、「ダムマニア展」と名づけたダムに関する展覧会を行うことになり、なんと僕がプロデュースさせてもらうことになりました!

内容は写真や絵画、動画の展示、グッズの販売、そしてダムに関するトークライブの集中開催などです。


かつてない規模のダムイベントなので、興味のある皆さんぜひ来てみてください!詳細はこちらへ!
ダム界の歴史に残るイベントだと思います
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