特集 2011年11月11日

皮に包まれたうまいもの

まだまだ知らないうまいものがある。
まだまだ知らないうまいものがある。
「チーズモック」と「フレッシャー」。

なんのことだかわかるだろうか。実はこれ、どちらもうまいものなのだ。しかもどちらも皮に包まれている。

一つずつ紹介しよう。
行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

前の記事:鎌倉「穴場」スポット探訪

> 個人サイト むかない安藤 Twitter

まずは「チーズモック」

まだ見ぬうまいものを求めてやってきたのは神奈川県横須賀市。横須賀は以前近くに住んでいたこともあり、ちょくちょく訪れていたのだがチーズモックという名前は初めて聞いた。チーズはわかるがモックがわからない。
「県立大学」っていう駅は他にもありそうだけど意外とここだけらしい。
「県立大学」っていう駅は他にもありそうだけど意外とここだけらしい。
電車を降りてのファーストビュー。神々しいトラック。
電車を降りてのファーストビュー。神々しいトラック。
県立大学駅はその名の通り、近くに大学がある。駅を出ると目の前がゆるい下り坂になっていて左手にパン屋、右手に薬局。この感じ、なんだか懐かしい。もちろん以前住んでいたというわけでもないんだけど、誰かの若い頃の思い出が詰っていそうな空気感である。
駅前通り。自転車で下った思い出の坂道(想像)。
駅前通り。自転車で下った思い出の坂道(想像)。
駅前の通りを30秒ほど歩くと「チーズモック」はある。この通りで一番始めに目につく派手な建物なのでまず気づかずに通り過ぎることはないだろう。
看板のキャラはごぞんじ「チーズモッ君」。
看板のキャラはごぞんじ「チーズモッ君」。
来てみてまず驚いたのは、チーズモックが店名だったことだ。横に小さく「すえひろ」と書かれているが、よく見るとproduced byとなっていて店名はあくまで「チーズモック」。カレーという名前のカレー屋さんみたいなものだろうか。潔い。
メニューはもちろん「チーズモック」が一押し。あとはポテトなど揚げ物各種。
メニューはもちろん「チーズモック」が一押し。あとはポテトなど揚げ物各種。
食品サンプルは特注品だろう。なにせチーズモックを売る店はここ1店舗しかないのだから。
食品サンプルは特注品だろう。なにせチーズモックを売る店はここ1店舗しかないのだから。
それほど広いお店ではないので、入店して店長と向き合うと注文する他特にすることがない。
というわけでさっそく作ってもらいました「チーズモック」。
というわけでさっそく作ってもらいました「チーズモック」。
さっと広げた生地にレタス、肉、マカロニ、チーズなどを手際よく乗せていく。
さっと広げた生地にレタス、肉、マカロニ、チーズなどを手際よく乗せていく。
作り置きはしていないので注文してから3分ほど待つのだが、おかげで手にしたチーズモックは出来たてのアツアツだ。
これが「チーズモック」。ずっしり重い。
これが「チーズモック」。ずっしり重い。
めくると中ではチーズがとろけて肉とからまり祭り状態。これはチーズモック海軍カレー味。
めくると中ではチーズがとろけて肉とからまり祭り状態。これはチーズモック海軍カレー味。
包み紙を開けると溶けたチーズのいい匂いが襲いかかってくる。ああ、もう、いただきます。
はむ。
はむ。
もちもちの皮に大口あけてかぶりつくと中から特製ソースと肉と野菜がチーズでとろとろに絡み合ったうまい物体が口の中に飛び込んでくるのだ。こんなのうまいよそりゃ。

店長いわくチーズモックは皮が命なのだという。ポイントは鉄板に油を引かなくても焦げ付かない特製の生地。もちもちしているのになぜだか軽く、そしてちょっと甘い。確かに不思議な皮なのだ。

しかし皮以外にも食材一つ一つの味付けがすごくバランス良く練られていて、単にうまい!と言ってしまうには申し訳なくなる食べ物だ。なんだろう、まいりました!と頭を下げたくなる作品である。

きっかけは知り合いに頼まれて

「チーズモック」は中華料理店を経営していた店長が8年ほど前、商工会議所から頼まれて作ってみたのが始まりなのだとか。
今は息子さんに任せたという中華料理屋さんの方では肉まんが有名らしい。
今は息子さんに任せたという中華料理屋さんの方では肉まんが有名らしい。
「とにかくまったく新しいものをつくってやろうと思って」と店長。「知り合いだからさ、商工会も。頼まれたら、それなら見たこともないもの作ってやろうか、って思うでしょう」。

きっと商工会議所は中華料理屋の店長にお願いしてこれができてくるとは思わなかっただろう。
チーズモック「スモーク鴨」は中華風塩味に調理されたうまい鴨肉がどーんと入る。
チーズモック「スモーク鴨」は中華風塩味に調理されたうまい鴨肉がどーんと入る。
「この鴨、まず食べてみて」と渡された肉は優しい塩味で(これはいいものだ)と脳が判断した。
「この鴨、まず食べてみて」と渡された肉は優しい塩味で(これはいいものだ)と脳が判断した。
その鴨がチーズモックにイン。これがなぜかバランスを崩すことなくうまいからすごい。
その鴨がチーズモックにイン。これがなぜかバランスを崩すことなくうまいからすごい。
夢中でいただいてしまったが、なかなかのボリュームだ。2つ食べるともう晩ご飯いらない。

チーズモックは一つ350円。この値段でやっていけるのだろうか。こちらが不安になる。

「最近はさ、本気でやってないお店が増えたよね。ちょっとやって売れないとすぐたたんじゃう。それじゃあうまい物なんて出せるわけないんだよ」
優しい顔で厳しいこと言ってくる。
優しい顔で厳しいこと言ってくる。
店長の太田さんは中華料理屋が本職だったのだが、チーズモックを開発してしまったために中華のお店は息子に譲り、すでに8年くらいチーズモックにかかりきりなのだという。

「とことんまで味を追求してさ、売れるまで手を尽くすんだよ。それをしないでたたんじゃうお店が多すぎるんだ。まず死ぬ気でやってみろってんだ。」

確かに。

「チーズモックもさ、最初は不安だったよ。でも今ではイベントとか行くと、この前のなんて800食完売だからね。他は300とか500食が平均よ。一回食べるとさ、また食べたくなって来てくれるお客さんがいるのがうれしいよね。」
見えないところから突然話しかけてくるから油断できない。
見えないところから突然話しかけてくるから油断できない。
実は僕も以前お店をはじめて4年でたたんじゃった経験を持っているのだが、今日はその話はしなかった。

ところでチーズモックのモックは何かというと、試食段階でお孫さんに食べさせたところ、黙々と食べたことからモックと名付けたのだとか。厳しい職人も孫の前では目尻が下がるのかもしれない。

店長は他にもインターネットは恐ろしい、としきりに言っていたのだが、この記事自体インターネットなのでくわしくは書かないでおく。
「チーズモック」
横須賀市安浦町2
年中無休(正月は休むかも)
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次は「フレッシャー」

そのお店は小田急江ノ島線善行という駅の近くにある。
善い行いと書いて善行(ぜんぎょう)。
善い行いと書いて善行(ぜんぎょう)。
善行と言えば以前なんでも油で揚げてしまうお店を取材したことがある(参照:なんでもかんでも油で揚げてしまうお店)。この町なら人知れずうまいものがあっても不思議ではない。

今回紹介するお店はこちらである。
見事な角っこ感。
見事な角っこ感。
ここジョイライフというお店の看板メニュー、それが「フレッシャー」である。それにしてもここまで実態を想像できないネーミングも珍しい。
店頭には大きく「フレッシャーズ」の表記が。フレッシャーの複数形、それがフレッシャーズである。
店頭には大きく「フレッシャーズ」の表記が。フレッシャーの複数形、それがフレッシャーズである。
やきそば、ハンバーグ、くらいまではわかるがメキシコ、インドと国名を冠したものまであり謎は深まる。
やきそば、ハンバーグ、くらいまではわかるがメキシコ、インドと国名を冠したものまであり謎は深まる。
お店はガラス窓から中の様子が見えるようになっていて、おかあさんが一人で黙々と肉を焼いていた。
お店はガラス窓から中の様子が見えるようになっていて、おかあさんが一人で黙々と肉を焼いていた。
これがまたいい匂いなのだ。
これがまたいい匂いなのだ。
フレッシャーがまずなんなのかわからないので、先にお店の方にお話しを聞いてみた。そこでわかったこと。

・かつては藤沢市を中心にチェーン展開していたこともある
・フレッシャーの歴史は長く30年を越える
・年中無休

気合い入っている、ということだけはわかった。それではいざ、フレッシャーを、お願いします。
これがフレッシャーの皮である。一気に9枚焼ける。
これがフレッシャーの皮である。一気に9枚焼ける。
皮はよく見ると荒いメッシュになっていた。
皮はよく見ると荒いメッシュになっていた。
数あるメニューの中から、イチオシだという肉ヤキソバフレッシャーを注文。皮の上に刻んだキャベツと麺、そして生卵。
数あるメニューの中から、イチオシだという肉ヤキソバフレッシャーを注文。皮の上に刻んだキャベツと麺、そして生卵。
これらを一度ひっくり返してしっかり焼く。
これらを一度ひっくり返してしっかり焼く。
そのあと蒸す。この間におかあさんはお客と話をしに来る。
そのあと蒸す。この間におかあさんはお客と話をしに来る。
出来上がりである。
出来上がりである。
これがフレッシャーだ!
これがフレッシャーだ!
手にしたフレッシャーはアツアツで、想像以上に皮がパリパリしていた。巨大な焼き餃子かタコスか、広島風お好み焼きか、どれにも似ていて、そしてどれにも当てはまらない。

ならば食べて感じろ!
お!
お!
おお!
おお!
右の写真、前置きもなく登場してもらったのは友人である。

今回はたくさん食べる取材だったので助っ人として近所に住む友人に来てもらったのだが、彼、なんとフレッシャーの誕生と同じ年に産まれていた。なんというデスティニー。ちなみにフレッシャーも彼も1979年産まれである。

味はどうなのか

ところでフレッシャーである。味の話をする前にもう一つ出来てきたので冷めないうちに食べてしまおう。
こちらメキシコフレッシャー。プロレスの技みたいだ。
こちらメキシコフレッシャー。プロレスの技みたいだ。
おっ!これはまた…。
おっ!これはまた…。
むむ…!
むむ…!
フレッシャーは複雑かつ綿密な研究によって産み出された、先の「チーズモック」と違い、非常にわかりやすい味だった。単純明快に、美味い。何も言葉を選ぶ必要のない味である。メキシコフレッシャーは肉ヤキソバフレッシャーに比べ皮がさらにパリッとしていてほぼでかいタコスだった。
ものすごい手際の良さで次々とフレッシャーを仕上げていくおかあさん。
ものすごい手際の良さで次々とフレッシャーを仕上げていくおかあさん。
それを見つめる子供たち。
それを見つめる子供たち。
コチジャンカルビライスフレッシャー。これは中に入ったご飯がオコゲ状態になっていて肉のジューシーさをサクサクで受止めてくれる。
コチジャンカルビライスフレッシャー。これは中に入ったご飯がオコゲ状態になっていて肉のジューシーさをサクサクで受止めてくれる。
うはぅ!
うはぅ!
うまいうまいと立ったり座ったりしながら店の前でフレッシャーをほおばる僕たちに店主のおかあさんから声がかかる。

「最近のファーストフードはさ、味気ないじゃない?私もほら栄養士の資格もってるから、一つでバランスのいいものを食べてもらいたいわけ。でも定食だと手軽じゃないでしょう、だから片手で食べられるようにフレッシャーにして。」
!
「フレッシャーっていうのはフレッシュ、新鮮っていう意味よね。野菜とかいろいろ入っててしかも見た目も新しいってことでフレッシャー。もう20年やってるけどメニューも値段もそのまんまよ。だからたくさん売れるのはうれしいようなそうでないような、複雑。ほら、原価だって今ばかにならないじゃない。でもね、値上げするのもね、常連さんがいるわけだし」
!
「最近のお店はさ、作るところが見えなかったり匂いも出さなかったりするでしょう。それだとお客さんとのコミュニケーションがとれないから喜んでるかどうかわかんないわけ。それって味気ないじゃない。忙しくしてるけどやっぱりお客さんの声が聞こえると張り合いでるわよね。」

確かに。

今日わかったことは、美味いお店には語られるべきことがたくさんあるということだ。こうしてうまいフレッシャーと店主の語りと共に善行の夜は更けていった。
フレッシャーとオリジナル弁当のお店
「ジョイライフ善行店」
藤沢市善行2-7-1斉藤ビル1F
TEL 0466-82-2084

うまいものに人間あり

チーズモックとフレッシャー、どちらも文句なしに美味しかった。家から遠いがこれを食べるために電車に乗ってもいいと思うくらいである。

二つとも有名になってほしいような気もするが、でもそうなるとあのおとうさんとおかあさんは、きっとしゃべり疲れてしまうだろうな、と少し心配にもなりました。
こだわりの菜種油で揚げてある、というポテトとナゲットもわかりやすく美味しかった。
こだわりの菜種油で揚げてある、というポテトとナゲットもわかりやすく美味しかった。
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