特集 2012年7月18日

ダム界のワールドカップに参加した

「そうそう、最後にもうひとつあるんだ」
「そうそう、最後にもうひとつあるんだ」
個人的な話で恐縮だが、ダム愛好家を公言してから12年、ついに世界に向けてPRする機会を得た。

世界各国のダム専門家が集まる国際イベントが日本で行われ、なんとそこに参加することができたのだ。

僕が今までいちばん多くダムの記事を書いてきたこのサイトで、その模様を報告させてください。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:どうでもいいことを微速度撮影する

> 個人サイト ダムサイト

ダムのワールドカップである

今年6月、全世界が熱狂する、ICOLD2012京都大会が開催された。

ICOLD(アイコールド)とは世界のダム関係者、専門家が一堂に会する国際会議で、正式名称は 「国際大ダム会議」。年に1度、各国持ち回りで運営され、毎年開催される年次例会と、3年に1度開催される大会がある。1928年の設立以来、日本では初開催、しかも今年は大会の年だ。
ついにこのときがやってきた
ついにこのときがやってきた
メイン宿泊施設のホテル。もしここに飛行機が落ちたら世界のダム技術は50年戻るだろう
メイン宿泊施設のホテル。もしここに飛行機が落ちたら世界のダム技術は50年戻るだろう
オリンピック、サッカーワールドカップと並ぶ一大イベントである(ダム愛好家にとっては)。そしてオリンピックなどと同様、参加の壁も高く、業界関係者以外は会場に入ることすら叶わない。

しかし、開催国のダム愛好家として、ここは何としても会場に潜り込まなければならない。

3年くらい前、2012年の京都大会を知ったときから僕はそう決意していた。当時はどんなイベントなのかまったく分からなかったけど。

その後、日本のダム関係者の方々に会うごとに「ICOLD行くんですかー、僕も行きたいんですよえへへ」なんてギラギラした目で話しているうち、とある参加団体から「ウチを手伝ってよ」とお誘いいただいた!

関係ないのに入り込めた!

その瞬間、僕は自分をマイケル・J・フォックスが演じた映画「摩天楼はバラ色に」の主人公に重ね合わせた。

京都の皆さん、大変です

世界各国のダム専門家が一堂に会する。それも日本で。などという(ダム愛好家にとっては)とんでもないことが起こっているにも拘らず、関係者以外入れないこともあって、おそらく一般にはまったく知られていないだろう。

そこで、ICOLDの開幕に先立って、日本のダム専門家とダム愛好家が協力して、一般向けのPRイベントを行うことになった。

場所は京都駅である。
こんな公共スペースでダムのイベントなんてやっていいのだろうか
こんな公共スペースでダムのイベントなんてやっていいのだろうか
なんと、京都駅構内にあるイベントスペースを借りて、ダムの魅力を伝え、そして、いま京都でものすごいことが行われようとしている、ということをPRするイベントを開催した。
会場はこのエスカレーター登った2階
会場はこのエスカレーター登った2階
ものすごい人通りの場所だ!
ものすごい人通りの場所だ!
会場ではダムの写真や本などの展示と、それからダム愛好家や専門家によるトークライブが行われた。僕も出演させてもらい、ダムがどれだけかっこいいかを駅という公共の場でプレゼンした。
こんな人目につく場所でダムの写真出して大丈夫か
こんな人目につく場所でダムの写真出して大丈夫か
ダムカードやダム関連の本も展示
ダムカードやダム関連の本も展示
あのダムかっこいい、とかこのダム変だ、とか
あのダムかっこいい、とかこのダム変だ、とか
しかしこのイベントのすごいところはこのあとだ。企画した人がICOLDの運営にも携わっているというコネもあって、日本の専門家だけでなく、ICOLDのために来日した海外の専門家の方まで出演してくれたのだ。

そして極めつけは日本大ダム会議の会長、そして世界大ダム会議の総裁までサプライズ出演。

これを分かりやすくサッカーに置き換えてみよう。ワールドカップの開幕前夜に、実行委員とファンが企画したイベントが行われ、そこに各国代表監督と、日本サッカー協会や国際サッカー連盟の会長まで訪れてくれた、という感じである。
この方はスイスダム協会のトップで、このイベントが終わったあと僕が以前に行ったスイスのダム</a>の話をさせてもらうという至福の時間を過ごした
この方はスイスダム協会のトップで、このイベントが終わったあと僕が以前に行ったスイスのダムの話をさせてもらうという至福の時間を過ごした
いままで見たことないかっこいいダムをたくさん紹介してダムマニアの度肝を抜いたアメリカの専門家
いままで見たことないかっこいいダムをたくさん紹介してダムマニアの度肝を抜いたアメリカの専門家
なぜこの2人がここに、という国際大ダム会議総裁(左)と日本大ダム会議会長
なぜこの2人がここに、という国際大ダム会議総裁(左)と日本大ダム会議会長
いつの間にかものすごい数の観客が
いつの間にかものすごい数の観客が
ことの重大さが分かってもらえただろうか。…僕は未だに何が起こったのか理解できていない。

ひとつだけ確実に言えることは、ダム業界はかなり柔軟だということだ。コンクリートのように固そうなのに。

いよいよICOLD開幕!

後日、いよいよICOLDが開幕した。場所は国立京都国際会館、いわゆる京都議定書が採択された由緒ある会場である。

ここではメインである国際会議と、各国企業や団体が出展するブース展示が行われる。僕が参加させてもらったのも展示の方だ。

日頃からいろいろお世話になっている「日本ダム協会」ブースの一角を借りて、「日本のダム愛好家の活動」を紹介する展示をした。具体的には、愛好家たちが撮ったダム写真の展示、愛好家たちが作った本やDVDの展示、愛好家のアイデアが元で作られたダムカードの展示、愛好家が作ったダムアプリの実演などなど。
各国の企業や団体がブースを出している
各国の企業や団体がブースを出している
ダム愛を押し出した我らがダム愛好家ブース
ダム愛を押し出した我らがダム愛好家ブース
壁一面のダム写真と本やDVDを展示
壁一面のダム写真と本やDVDを展示
そして外国人にウケまくった「どこでもダム</a>」
そして外国人にウケまくった「どこでもダム
ブースには各国から来日したダムや河川の専門家が大勢立ち寄ってくれた。なかでもグーグルマップ上の好きな場所にダムを造れる「どこでもダム」が分かりやすくて大人気だった。
日本人にも大受けだった。こちらの皆さん日本ダム界の重鎮である
日本人にも大受けだった。こちらの皆さん日本ダム界の重鎮である
ところで、今回とても大きな発見があって、来場した各国の関係者に聞いたところ「ダム愛好家」という存在は海外にはいないらしい。どの人も、僕たちが専門家ではなくただのダムファンであるということを知ると、口々にアメイジング、とかサプライズ、とかアンビリーバボー、などと分かりやすく驚いていた。あるアメリカダム界の偉い人は、帰国したらダム愛好家の存在を報告する、とまで言っていた。

ダム愛好家の皆さん、僕たちの趣味は世界の最先端を行っているよ!
今回いちばんスペースが大きく目立っていた中国の三峡ダム模型
今回いちばんスペースが大きく目立っていた中国の三峡ダム模型
なんとこの模型、実際に放流するのだ
なんとこの模型、実際に放流するのだ
ブースエリアの前にはステージがあって、希望者はここで15分間のプレゼンをすることもできる。

こんなチャンスはない!と、僕も世界中のダム関係者を前にプレゼンさせてもらうことにした。生まれて初めての同時通訳付きである。
ワンフレーズごと英語に同時通訳してもらうという贅沢
ワンフレーズごと英語に同時通訳してもらうという贅沢
内容を簡単にまとめると、

日本には大勢のダム愛好家がいる。活発に活動していて、ダム業界ともうまく付き合っている。おかげでちょっとしたブームが起き、本やDVDが出たり、テレビで取り上げられたり、ダムカードが誕生したりした。皆さんの国ではどうですか?もしダム愛好家が皆さんの国に行った際は自慢のダムを見せてね。

というようなことを、実例を挙げながら喋った。

どうしてもやってみたくて、最後にスティーブ・ジョブズを真似して「Just one more thing」を入れてみたけどあまりウケなかった。

しかし世界のダム関係者の前でダム愛好家について話せたことは感動した。終了後、何人かの外国人に握手を求められてさらに感激。正直言って、僕のダム好き物語としては「第一部・完」と言っていいほどの満足感である。
ブース運営も(言葉分からないけど)楽しかった
ブース運営も(言葉分からないけど)楽しかった
こうして4日間の会期が過ぎ、ICOLD2012は閉幕した。準備の段階から初めての経験ばかりで、大変だったけど楽しくて、終わった後の脱力感もすごかった。もうこんな経験はできないかなと思うけど、ICOLDは2013年にアメリカのシアトル、2014年にインドネシアで年次例会、そして2015年にノルウェーで次の大会と続いて行く。

なので、こういう機会を与えてくださったダム業界の方々に感謝しつつ、2015年に向けてのアピールをそろそろ始めようかな、と思っている。
本会議場の方にも行ってみたけど当然なんの話し合いなのか分からず退散
本会議場の方にも行ってみたけど当然なんの話し合いなのか分からず退散

愛好家冥利に尽きた

ここ1、2年はずっとこのことを考えていて、今年に入ってからは準備で大変だったので終わったあとの脱力感はすごかった。

何でも長く続ければそれなりの成果が出ると思うけど、こと日本のダム愛好家とダム業界に関してはお互いをいい意味で利用し合えていて、楽しい関係が築かれていると思う。というわけで、みなさんもぜひこの機会にダム好きになってみたらどうかと思うのです。
終了して撤収になったら三峡ダムが速攻でぶっ壊されていた
終了して撤収になったら三峡ダムが速攻でぶっ壊されていた
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