特集 2012年8月2日

日本一知名度の低い流山線に乗ってみた

ぶらり途中下車のちい散歩
ぶらり途中下車のちい散歩
千葉県松戸市の馬橋駅から流山市の流山駅までをつなぐ全線6キロ足らずの流鉄流山線は、日本の鉄道会社で唯一、公式のホームページを持たない。そんなこともあり、地元の利用者や鉄道ファン以外にはあまり知られておらず、日本一知名度が低いといえるかもしれない。 かくいうぼくもよく知らなかった。 このIT全盛の時代に、インターネットによる情報発信に血道をあげる鉄道事業者が多い中、まさに我が道を行くといった心意気を感じる。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

前の記事:隣の駅が近いところは最短で何メートルぐらい?

> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

常磐線から見えるなぞの電車は何か?

常磐線の快速電車に乗って松戸を過ぎたあたり、ものすごい勢いで流れ去る風景の中に、独特な形の電車が止まっている駅が一瞬だけ見える。これが流鉄流山線だ。
あの電車はなに?
あの電車はなに?
目を凝らすと、2両編成のカラフルな可愛らしい電車が見える。並行して走る常磐線や地下鉄千代田線のような「首都圏の巨大な人口を輸送する鉄道車両」といった雰囲気はない。どちらかと言うと、鄙びた田舎を走るローカル線のような佇まいである。
馬橋駅は上野から常磐線で30分ほどの距離なので、都心にも近い。そんな都会に過疎地のローカル線のような電車が停まっていると、あれ?と思ってしまう。スーツで地下足袋をはいているような、そんな違和感がある。

大きな地図で見る
流鉄流山線とは一体どんな鉄道路線なのか。実際に乗りに行ってみた。

自動改札がない流山線

流山線の馬橋駅はJR馬橋駅の横に寄り添うようにある。
この流山線で一番おもしろいのは、PASMOやSuicaなどICカード乗車券がいまだに使えないということだろう。いまだにというよりも、導入する予定が無いらしい。
Suica・PASMO使えません!
Suica・PASMO使えません!
したがって、電車に乗るためいちいち切符を買わなければいけない。
一日乗車券のような割引切符の類はない
一日乗車券のような割引切符の類はない
「電車に乗るため切符を買う」という行為。最近あんまりやらなくなったので逆に新鮮でもある。
ICカード乗車券が使えないということはどういうことか? それはすなわち自動改札が無くてもいいということだ。したがって、改札の風景もおのずとこんな感じになる。
切符に入鋏してくれるともっと雰囲気出るんだけど
切符に入鋏してくれるともっと雰囲気出るんだけど
これが人口48万人超の松戸市を走る鉄道駅の風景とは思えない。 しかしよく考えると、駅の風景なんて30年前はどこもこんな感じだった。変ってるのはこっち側の方なのだ。

車両一台ごとに愛称がある

流山線の電車が入ってきた
流山線の電車が入ってきた
しばらくすると、馬橋駅のホームにオレンジ色の電車が入ってきた。ヘッドマークの部分には「流星」と書いてある。流山鉄道の電車は1編成ごとにこのような愛称がついていて他にも「あかぎ」や「流馬」などの電車がある。
流鉄はもともと、西武鉄道の車両として活躍していた電車の車両を譲り受けて使っているらしい。
電車に興味のない人にとっては「電車なんてどれも同じだ」と思いがちだけれど、こうやって色分けして名付けることによって、電車自体に個性が芽生えてくるし、親しみもわく。命名するって不思議だ。

マンションの一階が駅のホーム

馬橋駅の隣、幸谷駅は駅のホームがマンションの一階にある。ターミナル駅はデパートと駅が直結していたりするけれど、流山線は駅とマンションが直結している。
駅の看板がなければ完全にマンションのエントランスっぽい
駅の看板がなければ完全にマンションのエントランスっぽい
最近は地下鉄駅の出入口直結のマンションなども増えてきているとはいえ、マンションの1階がそのまま駅になってるのはやっぱりめずらしいながめだ。
でもよくみると1階はホーム
でもよくみると1階はホーム
ひらがなのフォントが昔の国鉄っぽい
ひらがなのフォントが昔の国鉄っぽい
住居と駅が直結しているのは幸谷駅だけではない。その隣りの小金城趾駅は団地と駅が直結している。
団地の1階部分にあったマツモトキヨシは閉店していた
団地の1階部分にあったマツモトキヨシは閉店していた
マンションや団地に鉄道が直結してるって、子供の頃に思い描いた未来の住宅がそうなってたような気がする。
たしか「21エモン」でも、最新設備の整った「ホテルギャラクシー」には高速道路が直接乗り入れてた。
そんな未来が、いつの間にかローカル線の古色蒼然とした風景となっている。不思議だ。2012年の現在は、過去の未来をすでに超えている。なんて言うと、なんかうまいこと言ったふうに聞こえるけど、普通のことしか言ってない。

松本清記念館にはいったい何があるのか?

ところで、小金城趾駅の駅周辺の施設に「松本清記念会館」というものがあるらしい。松本清。そう、あのドラッグストアチェーンの「マツモトキヨシ」の創業者だ。
残念ながら駅の団地の下のマツモトキヨシは閉店してしまっているけれど、近くにあるはずの松本清記念会館には「記念会館」というほどなので、きっと松本清に関する貴重な資料などを展示しているかもしれない。これはぜひ見ておきたい。
記念会館までの道のりを聞いたインディーズ系のコンビニ、営業時間が7時から11時。
記念会館までの道のりを聞いたインディーズ系のコンビニ、営業時間が7時から11時。
松本清はマツモトキヨシを創業しただけではなく、千葉県議会議員や松戸市長などを歴任し、松戸市長時代には市役所に「すぐやる課」を設置したことなどでも有名な人だ。松戸市に「小金清志町」や「小金きよしヶ丘」なんて名前の冠した地名が残るぐらい地元では慕われている。
それほど慕われているのであれば、記念会館もさぞ立派であるに違いない。
小金城趾駅から15分ほど歩くと松本清記念会館はあった。
あれ?
あれ?
ぼくの思ってたやつとはなんだか違う雰囲気……。
いやいや、1階は飲食店で2階が松本清の偉業を称える展示をしている資料館だったりするのかもしれない。しかし、ぐるっとまわってみても、入口が見当たらない。
定食屋の開店準備中のおばちゃんに聞いてみた。

--あの、ここ松本清記念会館ってなってますけど……中どうなってるんですか?
「あ? あぁー、中ね、なんにもないよ」

--え、記念会館って名前だけですか?
「そう、なんにもないよ、ものおきになってるだけ」

--資料が展示してあるとかそういうわけじゃないんですか?
「あぁー(首を横にふって)なんもない、なんもない」

--そうですか……ぼくみたいに間違えてきちゃうひといませんか?
「いやー、それは居ないけど、アハハハ」
お忙しいところ申し訳ない
お忙しいところ申し訳ない
「松本清記念会館」とは、建物の名前が「松本清記念会館」というだけの雑居ビルだった。
もし、行こうと思われた方はお気を付けいただきたい。

みりんのふるさと、流山へ

流山線も小金城趾駅までは松戸市で、それより先は流山市となる。
川を越えると流山市
川を越えると流山市
終点の流山駅は「関東の駅百選」に選ばれた駅だ。その選定理由がふるっていて「東京近郊にありながらローカル色のある駅」だかららしい。
東京から1時間以内で来れるとは思えない地方都市っぽさ
東京から1時間以内で来れるとは思えない地方都市っぽさ
流山市は江戸時代、町の西側を流れる江戸川の水運を利用した醸造業がさかえ、とくにみりんの製造は現在でも、キッコーマンのみりん工場が市内にある。
誇らしげに駅に飾ってあるみりん
誇らしげに駅に飾ってあるみりん
実は流山駅の一つ前の駅平和台駅にも立ち寄ったのだけど、そこにもみりんが飾ってあった。
下の方にみりんが展示してある
下の方にみりんが展示してある
流山市のみりんに対する並々ならぬ思いを感じつつ。ひとまず、古い建物が残っているという市内に向かって歩いてみた。
太くて緩くカーブしている道を市内に向かって進む
太くて緩くカーブしている道を市内に向かって進む

月曜日は休みが多い

まずは国の登録有形文化財となっている「見世蔵」に向かった。観光案内板によると、ここは明治時代に建てられた建物を利用した万華鏡のギャラリーになっているのだという。
やってなかった
やってなかった
やってなかった。月曜日は休みらしい。
でも、建物が古そうなのはわかったので良しとしたい……とやせ我慢をしつつ、向かいの和菓子屋さんに立ち寄ってみた。こちらの和菓子屋さんの建物も結構古い。
負けず劣らずけっこう年季が入っている和菓子屋さんの建物
負けず劣らずけっこう年季が入っている和菓子屋さんの建物
中でもなかを買うと、ご主人が「観光ですか?」と話しかけてくれた。
ぼくは流鉄に乗るのが目的だったけれど、市内もちょっと見ようかと思った旨を伝えると「そうですか……月曜日だとどこも開いてないでしょう?」と心配されてしまった。
観光施設はたくさんあるけれど、月曜日はやってないところがおおい
観光施設はたくさんあるけれど、月曜日はやってないところがおおい
さっきの「見世蔵」も月曜と火曜が休み、博物館も月曜が休み、小林一茶と縁の深い商家を再現した一茶双樹記念館も月曜日が休み……と流山市の観光施設は軒並み月曜休みが多く、なぜかご主人が申し訳なさそうにしていたので逆にこちらが恐縮してしまった。

緩いカーブの道のひみつ

ご主人に「流山駅から緩いカーブの道を通って、みりん工場の横の細い道を抜けて来た」と伝えると「あの道は昔、工場への引き込み線があったんですよ」と教えてくれた。
なるほど! 駅から工場に向かってあったあの緩いカーブの道は引き込み線跡だったのか!
引き込み線あとの道
引き込み線あとの道
以前「あやしい形の道はたいてい元水路が多い」という記事を書いたことがあったけれど、不自然な形の道は鉄道線路の跡という例も少なからずあるのだ。
まさかこんなところで元線路の道に気づくとは思いもよらなかったので素直に驚いた。

がんばれ流山線

引退した「青空」が見える
引退した「青空」が見える
流山線沿線には流山市の古い町並みだけではなく、流山線の電車そのものが東京近郊とは思えないローカル感を感じる事ができて、乗っているだけも楽しかった。
途中、杖をついたおばあちゃんが電車に乗り遅れそうになったとき、運転手がドアを閉めるのをちょっと待ってくれていた。ローカル線の優しいところを見た気がした。
流山線は、つくばエクスプレスが開業して以来、乗客数の減少が続いているらしいけれど、このどこか懐かしい雰囲気は何ものにも代え難い。ぜひこれからもこの姿を大切にしてほしい。
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