特集 2012年10月21日

書き出し小説大募集

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。

(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。



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書き出し小説大募集

書き出し小説。
それは文字通り、書き出しだけの小説作品である。

作者は物語の冒頭だけを提示し、その後の展開はすべて読者にゆだねられる。

完成された小説がひとつの物語しか語り得ないのに対して、書き出し小説は読み手の想像力次第で、無限のストーリーを読み解くことができる。

また冒頭以外読む必要がないので、時間もほとんど掛からない。

書き出し小説は時間に追われながらも、創作の悦びを忘れない現代人にとって、まさに待望の文学形態と言えるだろう。

当文学賞では、諸君からの書き出し小説作品を広く募集する。年齢国籍その他資格は一切問わないで、どうかふるってご参加いただきたい。

書き出しの秘訣

しかしいくら書き出しだけの小説と言っても、いざ執筆に取り掛かってみるとかなり難しいことが分かる。
実際、物語の冒頭は作者をもっとも苦しめる作業とも言われている。

では、書き出しの秘訣とはなんだろうか?
有名小説の冒頭をヒントに考えてみよう。
トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
(川端康成「雪国」より)
吾輩は猫である。名前はまだない。
(夏目漱石「吾輩は猫である」より)
メロスは激怒した。
(太宰治「走れメロス」より)
いきなり現れる、一面の雪景色!
唐突に明かされる、語り手の意外な正体!
理由もなくキレる、この時点ではまったく知らない人!

さすがに文学史に燦然と輝く名作だけあって、どれも凄まじいまでの求心力を感じる冒頭である。
やはり書き出しには、読者のハートを一瞬で掴むアイデアと描写力が必要のようである。

しかしここで注意点がひとつ。
書き出し小説はあくまで書き出しのみであり、以後の記述は固く禁じられている。
ということはつまり、作者はその冒頭だけで読者に豊かなイマジネーションをもたらし、しかも同時にある種の読後感を与えなければならないのだ。

はじまりつつ、終わる。
冒頭だけで、作品を成立させる。

果たしてそんな離れ技が可能なのだろうか…?
だがその高みを越えなければ、文学の明日はない。

書き出し小説の作例

実は当企画をはじめるにあたり、私は某サイトにおいて実験的に同じ趣旨の募集を行ったことがある。
集まった投稿作品を通読し、私はたしかな手応えを得た。

「書き出し小説、全然アリじゃない!!」

ではこの難題を見事クリアし、いみじくも文学の可能性を切り拓いた書き出し小説家たちの秀作を紹介しよう。
店長の自転車が盗まれることは、一度や二度ではなかった。
(神尾良徳作)
男湯から母が出てきた。
(スエヒロ作)
作務衣でパジャマパーティーに来たのは間違いだった。
(ほかほかまんじゅう作)
司会者がケーキ入刀を告げた。花嫁はスッと日本刀を抜き取り、上段の構えをとった。
(Jimmy Tosh作)
「日本の歌をひとつだけ知ってるわ」そう言った彼女がうたった歌はかに道楽の歌だった。
(林雄司作)
列車の窓から見える女子高の体育祭。うん、もう少し生きてみよう。
(TB Resuscitation作)
※そのほかの秀作はこちら。
書き出し小説
書き出し小説2
どの作品も名作の冒頭に勝るとも劣らない求心力を備え、かつその簡潔な文章だけで確固たる世界観と豊かな物語を表現している。
凝縮された表現はそれだけで深い読後感を与えることも分かった。

心配は杞憂に終わった。

冒頭だけで作品は成立する。
この大胆にして虫のいい定義を、私はここに断言する。

お待ちかね応募要項

ここまでの解説を読み飛ばし「ご託はいいから早く書かせろ!」という諸君も多いことだろう。
諸君らの情熱は、痛いほど伝わってくる。

それでは早速、応募要項を説明しょう。

以下の投稿フォームに作品と必要事項を記入、同意事項を確認した後、速やかに投稿していただきたい。
ただ、それだけである。
まさに書き出し小説にふさわしい、お手軽にして簡潔な要領である。

なお作品の発表は月3回。その月の最終発表では月間の優秀作を選出し、半年に一度の大賞も予定している。
半年に一度の大賞決定は、あからさまに芥川賞、直木賞を意識している。

私からは以上である。

では溢れる情熱とイマジネーションを胸に、
貴方だけの物語、その扉を開いて欲しい!

力作お待ちしております。
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