特集 2012年11月2日

個展をひらいてみたらたいへんだった

準備が終わらない!!!
準備が終わらない!!!
以前「写真集を自分で作ってみたらたいへんだった」という記事を書いた。いわゆる同人誌を作ってみた顛末をレポートしたものだ。

今回は、いわゆる写真展を自分で開いてみた様子を書いてみたい。たいへんだった。ぼくが、というよりぼくの友達が。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:あの「ハトヤ」に行ってみた

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アーティスト気取りか!

ぼくはいちおう写真集を何冊か出版しているので「写真家」と名乗ってもいい人間なのだと思う。

写真家といえば写真展だ。ここはひとつアーティスト気取りで個展なんかを開催してみちゃったりなんかしようではないか。
本記事が公開された現在、まさに開催中です。2012年10月31日~11月4日(日)、みなとみらいギャラリーで。詳しくはこちら</a>。
本記事が公開された現在、まさに開催中です。2012年10月31日~11月4日(日)、みなとみらいギャラリーで。詳しくはこちら
といっても、ぼくが今回チャレンジしたのは写真家としては、なんちゃって写真展だ。ほんとうの写真家ならば、ギャラリーと契約をして、売るための作品を披露するために個展が開かれる。つまりギャラリー運営者が全面的にバックアップしてくれるものだ(たぶん)。

しかし、ぼくとそんな契約をしてくれるギャラリーがいるはずもないので、ぜんぶ自分でやらなければならない。場所を貸すだけのギャラリーにお金を払い、あとは全部自分で。

いやー、ほんとうにたいへんだった。友達が。

まず、どの写真にするかで2ヶ月かかった

告知ポスター。タイトルは「日本の美しい景観」というふざけたものにした。
告知ポスター。タイトルは「日本の美しい景観」というふざけたものにした。
写真展でみなさんにお見せするのは、主にこのデイリーポータルZで記事にしたものたちだ。つまり、工場とかジャンクションとか高架下建築とか。あともちろん団地もね。
ハードディスクにたくさんの写真データ。
ハードディスクにたくさんの写真データ。
ぼくはほんとうに整理が苦手な人間で、写真データのありかもしっちゃかめっちゃかだ。同じようなデータがあっちにもこっちにもあったりして、お目当てのものを探すのがたいへん。

ただそのおかげで、ある1台のハードディスクがダメになったとき、他のものの中に散逸しているものたちから復元することができたことがある。いわゆる冗長性というやつだ。えっへん。

えっへんじゃないよ。そのおかげで、写真選定がちょうたいへんだった。全てのデータを揃えるのに2ヶ月かかった。反省した。

で、そのデータがまた大きすぎてやっかいなのだ。

2Gを越えるデータはフォトショップ形式では保存できないということを知った

1枚3.76GBの写真。なんだそれ。
1枚3.76GBの写真。なんだそれ。
写真展となれば、とうぜんプリントするわけだ。プリントとなるとwebに載せるのよりも高いクオリティが必要とされる。まずは解像度がある程度なければならない。

解像度自体は問題ない。なぜなら、工場やジャンクションのあまりのかっこよさにパノラマ合成をして撮ってきたからだ。
意図せず横28096ピクセルという写真を作ってしまった。2億5千万画素だ。
意図せず横28096ピクセルという写真を作ってしまった。2億5千万画素だ。
ダイナミックな曲線美を収めたいという歪んだ情熱のほとばしりが、ぼくをしてパノラマ撮影をさせたのだ。こんな超高解像度の写真を作りたかったわけではない。おかげで今回プリントするにあたって十分すぎるクオリティが確保できた。(しかしこのことが逆にあとで裏目に出る)
この写真、元は計40枚の、部分部分を連続して撮ったこういうわけの分からない写真群を…
この写真、元は計40枚の、部分部分を連続して撮ったこういうわけの分からない写真群を…
スティッチソフトと呼ばれる、画像をうまいことつなげてくれるアプリケーションに放り込むことで完成する。
スティッチソフトと呼ばれる、画像をうまいことつなげてくれるアプリケーションに放り込むことで完成する。
一枚一枚が、このように自動的にうまいこと歪ませられて、きれいに繋がっていくのだ。便利だなー。
一枚一枚が、このように自動的にうまいこと歪ませられて、きれいに繋がっていくのだ。便利だなー。
そうしてできたのがこれ。清水いはらインターチェンジ。すてきー!(大きな画像はこちら</a>)
そうしてできたのがこれ。清水いはらインターチェンジ。すてきー!(大きな画像はこちら
保存したり読み込んだりするだけで数分かかる。高解像度も行きすぎるとやっかいだ。

そんなこんなで、見せたい写真のデータを用意した。「あれも見せたい、これも見せたい」と悩んだ。

で、どのぐらいの大きさにするかを決めなければならない。
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なるべく大きく!

無駄に超高解像度でかなり大きくできることが「せっかくやるなら大きくプリントしたい」という情熱を加速させる。

しかも会場がでかいのだ。そのことがさらに「でかくしたい欲」を甘やかす。
かんたんな図面を書いて大きさと枚数を検討。人物モデルを165cmにしたのは自分の身長がこれだから。
かんたんな図面を書いて大きさと枚数を検討。人物モデルを165cmにしたのは自分の身長がこれだから。
上は、うきうきしながらレイアウトを検討した図面。解像度にかまけて、この時点ですでに「横2500mm」というプリントサイズを想定している。

こうなると自宅のプリンタで印刷というわけにはいかない。いわゆる「プロラボ」と呼ばれる写真のプリントなどを行うサービスに依頼しなければならない。

そうなるとお金がかかる。でも「でかくしたい欲」が先走る。コスト度外視の無謀だ。(結論から言うと、今回全てのプリントでちょうど100万円かかった。明日からどうやって暮らそう…)

ラボの出力機と、ぼくが使っているパソコンの色味とのマッチング、いわゆる「キャリブレーション」という、古くて新しい問題にもてこずったのだが、その作業は退屈なので省略する。ただ「眠れない夜が続いた」とだけお伝えしておこう。
眠れない夜の末、一枚工場の写真をテストプリントに出した。その結果が到着。どきどき…
眠れない夜の末、一枚工場の写真をテストプリントに出した。その結果が到着。どきどき…
おお!
おお!
おおお!
おおお!
おおおおおおー!良い感じだ!
おおおおおおー!良い感じだ!
幸いなことに、テスト結果は上々。色味も予定通りだ。

テストがうまくいったこともあり、「でかくしたい欲」に加え「たくさん作りたい欲」がその鎌首をもたげる。
いいなー!プリント楽しいなー!
いいなー!プリント楽しいなー!
テストプリントしたのはこの工場夜景。すてきだよねえ。(大きな画像はこちら</a>)
テストプリントしたのはこの工場夜景。すてきだよねえ。(大きな画像はこちら
結果、プリント枚数は実に50枚!いずれも横幅1000mm~2400mmという大きさだ。上の写真も、本番では約2倍の大きさにした。来月から本気の倹約が必要だ。

さて、50枚分のプリント発注し、いよいよそれが完成した!
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いやな予感がしてきた

ラボにバンで乗り付け、ていねいに梱包された写真50枚を慎重に積み込む。
ラボにバンで乗り付け、ていねいに梱包された写真50枚を慎重に積み込む。
ジャンクションの写真を積んで、ジャンクションを走る!うきうき。
ジャンクションの写真を積んで、ジャンクションを走る!うきうき。
テストプリントの満足な出来映えを思い出しながら、うきうきして本番プリントを受け取りギャラリーへと搬入する。
ギャラリーの入っている「クイーンズスクエア」地下駐車場。うきうき。
ギャラリーの入っている「クイーンズスクエア」地下駐車場。うきうき。
荷物用エレベーターで運ぶ。うき…うき…?あれ?
荷物用エレベーターで運ぶ。うき…うき…?あれ?
はやくギャラリーに設置してじっくり鑑賞したい!といううきうき気分も、この搬入用エレベーターで水を差された。

エレベーターがぜんぜん来ないのだ。

上の写真のように丁寧に梱包してはいるが、写真は非常にデリケート。無理して一辺に運ばず、小分けにして数往復することにした。

搬入開始時間は朝9時。予定では10時頃には搬入終わっているはずだったが、気がつけばなんだかんだでお昼に。
お昼の時点で、まだこんな。設置完了は19時のはずだが…これはまずいぞ!
お昼の時点で、まだこんな。設置完了は19時のはずだが…これはまずいぞ!
これはまずい。間に合わない。なんせ、今回借りたギャラリーは全部で3箇所の展示場所があり、作品数もがんばりすぎて50枚もあるのだ。

これは助けを借りるしかない。

心優しい方々

Twitterで手伝ってくれる方を募るという他力本願暴挙に。
Twitterで手伝ってくれる方を募るという他力本願暴挙に。
実は明日11月3日はぼくの誕生日。40歳になる。

もうこの歳になると「臆面もなく」という言葉が似合うようになる。自分の展覧会だっつうのに、間に合わなくなったらぬけぬけと手伝いを募集する。ほんと臆面もない。

しかし、世の中には心優しい好奇心あふれる方々がいらっしゃるのだ!
平日にもかかわらず駆けつけてくれた方々!
平日にもかかわらず駆けつけてくれた方々!
しかもてきぱきと!
しかもてきぱきと!
この日は平日だったが、たまたま休みだったという方々が駆けつけてくれた。

うれしい。ありがとう。ほんとうにありがとう。

しかもてきぱきとしてすばらしい手伝いっぷり!というか、ぼくのほうが手伝い状態に。

「あ、ここはこうのほうがいいですよね」
「大山さんはこれをやっておいてください」

あまりのありがたさと、自分のふがいなさに泣きそうになった。

この時点でぼくの個展ではなくなる

ぼくのふがいなさは絶頂へ。

しまには「ねえねえ、構成順番どうしたらいいと思う?」などと聞いてしまう始末。

それは作家が決めることだろう!(と今は思う)この時点で、この写真展はぼくの個展ではなくなったと思う。みんなの写真展だ。
「そうですねー、これはこれの次、いや、この順番の方がいいですかねえ」とむちゃな要求に的確に応えてくれた!すまん!そしてありがとう!
「そうですねー、これはこれの次、いや、この順番の方がいいですかねえ」とむちゃな要求に的確に応えてくれた!すまん!そしてありがとう!
だんだん形になってきた…しかし!
だんだん形になってきた…しかし!
しかし、恐れていたことが起こる。
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初日間に合いませんでした!

ガタガタのまま翌朝を迎えた。
ガタガタのまま翌朝を迎えた。
反省の感じられないツイート。
反省の感じられないツイート。
そう、結局間に合わなかったのだ。

原因は、やはり大きな作品をたくさん作りすぎたこと。さっきはエレベーターのせいにしたけど、どう考えてもいい気になって作りすぎました。

でもなあ、素敵な工場やジャンクションがたくさんあるからしょうがないんだよなあ。
外されなかった「準備中」の張り紙。無念。
外されなかった「準備中」の張り紙。無念。
やむなく、オープンは一日遅らせ、翌日も設営準備に。そしてみなさんに甘え、ふたたび手伝ってくれる方を募集した。

その結果「お昼休みだけでも手伝いにうかがいます!」とか「早めに仕事切り上げて手伝いに向かいます!」などなど、ほんとうにありがたい申し出が多数。

結果、この日はのべ16名もの方々にお手伝いいただきました。ありがとう!
もくもくと調整作業をしてくださる方。ありがとう!
もくもくと調整作業をしてくださる方。ありがとう!
背面の状態を整えてくれる方々!
背面の状態を整えてくれる方々!
水平だしと間隔調整というやっかいな仕事まで!
水平だしと間隔調整というやっかいな仕事まで!
吊るワイヤーの一調整。もはやプロフェッショナルの風格が漂う後ろ姿。
吊るワイヤーの一調整。もはやプロフェッショナルの風格が漂う後ろ姿。
照明の調整まで!
照明の調整まで!
開幕していないのに届いてしまった花!
開幕していないのに届いてしまった花!

おかげさまで初日大好評でした!

なんか、いまこうやって記事書いてても情けなくなってきた。自分の作業見積もりの甘さにはがっかりだ。

みんなが「楽しかったですよー」って言ってくれたのがせめてもの救いでした。

ということで、1日遅れでオープンしたのが、昨日11月1日のこと。おかげさまで、平日にもかかわらずたくさんの方々にご覧いただき、好評でした。
ようやく開場。
ようやく開場。
よかったよかった!
よかったよかった!
すてきだよ!
すてきだよ!
平日にもかかわらずたくさんの人が。
平日にもかかわらずたくさんの人が。
「工場夜景が好きなんです」という女子高生も!日本の未来は明るい!
「工場夜景が好きなんです」という女子高生も!日本の未来は明るい!
すてきだねえ。
すてきだねえ。
この方はじっくり2時間半も見てくれました!ありがとう!
この方はじっくり2時間半も見てくれました!ありがとう!

"みんなの"写真展見に来てください!

なんというか、ぼくもまだまだこうやって助けてもらえるのだということが分かっただけで、写真展開いた甲斐があったというものです。みなさんありがとう!
11月4日(日)まで。お時間ある方はぜひー。
11月4日(日)まで。お時間ある方はぜひー。くわしくはこちら
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