特集 2012年11月19日

起きろ!ゲシュタルト崩壊

早い人はもう崩壊してるかも
早い人はもう崩壊してるかも
「ゲシュタルト崩壊」という現象がある。辞書には「全体性が失われ、各部分に切り離された状態で認識されるようになる現象」と説明がある。(参照)

身近な例だと、漢字をじっと見つめていたり、何度も書いたりしている時に「あれ、この字ってこんなだったっけ?」となるあれだ。不思議な感覚に襲われる。

現象名は聞いたことがあるし、経験した記憶もあるが、そう言えば個人的には久しく崩壊してない。あの感覚を改めて味わうべく、いろいろ試してみた。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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崩れろまとまり

ゲシュタルト崩壊の初体験の記憶は、小学生の頃までさかのぼる。漢字を繰り返し書く宿題をしていたとき、「ん?この漢字ってこれでいいんだっけ?」と感じる瞬間が不意にやってきたのだ。
懐かしい漢字練習帳
懐かしい漢字練習帳
表紙の裏を何度も読んだ子供の頃
表紙の裏を何度も読んだ子供の頃
正しく書いているはずなのに、急に不安な感覚がやってくるあの瞬間。ゲシュタルト崩壊なんて言葉は当然知らなかったから「なんだ…この感じ……」と、ただ不思議に思うだけだった。

あの頃を思い出して、漢字練習帳を久しぶりに買ってきた。表紙のデザインやコラムが昔と変わらないのが懐かしい。
納豆誕生の豆知識は大人にとっても「へぇ」度が高い
納豆誕生の豆知識は大人にとっても「へぇ」度が高い
大人になってからは手で文字を書く機会がぐっと減ったからだろうか、もうずっと崩壊していない。あの不思議な味わいを改めて見つめ直してみたい。
新しいノートのときめき
新しいノートのときめき
返りたくないタイプの童心
返りたくないタイプの童心
きれいな1ページ目を開いておろすのは、子供の頃と同じように新鮮な気持ちになったが、いざ書き始めるとまた別の気持ちがよみがえる。そうだ、自分は同じ字を繰り返し書いて練習するのが好きじゃないタイプだったんだ。
キーボードを押し続けたような感覚
キーボードを押し続けたような感覚
まずは1ページ埋めた
まずは1ページ埋めた
面倒な宿題をやってる気持ちで書いていく。「あああああ…」と書いたのを見て思い浮かんだのは、ぼんやりしてキーボードを押しっぱなしにしたときの画面。まとまった手書きをする機会は減ったとは言え、ここまでキーボード打ちの習慣が浸食していたとは。縦書きなのにそう思うのも意外だ。

とりあえずは1ページ分、150字書いてみた。「来るかな、来るかな」と、崩壊の予感が心の中で高まるのだが、あのおかしくなる感じには至らない。
さらに2ページ分追加
さらに2ページ分追加
崩壊しません
崩壊しません
続けて300字、合計で450字まで筆を走らせたが、それでも崩壊タイムはやってこない。おかしい。

やってきたのは「1、2、さーん」というリズムの繰り返し。書きながら「これって、『一』を書いたあと『め』って書いてる?」という感じは訪れたが、だからと言って「あ」が「あ」でなくなってる気はしない。

同じことを淡々と続ける自分が機械になったような気分にはなったが、それは崩壊とは別の感覚だ。
文字を変えてみる
文字を変えてみる
「い」に見えてますか?
「い」に見えてますか?
「あ」に見切りをつけ、次のひらがなである「い」に変えてみた。文字の構成がかなり違うこともあって、崩壊が期待できるのではないか。

シンプルな字だけあって、そのうち点を2つ書いてるだけのような感じに襲われる。書いてるのが文字ではなく、単にこういう作業をしているような気にもなるが、一瞬そう思ったあと、やっぱり「い」だなと引き戻される。やはり崩壊しないのだ。
ゲシュタルト崩壊界のエース登場
ゲシュタルト崩壊界のエース登場
調べてみると、文字の中にはゲシュタルト崩壊が起きやすいと言われているものがあるらしい。例えばそれは「借」。この漢字に切り替えれば、崩壊の瞬間は訪れるのではないか。
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崩壊の時は自分に微笑むのか

ゲシュタルト崩壊が起きやすい字として、他にも「若・松・粉」なども挙げられるようだ。そう聞いてじっと見つめても自分には全く起きる気配がないのだが、とにかく今回は「借」を書き続けてみよう。
崩壊しやすい文字を大量生産
崩壊しやすい文字を大量生産
それでも崩壊せず
それでも崩壊せず
150字書いてみたが、やっぱり崩壊しない。なぜだ。

画数が多い分、ひらがなより書くのに疲れただけ。なんだかたくさん借金してるようにも思えて、別の角度から心が不安定になりそうだ。
他の人だと崩壊するのか
他の人だと崩壊するのか
写真撮影を頼んでいた妻に見せてみると、「なんか変な感じしてきたけど、崩壊してるわけではない」とのこと。そして「そう言えば私、字を筆ペンで書くと崩壊しやすい気がする」と言い出した。

新しい説の登場。まずは試しにやってもらってみた。
「あー、なってるなってる」
「あー、なってるなってる」
「字、これで合ってる?」
「字、これで合ってる?」
妻が書き始めると、4文字目くらいで「…もうわかんなくなった」と言うではないか。早い、もう崩壊してる。予想以上の効果だ。

続けて書きながら「これでいいんだっけ?」と聞いて来るが、まったく間違いなく書けている。そう伝えても「やっぱり違う気がする」「合ってる気がしない」と、崩壊フィーバー。

うらやましい。こんな簡単に崩れるなんて。私もやってみよう。
ゆっくり書きます
ゆっくり書きます
できるだけ丁寧に
できるだけ丁寧に


話によると、急いで書くのではなく、じっくりと綺麗に書こうとすると崩壊が始まるとのこと。確かに先ほどまでの自分は、できるだけ早く繰り返して書こうと思いながらやっていた。どうやらその方針が違うらしい。

そういうわけで、ゆっくりと丁寧に筆ペンで「借」を書いていく。
ダメです
ダメです
それでも自分にはやってこない崩壊タイム。「借」という字はちゃんと「借」のままだ。

「祝儀袋に綺麗な字で書こうとする時になりやすい」という妻の話を聞くと、崩壊には気持ちを集中させることが必要な印象を受ける。私の場合、ゆっくり書いていても没頭するような気持ちになっていなかったと思う。

ならば、没頭せざるを得ない環境を作ればよいのではないか。
「借」連発の紙を大量印刷
「借」連発の紙を大量印刷
それを広い段ボールに貼っていく
それを広い段ボールに貼っていく
視界全てを「借」という字で満たす作戦だ。「借」だけをたくさん印刷した紙を、広げた段ボール板に貼って埋め尽くす。
ゲシュタルト屏風
ゲシュタルト屏風
このボードで視界を覆えば、目に見えるものは全て「借」。これならわけがわからなくなって、ついに崩壊が訪れるのではないだろうか。
さあこい崩壊
さあこい崩壊
むむむむむ…
むむむむむ…
目に見える全てが「借」
目に見える全てが「借」
どこもかしこも
どこもかしこも
借だらけ
借だらけ
もしかすると、上の写真を見るだけで崩壊する方もいらっしゃるのだろうか。私の場合は、画面の中にたくさん並ぶのを見ているのではなく、とにかく視界は「借」で埋め尽くされているのだ。
それでもしません
それでもしません
にも関わらず、自分には崩壊が起こらなかった。なぜなんだ。

がんばっても「借」にしか見えない
がんばっても「借」にしか見えない

ゲシュタルト崩壊の起こりやすさには、やはり個人差があるのだろうか。それにしても様々な手段を講じても崩壊にたどり着けず、個人的にはとても残念で消化不良な結果となった。Wikipediaのゲシュタルト崩壊の項には「聴覚や皮膚感覚においても生じうる」ともあって、もはや想像もつかない。

ああ、あの感じ、どうにかして味わいたい。もしかするとこういう思いが強すぎることが、崩壊の妨げにつながっているのかな、とも思う。
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