特集 2012年12月19日

勝手に決定!2012ダムアワード

栄冠はどのダムに!?
栄冠はどのダムに!?
気がつけば年末。あっという間の1年だったけど、思い返せばいろいろなことがあった。

ダム界でも新しいダムがデビューしたり、古いダムが役目を終えたり、洪水と戦うダムがあれば渇水を防いだダムもあった。

そんなダム界の1年を振り返り、印象的な活躍をしたダムを称えたい。そこで、勝手にダムアワードを選ぶことにした。審査員は僕1人である。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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日本ダムアワード

年末の風物詩として、各界でその年に目覚ましい活躍をした人々を称える表彰がある。歌手のレコード大賞や、スポーツ界のMVPといった賞だ。

ダム界でもそういったコンベンションがあったらいいと思って調べてみたところ、土木学会の年度表彰でダムが選ばれることがあったり、ダム業界内で「ダム・堰危機管理業務顕彰」というカタい賞があることが分かった。また、特に優れた功績があった場合など、自治体から個別に表彰されることもあるらしい。
たとえば滝沢ダムは昨年度の土木学会技術賞を受賞
たとえば滝沢ダムは昨年度の土木学会技術賞を受賞
しまった。本当は「ダムは誰からも労われないから、ダムファンがそういう賞を作ろう」というスタンスで書こうと思っていたのだ。

それらがあると分かった時点で、この企画は半分暗礁に乗り上げたのだけど、1年間がんばってきたダムたちに対し、ダムファンから感謝の意を表したい、と思って開催することにした。締切明日だし。
個人的には大好きな湯田ダムを間近で見学できたのが最大のできごと
個人的には大好きな湯田ダムを間近で見学できたのが最大のできごと
歌手に演歌やロックやアイドルがいるように、ダムにもいろいろな用途のものがあるので、いくつか部門を作った。それではさっそく各部門賞を発表していこう。

新人賞

まずは今年デビューした中からもっとも印象的だったダムの発表。新しく造られるダムの数が年々少なくなるなか、今年の新人賞に選ばれたのは...(ドラムロール)...、

奈良県に造られた大滝ダム!(ファンファーレ)
落ち込んだりもしたけれど(斜面が)、私は元気です
落ち込んだりもしたけれど(斜面が)、私は元気です
新人賞に選ばれた大滝ダムは今年6月に運用開始されたばかり。しかし、実はここにたどり着くまでに多くの困難にぶつかり、何と計画が発表されてから50年目での完成となった。このことに関してはさまざまな意見があると思うけど、ここではひとまず置いておく。

個人的には、3月末に行われた本体が完成して初めての試験放流を仕事半休して観に行ったら、その時間帯だけ土砂降りと強風に見舞われて全身ずぶ濡れになった(その後急いで東京に帰って午後から出勤)、という思い出深いダムだ。
今後いつ見られるか分からない、てっぺんの水門からの放流を、そのために全国から集まったダム好きが見るのを諦めて屋根のあるところに避難する、というくらいの嵐
今後いつ見られるか分からない、てっぺんの水門からの放流を、そのために全国から集まったダム好きが見るのを諦めて屋根のあるところに避難する、というくらいの嵐
デビューしてすぐ台風の大雨とも一戦交えるなど着々と経験も積んでおり、将来が楽しみ。いろいろあったけど、これまでの経緯だけではなく、これからの活躍が話題になってほしいダムである。

それでは記念に放流をどうぞ!
長年の苦節を乗り越えた末の感極まった放流

総流入量賞

続いての発表は、1年間で上流から流れてきた水の量がもっとも多いダムに贈られる、総流入量賞。どのくらい貯めたか、洪水を防いだか、などは関係なく、ひたすら水量の多い川に造られたダムを「ごくろうさま」、と労う賞だ。

ノミネートは水量の多そうな川のダムを審査員の独断でピックアップ、独自の計算方法(かけ算と足し算)で総流入量を導き出した。ではまずノミネートされたダムをご紹介しよう。
木曽川流域のみならず中部地方ダムのご意見番、丸山ダム
木曽川流域のみならず中部地方ダムのご意見番、丸山ダム
奈良、三重、京都にまたがる木津川流域の元締め、高山ダム
奈良、三重、京都にまたがる木津川流域の元締め、高山ダム
琵琶湖から大阪湾に流れる淀川の中流を塞き止める天ヶ瀬ダム
琵琶湖から大阪湾に流れる淀川の中流を塞き止める天ヶ瀬ダム
日本三大暴れ川のひとつ吉野川を締めるクローザー、池田ダム
日本三大暴れ川のひとつ吉野川を締めるクローザー、池田ダム
九州一の大河川、筑後川の治水を担う最後の砦、松原ダム
九州一の大河川、筑後川の治水を担う最後の砦、松原ダム
ひょっとしたら発電ダムとかでこれより水量の多いダムがあるかも知れないけど、流入量や放流量のデータが手に入らないところはノミネートできなかった。ぜひ多くのダムに情報開示をお願いしたい。

さて2012ダムアワード、総流入量賞は...接戦!

僅差で淀川の天ヶ瀬ダム!(大歓声)
去年までの統計は取っていないけど、おそらく完成以来ほぼ毎年トップ3には入ってると思う
去年までの統計は取っていないけど、おそらく完成以来ほぼ毎年トップ3には入ってると思う
計算が合っていれば、天ヶ瀬ダムには今年の1月から11月末までにおよそ37億9315万立方メートルもの水が流れ込んできたことになる。これは東京ドームで表すと3059杯分の量。さすが琵琶湖の下流、もはやまったく意味が分からない。

ちなみに、僅差の2位は木曽川の丸山ダム。こちらは元旦から11月末までで36億4035万立方メートル。およそ1億5000万立方メートルの差である。しかも丸山ダムは特に1月2月にデータの欠測が多かった。これがもし揃っていれば逆転していた可能性は大いにある。

ぜひ観測機器の更新をしてもらいたいところだ。

3位も僅差で吉野川の池田ダム。こちらは34億8593万立方メートルだった。雪解け水の期待できない四国でこの数字は驚異的。

そして、ノミネートされたダムすべてが洪水と戦い、それ以外に発電したり飲み水を確保したりする役割を持っている。本当に頭が下がる思いである。
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放流賞

続いての発表は放流賞。審査員が今年観た中でもっとも心打たれた放流をしたダムに贈られる。ノミネートは次のダム。

あ、書き忘れていたけど、ノミネートはすべていままで僕が観たダムに限られている。審査員1人だと範囲が狭いけど、第1回目だから仕方がないのだ。
ノミネート1は奈良県の二津野ダム。去年の豪雨で発電所が使用不能になったため流れてきた水をそのまま放流していた
ノミネート1は奈良県の二津野ダム。去年の豪雨で発電所が使用不能になったため流れてきた水をそのまま放流していた
ノミネート2は神奈川県の宮ヶ瀬ダム。ゴールデンウィークを襲った台風並みの低気圧の影響で大雨になり洪水調節中
ノミネート2は神奈川県の宮ヶ瀬ダム。ゴールデンウィークを襲った台風並みの低気圧の影響で大雨になり洪水調節中
ノミネート3は福島県の摺上川ダム。巨大ロックフィルダムは春先に雪融け水を豪快に放流していた
ノミネート3は福島県の摺上川ダム。巨大ロックフィルダムは春先に雪融け水を豪快に放流していた
ノミネート4はこれも雪融け放流をしていた山形県の長井ダム。真新しいダムから伸びる白い帯が鮮やか
ノミネート4はこれも雪融け放流をしていた山形県の長井ダム。真新しいダムから伸びる白い帯が鮮やか
僕はそれほどダムの放流にこだわりがないので、これだ、という放流がないけど、その中で選ばれたのは...、宮ヶ瀬ダム!

選考の決め手は何と言っても洪水調節が観られたこと。宮ヶ瀬ダムは毎週観光放流を行っているので放流シーンは珍しくないのだけど、そのときの放流量は最大で毎秒30立方メートル。しかし、洪水調節だと最大で毎秒100立方メートルの放流が行われる。写真で見てもその迫力の違いは一目瞭然。
両方の放流口から毎秒15立方メートルずつ放流している観光放流。現地で観ると大迫力だけど隣と比べると穏やか
両方の放流口から毎秒15立方メートルずつ放流している観光放流。現地で観ると大迫力だけど隣と比べると穏やか
片側だけだけど豪快に放流中。すぐ下の橋が水煙に覆われていて、観光放流時とは違う本気の顔が観られる
片側だけだけど豪快に放流中。すぐ下の橋が水煙に覆われていて、観光放流時とは違う本気の顔が観られる
観光放流のときにはベストビュースポットとなるダムのすぐ下の橋も、洪水調節の放流中は水煙に巻かれる勢い。普段は優しく観光客の相手をしている宮ヶ瀬ダムの、本気で仕事している真剣な表情を観ることができるのだ。

それでは受賞した宮ヶ瀬ダムの洪水調節シーンをどうぞ。
ごめんな、今日は忙しくて遊んでやれないんだ

洪水調節賞

洪水調節中の宮ヶ瀬ダムが放流賞を獲ったことで分からなくなったのが、この洪水調節賞。ダムがもっとも派手な活躍を見せる洪水調節で、今年いちばん印象に残ったのはどのダムか。

2012年ダムアワード、洪水調節賞は...、奈良県の池原ダム!
史上初めて発電専用ダムが洪水調節賞を受賞
史上初めて発電専用ダムが洪水調節賞を受賞
なんと、受賞したのは洪水調節の用途がない発電専用の池原ダム。さすがに会場からはどよめきが上がる。しかしこれには深いワケがあった。

昨年9月に西日本を襲った台風12号の大雨によって、特に紀伊半島の熊野川流域では大きな被害が出た。通常、発電用のダムは大雨のとき、簡単に説明すると上流から流れてくる水をそのまま下流に流していいことになっているのだけど、台風が去ったあと、池原ダム下流の住民から、あれだけ巨大なダムなら大雨が来る前に水位を下げておいて、なるべく水を貯め込んでほしい、という要望が上がった。そこで研究を重ね、大雨が見込まれるときは直前に放流して湖の水位を大幅に下げておいて、大雨の最中の放流量増加をなるべく遅らせる運用に変えることになった。事実上の洪水調節操作と言っていいと思う。

そうして今年になり、6月の台風4号、それから9月の台風17号とたて続けに紀伊半島を台風が襲ったとき、池原ダムと同僚の風屋ダムでこの運用を行い、何と遠く離れた河口付近の水位を1m以上、下げることができたという。
数々の過酷な放流を行ってきた池原ダムの洪水吐
数々の過酷な放流を行ってきた池原ダムの洪水吐
これはすごいことだと思う。治水の用途のない巨大ダムが、運用を工夫することで絶大な治水効果を発揮したのだ。かっこいい。もはや僕が池原ダムを見る目は、サッカーも野球もできて足も速い、スポーツ万能のクラスメイトに女子が送る眼差しである。

利水補給賞

続いては利水補給賞。用語は難しいけど、つまり雨が降らない日が続いて川の水が減ったとき、ダムから水を放流して僕たちの飲み水や田んぼに入れる水、工場で使う水などを供給する役割だ。

ダムの役割と言うと洪水調節を思い浮かべがちだけど、利水補給の方が毎日放流量を細かく調節している、ものすごくアクティブな役割なのだ。

そんな利水補給賞、今年はこのダムを置いてほかにないだろう。...群馬県の矢木沢ダム!
関東ダム界のボスが貫禄の受賞
関東ダム界のボスが貫禄の受賞
今年の夏は記録的な小雨となり、関東地方の水源になっている利根川が渇水に見舞われたのは記憶に新しいところだろう。そんな中、利根川ダム群が総力を結集、一丸となって限られた水を管理し、取水制限こそあったものの、断水という最悪の事態は回避されたのだ。

特に、利根川最上流にある関東ダム界のボス、矢木沢ダムは7月中旬にほぼ100%だった貯水率がみるみる低下、9月3日にこの夏最低の4.6%に落ち込むまで、身体を張って下流に水を供給し続けた。
このときは貯水率39%にまで落ち込んでいた
このときは貯水率39%にまで落ち込んでいた
それ以来今日まで1滴も放流せず、現在は冬期の水不足に備えて着実に水を貯め込んでいる。今年の活躍を見れば文句なしの受賞である。
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発電賞

洪水調節、利水補給ときて、ダムのもうひとつ重要な役割に水力発電がある。

今年を見渡して、もっとも印象的な発電を行ったダムはいったいどこなのか(言ってる意味分からないと思うけど正気です)。

それでは発表。発電賞は...、上野ダムと南相木ダム!
神流川発電所の下部調整池、上野ダム
神流川発電所の下部調整池、上野ダム
神流川発電所の上部調整池、南相木ダム
神流川発電所の上部調整池、南相木ダム
受賞したのは神流川揚水発電所を動かすダムのコンビ。上部ダムである南相木ダムに貯めた水を、標高でおよそ650m下にある上野ダムに落として水車を回すことで強力に発電する。落として発電に使った水は、夜間など電気の使用量に余裕があるときにポンプで上部ダムにくみ上げておく仕組みだ。

今回の受賞理由は、この発電所の2号発電機が、計画を1ヶ月前倒しして6月初旬から運転を開始した、ということ。電力不足が心配される中で、真夏を迎える前に運転できた影響は大きかったのではないかと思うし、これだけ大きな施設を1ヶ月も前倒して動かすというのは、素直に凄いことだと思う。

火力や太陽光、風力ばかりでなく、水力発電もがんばっているのだ。

功労賞

授賞式もいよいよ終盤。ここで、長年にわたって日本の発展に尽くし、今年限りで引退する2基のダムの実績を称え、功労賞を授与したいと思う。

功労賞は...、岩手県の石淵ダムと、熊本県の荒瀬ダム!
巨大ダムに役割を引き継ぐ石淵ダム
巨大ダムに役割を引き継ぐ石淵ダム
発電所が廃止になり撤去される荒瀬ダム
発電所が廃止になり撤去される荒瀬ダム
石淵ダムは、およそ60年前に造られた日本で最初のロックフィルダム。広大な平野の田んぼに水を供給し、洪水から守ってきたけど、田んぼが発展しすぎてキャパシティを越えて水不足になり、すぐ下流に造られた巨大ダムの貯水池に沈むことになった。

このダムに関しては、思い入れが強すぎて今年2回も記事を書いているのでそちらを読んでください。

荒瀬ダムは九州の球磨川に造られた発電専用ダム。こちらもおよそ60年間、地域のために発電をしてきたけど、環境保護運動の高まりの中で発電所が廃止され、ダムも撤去されることが決まった。

どちらも、時代の流れで役目を終えるダム。もうすぐその姿を見ることすらできなくなってしまうから、せめてこういう賞で人々の記憶の中に残していきたい。

ダム大賞

さていよいよ最後、今年の日本ダム界を代表する、ダム大賞の発表だ。正直、これは相当迷った。みんなが大賞!とか緩いこと言って終わらせてもいい、と思ったのだけど、せっかくなのでひとつに決めた。

厳正なる審査(1名)の結果...、ダムファンが選ぶ、2012年ダム大賞は!

...群馬県の薗原ダム!!
ええっ、オ、オラ!?
ええっ、オ、オラ!?
果たしていったいどういう理由で、正直言って利根川ダム軍団の中でもいちばん地味なダムがダム大賞に選ばれたのか。

皆さんは覚えているだろうか、今年の5月に利根川水系で発生した事件を。

そう、利根川から取水している複数の浄水場で、とつぜん有害物質のホルムアルデヒドが検出されたのだ。

原因は比較的すぐに突き止められたのだけど、その前にまず川に流れ出た有害物質を薄めなければ、取水停止した浄水場を再開できない。そこで、利根川上流のダムでは予定外の放流を行うことになり、それをこの薗原ダムと下久保ダムが受け持った。
薗原ダム、緊急放流開始!(イメージ)
薗原ダム、緊急放流開始!(イメージ)
そのときの薗原ダムの放流量を示すデータがこれだ。少しスクロールさせて、18日の24時くらいからの放流量と貯水率の欄に注目してほしい。そう、薗原ダムは翌日夕方くらいまで急に狂ったように放流を行い、せっかく貯めていた水のほとんどを使い切ってしまったのだ。

これが、ホルムアルデヒド発生に伴う、希釈のための緊急放流の痕跡ということらしい。

首都圏の浄水場が取水停止になったのを、ほとんどすべての貯水を投げうって放流し、有毒物質を薄めて川の状態を元に戻した。これはMVP、いやMVD級の活躍と言っていいのではないだろうか。ぜひ、今年のダム大賞は首都圏の危機を身を挺して救った薗原ダムに受け取ってほしいと思う。

賞状も盾も像も何もないのだけど。



というわけで今年1年、全国のダムとダム職員の皆さんおつかれさまでした。来年も無事に、すべてのダムが活躍する機会があまりないことを祈りつつ、第1回の日本ダムアワードを終わりたい。

最後にいちおう断っておきますが、これはダム好きのいち個人が勝手に企画したもので、ダム界のオフィシャルな見解とはまったく関係ありません。

来年はみんなで決める

1年分のデータをひっくり返したり、詳しい知人に話を聞いたりして、最終的には主観でダムアワードを決めるのは楽しかった。でも1人では情報量に限界があるし、みんなで侃々諤々と決めるのも楽しそう。というわけで、来年のダムアワード選考はダムファンに大勢参加してもらうイベントにしたいなと思っています。
目指せダム大賞!
目指せダム大賞!
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