特集 2013年1月14日

ついに登場!メガネに指紋がつかないようにする装置の反対

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メガネ使用者にとって死活問題ともいえるのが、レンズの汚れ。その代表的な例が指紋だ。うっかり指で触っただけで、もう視界は濁るし見た目もみっともないし、いろいろと台無しである。今回は、この問題に発明的アプローチで迫ってみたい。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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メガネの天敵

うちの子供が、メガネが大好きなのだ。好きなのはいい。眺めて楽しんだり、飾って愛でたりしてくれる分には何らかまわないのだ。問題は子供がまだ10ヶ月の赤ちゃんだということであって、彼の主なメガネの楽しみ方は「にぎる」「なめる」である。赤ちゃんはメガネの天敵と言ってもいい。

そういうわけで、最近とくに、メガネにつく指紋に悩まされている。
やめてー!
やめてー!

過ぎてしまえば美しい日々かも

話は変わるが、人間、(いや、もしかしたら単に僕がそういう性格なだけなのかもしれないけど)けっこう辛い状況でも、過ぎてしまってから振り返るといい思い出に変わってしまうものだ。

僕は昔システム会社に勤めていて、客先に12連泊して一日おきに徹夜する、みたいな生活をしていたこともある。当時は相当辛かったと思うのだが、今考えてみると「みんな徹夜明けの変なテンションで妙な一体感があって、あれはあれで楽しかったな…」なんて思ってしまうのだ。
愛用のメガネ。初見の人になぜか「おまえは葬式にもそれで行くのか!?」と詰め寄られたことがある。
愛用のメガネ。初見の人になぜか「おまえは葬式にもそれで行くのか!?」と詰め寄られたことがある。
僕の言いたいことがわかってもらえたかな。つまり、メガネの指紋に悩む生活、これも、過ぎてしまえば「あれはあれで楽しかったな」なんて思う日が来るのかも、ということだ。しかも今の子供の可愛さを考慮すると、その可能性は十分高い。

今はこんなにも指紋をつけられたくないと思っているのに、いつか、指紋をつけられることが急に懐かしく思えてる時がやってくるんじゃないだろうか。

それは切ないな。そのときのために、今のうちにできることはないだろうか…。

そんな思いから、できた装置がこちらになります。

メガネに絶対に指紋がつかないようにする装置の反対

メガネに指紋をつける機械だ。

いつか子供が大きく育って、もう僕のメガネに指紋をつけなくなるときがくる。そうしたら、僕は一人でこの機械を動かして、指紋付きメガネの懐かしさに浸ることができる。すばらしいじゃないか。

僕は、これはAIBOに近いコンセプトの機械だと思っている。AIBOは犬が好きな人向けの、愛玩専用の機械である。こちらは子供が好きな人向けの、指紋付け専用の機械。どちらも、なにかの代替として、たっぷり愛情を注いであげられる機械。

いま書いてて相当無理があるなと思ったのだが、作ってるときはそういうつもりで作ったのだから、そういうものだと思って欲しい。
あなたが納得したかどうかにかかわらず、そういう前提で、次のページからメイキングが始まります。
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メイキングオブ メガネに指紋

この機械をどうやって作ったか、みんなすごく気になっていると思うので順に説明していこう。これを読めば、あなたもメガネに指紋をつける機械が作れるかもしれないし、うまく応用すれば手型やキスマークをつける機械も作れるかもしれない。あるいはくもり止め剤やレンズクリーナーをつける機械だって!早くもビジネスチャンスの香り。可能性は無限大だ。
おゆまるを用意します。お湯で柔らかくなるゴムっぽいやつ
おゆまるを用意します。お湯で柔らかくなるゴムっぽいやつ
お湯に浸して3分でこのぐんにゃり感(紫のが未加熱)
お湯に浸して3分でこのぐんにゃり感(紫のが未加熱)
まずはこの機械のキモ、指紋を作るところから始めた。幸い僕は指紋を10個(足も合わせればさらに倍!)も持っているので、それを複写できれば話が早い。

ネットで検索してみると、指紋の複写の仕方がこのページに載っていたので、真似させてもらった。(下の方、「もっと簡単に指の型を取って、グミ指を作る」のところ)。
指に押しつけて
指に押しつけて
写った!いとも簡単に型が完成
写った!いとも簡単に型が完成
なにか変なことをしようとして、やり方なんて載ってないだろうけど一応…と思って検索してみるたびに、何らかの情報が見つかり「こんなことにも先人がいるのか…!」と驚愕する。世は情報化社会である。


元記事ではゼラチンで指を作っていたが、今作ろうとしている機械は子供が大きくなる5年後、10年後まで長持ちする必要がある。腐ったり溶けたりすると困るので、指そのものもおゆまるで作ることにした。
型に別のおゆまるを詰めて
型に別のおゆまるを詰めて
取り出すとそこには指紋
取り出すとそこには指紋
ゼラチンより固いおゆまるでうまく指紋が出るか心配だったが、きれいな渦巻きが再現できた。少し油を塗って、実際にメガネに押しつけてみよう。
写真で見えるかな…
写真で見えるかな…
つたない撮影技術ゆえにうまく写真に写らないのだけど、白いムラができているのがわかるだろうか。これがよく見ると渦巻き模様になっている。おゆまるが硬いせいか実際の指ほどきれいな渦巻きが出なかったのだけど、ひとまずこれで、作業を進めよう。

メガネスタンドを作ろう

実は、今作ってる機械とは別にもう一案あって、「フタを閉めると指紋がつくメガネケース」というのも考えていた(フタの裏に今作った指をつけるだけだ)。
今回は難しいほうから取りかかった結果、片方作った時点で力尽きてしまった。のでメガネケース案はみなさま夏休みの工作等で使っていただいてもいいですよ。

というのは余談で、次はメガネスタンドの制作に入ります。

材料は、木材とパイプ、プラスチック製のネジ
材料は、木材とパイプ、プラスチック製のネジ
テープで仮組みしたところ。ポイントは
テープで仮組みしたところ。ポイントは
先端をネジにすることでメガネが滑ってずれないようにするのだ
先端をネジにすることでメガネが滑ってずれないようにするのだ
我ながら今回の工作は細部に配慮が行き届いている気がする。というのもわけがあって、作業の前に雑貨店を回って、材料にするためのメガネスタンドをたくさん見てきたのだ。結局、流用できそうなのはなくて、自分で作っている。ていうか眼鏡スタンドってほとんど売ってないのな。目にしたものの大半はメガネ売り場の什器であった。
スタンドといってもドリルで穴を開けて棒を差し込むだけですが
スタンドといってもドリルで穴を開けて棒を差し込むだけですが
あと、先を見越してちょっとした仕掛けをつけた。
前後方向の棒はシーソーになってます
前後方向の棒はシーソーになってます
これで、メガネを乗せたときに重みで棒がカクッとなる。そこに仕掛けをつけて、指紋をつけるスイッチとして使おうと思っている。
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マジックハンドを作る

メガネスタンドの次は、指紋を押しつけるアーム部分を作る。タミヤからアームの部品のセットが出ているので、それを使った。これ、前々から「これ誰が買うんだろう」と思ってた部品なのだが、正解は僕であったか。
ユニバーサルアーム部品のシリーズです
ユニバーサルアーム部品のシリーズです
アームを動かすにはモーターを使うのだけど、モーターは回転しかしないので、それをアームの「掴む」動作に変換する必要がある。そういうのを作るための部品らしい。もはや全くどうすればいいか想像もつかないので、このページを参考にしてなんとかつくってみた。(過去作品のところ)
東京メトロのロゴみたいな
東京メトロのロゴみたいな
指紋づくりの方法もそうだったけど、こうやって先人が自分の成果を記録に残してくれたことによって、僕はそこをショートカットして、別の困難に集中して挑むことができる。そうしてたくさんの先人の努力の上で、人間は前に進んでいくのだ。そしてその最新の成果として、ついに実を結んだのが……「メガネに指紋をつける機械」だ。

……がっかり感もひとしおである。先人が浮かばれない。
おお、気持ちいい
おお、気持ちいい
部品の長さを変えると動きが変わる。モーター(今は指)はできるだけ小さな動きのまま、アームを動かしたい
部品の長さを変えると動きが変わる。モーター(今は指)はできるだけ小さな動きのまま、アームを動かしたい
こういうふうにすると上下の動きが節約できるっぽい(上がハンドの先端です)
こういうふうにすると上下の動きが節約できるっぽい(上がハンドの先端です)
できたアームを、さっそく、さっきのスタンドに取り付けてみよう。
いいじゃない
いいじゃない
うまくレンズがはさめるか、手で動かしてみよう。
アワワ…。
アワワ…。
アームがスタンドごと掴んでしまった結果、メガネを巻き込んでクラッシュする事態に!
アームを曲げて回避
アームを曲げて回避
ちょっとした工夫でうまくレンズを挟み込むことに成功。いいねえ、この試行錯誤がダイレクトに結果に返ってくる感じ。アーム作り、これはおもしろいぞ…。

と、ようやくおもしろさがわかってきたところで残念ながらこの作業は終わり。

ここまでで基本構造はできたので、あとはモーターつけて自動化するだけだ。
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カエルの解剖

この機械を動かすのにはサーボモーターという部品(回転角度が決められるモーター)を使うのだけど、うちに余ってると思ってたら、実は切らしていた。

困ったぞ。と思って部屋の中を見回してみると、一匹のカエルと目があった。この記事の撮影のとき、隣で作ったやつだ。
こいつの腹の中にはお目当てのサーボモーターが入っている。でもサーボモーターはカエルにとっても心臓部。これを抜くと、カエルの命が…。
けっこう気に入ってたのでしばし葛藤したが、秋葉原まで買いに行く面倒臭さには勝てず、15秒ほどで解体を決心した。さようならカエルさん。いままでありがとう…。
ギャー
ギャー
見るも無惨
見るも無惨
部屋の隅に投げ打たれた、カエルのなれの果て
部屋の隅に投げ打たれた、カエルのなれの果て
R.I.P.。

そうそう、カエルが犠牲になってくれたおかげでいいことがあった。作るつもりだったモーター制御の基板、カエル時代のがそのまま使えるので、電子工作しなくてすむのだ。思いがけぬ収穫。命の恵みに感謝だ。

工作記事書くと毎回腰が痛い

命の恵みのモーターをさっきのアームにつなぐ。
動いた
動いた
さあここ、記事上では一瞬で動いたように見えるでしょう。上記の「アームにつなぐ。」から「動いた」までの間に、実際には3時間経過している。その間、ここに書いて面白いようなことは一切起こっておらず、部品をこう固定すると別の場所に引っかかって邪魔だからどうのこうの、とかそういう旨味の少ない苦労ばかりの3時間。
作業が煮詰まってくると部屋が散らかるタイプです。
作業が煮詰まってくると部屋が散らかるタイプです。
ちなみにこの工作、記事を読むのは5分だが、製作全体では12時間くらいかかっている。
長時間作業で腰痛くなってこんなポーズで悶絶したりする
長時間作業で腰痛くなってこんなポーズで悶絶したりする
あとから写真見て思ったけど、こりゃ腰痛くもなるよ、という姿勢だ
あとから写真見て思ったけど、こりゃ腰痛くもなるよ、という姿勢だ
ものを作ることの大変さ!!とか思っていたのだが、単に自分の姿勢が悪いせいのような気がしてきた。

でも苦労の甲斐あって、アームはいい動きができたぞ。ここまでくればもう少し。残りは細かい作業なのでざっくり紹介しよう。
スタンドのシーソー部分をスイッチに。メガネの重みで棒が動いて、ネジが接触すると通電します
スタンドのシーソー部分をスイッチに。メガネの重みで棒が動いて、ネジが接触すると通電します
アームの先には指紋を
アームの先には指紋を
反対の先にはゴム足。指紋を押したときに裏側からも抑えることによって、軽量メガネでも吹っ飛ばない安心設計
反対の先にはゴム足。指紋を押したときに裏側からも抑えることによって、軽量メガネでも吹っ飛ばない安心設計
ボディを組み立て、強度のために底面にも柱を
ボディを組み立て、強度のために底面にも柱を
デ、デ、デキタ!!!
デ、デ、デキタ!!!
それでは完成したメガネに指紋をつける機械、もう一度動画でご覧ください。(最初と同じ動画です)

指紋はもはや人間だけのものではない

人間がメガネを持つから指紋がつくのだ、というイメージがあるだろう。ロボットがメガネを持ったら指紋はつかないはずだ、と。この装置は人間じゃなくても指紋がつく上に、メガネを持ってすらいない。純粋に指紋だけをつける装置である。
ついでにGIFアニメでもどうぞ
ついでにGIFアニメでもどうぞ
あ、ちなみに威力のほどは、こんな感じである。
見えるかな
見えるかな
正直、0歳児のパワフルな指紋に比べたら見劣りの感は否めない。今後はよりくっきりとした指紋のため、弾力のあるシリコン製の指の開発や、固まると白くなるラードの導入など、引き続き品質向上に努めていきたいと思う。

当面は間に合ってる

というわけで無事機械が完成したが、いっぽう子供のメガネブームも当分続きそうである。眼鏡に指紋をつけられる毎日よりも、工作に苦労した一日の方が、先にいい思い出に変わりそうだ。
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