特集 2013年4月16日

東京都心で一日に何種類の生き物に出会えるか

!
「自然が少ない」と言われがちな東京だが、本当にそうなのだろうか。確かに奥多摩など一部の恵まれた地域を除けば、都心部は確かに里山や原生林が残っている地方より生きものの種類は少ないに違いない。
かといっていくら大都会とは言え、「カラスにネズミにハエしかいない」なんてことはないだろう。よくよく目を凝らして探せば案外たくさんの生き物に出会えるかもしれない。
一日(24時間)で見つけた種数をカウントしてみた。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

前の記事:世界一の釣り堀で巨大魚たちと遊ぶ

> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

西表島では1日あたり100種!東京では?

以前、西表島を訪れた際に同じ試みをしたことがある。島内の山、川を歩いて巡り、目についた生き物を片っ端からメモしていったのだ。ルールとしては、獣、鳥、爬虫類、昆虫などのいわゆる大きなくくりで言うところの「動物」に限定し、植物やキノコなどは含まない。きりがないから。
結果は2日間で約200種を目視できた。単純に計算して1日あたり100種というハイペースである。「東洋のガラパゴス」と呼ばれるほど色々な生き物が暮らしている西表だとこんな具合。東京だと一体どうなってしまうのか。2分の1、いや10分の1でも見つけられるだろうか?

スタートは五反田(初日14:00~)

五反田駅前の風景。コンクリートだらけで生きものなんていないようだが…。
五反田駅前の風景。コンクリートだらけで生きものなんていないようだが…。
時刻は14:00。東京生き物集めは五反田からスタートする。なぜ五反田なのかというと、単純にこの日は昼まで別の用事をここでこなしていたからである。深い意味はない。
何気ない植え込みも、貴重な「緑地」。
何気ない植え込みも、貴重な「緑地」。
植え込みの空き地はやや荒れて雑草が茂っている。こういう場所には案外小さな生き物が潜んでいるものだ。
ハルジオンやタンポポが咲いている
ハルジオンやタンポポが咲いている
花や虫食いのある葉っぱを見て回っていると…
おお!ファースト生きもの発見!
おお!ファースト生きもの発見!
ヒラタアブの仲間がツツジの花にやってきた。小さくとも虫もカウントの対象だ。よし、幸先がいいぞ!
アリの巣も多数
アリの巣も多数
が、後が続かず。ここではなんとか小さなアリを確認できたにとどまった。

五反田での成果:ヒラタアブの一種、アリの一種 計2種

次は原宿(初日14:40~)

五反田は植え込み以外にそれらしいポイントも見当たらなかったので、早々に移動することに。24時間あるといっても、太陽が昇っている時間は限られているのだ。
せっかくだから何というか、あえて「ザ・東京」という感じの町で挑みたい。となるとトレンディな僕としてはとりあえず渋谷・原宿あたりを攻めてみたくなるのは当然の道理である。
若者はうじゃうじゃいるが、果たして他の生き物はいるのか。
若者はうじゃうじゃいるが、果たして他の生き物はいるのか。
やはりここも緑は少ない。というか土も少ない。ちらほら目に入る植物は鉢植えや花壇の草花ばかりである。
こういう個人が管理している花壇や植え込みは気軽にのぞきこめないよね。
こういう個人が管理している花壇や植え込みは気軽にのぞきこめないよね。
そんな花壇の草花をかき分けて生きものを探すわけにはいかない。しかも、こういう場に植えられる植物は虫がつきにくいものが多いため望みは薄い。ではどこを探すか。
自動販売機や配管など、人工的な凹凸が狙い目。
自動販売機や配管など、人工的な凹凸が狙い目。
逆に人工物を探るべし。コンクリートの凹凸はヤモリやクモ類、時にはコウモリにとって格好の隠れ家となる…ものなのだが、そんな理論はナウなヤングのストリートには通用せず。特に収穫なし。けっこう厳しいなー!
こんなブロック、僕の地元なら百発百中でクモの巣が張られているんだけどなあ…。
こんなブロック、僕の地元なら百発百中でクモの巣が張られているんだけどなあ…。
おおっ、ハチの巣!!もぬけの殻だけど。
おおっ、ハチの巣!!もぬけの殻だけど。
と、ここでなんと竹下通り脇にある建物のひさしに立派なアシナガバチの巣を見つけた。心躍ったが、残念ながら古巣のようで、すでに家主であるハチ一家は引越しており、姿を見ることはできなかった。
ハトが人の群れの中に…
ハトが人の群れの中に…
しかしこの原宿という町、行き交う人が多すぎて生き物を探しにくいことこの上ない。自販機の下やブロック塀の隙間をのぞいていたら変人扱いされそうである。いや、そんなことをする方が間違っているのは分かっているんだけど。
とりあえずここで粘っていても数字を伸ばすことはできそうにない。実際やけに人慣れしたハトしか見つけられなかった。おとなしく移動しよう。

竹下通りでの成果:ハトのみ

続いては明治神宮(初日15:20~)

コンクリートジャングルにも強く根を張る雑草とそれを頼りに生きている小さな生き物たちがいることはわかったが、やはりより多くの動物たちと出会うにはある程度まとまった緑が必要だ!
というわけで日没までは明治神宮と新宿御苑へ足を運ぶことにした。東京を代表する鎮守の森と大庭園である。
原宿駅の裏には明治神宮の鎮守の森広がる。
原宿駅の裏には明治神宮の鎮守の森広がる。
ところで、僕は初めて東京を訪れた際に、原宿駅の真裏にうっそうとした森が茂っていることに大変驚いた。東京の歴史や地理に疎かったので、実際に原宿の街を歩いてみるまでは「はぁ!?原宿ってこんな山の中にある町だったの!?」と本気で思ったものだ。
僕のような地方出身者は、東京砂漠に突如現れるこの巨大なオアシスに驚かずにいられない
僕のような地方出身者は、東京砂漠に突如現れるこの巨大なオアシスに驚かずにいられない
期待できそう!
期待できそう!
さて明治神宮だが、期待通り深い緑に覆われていて今にも鳥や獣が飛び出してきそうである。アライグマでもハクビシンでも出てこいや!!

結果から言うと、明治神宮では街中とは比較にならないほどたくさんの生き物たちを見つけることができた。夢中でたくさん写真を撮った。しかし…
2~3ミリしかないかわいいゾウムシ。
2~3ミリしかないかわいいゾウムシ。
アブの仲間。
アブの仲間。
コクサグモの子ども。多分、明治神宮に一番たくさんいるクモ。
コクサグモの子ども。多分、明治神宮に一番たくさんいるクモ。
びっくりするほど特徴がない…じゃなくて落ち着いた魅力を持ったガの仲間。
びっくりするほど特徴がない…じゃなくて落ち着いた魅力を持ったガの仲間。
地味すぎる…。小さな昆虫やクモばかりである。僕はそういうやつらも好きだからいいのだが、写真を改めると記事に載せられないほど気持ち悪い見た目のクモや毛虫の類もたくさんあった。

ここはもうちょっと写真に映える鳥や魚などの獲物がほしい。個人的にも記事的にも。
小鳥が飛んでも深追いできない…!
小鳥が飛んでも深追いできない…!
実は、明治神宮に行けばもっと野鳥が見つかると目論んでいたのだが、これがまったくの誤算であった。
鳥の声はすれど、高い梢にいて姿が見えない。あるいは立ち入り禁止の森の中深くで鳴いていて手が出せないのである。また、たまに見つかる鳥はことごとくカラスかキジバトであった。
ハシブトガラス。本当にどこにでもいるんだなキミは。
ハシブトガラス。本当にどこにでもいるんだなキミは。
キジバト。「クルックー」じゃなくて「ホーホーッ、ホッホー!」と鳴くあいつだ。都内じゃ珍しいと思っていたが、明治神宮にはいっぱいいた。
キジバト。「クルックー」じゃなくて「ホーホーッ、ホッホー!」と鳴くあいつだ。都内じゃ珍しいと思っていたが、明治神宮にはいっぱいいた。
よし、ほかの鳥を求めて新宿御苑に移動しよう。同じような結果になるかもしれないが、行ってみる価値はある。行くなら今すぐ、日が落ちる前に動かなくては。

と、その前に。ものすごく地味ではあるが、今回見つけた虫の中で特別に感動したものを紹介しておく。
ミノムシ!
ミノムシ!
ミノムシだ。ただのミノムシじゃないのかって?ええ、ただのミノムシです。でもただのミノムシじゃないんです。
これはほんの一、二昔前まで日本中のあちこちにいたオオミノガというガの幼虫である。しかし近年、外国からやってきた寄生虫によって絶滅の危機にひんしている。以前に茨城県で、数日にわたってずいぶんしつこく探したのだが見つけられなかった。まさか都内にこうして生き残っていたとは…。とても嬉しい。
明治神宮での成果:キジバト、ハシブトガラス、オオミノガ、ガの一種、ゾウムシの仲間2種、アブの一種、ハエの仲間3種、アリの一種、謎の毛虫・芋虫4種、コクサグモ、アオオニグモ、ネコハエトリ 計15種

新宿へ(17:20~)

さあ、ミノムシにも会えたし、もう思い残すことはない。地下鉄に乗っていざ次なる緑地、新宿御苑へ!
すでに閉園!
すでに閉園!
が、とっくに閉園時間を過ぎていた…。しまった、開園してる時間なんて全然考えてなかった…。だっていつも行ってる森や山に閉園時間なんてないもん。

こうなったらもう意地でも新宿の街中で生き物探してやる!
いい草むら見つけた!が…
いい草むら見つけた!が…
ああ、新宿にもいい草むらがあった。イネ科の草がこれだけ茂っていれば、小さなバッタやキリギリスの類が絶対にいるはずだ。…いるはずだったのだが…。
いない。ダンゴムシすらいない。そういえば草の葉に虫食いの跡が全然ない。新宿はよほど虫が暮らしにくい町であるようだ。
結局、追加できたのはスズメだけ。
結局、追加できたのはスズメだけ。
日が落ちるまで脇見ばかりしながら新宿を練り歩いたが、見つかったのはハトとスズメだけであった。残念…!
新宿での成果:スズメのみ

ラストは東京港で水モノ大量確保!(二日目 10:30~14:00)

新宿での大ポカの後、水鳥と川魚を求めて江戸川へ向かうがコイしかしか撮影できずに終わった(水鳥はたくさんいたのだけど、暗くなると種類を確認できなかった)。
早朝の江戸川に浮かぶコイ。
早朝の江戸川に浮かぶコイ。
2日目こそ、初日にあまり撮影できなかった野鳥を探そうと思い、バードウォッチングの名所である「東京港野鳥公園」に足を運ぶことにした。東京港野鳥公園は大田区の東京都中央卸売市場のそばに位置する上、周囲に首都高と湾岸道路が走っている。まさに今回の企画の趣旨にぴったりのフィールドであるといえる。

と、ここで悪い癖が出てしまう。
おっ、イイ河口してんじゃーん!
おっ、イイ河口してんじゃーん!
東京港に注ぐ河川の河口がとてもいい感じだった。河口の神様が「いいからちょっと寄って行けよ」と耳元でささやく。

しかも友人によると、このあたりではホンビノスガイという外来種の二枚貝が採れるのだという。あ、それずっと見たかったやつだ。即席潮干狩り開催決定。
干潟にはイガイとカキとフジツボがみっちり。
干潟にはイガイとカキとフジツボがみっちり。
河口は干潟になっており、二枚貝やフジツボが大量に生息していた。いかに栄養が豊富であるかわかる。(それだけ排水が流れ込んでいるということなのかもしれないけど…)
食べるとおいしいサルボウ発見!
食べるとおいしいサルボウ発見!
ホンビノスガイを求めて適当に砂を掘る。うれしいおまけのサルボウなんかも見つかる。
やった!ホンビノスガイ発見!
やった!ホンビノスガイ発見!
開始数分でホンビノスガイを発見!沿岸で採れる二枚貝にしてはかなり立派だ。サルボウはもちろん、ホンビノスもとてもおいしいらしいが、今回は食べることは全く考えていなかったのでどの獲物も持ち帰らなかった。
ホンビノスガイの採り方や料理についてはライター玉置さんによる当サイトの過去記事に詳しいのでそちらをご参考に
こちらも外国から入ってきたミドリイガイ。
こちらも外国から入ってきたミドリイガイ。
外来種といえば、もう一種おいしそうな貝がいた。スーパーや鮮魚店で「パーナ貝」という名で売られているミドリイガイという貝だ。東京にもいたのか。
殻の端にタテジマイソギンチャクのおまけつき。
殻の端にタテジマイソギンチャクのおまけつき。
さらにもう一種、外国からのお客さんが。
イッカククモガニ。ビジュアルはかっこいいんだけどなぜか全然動かない。
イッカククモガニ。ビジュアルはかっこいいんだけどなぜか全然動かない。
イッカククモガニというカニである。これら3種はいずれも船のバラスト水に混ざって日本へやってきたものらしい。外国人の多く暮らす東京とは言え、自然環境まで国際色豊かになるのはちょっと考えものかもしれない。
他にもカニ発見。キミたちは外国原産じゃないよね…?
他にもカニ発見。キミたちは外国原産じゃないよね…?
いかん!つい潮干狩りに夢中になって東京港野鳥公園へ行くのを忘れていた!!
大急ぎで向うも外周にたどり着いた時点でほぼタイムアップ。結局チェックリストに野鳥を追加することはできず。残念!
 東京港野鳥公園は東京都中央卸売市場に隣接している。今回は時間内に入園できず。
東京港野鳥公園は東京都中央卸売市場に隣接している。今回は時間内に入園できず。
食事中のハナムグリくんでフィニッシュ!
食事中のハナムグリくんでフィニッシュ!
と、タイムアップギリギリのところで、もう桜色より若葉色の比率がはるかに大きくなってしまったソメイヨシノの花に頭を突っ込んで、一心不乱に食事をとっているハナムグリという昆虫を発見。
名前のまんまだな。とおかしくなってニタニタしてしまった。
江戸川での成果:コイ、カモの一種
東京港周辺での成果:ホンビノスガイ、ミドリイガイ、サルボウ、イガイ、カキの一種、イッカククモガニ、イワガニの一種、イソスジエビ、フナムシ、タテジマイソギンチャク、ハナムグリの一種、クロヤマアリ 二カ所計15種
よっしゃ!東京生き物集め、これにて終了!!

1日で見られた生き物は…34種!!

24時間以内に都心部で見られた生き物を記事中への写真掲載の有無にかかわらずが大まかにまとめると以下の通りとなる。
昆虫…15種、クモ…3種、エビ、カニ&フナムシ…4種、貝…5種、イソギンチャク…1種、魚…1種、鳥…5種 計34種
…この数字をどう思われるだろうか。実際に調査を行った僕としては「しっかり計画さえ立てれば、この倍近い種数が見られるだろう」と感じた。
今回はライトや網などの装備が不十分な状態で挑み、夜間や水辺での時間をずいぶんと無駄にしてしまった。また、時期的にもやっと生き物たち冬の眠りから覚めてが動き出した頃である。盛夏にリトライすればもっとたくさんの種に出会えるだろう。
あるいは、一定時間内に見つけた生き物の種数を友達と競い合うのも面白いかもしれない。そんな奇特な友達がいればだが。
東京都中央卸売市場の近くを走っていたカブトムシマークのトラック。かわいい。
東京都中央卸売市場の近くを走っていたカブトムシマークのトラック。かわいい。
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