特集 2013年5月13日

「あの頃」のスーパーとエスカレーターをめぐる旅

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最近、ついにエスカレーター愛好の同志と呼べる仲間ができた。
しかも特定ジャンルにおいて既に私よりはるかに詳しい。
そのジャンルとは、まず「スーパー」のエスカレーターであること。そして、ただのスーパーではない、「あの頃のスーパー」であることである。
一緒に「あの頃」のスーパーとエスカレーターをめぐってきた。
1984年うまれ、石川県金沢市出身。邪道と言われることの多い人生です。東京とエスカレーターと高架橋脚を愛しています。

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駅前のスーパーが「元気な悪者」だった時代

私が子どもの頃、80年代後半から90年代半ばごろは、スーパーって、「新しくやってきて古い商店街を駆逐する悪者扱い」をされていた気がする。ドラマやアニメの中で「駅前スーパーの建設に反対する商店街の人々」がよく描かれていなかったか。
それが、今やすっかり、「新しい郊外型の巨大ショッピングモールに駆逐される古い駅前スーパー」という図におきかわっているのだ。でもスーパーって日常の場所すぎて、できた年代を気にしたり、実家に帰って馴染みのスーパーを訪ねてみたりとか、特にしない。「ああそういえばあそこなくなるらしいね、最近は新しいほうのイオンばっかり行ってたけど」くらいの存在だ。
そんな、いつのまにかひっそり消えていっている「あの頃のスーパー」を精力的に収集しているのが、今回ご紹介するMACLORD氏である。
ホームページ、「流通の記憶」(http://syouwasuper.web.fc2.com/)を運営。
ホームページ、「流通の記憶」を運営。
「MACLORD」という名前のとおり、本職(?)はナショナルの古いビデオデッキ「マックロード」を手に入れては修理して動かすのを趣味としている方だ(こちらの話には一切ついていけなかったので詳しくは氏のサイトを)。

――それがなぜ、スーパーのサイトを?
MACLORD氏(以下マ)「日本初の大型ショッピングモールと言われている、グルメシティ庄内店が閉店するというので観に行ったのがきっかけです。それをサイトにあげていたら、わりと注目されてしまって。デパートのサイトだったらけっこうあるんですが、他にスーパーのサイトってなかったんですよね」

うむ、わかる。「他に誰もやってない趣味」って、誰かに気づかれたが最後、使命感に駆られてやたらとのめりこんじゃったりするものなのであるよ。

マ「古い雑居ビルなんかも好きなんですけど、古いデパートとかスーパーなら、どんな貴重な店舗でも、誰でも自由に入れますからね!」

うむ、さらにわかる。古いエスカレーターも、どんなに貴重なものでも乗り放題だからね!
ゴールデンウィークまっただ中に溝ノ口駅前に集合したスーパーめぐりの一行、総勢12名
ゴールデンウィークまっただ中に溝ノ口駅前に集合したスーパーめぐりの一行、総勢12名
ちょっと古いスーパーをめぐるためだけにこんなにいっぱい人がやってきたことに驚きつつ、気前よく案内してくれたMACLORD氏
ちょっと古いスーパーをめぐるためだけにこんなにいっぱい人がやってきたことに驚きつつ、気前よく案内してくれたMACLORD氏

「あの頃」がそのまま残るスーパーの屋上

1箇所目に訪れたのは、いきなり意表をついてスーパーではなくドンキホーテである。
1階はおなじみのテンションだが、建物の上部に目をやれば、壁のデザインからにおいたってくる「あの頃」感。
1階はおなじみのテンションだが、建物の上部に目をやれば、壁のデザインからにおいたってくる「あの頃」感。
店内に溢れる「ドンキ書体」のなかで異彩を放つエスカレーター注意看板。これは、前身であるスーパーとしての「長崎屋」の頃のものだ。
店内に溢れる「ドンキ書体」のなかで異彩を放つエスカレーター注意看板。これは、前身であるスーパーとしての「長崎屋」の頃のものだ。
エスカレーターをのぼりきって階段を進むと、一気に「あの頃」が濃くなる
エスカレーターをのぼりきって階段を進むと、一気に「あの頃」が濃くなる
これはいい看板だ
これはいい看板だ
素敵遊具たちが現役で並ぶ、ちびっこランドである
素敵遊具たちが現役で並ぶ、ちびっこランドである
「いまでは、スーパーの屋上遊園地って閉鎖しているところが多いのでとても貴重なんです。子どもの頃よく遊んだんですよ」と懐かしさに目を輝かせるMACLORDさん。
が、すまん、私にはまったく懐かしくない。むしろ「スーパーに屋上」の時点で非常に新鮮だ。だって地元金沢のスーパーってほとんど平屋だったもの。
裏日本出身の悲哀である。
我々をつないでいるのはどうやらじつは懐かしさの共感ではないようだ。
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古いスーパーめぐり趣味と、エスカレーターめぐり趣味をつなぐもの、それは「丸ボディ」

そんな裏日本出身の私と、「昭和なスーパー」をめぐっているMACLORD氏とをつないだのは、エスカレーターの「丸ボディ」だ。湾曲するガラスのボディを持つ、レトロで豪華なタイプのものを私が勝手にそう呼んでいるのだが、ある日、私のサイトへのリンク元に、同じくこれを「丸ボディ」と呼んで愛でてくれている氏のサイトを見つけた。
そう、いいスーパーにはいい丸ボディがあるのだ。今や完全に立場逆転、いい丸ボディ情報はほとんど氏のサイトやTwitterで教えてもらっていることをここに告白する。
ツアーと関係ないが、教えてもらった超絶レアなやつをちょっと紹介したい。
都内ではもう数カ所にしか残っていない、「全照明」タイプ。それが、武蔵小金井の西友にある。
都内ではもう数カ所にしか残っていない、「全照明」タイプ。それが、武蔵小金井の西友にある。
――ここ、せっかく全照明なのに光ってないんですよね
マ「そうなんですよ、でも足下にスイッチがあるんですよ」
――あ!やっぱりスイッチ気になりました!?押しました!?
マ「いや、押す寸前まではいったんですけど…絶対怒られるし…」
――ですよねぇ…
私とMACLORDさんの良心の呵責を苛ませた魅惑のスイッチ
私とMACLORDさんの良心の呵責を苛ませた魅惑のスイッチ
これが進化して、乗り口、または降り口部分だけ照明の入った部分照明タイプとなる。
会津若松の元長崎屋にあるこれはしかし、ただの部分照明ではない。
会津若松の元長崎屋にあるこれはしかし、ただの部分照明ではない。
nippon elevator ind. 、日本エレベーター工業のものだ。エスカレーターファン歴10年目にして初めて見たメーカーである。ほんとよく見つけてくれたと感謝することしきり。こんなの存在することすら知らなかったよ…!
nippon elevator ind. 、日本エレベーター工業のものだ。エスカレーターファン歴10年目にして初めて見たメーカーである。ほんとよく見つけてくれたと感謝することしきり。こんなの存在することすら知らなかったよ…!
そしてツアーでまわったなかでとても稀少なのがダイエー横浜西口店の全透明タイプの丸ボディ、これはいいものである。
そしてツアーでまわったなかでとても稀少なのがダイエー横浜西口店の全透明タイプの丸ボディ、これはいいものである。
まず、床板の東芝ロゴが筆記体。
まず、床板の東芝ロゴが筆記体。
そして、ステップの側面がツルツル!
そして、ステップの側面がツルツル!
実際にお会いして、スーパーの「懐かしさ」の部分では基準が異なるが、「いい丸ボディ」「いいエスカレーター」の基準はお互い完全に一致することを確認した。ツアーメンバー一行に「これはヤバい」「うん、これはヤバい」などと二人してやたら言い募ることしきりである。

――やっぱり、いいエスカレーターがあるのって、ダイエー、西友ですかね?
マ「ヨーカドーも、じつは古いやつけっこうあるんですよ」
――え?そうなんですか??
マ「はい。ヨーカドーの場合は、ウェブの店舗ページの番号がそのまま古い順なので、2桁までの店舗はけっこういい感じなんです」
――なにー!!?
ものすごくためになる情報すぎてこんなに気軽に載せていいかどうか迷うし、たぶん日本で一番この情報を欲しているのは私なのでもはや載せる必要もないかとも思うのだが、一応書いておこう。件のイトーヨーカドーの店舗情報のページはこちらです。

そして日立のエスカレーン

こうして古めのスーパーをめぐっている結果、古めのエスカレーター情報に必然的にものすごく詳しくなっているMACLORD氏なのだが、もうひとつ、私が氏にかなわないなーやばいなーと思っているところは、エスカレーターの機種情報にもものすごく敏感で、知識が半端ないところだ。
そう、もともと電化製品好きのMACLORDさん、そういうの非常に得意とされているのである。
日立の「エスカレーン」もそのひとつ。
やってきたのは、これまた素敵な外観の「ゆりストア」。
やってきたのは、これまた素敵な外観の「ゆりストア」。
スーパーの片隅にひっそりたたずむ、これだ
スーパーの片隅にひっそりたたずむ、これだ
ピンク色のパネルがかわいらしい、ひとり乗りタイプ。
ピンク色のパネルがかわいらしい、ひとり乗りタイプ。
床板に「HITACHI ESCALANE」とある。
床板に「HITACHI ESCALANE」とある。
私の場合ここで「わー珍しいの見つけたなぁ~」と満足するのだが、MACLORD氏、「ESCALANEってなんだ」というのを調べた。調べ上げた。結果。ESCALANEとは、日立がその昔発売した、規格形のエスカレーターの名称であることが判明したのである。規格形とはそして、スーパーなどの日常的な商業施設において気軽なエスカレーターが求められ、従来の1基ずつオーダーメイドなエスカレーターではなく、あらかじめ規格の決まっているリーズナブルなものが作られたという、スーパーと縁の深いエスカレーターなのであった。
すごい。の一言である。
詳細はこのページに!刮目して読め!)
ゆりストアは2階の裏口から外に出られるという、さすが神奈川な地形に建っている。
ゆりストアは2階の裏口から外に出られるという、さすが神奈川な地形に建っている。
必ず裏にまわって外観のチェックを怠らないMACLORDさん。草に覆われてるところがポイント高いとのこと。
必ず裏にまわって外観のチェックを怠らないMACLORDさん。草に覆われてるところがポイント高いとのこと。
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「ふだんまったく見ていない」ことに気づくスーパーの外観

つづいては、「ピアゴ」という新しそうな名前のわりに堂々たる風格のこちら。
ピアゴとは元「ユニー」だそうである。そう聞くといっきになじみ深い。
ピアゴとは元「ユニー」だそうである。そう聞くといっきになじみ深い。
エスカレーターは三菱の丸ボディひとり乗りでこちらもとても素敵なのだが
エスカレーターは三菱の丸ボディひとり乗りでこちらもとても素敵なのだが
またいそいそと裏口にまわるMACLORDさんである。
またいそいそと裏口にまわるMACLORDさんである。
そしてみんなで見上げる。うわー、
そしてみんなで見上げる。うわー、
なんだこの意味ありげなファサード。ただのスーパーの裏側なのに。
なんだこの意味ありげなファサード。ただのスーパーの裏側なのに。
「スーパーの素顔は裏側」と語るMACLORDさんは意気揚々と不思議なものを見つけまくっている。
意味ありげな入り口に
意味ありげな入り口に
意味ありげな階段。地下駐車場につながっていた。この頃のスーパーで地下駐車場があるところは少ないらしい。そういえば駐車場のないスーパーなんて金沢には存在しないのでそういうところもカルチャーショック。
意味ありげな階段。地下駐車場につながっていた。この頃のスーパーで地下駐車場があるところは少ないらしい。そういえば駐車場のないスーパーなんて金沢には存在しないのでそういうところもカルチャーショック。
このタイルがあるのは元ほていやの店舗の特徴なのだそう。MACLORDさんは、外観を見てだいたい元○○だな、とわかる能力を持っている。
このタイルがあるのは元ほていやの店舗の特徴なのだそう。MACLORDさんは、外観を見てだいたい元○○だな、とわかる能力を持っている。
今回MACLORDさんとまわってみて、スーパーの外観ってふだんほとんど意識していないことに気づいた。たしかにあらためて見るとおもしろいのだが、「スーパーってこんなおもしろい建物だったんだ?」という、どこまでも初めましてな印象である。なじみ深いスーパーをいくつか思い浮かべてほしい、だいたい外側ではなく、店内の棚配置などを記憶していないだろうか?そういう意味で、スーパーって「ほとんど誰にも見られていない」希有な建築である。

ところで、気になっていたあの質問をおそるおそるしてみる。

――MACLORDさんは、エレベーターとエスカレーターだったらどっちが好きですか?
マ「エレベーターとエスカレーターは、同列に語れないものなんですよ。エスカレーターは、建物の外観を楽しむときみたいな、全体の見た目を楽しむものだし、エレベーターは、機械としてのおもしろみがあるし」
――(ものすごく深く頷きながら)そう!そうなんですよね!!で、私は、エスカレーターにしか興味ないんだけど…
マ「僕は元々電化製品が好きだったりもするので、エレベーターもけっこう好きです」

いつもエレベーターとエスカレーターの違いを説明させられては、徒労感を覚えている私なのだが、ひとに説明させて「あなたは私ですか」と思うぐらいばちーんと納得いく答えをもらってしまった。納得いきすぎて、私も少しくらいはエレベーターにも興味を持とうかと思う。
これは三菱の規格形エレベーター、三菱エレペット、だそうだ。そういうふうに言われると興味でてきちゃう。
これは三菱の規格形エレベーター、三菱エレペット、だそうだ。そういうふうに言われると興味でてきちゃう。
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一緒にまわるとだんだん価値観が伝播する不思議

ここまでついてきてもらったが、MACLORD氏と私以外の物好きツアーメンバーたちは、人一倍物好きな以外、スーパーもエスカレーターもほとんど一般人レベルな面々である。日立エスカレーン、のあたりでは「ふーん」「ほー」ぐらいの温度感だったのが、一緒にまわって「これはヤバい」と興奮して言われ続けているうちに、どんどん価値観に洗脳されていくのがおもしろい。
最後に訪れた今回ぶっちぎりに古いピアゴの外観に「おおー」とどよめき
最後に訪れた今回ぶっちぎりに古いピアゴの外観に「おおー」とどよめき
最後に訪れた今回ぶっちぎりに古いピアゴの外観に「おおー」とどよめき
最後に訪れた今回ぶっちぎりに古いピアゴの外観に「おおー」とどよめき
この店舗はまもなく閉店が決まっているそうだ。そういう情報はどうやって入手しているかというと、「閉店のお知らせを受け取った近所のひととかが教えてくれる」とのこと。ですよね、マニアックなサイトをやってると、重要な情報は必ずどこからともなく教えてもらえるものなんですよね。ほかに誰もやっていない趣味に走っているひとは、とにかくいますぐサイトを開設したほうがよいぞ。

そして今回のクライマックスはこれだった。
閉鎖された屋上への階段にひっそりと掲げられた「お子様遊園」の文字。うわーこれはヤバい。いろんな記憶のフタが開けられていく気配に泣く。だって私、こういう絵が描かれた木のおもちゃ箱、持ってた。
閉鎖された屋上への階段にひっそりと掲げられた「お子様遊園」の文字。うわーこれはヤバい。いろんな記憶のフタが開けられていく気配に泣く。だって私、こういう絵が描かれた木のおもちゃ箱、持ってた。
さらに手前側、身を乗り出して振り返らないと見えない位置に衝撃の看板が掲げられているのだが…これは氏のサイトでじっくりご覧になっていただきたいhttp://nationalmaclord.web.fc2.com/annex/shop/uny/isezaki_matsukiya.html。よく見つけたよなぁ。
さらに手前側、身を乗り出して振り返らないと見えない位置に衝撃の看板が掲げられているのだが…これは氏のサイトでじっくりご覧になっていただきたい。よく見つけたよなぁ。

MACLORDさんをスパイラルに案内する

神奈川県内のあらゆるスーパー事情に詳しいのに、桜木町駅で降りるなり「ランドマークタワーってどれですか?」とか言っているMACLORDさんを連れて、最後は三菱のスパイラルエスカレーターを観に行った。昭和に建てられたちょっと古い建物にしか本気で興味がないため、ランドマークタワー(1993年開業)には行ったことがないらしい。「桜木町といえばぴおシティ(1968年開業、現在改装工事中)かな」って、ちょっと、一体何歳なんですか(秘密である)。
のぼって
のぼって
上から
上から
眺めて
眺めて
降りる。大満足。
降りる。大満足。
「うわー!!スパイラルがシンメトリーに上下配置されているのって、初めて見ました!!!」と、昭和じゃない建物にも人一倍興奮してくれたMACLORD氏。スパイラルエスカレーターをきっかけに、ちょっと新しくて格好いいタイプのエスカレーターにも興味が出てきたそうだ。
うれしいなぁ、うれしいなぁ。

当たり前だけれど楽しすぎた

エスカレーターファンを始めて10年、べつに第一人者などを気取るつもりもなく、「どこかに私より数倍詳しい人がいるんだろうなぁ」と思いながら、そういう人に会いたくてサイトをやっていた。今回こうやって実際にお会いすることができて、会う前からわかっていたことだが、やっぱり楽しすぎた。エスカレーター好きでいてよかったな、と思うし、これからも負けないようにもっと好きでいよう、と思う。
打ち上げにて、エスカレーターの写真見せ合い大会となる。こんなにエスカレーターの写真がケータイに入ってる人、私以外に初めて見た。
打ち上げにて、エスカレーターの写真見せ合い大会となる。こんなにエスカレーターの写真がケータイに入ってる人、私以外に初めて見た。
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