特集 2013年8月5日

300円で楽しめる東南アジア街歩き(気分)

左がベトナム、右が日本
左がベトナム、右が日本
僕が行った海外旅行先といえば、新婚旅行で行ったトルコをのぞけば東南アジアばかりだ。(アメリカやヨーロッパは怖いから)。
そのせいかどうかはわからないけど、日本にいても、外を歩いていると急に「ここは東南アジアっぽいぞ」と思う時がある。
気温、湿気、周囲の景色、いろんな条件がたまたま自分の海外旅行の思い出と重なったとき、そこに東南アジアが現れる。特に蒸し暑い今の時期は。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

前の記事:麺類が甘い街、松山

> 個人サイト nomoonwalk

もともと似てるところがある

実際、日本の景色ってところどころで東南アジアに似ていると思う。
日本もアジアの国だから、文化的に共通するところも多いのだろう。
たとえば普通の街中歩いてて急に古い西洋風の建物が出てくると(東京駅)
たとえば普通の街中歩いてて急に古い西洋風の建物が出てくると(東京駅)
ベトナムっぽいなーとか(サイゴン大教会)
ベトナムっぽいなーとか(サイゴン大教会)
サイズは全然違うけど、急に出てきてレンガ造りで丸い、という点ではタイの仏塔の存在感も近い
サイズは全然違うけど、急に出てきてレンガ造りで丸い、という点ではタイの仏塔の存在感も近い
それからこの、上までコンクリがせり出してるタイプの歩道の形(大手町の歩道)
それからこの、上までコンクリがせり出してるタイプの歩道の形(大手町の歩道)
これ台湾っぽいなーとか(写真はこの記事</a>より、台湾の歩道)
これ台湾っぽいなーとか(写真はこの記事より、台湾の歩道)
力強い漢字だけの看板を見ると
力強い漢字だけの看板を見ると
やっぱり台湾だ台湾
やっぱり台湾だ台湾
いくつか挙げてみたけど、どれも「周囲360度まるっきり東南アジア!」というわけではなくて、一部の要素がちょっと似てるくらいである。

それでも見つけたとき一瞬だけ現地にいるみたいな気分になる。これは人間の錯覚のなせる業だ。

もしこの錯覚を長続きさせることができれば、もしかして日本に居ながらにして海外旅行が楽しめるのではないか。

ハーブでトリップ

そういうわけで、ある日の仕事帰り。海外旅行に出かけることにした。
行ってきます。さよなら日本!
行ってきます。さよなら日本!
そのままスーパーへ
そのままスーパーへ
野菜売り場
野菜売り場
で、ある商品を購入
で、ある商品を購入
この商品が、今回の旅行の航空チケットとなる。
ただし、何時間も窮屈なフライトに耐える必要はない。
搭乗手続きを終えたら、もう南国はすぐそこだ。
適当に外に出た。まだ日本です
適当に外に出た。まだ日本です
あっ、ここ東南アジアだ
あっ、ここ東南アジアだ
ひみつはこれ
ひみつはこれ
パクチーだ。
「ここちょっと東南アジアっぽいなー」にパクチーの香りを補強してやることで、視覚と嗅覚で刺激量2倍に。するとそこはもう完全に東南アジアである。

このパクチーはスーパーで300円で買った。この合法ハーブを使えば瞬時にトリップ(そのままの方の意味で)できるのだ。
寄りの写真で香りを想像してください
寄りの写真で香りを想像してください
タイ、入国できましたか?
タイ、入国できましたか?
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街へ出ます

ではパクチーを嗅ぎつつ、その辺を歩いてみよう。読者の皆さんももし手近にパクチーがあれば嗅ぎながら読んでみてほしい。(さもないとただのそのへんの街中の写真に見えます。)
あわせて、うまく自己暗示をかけ、ここが旅先だと思い込むためのコツも紹介してしていこうと思う。
なんといっても路地。ごちゃっとした細い路地はいかにもアジアの過密都市というかんじ
なんといっても路地。ごちゃっとした細い路地はいかにもアジアの過密都市というかんじ
パクチーを嗅いでいれば、ベトナムの路地に見える。(以後、バーチャルの風景にはパクチーの枠がつきます)
パクチーを嗅いでいれば、ベトナムの路地に見える。(以後、バーチャルの風景にはパクチーの枠がつきます)
こういう、家しかなさそうな狭い路地の奥に急にネットカフェがあったりする
こういう、家しかなさそうな狭い路地の奥に急にネットカフェがあったりする
台湾の路地
台湾の路地
路地を抜けると提灯の並ぶ店が。いやーアジアだなー
路地を抜けると提灯の並ぶ店が。いやーアジアだなー
台湾の九分です
台湾の九分です
「さっきから台湾台湾いってるけど、台湾と言えばパクチーというより八角の匂いじゃない?」という意見もあるだろう。厳密にいえばそうなのだが、厳密とか言い出したら厳密にいえばここは日本である。あんまり神経質になっても仕方がない。

八角やパクチー、ナンプラーなど複数の香辛料を持ち歩いて景色によってかぎかえるのも手だが、あんまり細かく気にしすぎると旅のゆったりとした空気がかき消されてしまう。なんとなく「東南アジア」というぼんやりしたくくりでやっていくのがいいと思う。
ただ、家にパクチーがなくて八角がある、というような場合は八角だけでヴァーチャル東南アジア観光をキメてもいいだろう。
ポイント1
国は限定しない方がよい
そうこうしているうちにレンガ造りの高架に出た。植民地時代に作られたものが今も使われているのだろう。
そうこうしているうちにレンガ造りの高架に出た。植民地時代に作られたものが今も使われているのだろう。
少し歩くと新たな建物が。こちらも西洋風で、植民地時代の名残にちがいない。
少し歩くと新たな建物が。こちらも西洋風で、植民地時代の名残にちがいない。
ホーチミンの郵便局はフランス植民地時代にフランスのオルセー駅を模して作られた
ホーチミンの郵便局はフランス植民地時代にフランスのオルセー駅を模して作られた
ベトナムのホーチミンにはフランス領時代の建物が多く残っており、称して「プチパリ」などと呼ばれることもある。あの街が実際パリっぽいかといわれるとドがつくほどのアジアだったが、その風景はバーチャル東南アジアをやる際に使える大きな教訓を残してくれた。「西洋風の建物も周囲に溶け込んでしまえばアジアの一部」なのである。
ポイント2
西洋風の建物は「植民地時代の名残」ということにする
ちなみにさっきの日本銀行旧館です
ちなみにさっきの日本銀行旧館です
葉っぱを嗅ぎながら半笑いで撮った記念写真はかなりまずい気がしますが合法です
葉っぱを嗅ぎながら半笑いで撮った記念写真はかなりまずい気がしますが合法です
アジアツアーに戻ります。あーこういう川、タイで泊まったホテルの近くにあったなー
アジアツアーに戻ります。あーこういう川、タイで泊まったホテルの近くにあったなー
チェンマイの橋の上で撮った写真で、この下が川。(川の写真がなかった!)
チェンマイの橋の上で撮った写真で、この下が川。(川の写真がなかった!)
こういうオールドスクールなゲーセンはタイでも見たぞ
こういうオールドスクールなゲーセンはタイでも見たぞ
この写真1枚で突っ込むべきところがたくさんある気がするが今回は割愛。タイのゲーセン
この写真1枚で突っ込むべきところがたくさんある気がするが今回は割愛。タイのゲーセン
この辺になってくるともうアジアでもなんでもない、ただの川と寂れたゲーセンなのだが、自分がかつて行った場所になぞらえることで、無理やりアジア感を演出することができる。あとあとこういうところで糧になるわけだから、若いうちの海外旅行は行っておいて損はないぞ。(本末転倒)
ポイント3
思い出を総動員せよ
近年の急速な経済発展を感じさせる、真新しいショッピングモール。
近年の急速な経済発展を感じさせる、真新しいショッピングモール。(丸の内OAZO)
中は有名ブランドの免税店が立ち並ぶ
中は有名ブランドの免税店が立ち並ぶ
アジアの免税店ショッピングモールも、新しいところはどこも同じような感じで、大体こんな風。だから旅行中の立ち寄り先としては面白みに欠けるのだが、一応見に行っておいてよかった。その経験はこんなところで生きるのである。

ちなみにここだけ参考写真がない。普通すぎていちいち写真を撮らなかったみたいだ。それだけ似てるってことなのだ。
ポイント4
新しいきれいな建物を見たら免税店だと思え
この配線がごちゃっとしてる感じ、いいねえ
この配線がごちゃっとしてる感じ、いいねえ
ただの新橋のガード下なのだが、パクチー嗅ぎながらなら確実に東南アジア
ただの新橋のガード下なのだが、パクチー嗅ぎながらなら確実に東南アジア
台湾の朝食屋台
台湾の朝食屋台
配線、高架下の飲み屋など、ごちゃっとしたものはたいてい東南アジアだと思って大丈夫だ。最初に挙げた路地なんかもそうだろう。
 エアコンの室外機がごちゃっとしているだけでも、そこはかとなくアジア度高い
エアコンの室外機がごちゃっとしているだけでも、そこはかとなくアジア度高い
ポイント5
ごちゃっとしたところを探せ
新橋のインターナショナルアーケード。インターナショナルの名に恥じないアジアぶり
新橋のインターナショナルアーケード。インターナショナルの名に恥じないアジアぶり
日本語のない看板もあったりしてとても雰囲気がいい。
日本語のない看板もあったりしてとても雰囲気がいい。
そうそう、日本語といえば、アジアを満喫するうえできるだけ避けたいものがある。
それは以下の3つだ。
日本語
日本語
スーツの人
スーツの人
蝉の声
蝉の声
日本語については説明するまでもないだろう。スーツの人も東南アジアではあんまり見ない。そして意外なところで気を付けたいのがセミ。東南アジアでアブラゼミやミンミンゼミの声を聴いたことがないように思うし、Wikipediaで調べてみても東南アジアには生息していなさそうだ。なんにしろ聴くとアジア感よりも日本の夏休み感が先に立ってしまう。避けておいて間違いはないだろう。
ポイント6
日本語、スーツ、セミを避けよ
イマジネーション・アジアを楽しむコツ、覚えてもらえただろうか。
次のページでは実践編として、これらのメソッドを使用し銀座の街を歩いてみます。
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夜はよりアジア

すっかりあたりは暗くなった。東南アジア的にはナイトマーケットや屋台での晩御飯など、楽しみの多い時間でもある。ステップアップ編であるここでは現地の参考写真は載せないことにする。各自の想像力でセルフトリップしてほしい。
まずひと嗅ぎしてからスタート
まずひと嗅ぎしてからスタート
適当に撮った写真だけどもうこれだけでアジアっぽい気がしてきた
適当に撮った写真だけどもうこれだけでアジアっぽい気がしてきた
温暖な気候で西洋人の観光客もたくさんやってくるので、夜はこういう西洋風のレストランやバーも繁盛する
温暖な気候で西洋人の観光客もたくさんやってくるので、夜はこういう西洋風のレストランやバーも繁盛する
急速な経済発展で都心には高層ショッピングモールを建設中
急速な経済発展で都心には高層ショッピングモールを建設中
アップルストアだ!やっぱりどこでも同じような雰囲気なんだなあ(ここで少しグローバル企業が土着文化に与える影響について少し考える)
アップルストアだ!やっぱりどこでも同じような雰囲気なんだなあ(ここで少しグローバル企業が土着文化に与える影響について少し考える)
高校生とかじゃなく大人が裏道にたむろしてる様子はアジアっぽい
高校生とかじゃなく大人が裏道にたむろしてる様子はアジアっぽい
これは華僑が経営する店かな
これは華僑が経営する店かな
あっ、遠くに提灯が見えるぞ。高まる台湾ムード
あっ、遠くに提灯が見えるぞ。高まる台湾ムード
しまった、近寄ったらなんだか盆踊り感出てしまった。
しまった、近寄ったらなんだか盆踊り感出てしまった。
どうやらここでお祭りがあるらしい
どうやらここでお祭りがあるらしい
っていうかなんか酒盛りしてる…
っていうかなんか酒盛りしてる…
なんか楽しそうにしてるなー、と思ってガン見しながら通り過ぎようとすると、浴衣姿でお酒をふるまっていた女性が声をかけてきた。
「ビールのんでいきませんか?」

いいんですか!!!!!
迷わず混ぜてもらう
迷わず混ぜてもらう
なんでもお祭りは明日から始まるらしく、今日は前夜祭としてここで振る舞い酒をしているのだという。せっかくなので一杯いただくことにした。
紙コップに冷えひえのビール!
紙コップに冷えひえのビール!
ビールをいただきながら詳しい話を聞いてみると、ここは金春(こんぱる)通りという通りで、明日からその通りの名を冠した「金春祭り」というまつりがはじまるらしい。今年で29回目だそうだ。その祭りのメインが、8/7に開催される「路上能」。この通りを使って、路上で能を舞うのだという。
通り中に案内が貼ってあった。詳しくはこちら</a>
通り中に案内が貼ってあった。詳しくはこちら
ほんのちょっと試飲くらいのつもりで足を止めたのだが、ビールはわんこそばのごとくどんどん継ぎ足されていく。これは長い夜になるぞ…。
そのうちお酒を配っていた女性が、「さあ!」と声を上げた。
スペシャルおつまみが登場
スペシャルおつまみが登場
銀座の久兵衛という、寿司の名店の太巻きだそうだ。僕はこの店のことを知らなかったのだが、僕の次に太巻きをもらった女性が「きゅうべえって?」と言ったところ「返して!」と言われていたので、僕はなんとなく知ってるような顔をしてやり過ごした(もちろん冗談でのやり取りだが)。帰ってから調べてみたら、ぐるなびのレビューには「日本一のブランド寿司」と書いてあった。太巻きも1本3000円とのこと…!
そうとは知らず一口で平らげてしまった
そうとは知らず一口で平らげてしまった
で、みなさま、そろそろお気づきだろうか。この時点で完全に東南アジアのことなど忘れていたのである。
匂いだけのパクチーを、五感に染みるビールが圧倒
匂いだけのパクチーを、五感に染みるビールが圧倒
ビール最高!
ビール最高!
その後、帰りに申し訳程度に一枚撮った、植民地時代の建物
その後、帰りに申し訳程度に一枚撮った、植民地時代の建物

こんな展開の後で言うのもなんだが、パクチー作戦、想像以上にアジア体験ができた。タイのマーケットで感じたあのムワッとした空気、蒸し暑いいまならパクチーひとつでかなり忠実に再現できてしまう。


注意点としては非日常を演出するため通り慣れた道ではなく知らない道でやること。あとパクチーもずっと嗅いでると飽きるし鼻が慣れてしまうので、空気の動きでうっすら香る程度の距離感を維持することだ。鼻の下に葉をこすり付けるなどもしてみたがにおいが強すぎて辛かった。

この夏、飛行機で飛ぶ代わりに、想像の翼を広げて海外旅行というのも、なかなかいいのではないだろうか。(うまいこと言った時の顔)
そういえばそば屋も大敵でした。前を通ると出汁の匂いで一気に日本に
そういえばそば屋も大敵でした。前を通ると出汁の匂いで一気に日本に
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