特集 2013年8月10日

書き出し小説大賞・第27回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第二十七回目である。

しかし、暑い。暑いと当然、汗をかく。汗ばんだ肌には知らない間にいろんなものがくっつく。今日、外から帰って首筋を拭いたら1円玉が落ちました。外出中ずっと貼り付いてたみたいです。では今回も、全国から寄せられた書き出し作家たちの秀作を紹介しょう。

書き出し自由部門

何もかも全てが嫌になり卵でとじた。
哲ロマ
三つ葉をのせて完成。
トラックに積まれた砂山の上に、夏空が広がる。
xissa
一瞬で絵が浮かぶ。
「あの向こうがサイハテだよ」
船長はしゃがれた声で言った。
まるで海に大きなドライアイスを投げ込んだように、目の前は白くけぶっている。
夏猫
直後、目の前に氷山が。
和式便所。アメリカを黙らせるには、もうこれしかなかった。
ささいな
野糞に洋式なし!
小さい暴君は見えない敵と戦います。戦いに疲れたら部屋の四隅を見て笑います。
トミ子(ツイッター休止中
赤ちゃん視点。
全身に電飾をまとい、ただただ一心に山の斜面を走る。大の字の右上を目指して。
おかめちゃん
「太」の位置でひと休み。
部長のあだ名を「景気」にしたら、堂々と悪口が言えるようになった。
おかめちゃん
社員「ぜんぶ景気のせいです!」部長「だな」
ふんわり明るい月の夜、月へ行くぞと千鳥足。
ウチボリ
そのままドブへ。
彼がおでんの大根をふうふうと吹くたび、頭上の月がくるくると回った。
イコウ様
酔いも回った。
ブルーシートをめくるたびに被害者はさまざまな表情に変わり、21回目で最初の状態に戻った。
大伴
コロッケで実演して欲しい。
落花生の殻を強く握ると、部屋のどこかがみしりと音を立てた。
紀野珍
ここは落花生の中かもしれない。
強烈な尿意と戦いながら歌ったら初めて入賞した。シャンソンというものがますますわからなくなった。
ジャイアン
シャンソンとションベンと関連性。
「ダジャレ裁判長」という肩書きがどうしても欲しくなってしまった。
人呼んで議長
ヨン刑!(死刑)

哲ロマ氏の作品、投げやりに始まりながらも最後は卵でとじる。「雑さ」と「繊細さ」が同居した見事な秀作。常連xissaの作品は完成されたビジュアルが浮かぶ。ささいな氏の作品、この説得力の所以はなんだろう…?常連おかめちゃんのネタものは今回も安定株。ウチボリ氏の作品、口ずさみたくなるような語呂の良さ。紀野珍氏の作品は落花生の中と外(部屋)が反転している逆入れ子構造。SF的センスが光る。ジャイアン氏の作品、後半シャンソンをもってくる荒技に脱帽。人呼んで議長氏の作品はどう転んでも不謹慎な展開は避けられない。この時期さらに暑苦しくなる書き出しから、ふっと暑気を忘れる軽妙な書き出しまで、今回も幅広い作品が集まった。

つづいて規定部門、今回のモチーフは「夏休み」であった。リアルな夏休みを送る学生さんから、いまでは遠い思い出の中年サラリーマン、そして年中休みの無職の方、さまざまな立場から寄せられた夏休みをご覧いただこう。

規定部門 モチーフ「夏休み」

息子の絵日記で、妻の不倫を確信した。
イワモト
週三で会ってるらしい。
無理やり作った思い出は、記憶に残らない。
おかめちゃん
記録だけが残る。
隣の茜ちゃんは入道雲に隠れたっきり、出てこない。
アイアイ
ゲリラ豪雨と一緒に帰ってきた。
知らない女の脚を払いのけ、ラジオ体操へと急いだ。
Yve Saint Lauにゃん
出席カードをくわえて。
夏の涼風を髪にはらませ、一直線に駆けてきた彼女は、僕の上腕動脈の位置を一発で確認すると、満足そうに川に飛び込んだ。
妙に萌える作品。
ゆうかちゃんの夏休みの自由研究は、教室から少しはみ出すくらい自由だった。
松っこ
将来の夢は自由の女神。
「いま夏休み中?」
職務質問をしてきたその婦人警官に、僕は一目で恋に落ちた。
Perry The Punch
補導されたい!
汗がしたたり畳を濡らす。彼女はいま夏休みを逆回しで味わっている。
suzukishika
割れたスイカが元通り。
「夏休み」と「台所」のどっちがいい?ボブからの電話だった。右腕に彫る日本語で迷っているらしい。
スピンサーブさえ打てれば
右腕は「夏休み」左腕は「台所」で。
五日間の家族旅行から家に戻ると、クーラーがついていた。
おかめちゃん
ギャフン&涼っ!
読書感想文に中島らもを読んで提出したら怒られた事があるが、大人になった今でも理由はわからない。
けけけのけ
せめて「明るい悩み相談室」以外で。
ひと夏の恋で得たものは、下半身のかゆみだけだった。
おかめちゃん
なにミジア?
義母と自由研究している。
TOKUNAGA
父さんには内緒だ。
夏休みが終わっちゃう。
あー…もう嫌だ。
嫌だ嫌だ。
ほうれい線も目立ってきた。
あー嫌だ、働きたくない。
お金が欲しい。
921
ラストは真顔。
朝顔の鉢を置いた窓の向こう、大学生位のお姉さんが一人で住んでいる。観察日記のノートは二冊に増えた。
prefab
天体望遠鏡も買った。
あの夏のタッチ再放送。来年の夏までの延長戦だった。
あおっち
「タッチ再放送」は夏の季語。
あの「黄色いスイカ」は幼い頃の自分が見た幻だと思っていた。
moja
そう言えば最近見ない。
「いいかぁー?」・・・・・・・・・・・・「いいよーっ」
それがスイカ割りの距離ではないことくらい、ワシにも分かっていた。
夜は知ったかぶり
途中、吊り橋もある。
九月、井上が裏声になっていた。
アイアイ
顔も米良っぽく。
秋も休む。
TOKUNAGA
無職に四季なし!

夏休みにまつわるさまざまなネタ、ラジオ体操、自由研究、宿題、観察日記、スイカ割り、家族旅行などに作品が集中した。採用作はその中でとくに切れ味を感じた作品。イワモト氏の作品は物語の導入として充分の惹きを持つ。Yve Saint Lauにゃん氏の作品、少年の心を忘れないプレイボーイ。笑った。黔氏の作品、上腕の内側に当てられた彼女の指を感じてぞくっとした。suzukishika氏の作品は夏休み最後の日、あわてて宿題に取り掛かる彼女とも解釈できるが、そこにイメージを限定してしまうと勿体ない気がする。彼女の中で逆再生される夏休みをそのままイメージしたい。スピンサーブさえ打てれば氏のモチーフの使い方…ズルい。921氏の作品、最後にぼつりとつぶやかれる本音が切実、かつ脱力。あおっち氏の「タッチ再放送」とmoja氏の「黄色いスイカ」はその言葉を見つけた点がなによりの勝因だろう。各作品、夏休みの悲喜こもごもを感じさせる秀作であった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
ボーイズラブ
男性の同性愛を題材にしたもの、いわゆるBLである。一般から見れば特殊な分野であるものの、いまでは決して看過できない広がりと深さを持つジャンルであることは、文章好きには周知の通りである。また文学的にも同性愛は古典的題材でもある。自身のセクシャリティとは関係なく、是非この機会に一線を越えた表現にチャレンジして欲しい。耽美からコミカルまで、ショタからフケまで、様式は問わない。また今回女性の同性愛ものは除く。男同士のさまざまな愛のかたちを書き出しだけで表現して欲しい。どんな世界を見せてくれるか、楽しみにしています。
締め切りは8月18日正午、発表は8月20日を予定している。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して応募して欲しい。力作待ってます
最終選考通過者

トニヲ/渡篠那間江/しょうさ/五代剛/らり/こうーじ/しゅん/おめが/AD794/ウチボリ/まなみん/g-udon/兎は月を見てぴょんと跳ねた/こめ/精霊馬/
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