特集 2013年8月20日

書き出し小説大賞・第28回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第二十八回である。

世界陸上が終わった。日本人は百メートルでは敵わないがもし五メートル走があれば持ち前の瞬発力で勝てるかもしれない。小説も然り、書き出しだけならプロにも勝てる。今回も物語のスタートダッシュをご堪能ください。

書き出し自由部門

総理の抱いた人形が喋りはじめた。
TOKUNAGA
靖国問題について。
目薬の粒が夏を通過する。その距離は、とても短い。
紀野珍
ミクロな視点からマクロな情景が広がる秀作。
甲子園のサイレンやパンジーの花が意味もなく怖いように、少年の心はわからない。
けけけのけ
パンジーたしかに睨まれてるようで怖い。
夫婦喧嘩の末、リビングにブランコを作ることになった。
もんぜん
寝室にはジャングルジムを。
彼はもうゆるキャラの定義を超えていた。
不眠
もうただのパステル色の塊。
逆に、宇宙人が扇風機の前でしゃべったら平凡な声になるのだろうか。
大伴
「ワレワレハイッパンジン」
湯気の立ち上る肉の上に落とされた卵は、端の方からじわじわと肉を隠すように白さを帯びていった。
紙製梱包具
徹底した凝視の面白さ。
公園のハトが歩き首を前後に動かす度、老紳士のお手玉の数が増していき、最後には繋がり、綺麗なアーチとなった。
五代剛
ファニーでファンシーなイメージ連鎖。
転がす方向を変えるだけでさらに美味しくなった。
おどげっつぁん
調理に「転がす」という選択肢が?!
電車が通るたびに、遺影が傾いてゆく。
おかめちゃん
線路沿いあるある。
少年は膨らんだ半ズボンのポケットからラムネの玉を選び、パンチパーマの男に差し出した。男は入替え中の自販機から適当な雑誌を見繕って少年に手渡し、片目でラムネの玉を覗き込んだ。「水の底みたいやなあ」
TOKUNAGA
男と少年の物々交換がごく自然なところがいい。
棒がしなって、母が飛んだ。
もんぜん
オカンバエワ。

小説は文字の羅列である。だからこそ文字だけでビジュアルインパクトを与えられれば、書き出しは鮮烈な印象を残す。 紀野珍氏、紙製梱包具氏、もんぜん氏の作品はそれぞれ印象的なビジュアルを残すことに成功している。五代剛氏の作品はさらにイメージを連鎖させシュールな光景をつくる。また不眠氏、おどげっつぁん氏の作品は意外性のある言葉をポンと投げ出し読者の頭の中に、勝手にイメージをつくってもらおうという手法だ。常連TOKUNAGA氏は長文でも冴えを見せる。自由部門はいろんな手法のチャレンジの場としてさらに多様化していくと面白いと思う。

それでは規定部門、今回のモチーフは「ボーイズラブ」であった。性癖を越え、禁断のテーマに挑んだ書き出し作家たちの秀作をご覧いただこう。

規定部門 モチーフ「ボーイズラブ」

視線を交わしあえるのは、いつも土俵の上だけだった。
(たま)
行事が嫉妬。
部長がネクタイを緩める。僕は心を締めつけられる。
おかめちゃん
その、加齢フェロモンに…。
洗面所で青色と緑色の歯ブラシがクロスしている。
トミ子
色の選択がよい。
前に座るテツの汗ばんだ背中に額を寄せる。ぼくらを乗せた自転車が夕日を受けて影を伸ばす。
小夜子
甘酸っぱい青春BL。
試着室に店員が一緒に入ってきた。
おかめちゃん
後ろ手にカーテンを閉めて。
お前はガタイいいからチラシ配れって、なんだよ。
xissa
ツンデレ男子?
かろうじてしがみついているような俺のアイスを取り上げて、「はずれ!」だってさ。こっちにしたら当たりだよ。
松っこ
なんだろうこのぞわぞわ感。
親方!空からオトコの子が。
なかそね
ぽっちゃり系男子が!
二人の探検家は、互いのコンパスが向き合うのを確かめ、さらに奥地へと向かっていった。
ウウタルレロ
禁断のエデンへ。
「ついてますよ」
「え、なに?」
「ほら、鼻のてっぺん。プロテイン」
「あっ……どうも」
紀野珍
「あっ……」の後には「ペロッ」がある。
タイム!マウンドへ駆け寄り、キスをした。
哲ロマ
一瞬静まるスタジアム。
シェルターから出て最初に頭をよぎった言葉は『アダムとイヴ』なのだが、どうやら二人で同じ事を考えていたらしく、俺たちは苦笑混じりに肩をすくめた。
かすてら巻き
Wアダム。
田中と吉田がトイレに行くと、決まって掃除用具入れが閉まっている。
こめ
妙にリアル。男子校っぽさもある。
リムジンを停めさせた二階堂嶺二の視線の先には進一の営む小さな八百屋があった。
TOKUNAGA
格差BL。
「あいつのパピコと俺のパピコ……お前のパピコに合うのは一体どっちなんだい?」工場長の感情が、冷凍室で爆発した。
夜は知ったかぶり
工場長の感情がパピコを溶かす。
酔いつぶれた部下が肩にもたれる。運転手がミラー越しに潤んだ視線をよこす。車内に吐息が混じり合う。車は青山トンネルに差し掛かった。
ファームかずと
密室の三角関係。
男同士にも、吊り橋効果ってあるんだ。
おどげっつぁん
ドキドキがキュンキュンに。
こんな場所があることを、神様は丁寧に隠した。つぷとかぬちとかという擬音ともに。
彼の名を呼ぶ。
擬音が……。
風立ちぬ。その刹那、お互いの操縦桿を握りあった。
カムパネルラ
ジブリに謝って!
カタツムリに性別はない。
俺のツノとお前のヤリが……。

対象を同性にすることで恋愛はさらにその切実さを増す。そして切実さがある一線を越えたときそれは悲劇に、あるいは喜劇に転ずる。(たま)氏、常連おかめちゃん氏、小夜子氏、ファームかずと氏の作品には寸止めの切実さが充溢している。松っこ氏の作品はすでに相手がノンケであることが分かっている。それでいてこの爽やかさが逆に怖い。かすてら巻き氏の作品も達観している。果たして二人はこの後どうするのか。逆に一線を越えた作品にもそれぞれの味わいがある。哲ロマ氏の作品は鮮やかに喜劇に転化した。こめ氏の作品は余計な修飾がまったくなく、しかもちょっと荒んだ感じが男子校それも工業高校っぽいというか、ガチな雰囲気がある。カムパネルラ氏はおもいっきりシモに振った。もうひとつの風立ちぬがここにあった。今回のモチーフは思いっきりシモにもいけるしギャグにもなる。またいろいろと典型的な比喩もある。入選作はそこを考慮しながらもデリケートはアプローチを試みている。流石である。

それでは次回規定部門のモチーフを発表する。
次回モチーフ
コンビニ
今回は私たちにとって最も日常的な場所、コンビニを取り上げてみた。誰もがイメージしやすいだけにどこに着眼的を置くかがポイントになるだろう。コンビニは時間帯によってもさまざまな顔を見せる。またバイト先としても人気がある。客目線でも店員目線でも、その他意外な視点でもよい。ドラマは日常の中にこそ潜んでいる。さまざまなアプローチで挑んで欲しい。ただし冷蔵庫の中に入るのは禁止する。

締め切りは8月28日正午、発表は8月30日を予定している。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して応募して欲しい。力作待ってます!

最終選考通過者

けん/侏儒/乱暴なランボー/人喰い船長/探求社/佐々木/K/赤嶺総理/とりあえずとうじゅ/大倉野のりゆき/けーと/野村バンダム/ぼるお/梅/山田将軍/柊一花/山本ゆうご/prefab/武野武ブルー/イワモト/岩手川/靖丸/藤田星野/塔/藤田星野/haruko/ささいな/荒木若干/921/菅原 aka $UZY/トニヲ/アイアイ/夏猫/まナツ/渡篠那間江/g-udon/ichikoro/新品の畳/洋子/ゴロ/
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