特集 2013年8月21日

もうホントどうでもいいことも練習したら上達するか

もうホントどうでもいいことに励む夏休みの午後
もうホントどうでもいいことに励む夏休みの午後
野球やサッカー、そのほかのどんなスポーツも、もともとは誰かが何となく始めた遊びがスケールアップしたものだろう。

人口が増えてルールが作られ、数えきれないほどの練習や試合が行われた結果、我々が熱中するスーパープレーが飛び出したりする。

それなら、誰もやらないような、もうホントにどうでもいいことでも、練習すれば上達して見えてくる境地があるのだろうか。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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毎年高校野球に感化されてる気がする

ちょうど仕事の夏休みと重なったこともあり、高校野球を家でよく見ていた。

高校生とは思えないダイナミックなプレーあり、締まった好ゲームあり、とても楽しませてもらった。

しかし、こんなに感動させられる試合ができるのも、日頃の地道な練習を積み重ねてこそだろう。まったく経験がなければ、どんなイケメンでも女の子投げなのだ。

ということは、逆に言えば、誰もやったことがないようなことでも、集中して練習すれば上達するのだろうか。それがたとえ、もうホントに、何の役にも立たないどうでもいいことであっても。

いかん、こんな寝っ転がってテレビを見てるだけじゃダメだ!と急に思い立って、公園にやってきた。
近所の公園にやって来たけどもう夕方
近所の公園にやって来たけどもう夕方
とりあえず持って来たビニ傘とペットボトル
とりあえず持って来たビニ傘とペットボトル

どうでもいいものでどうでもいいことを

家を出るときに、玄関にあったビニール傘と500mlペットボトル(洗って乾かしておいたもの)を何となく掴んできた。

この時点では何をやるのか、と言うか何ができるのかすらまだ分からない。これを使って、何かもうホントどうでもいいことをやろう。

何をやるんだか、分からないけど、やるぞー!
傘でドリブルは楽しい
傘でドリブルは楽しい
なんだか傘にボトルがフィットした
なんだか傘にボトルがフィットした
ボトルの首を傘の柄に引っかけて...
ボトルの首を傘の柄に引っかけて...
ひょいっ!と回転させる
ひょいっ!と回転させる
最初に思いついたのは、アイスホッケーのように傘でペットボトルのドリブル。もちろん初めてだけど、なんだか楽しい。でも、これは既にどこかの誰かがやってそうだ。なんかこう、もっと、ホントにどうでもいいことないだろうか。

どうでもいいことで悩むうち、ペットボトルの首の部分が傘の柄にフィットした。これを、ひょいっと持ち上げればペットボトルが回転するだろう。それを何度も続けるのはどうか。
落ちたボトルを拾うでもなく回転させるだけ
落ちたボトルを拾うでもなく回転させるだけ

どうでもいい神が降りてきた

それはホントどうでもいいなあ!蚊に刺されながら数分考えたけど、どうやってもたぶん一生何の役にも立たない。

というわけで、まず初めてトライした様子を動画でどうぞ。
コツとか手がかりがまったく掴めない
いやーホントにどうでもいい。ボトルを手元まで飛ばして拾う手間を省く、ということですらないのだ。使っている道具がビニ傘とペットボトルの空き容器、という雑さも、どうでもよさに拍車をかけている。

そして、当たり前だけど初めてなのでコツも何もまったく分からない。物理的に可能かどうかすら分からないのだ。
いちおうシミュレーションしてみる
いちおうシミュレーションしてみる
こうクルっとまわして...
こうクルっとまわして...
柄の部分でクルっと1回転させたらもう一度最初の状態へ。これを連続で3回くらいできるようになりたいなあ。
説明できないので人目につかないよう公園の隅で練習
説明できないので人目につかないよう公園の隅で練習

どうでもよくなくなってくる

初めはまったく手探りだった。10分くらい連続でトライしてみたけど、コツも手がかりもまったく掴めない。

猛暑の午後、洗いたてのTシャツをいきなりぐっしょりさせながらビニ傘でペットボトルをこねくり回す。あーもうホントどうでもいいよこんなの。モチベーションもダダ下がり、というかゼロだった針が下に振り切れよう振り切れようとする。

そのとき、何かの拍子でひょいっときれいに1回転した。なにいまの。どうやったの。しかし、理由はよく分からない。そうこうしていると、たまにひょいっ、ひょいっ、と1回転が成功するようになる。

身体は...、分かりはじめている...?
クルっとまわって...
クルっとまわって...
ピタっと止まった!
ピタっと止まった!
何度かに一度は、最初と同じ向きでピタっと止まるようになってきた。理想は、この止まったときに傘の柄がボトルの首の下に入っていて、連続でもう一度できること。

とりあえず考えた通りの動きをすることが分かって安心、と同時になんだかやめられなくなってきた。どうでもよくない。

これはたぶん、今まで何とも思ってなかった男子から告白されて、どうでもいい人だったのに気になってきちゃったじゃないどーしてくれるのよ、というやつだ。

そう考えればムリ目な女子にもアタックしてみる価値はやっぱりある。
そんな妄想してたら日が暮れてきたので家に帰った
そんな妄想してたら日が暮れてきたので家に帰った
それから数日間、どこに出かけるにも傘とボトルを持って歩き、少しでも暇と安全なスペースがあればどうでもいい練習に励んだ。
夜でも明るい場所を見つけて!
夜でも明るい場所を見つけて!
出かけた先で!
出かけた先で!
寝る前に布団の上で!
寝る前に布団の上で!
おかげで気がつくと傘を逆さまに持って歩いているくらい自分の生活に馴染んだ。そして不思議なことに、徐々にコツを掴み上達してはやっぱりまったくできなくなる、というスランプを繰り返した。

そして締切前最後の日。どのくらい上達したか動画を撮るため、ふたたびあの公園にやって来た。
いつの間にかグリップを短く持ってる
いつの間にかグリップを短く持ってる
これは記事を書く段階で写真を見直して初めて気づいたことだけど、いつの間にか傘を持つ位置が変わっていた。やっぱり繰り返し練習する中で、知らない間に身体が適応していたのだ。でも、このときはまだ最高で連続2回しかできていなかった。

果たして連続3回は成功するだろうか。
最初に比べて扱いが慣れている!
グラウンドが布団だったり舗装だったり砂だったりの違いに慣れず、連続成功はできなかった。でも、最初の動画に比べて段違いに傘とボトルの扱いが慣れている。これは自分でもここまでかと驚いた。そして、この数日間の血のにじむ努力が思い出されて涙が出てくる。僕は何をどうでもいいことに大事な時間を使ってるんだ。

そして、ひさびさの砂のグランドに慣れてきたとき、それは起こった。
iPhoneを落とすほどの悔しがり
これは惜しかった!2.5回までは成功と言っていいだろう。と言うか、この動画で初めて僕が何をやろうとしているか分かった人もいるかも知れない。

そして、実はこのとき気づきがあった。ボトルを持ち上げるとき、腕の動きだけだと安定せず、膝と腰も使って体全体で持ち上げるようにすると、きれいに真上に向かって回転してくれるのだ。

あらゆるスポーツで重要な「膝と腰」、まさかこんなどうでもいいことでもポイントだったとは。

それともうひとつ、ボトルを引っかける傘の柄の場所が、円の頂点のあたりではなく、円から直線に変わるあたりだと安定しやすい、ということも分かった。
このへんじゃなくて
このへんじゃなくて
このあたり
このあたり
こんなこと気づかなくていいから、もっと職場であの人とあの人仲悪い、とか次部長に昇進する課長はだれ、とかに気づきたい。

それはともかく、経験と冷静な分析によってようやく安定して回せるようになってきた。

そして残り時間もあと少しになったころ、奇跡が起きた。
いやこれがゴールじゃない
なんとペットボトルが立った。これは想定外。長くやっていれば一度くらい生まれるスーパープレーである。

しかし目的地はここじゃない。さらに意識して腰と膝、そして傘の柄がまっすぐになる部分を使って練習していたら、とうとうゴールにたどり着いた。
なんと世界記録の5回!
ついにできた!しかも目標の3回を大きく上回る5回!

そして僕は証明した。もうホントにどうでもいいことでも、練習すると上達してしまうのだ。途中からどうでもよくなくなってた気もするけど、でも冷静に考えるとやっぱりどうでもいい。

なので、皆さんいくら暇でも、こんなどうでもいいことにはチャレンジしないでください。


頭からっぽで没頭

今年の夏休みは主にこれに使った。もうホントどうしようもない休暇の使い方だと思う。

でもどうでもいいぶん、頭からっぽにして没頭することができた。ただ、そのせいで僕は貴重な長期休暇の終わりに腕の筋肉痛だけが残り、何か大きな忘れ物をしてしまった気がする。
終わったー、あ!入ってなかった!
終わったー、あ!入ってなかった!
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