特集 2013年11月30日

書き出し小説大賞・第37回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第三十七回目である。

先週から窓が点滅している。と言うのも向かいマンションの電灯が壊れチカチカと自宅の窓を照らしているのである。カーテンを閉めれば問題ないがふと気づくと、住民は平気なのか?管理人はなにをやってるのか?など考えてしまい仕事に集中できない。直接訴える勇気もなく、警察に連絡するほどでもない。こんなときこそタウンページか?いやこれはタウンページで解決する問題ではない。もう!タウンページの役立たず! それでは今回も点滅する夜に心乱されながら、珠玉の書き出し作品を紹介しよう。

書き出し自由部門

もうここには誰もいません、という声がして、足音が次第に遠ざかっていった。
xissa
余韻からはじまる書き出し作品。
卒業生達が贈った木版画のようこ先生は、気の毒なほど老いさらばえてみえた。
TOKUNAGA
ほうれい線の中に顔がある。
赤い糸は彼の小指と共に消えた。
TOKUNAGA
相手はヤクザだったのか。
冬は根菜。買い物袋が重い。
大伴
春は曙、的な。
エルフの冬は、耳の先から訪れ、やがてまた耳の先から去ってゆく。
よしおう
これは正調ファンタジー!
地下鉄駅の階段を軽やかにのぼるパンプスはまだ積雪を知らない。
suzukishika
雪をナメるでねえ!
失くしたとは言えなかったアレを、かがり火に照らされた鵜が吐き出した。
おどげっつぁん
とりあえず良かった。
長い坂道を、ふたつのカットマネキンが、追いかけっこをするように転がっていく。
紀野珍
怖くて間抜け。
合戦の後、自ら放った矢を回収する敵将と、思いがけず話が弾んだ。
おかめちゃん
合戦終わればノーサイド。
歩道橋から革ジャンを見掛けたら駆け寄りたい病気なんです。
トミ子
「あのお、ロックの人ですか!?」
突然送られてきた古いアルバムの表紙には、平仮名で大きく私の名前が書かれていて、私は先日母が受けた精密検査の結果を知った。
両手
「いて」でつなぐテクニックが読者の食指をそそる。
割り箸で作った鳥居にケチャップで色を塗り、店を出た。給仕はもう2番テーブルには立ち入れず、終電に間に合わない。
義ん母
散らばったセンテンスに妄想が刺激される。
山の上の旅館で修学旅行生の夕食のグラタンにされた蟹は、輪廻転生の時に優先的に人間になるという。
prefab
知られざる宇宙の法則。
「これは私たちのお終いの記録です」
レコーダーから流れるクリアな声にめい子は不思議な気分になった。宇宙船から覗く地表は砂に覆われている。
夏猫
抒情SF。

今回も切れ味のいい作品が集まった。TOKUNAGA氏の木版画の作品。小学生が描く人物画ってそういえばやたらほうれい線や額の皺を強調したものが多い。本人が気にしてるところに限ってデフォルメしてくるのが子供の画風だ。おどげっつぁん氏、鵜の吐き出したモノを読者に委ねるところが上手い。しかも各自が妄想した「それ」はかがり火によって照らされる。照明にまで気を配った秀逸な作品。トミ子氏の作品、病気なら仕方がない。でもその気持ち分からなくもない。革ジャン=ロックンローラー(なんとなくかっこいい人)という単純な図式が働いてるのだろうか。両手氏の作品には小説的な技を感じる。「~いて、~知った」という文章のつなぎ方は、あらかじめ私と母の間に精密検査の結果を伝えるための取り決めがあったようにも読める。大きな平仮名がその暗号だろうか。先が読みたくなるテクニックである。義ん母氏の不思議な世界観は健在である。夏猫氏もいつもの世界観をさらに深めた感がある。常連組も現状に止まらず技を磨いてる。頼もしい。

続いては規定部門、モチーフは「昔話」であった。若き語り部たちの新釈むかし話をご覧いただこう。

規定部門 モチーフ「昔話」

なぜ彼らは亀をいじめたのか。その話をこれからしよう。
ぬすばい
いじめた本人による貴重な証言。
「なぁに、ただの昔話だよ…。」
BARで知り合った桃太郎と名乗る男はそう言うと、グラスを傾けつつ何か団子のようなものを口にした。
どーん
バーボンに団子?!
「僕のほかに6人復活しているはずだ」
残り物のカレーを食べながら、桃の缶詰から出てきた彼は言った。
かぼちゃ
他の6人もこんなヤツだろうか……。
「桃太郎は五人もいらない」
母はPTA総会でそう言い放ったらしい。ちょうど同じ頃、私は友達の家で鬼の金棒をダンボールで作っていた。
野村バンダム
教育問題にメス入れた。
すると桃が二つに割れて中から桃太郎が、後ろからはジャズが。
勝新
劇判が生演奏。
甘い果実の中にいたせいで、外気を吸った瞬間くしゃみが出た。
わつ
桃太郎視点。しかも文体がオシャレ。
ハリウッドで映画化されたわらしべ長者は、地球の危機を救っていた。
アイアイ
WARASHIBE THE MOVIE
桃太郎からゆるやかに浦島太郎へ。昔話DJの腕が光る。
大伴
おっとここで笠地蔵が入るか!
おじいさんとはいえ、今で言うアラフォーであった。
大伴
昔は人生五十年。
スマホの画面をスクロールしていると湯呑みを持った祖父がゆっくりと腰をおろす姿が視界に入った。そっとその場を離れた。
NCハマー
聞いてあげて!!
「このいたずら狸め!」ローションまみれのおじいさんはカンカンです。
トニヲ
あーでも滑って追えねえ!
やだなー、怖いなーって思いながら振り向くと、竹が光っていたんです。
もんぜん
この人が話すとすべて怪談。
幼馴染だったという祖母と祖父の語る昔の話はプロポーズのあたりから矛盾が生じている。
TL125
そこも微笑ましい。
思春期を迎えた私が退屈しないように、おじいちゃんのしてくれる昔話にはちょっときつめの描写のリストカットシーンがあります。
トニヲ
部屋に閉じこもったツルが!?
昔々、お爺さんとお婆さんは、教師と生徒でした。
suzukishika
そこ詳しく聞かせて下さい!
おじいさんは、すぐに他の男と寝てしまうおばあさんを、どうしてもほっておけなかった。
りっちゃん
小悪魔婆さん。
ぶっちゃけ全員と寝てた。誰がよかったとかちーさかったとか色々あるよー。だってもう逃げても逃げても、金と力がよってくるの!!そんなkaguyaのオススメはコチラをクリック!
ババア伝説
昔話とスパムの融合。
その老人は中年のメイドに、長い寓話を語り終えた。と同時に、手話の動きも止めた。暗号であった。彼女は巾着を鷲掴み、小豆問屋に走った。
ボーフラ
なんだろうこの緊迫感。
鬼の死を知らされた時、僕は6922本めの柴を刈っていた。細い、細い柴だったよ。手で触れただけでぽきりと折れたんだ。
東雲長閑
なんだこの心象は!(笑)
巨大な桃を拾う出来事こそなかったけど、お爺さんとお婆さんは皆に囲まれて幸せに暮らしました。とさ。噛み締める様にお婆ちゃんは孫達に語った。
流し目髑髏
財宝だけが幸福じゃない。

今回はこちらもネタ系を受けて立つつもりだったので楽しく選ばさせてもらった。中でも昔話の基本と言える「桃太郎モノ」に秀作が多かった。どーん氏、かぼちゃ氏、勝新氏、野村バンダム氏は現代の教育問題を伺わせる作品に仕立てた。わつ氏の作品はなぜかオシャレな文体で、こんな語り口の昔話はひとつの発明だと思う。 NCハマー氏、TL125氏、トニヲ氏は昔話自体をモチーフにすることで逆の現在を照射する。suzukishika氏の切れ味、大伴氏のネタモノ、もんぜん氏、ババア伝説氏の書き逃げ感も爽快。 ボーフラ氏の不思議な作風はお題を越えた凄味がある。なんなんだろうこれは。東雲長閑氏の「僕」はいったいどんな立場でなぜこの口調なんだろう?こちらもあまりに唐突で笑うしかなかった。流し目髑髏氏の作品。お婆さん無念の表情がはっきり浮かびました。 昔話のパロディおよび換骨奪胎はもっともベタだが、芥川龍之介や太宰治など名だたる文豪が好んで用いた手法でもある。その点でも書き出し作家の手腕が発揮された回であった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
クリスマス
この時期のモチーフと言えばもうこれしかないだろう。サンタ、プレゼント、異性との一夜、家族の思い出、取っ掛かりはいくらでもある。クリスマスに対する憧れ、想い、恨み、妬み、すべての感情を書き出しの一文に込めて欲しい。締め切りは12月13日。発表は12月15日を予定している。以下の応募フォームから自由部門、規定部門を選択して投稿して欲しい。力作待っています!

※月間賞は次回以降にまとめて発表します。ご了承ください。

最終選考通過者

きりのよき/夜は知ったかぶり/小岩井祝/フライハイ/早百合/ねことか/みつる/ジャイアン/ぽたろう/こりない魔法使い/窓々/司窓/大倉野のりゆき/よしおう/二階から胃薬/じゃいこっち/井上だいすけ/じおりま/ミミズグチュグチュ/噂の琴ちゃん/ヨ太郎/merumo/blanca/

お知らせ

最後に唐突ですが宣伝です! このたび私、天久聖一の単行本「ノベライズ・テレビジョン」が河出書房さまから発売になりました。 「笑っていいとも」「徹子の部屋」「新婚さんいらっしゃい!」「笑点」などなどテレビのバラエティやCMを勝手にノベライズした全32編(多いッス!)の妄想短編集です。勝手にノベライズって……と我ながら思いますがもう書いてしまったので、買ってください!確実に笑えます!
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