中野区ぼやき縦断ツアー

縦断すると……７キロか。７キロくらいなら全然いけるはずだ！
そう思って、運動靴をはいた。

中野区、なんとなく、13年くらい住んでいる。
でも、中野区のはしっこに住んでいるので、いまひとつ詳しくない。
ああ中野。運転免許失効してしまったので、身分証明のため、住基ネットのカードだけは持っているよ。
ああ中野。中央図書館はデカイ中野。よく『翼の王国』（ANA機内誌）を読みに行くよ。定期購読するお金がないから。

スタート地点に行くために、笹塚へ電車に乗る。

パスモくんを見ると、「SUICAのペンギンにどうやったって勝てない、悔しい気持ち、よく分かるよ」と意味不明の思い入れをしてしまう。

笹塚は渋谷区だが、５、６分歩くと、杉並区、中野区までたどりつく。

めっちゃめちゃお洒落な男の子とすれ違う。
セットした髪、黒いスキニージーンズ、派手な色のリュックサック。
「このへんに住んでる人は、中野区に住んでても、『俺、笹塚住んでる』って言うんだろうなあ…」
と、想像しながら歩く。

実際、私も、中野のはしっこに住んでいるくせに、「高円寺住んでるよ」って言うし。

しかしこのへんに住んでると、中野区役所に、行くの、大変だろうなあ…。
まあ、中野は、バスが充実しているので、バスを駆使すれば、どこからでも、中野駅付近には行けるんだろうけど。

住宅街ばっかりなので、思わず、人んちの庭先の花を激写してしまう。

バラって一年中咲いてないか。気のせいか。

私も、野方二丁目に住んでいた頃は、よく銭湯に行った。
アパートはユニットバスなので、ひろいお風呂は気持ち良かった。
でも、都内のお風呂屋さんって、がんがんつぶれていってるよねえ…。

……さっそく、お腹がすいてしまった。
昼時だったから。
中華料理屋が、向かい合って２軒あったんだけど、なんとなく右手の店に入る。
こういう時の「なんとなく」はもう、自分の勘に頼るしか無い。

店内は、椅子などが少し小さくて、「ああ、昭和のまま使っているんだな」という感じであった。
昭和の人、今の人より小柄だもんね。
でもピカピカに磨き上げられてキレイ。映画のセットみたい。
ザ・キレイな中華料理屋！ という感じ。
気持ちいい。

電話がひっきりなしに鳴っていた。近所の人からの出前が多いみたいだ。
そうか、こういう古い中華屋さんって、出前でもっているのか、知らなかった。

マスターが、ずっとずっと、中華鍋で何かを炒めている。
高齢者なのに、昼の数時間、その運動量…。スゴイ。見習いたい。っていうか私には無理。

壁に貼ってあるメニュー表に、おすすめと書いてあったので、「ミソギョウメン」にした。

これが、美味しかった。太目のシコシコした麺が、いい…。この太い麺だったら、出前でも、あまりのびないことだろう。
うまいうまい、と食べているうちに、店は満席になった。うわ、人気店だ。
家族経営の、古くてキレイな中華屋さん。ウチの近所にあったらいいのになあ…と思いながら店を出る。

と、中華屋のすぐそばに、おばけ屋敷があった。えっ、おばけ屋敷？

恐過ぎて中止になったおばけやしきを移設していて、期間限定で開いているところに、
さまぁ～ずが来た……ということらしい。

私は恐がりなので、もちろん入らなかった。
ムリっす。
ムリっすよ。オバケとか。

どんどん歩く。

ぼーっとしてると暗くなる。
今年、電子書籍を出すことが出来たんだけれども、
買ってくださった方には大感謝でとても有り難いんだけれども、
全体的には、生活に何の変化もないこととか。

敬愛する作家さんに「小説を書きなさい」と言われたけれど、
どう考えても、書けないこととか。

持病が治らないこととか、
数年前と比べて、すごく太ったこととか。

収入をどうやって増やしたらいいのか、分からないこととか。

結婚もしてないのに、もう、妊娠が難しい年齢になっちゃったこととか。

先がまったく見えない。
30代の時は、なんとかなると思ってたんだけどなあ。

問題はひとつひとつしか解決出来ないし、すぐ状況が変わらないのも分かる。

私だけが悩んでいるのじゃないことも知ってる。みんな、同じように悩んでる。

でも時々、鏡を見て、ひどい顔をしているので、うんざりする。

歩く、歩く。
目に入ったものに、突っ込みを入れながら歩く。

ふとデジカメを見ると、花ばかり撮っていた。
「植物に関心を持つようになったら、年を取った証拠」と、タモリさんが言ってたけど、
いやほんとに……年をとったんだ。
それに、花を撮影したい気分だったんだ。
多分、弱っている、ほんと、私。ヤバイ。

さあ、また、どんどん歩こう。

歩いていたら、ラッピング専門店を見つけた。

店頭を見ていたら、おかしなナプキンを見つけた。

なんじゃこりゃ、と思って、ゴルフ柄を買ってしまった。
よく見ると、ドイツ製だった。
ドイツ人の感性、ふしぎ。意味が全然わからない。
しかし、買ったところで使うアテもないな…。

ドイツから買い付けられてきて、中野区にやってきて、私に買われるまで、どのくらいの月日がたっているんだろう、このナプキン。

ああ。
最近、禁酒している。
仲良しの友人が身体をこわし、ドクターストップで禁酒になったので、便乗して（ダイエットのために）お酒をやめている。
お酒をやめるとすぐに、むくみがとれて、１、２キロ落ちるのでビックリする。
身体に１、２リットルの「むくみ水分」が入ってたんだと思うと恐ろしい。

飲んだなあ、お酒。
若い頃はエンドレスで、生ビールを。
今は日本酒や芋焼酎を飲んでたんだけど…。

お酒をやめると、夜が長くてびっくりする。
シラフでいるってすごいことだ。
頭がはっきりしたまま、夜をすごすって、何をしたらいいのか分からない。
飲食費も、ぜんぜんかからない。

このあいだ、はじめて、
ドクターストップの友人が「どうしてもノンアルコールビールが飲みたい」「雰囲気だけでも！」というので、居酒屋に行った。
ノンアルコールを飲む友、ウーロン茶の私、ツマミはサラダとネギ串。
……会話ははずまず、30分で店を出た。

周囲のヨッパライたちは、別の次元で遊んでいる人々のように見えた。
ああ、私もあっちの住人だったのに。

中野駅を通ることにした。
中野駅周辺は結構知っている場所なので、歩いていて新鮮味がない。

ふう、ここでお茶しよう、と、人気ケーキ店「ときのは」のティールームにすべりこむ。
「ときのはカスター」という、格安150円のブッセと紅茶を頼む。

座れてラッキー。ここは混むので、座れない時もあるんだ。

ああ、ときのは、安くて美味しいんだよ、ときのはも近所にあれば通うのになあ、と思いながら紅茶を飲む。

さて、じゃんじゃん歩くよ。

歩いて歩いて、
そして私は江古田についた。

練馬区はずいぶん、キレイだなあと思った。風景が横長だ。
そう、中野ってゴチャゴチャしてるんだよな…。