特集 2013年12月6日

やっぱり改札口に生け花がある

駅の改札口に、しばしばなぜか生け花BOXがあることにみなさんお気づきだろうか
駅の改札口に、しばしばなぜか生け花BOXがあることにみなさんお気づきだろうか
よく「身近に不思議なことがひそんでいる」などというが、ぼくにとってのそれは駅の改札口にある生け花BOXだ。

というか、みなさん気づいておられるだろうか、あの存在に。

2004年に書いた「改札口の生け花を鑑賞する」から9年。あらためてこの可愛らしくも不思議な物体を愛でてみよう。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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あるよねえ、改札口に生け花

こういうやつ。駅にしれっと立ってる。なんなんだろう。
こういうやつ。駅にしれっと立ってる。なんなんだろう。
「駅の改札口によく生け花あるよね」と言ったときに「あー、あるねえ」っていう人もいるが、「そんなのあるっけ?」とまったくその存在に気づいていない人もいる。本記事をお読みのみなさんはどうだろうか。あるよねえ、生け花。なぜか駅に。
生け花の雰囲気に合わせてか、たいていBOXは木目調だ(JR三ノ宮駅)
生け花の雰囲気に合わせてか、たいていBOXは木目調だ(JR三ノ宮駅)
生け花BOX自体も不思議だが、あれに気づかない人がけっこういる、というのも不思議だ。そんなに珍しいものではないはずなんだが。ぼくの感覚では10駅に1駅、およそ10%ぐらいの割合で「生け花BOX設置駅」がある。
こっちは阪神の三宮駅の生け花BOX。木目調ではない、モダンなデザインにぐっとくる。
こっちは阪神の三宮駅の生け花BOX。木目調ではない、モダンなデザインにぐっとくる。
しかも東京や大阪だけではなく、全国にある。ぼく自身で確かめたものでは、最南端では鹿児島県、北は八戸だ。
八戸の生け花BOX。純白の装い。小ぶりでかわいい。
八戸の生け花BOX。純白の装い。小ぶりでかわいい。
これも八戸。大きな駅では、このように1つの駅に複数生け花BOXが置かれているケースがある。そしてかなり意欲的なBOXデザイン。それに負けじと中身もなんかすごい。生け花に詳しくないからよく分からないけど。
これも八戸。大きな駅では、このように1つの駅に複数生け花BOXが置かれているケースがある。そしてかなり意欲的なBOXデザイン。それに負けじと中身もなんかすごい。生け花に詳しくないからよく分からないけど。

鉄道に関係なく、広告でもない

鉄道趣味の世界は広大で奥が深い。趣味人口もかなりのものなので「そんな分野もあるのか!」って驚くあらゆるカテゴリに細分化しているが、改札口の生け花を専門としている人というのはきいたことがない。まあ、確かに駅にはあるけどほとんど鉄道と関係ないもんね。
こちらは広島駅。セオリー通りの木目調BOX。やや幅のある堂々たる佇まいはさすが。
こちらは広島駅。セオリー通りの木目調BOX。やや幅のある堂々たる佇まいはさすが。
そしてこちらも同じ広島駅。前出上のものは改札外で、これは中。なぜそんなに設置するのか。切符を買う前・買った後、どちらの上京でも楽しめるようにとの配慮か。
そしてこちらも同じ広島駅。前出上のものは改札外で、これは中。なぜそんなに設置するのか。切符を買う前・買った後、どちらの上京でも楽しめるようにとの配慮か。
「改札+生け花」で検索しても、生け花を趣味にしている方以外の情報はほとんどヒットしない。例外はぼくが以前書いた「改札口の生け花を鑑賞する」という記事だ。そう、このテーマはぼくがずっと追い続けているものなのだ。

(ちなみにこの記事、2004年に書いたもので、ぼくのデイリーポータルZデビュー作だ。そろそろ10年経とうとしている。ぼくがいかに成長なく同じ事をずっとやってるかがよく分かる)
富士駅。前出JR三ノ宮駅のものに要所要所が似ているが、プロポーションがだいぶ異なる。かなりでっぷりとしたBOX。
富士駅。前出JR三ノ宮駅のものに要所要所が似ているが、プロポーションがだいぶ異なる。かなりでっぷりとしたBOX。
かように多くの人々の意識からすっぽり抜け落ちているこの改札生け花だが、ぼくは気になってしょうがない。たぶんぼくだけじゃないはず!と思って世に問うたのが2004年だったのだが、反響は皆無。

そろそろ時代が追いついたか?と思い再度撮りためたコレクションを放出する次第だ。うすうす時代とかそういうものじゃないんじゃないかという気もしているが、どうかお付き合いいただきたい。

駅にあるもので、鉄道サービスに関係ないものといえば、そのほとんどは広告だ。そんななか生け花ってほんとうに不思議な存在だ。いや、もしかしたら生け花会の広告という位置づけなのかもしれないが、代理店通して云々っていう他の広告とは、違う成立過程だと思う。

そういう奇妙な存在であるにもかかわらずスルーされる。もしかしたら唐突すぎて普通の人にとっては「ないこと」になっているのかもしれないとも思う。心理トリックのようだ。
いったん広告です

ひとつとして同じものがない

馬喰町駅。下部の同心円デザインがすてき。こういうのもあるのか。
馬喰町駅。下部の同心円デザインがすてき。こういうのもあるのか。
お気づきかと思いますが、ぼくは生け花本体にはまったく興味がなくて、BOXのほうに惹かれている。しかも「なんで駅に生け花が」としきりに言う割にはそれについて調べたりはしない。もっぱら眺めて並べるだけだ。

そんなてきとうなスタンスのこの記事、本2ページ目まで読み進めている方がどれだけいるのかはなはだ不安だが、先を続けたい。
屋根がしっかりとついている。半分外みたいな感じだからだろうか。すばらしい。逗子駅にて。
屋根がしっかりとついている。半分外みたいな感じだからだろうか。すばらしい。逗子駅にて。
と思ったら、完全室内なのにこれなんかはもっと屋根。生け花大事にされてるなー。取手駅。
と思ったら、完全室内なのにこれなんかはもっと屋根。生け花大事にされてるなー。取手駅。
さきほどから同じような写真ばかり並べているが、ぼくって「同じようでちょっとずつ違う」「違うようで同じ」っていうものを標本のようにするのが好きなのでしょうがないのだ。

ただ、こうやって並べて見ていくと、けっこういろいろなBOXがあることが分かるだろう。そんなこと分かってどうするんだって話しですが。

実際、まったく同じBOXというのを見たことがない。もしかしてこれ一点モノなのだろうか。ますます謎だ。

非BOXの時代へ

BOX好きとしてはややさびしいがこれも時代の流れか。武蔵小杉駅。
BOX好きとしてはややさびしいがこれも時代の流れか。武蔵小杉駅。
見ていて気がつくのは、生け花BOXは年季が入っている、という点だ。そして新しい駅では木目調のものを見ることがあまりない。
こちらはテーブルにアクリルの箱を載せただけもの。ちょっとさびしい。
こちらはテーブルにアクリルの箱を載せただけもの。ちょっとさびしい。
ついに台だけ!しかもなんかてきとうなクロス!四日市駅。
ついに台だけ!しかもなんかてきとうなクロス!四日市駅。
こちらもテーブル系。
こちらもテーブル系。
いちおう専用台っぽいんだけど…
いちおう専用台っぽいんだけど…
これらのように非BOXタイプもよく見かける。おそらくちゃんとした生け花BOXを用意するのにはそれなりのお金がかかるのだろう。どうやら一点モノっぽいし。

そうそう壊れるものでもないと思うが、もしかしたらいずれなくなってしまうものなのかもしれない。今のうちにちゃんと見ておいた方がいいぞ!自動靴磨き機のようになくなってしまうかもしれないぞ。
ついにロッカーの上。
ついにロッカーの上。
上のものなんかは、もう生け花というより「なんかさびしいから植物置いとくか」にしかみえない。ほぼ下のようないわゆる構内グリーンだ。
こういうのとか
こういうのとか
こういうの。「なんか殺風景だしグリーン置いとくか」っていう。
こういうの。「なんか殺風景だしグリーン置いとくか」っていう。
これもよく見るとなんか奇妙だよね。
これもよく見るとなんか奇妙だよね。
ときにはこういう「やんわり立ち入り禁止」のサインとして利用されてたりして。
ときにはこういう「やんわり立ち入り禁止」のサインとして利用されてたりして。
こういうグリーンもおもしろいけど、やっぱり生け花として一線を画していただきたいのだ。それにはBOXだ。
いったん広告です
なんか、デスク。しかも中身も生け花じゃない。
なんか、デスク。しかも中身も生け花じゃない。
そこらへんのデスクだ。しかも花ですらない。
上とは別の駅だが、中身がほぼ同じ。どうやら作者が同じ方のようだ。新時代到来か。
上とは別の駅だが、中身がほぼ同じ。どうやら作者が同じ方のようだ。新時代到来か。
ただ、設置場所がなんだか追いやられてる感じでかわいそう。やはりBOXでない引け目か。
ただ、設置場所がなんだか追いやられてる感じでかわいそう。やはりBOXでない引け目か。
掛け軸に書かれた書でもなく、日本画が置かれるのでもなく、生け花であるにはそれなりの経緯があるはずで、だからこそBOXが充実したのだと思っていた。これはもう形骸化と言うべきではなかろうか。

生け花自体にはまったく思い入れはないのだが、生け花であってほしいと思ってしまった。なんだろう、この感情。

BOXじゃないけどもしかしたら最強のセットアップ

一方で、BOXではないけれど改札口生け花としてもっとも大事にされているのではないかという事例もあった。これだ。
生け花のための舞台があらかじめ用意されている!すごい!松原団地駅。
生け花のための舞台があらかじめ用意されている!すごい!松原団地駅。
これ以上ない待遇だ。駅の内装に最初から改札口生け花のための場所がしつらえてある。すばらしい。

すばらしいけど、やっぱりBOX好きとしてはちょっとなんか複雑な気持ち。あの木目調のでんとしたものがおかれていてほしいなー。

でももしかしたら、これ月替わりとかで生け花じゃないものが置かれたりするかもしれない。やはり専用BOXでないないとそういう事態も起こりうるのだ(勝手な推測で断定してます)。今度あらためて見に行かなきゃ。
似たようなケースながら、判断に悩むのはこれ。目黒駅。あたかも専用スペースのようにぴったり収まっているが、これは構造の隙間をうまく利用した結果だろう。ともあれ、なんかいい感じ。
似たようなケースながら、判断に悩むのはこれ。目黒駅。あたかも専用スペースのようにぴったり収まっているが、これは構造の隙間をうまく利用した結果だろう。ともあれ、なんかいい感じ。

改札口生け花はどこにあるか

最後に見てみたいのは「BOXはどこにあるのか」という点だ。
ホーム上、トイレ入り口の間に。台形で両脇だけにガラスという見たことのない形も楽しい。見とれて漏らしそう。湘南モノレール大船駅。
ホーム上、トイレ入り口の間に。台形で両脇だけにガラスという見たことのない形も楽しい。見とれて漏らしそう。湘南モノレール大船駅。
いったん広告です
「改札口生け花」と呼んだものの、具体的な場所はさまざまだ。改札の外だったり中だったり、ときにはトイレの前だったり。いままでご紹介したものがどのような位置にあるのか見ていただきたい。

というか、はたしてこの地味な記事、このページまで読み進めてくれている方はいらっしゃるのだろうか。
文字通り改札口。すばらしい。BOXじゃないのが惜しまれる。
文字通り改札口。すばらしい。BOXじゃないのが惜しまれる。
これも改札口の手前。このBOXはほんとうにすてき。ほしい。
これも改札口の手前。このBOXはほんとうにすてき。ほしい。
これも改札口内側。BOXじゃないけど、いい位置。
これも改札口内側。BOXじゃないけど、いい位置。
改札口よこ精算所のそば。AEDとのコントラストがいい。この広島
改札口よこ精算所のそば。AEDとのコントラストがいい。この広島
前述したように、同じ広島は改札の外にもある。ナイス。
前述したように、同じ広島は改札の外にもある。ナイス。
見ていくうちに気がついたのは「改札口には生け花があるものだ」という風習化した力がうかがえるとはいえ、置かれている場所がびみょうだったりすることも多い。「うーん、ここだったら邪魔にならないしいいか」という感じの。
壁がひっこんだところ。
壁がひっこんだところ。
奥まった、関係者用出入口扉の横。
奥まった、関係者用出入口扉の横。
ゴミ箱の横。
ゴミ箱の横。
看板と消火器の間。
看板と消火器の間。
そうだ、この「わざわざ置いている」にもかかわらず「ちょっと追いやられてたりする」の矛盾した立ち位置に、ぼくはぐっとくるんだ。

次回はまた10年後ぐらいに

地味な記事でもうしわけない。でもしみじみ楽しいのでしょうがない。もし同好の士がいたら、改札生け花見つけ次第教えてくださいませ!
以前久しぶりにボウリング場に行ったら、改札口生け花みたいなものがあって興奮した。
以前久しぶりにボウリング場に行ったら、改札口生け花みたいなものがあって興奮した。
なんと携帯電話室。せっかくなので入ってみた。生け花気分。
なんと携帯電話室。せっかくなので入ってみた。生け花気分。

【告知】 コミケに「かわいいビル」写真集登場

地味な記事でもうしわけない。でもしみじみ楽しいのでしょうがない。もし同好の士がいたら、改札生け花見つけ次第教えてくださいませ!

以前「写真集を自分で作ってみたらたいへんだった」という記事を書きました。同人誌写真集を作ってみた様子をレポートしたもの。このたび同じように、これまで何回か記事にしているかわいいビルの写真集を作りました。かわいいよビル。

2013年12月31日(大晦日!)のコミケ3日目で売ります。かわいいビル好きは、ぜひ。詳しくは→こちら
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