特集 2014年1月15日

福島の乳首山に登った

結構な吹雪でしたよ。
結構な吹雪でしたよ。
山に乳首があるのをご存じだろうか。

福島県にある安達太良山(あだたらやま)という山は山頂に乳首様の突起があり 別名を乳首山という。安達太良山は万葉集で歌われたり、東京には空がないと言った智恵子の故郷としても知られているらしい(へー)。日本百名山の一つである。

一説には、アイヌ語で『乳』の『アタタ』が語源になっているとも言われている。僕が勝手に言っているわけではなく、古くから『乳首山(四股名みたいっすね)』とか『安達太良山の乳首』などと呼ばれていたのらしい。歴史的に見てもすごく乳首な山なのである。

そんな、山の乳首に僕も登りたい!と思い立ったので福島に行ってきました。真冬だけど。
あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

前の記事:つけまつけると、大体萌え萌えになる

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スタートはスキー場

1月某日、『あだたら高原スキー場』のゲレンデから、乳首を目指して登り始める。すぐにスキー場を外れて登山道になった。
1日目は天気が良かったので、ちょっと薄着です。
1日目は天気が良かったので、ちょっと薄着です。
ここから登山道。宿泊地のくろがね小屋を目指します。
ここから登山道。宿泊地のくろがね小屋を目指します。
アイゼンを付けてたほうが歩きやすかったので装着。僕のアイゼンは足の甲部分にレースの記事で付けたレースがついてます。可愛いでしょ。
アイゼンを付けてたほうが歩きやすかったので装着。僕のアイゼンは足の甲部分にレースの記事で付けたレースがついてます。可愛いでしょ。

乳首が見えない

さて、歩き始めて1時間くらい。そろそろ安達太良山の乳首が見えてもいい場所に着いた。が、うっすらガスが掛かっていて乳首が見えない。
ホントはここから見えるはずなんだけどなぁ。
ホントはここから見えるはずなんだけどなぁ。
写真の真ん中、うっすら見えてる丘の左側に乳首が見えるはずなんだけど見えない。乳首山は恥ずかしがり屋さんである。

仕方がないのでここは妄想力である。中学生男子並の妄想力で乳首に思いを馳せる。
こんな風に見えるはずなんだよ!こういう突起があれば、そりゃ誰だって乳首って名付けますよ。
こんな風に見えるはずなんだよ!こういう突起があれば、そりゃ誰だって乳首って名付けますよ。

乳首が見えないので他のものを見る

さて、乳首が見えない。でも周りを見れば冬山特有の美しい景色が広がっている。

いいねぇ、冬山。こればっかりは言葉だけじゃ伝わらなくて、現地に行かないと良さが判らないだろう(ライターとしての職務を放棄)。
ナナカマドの実ですかね?赤い実が背景の雪に映えるのだ。
ナナカマドの実ですかね?赤い実が背景の雪に映えるのだ。
冬芽とちらつく雪がわびさび。
冬芽とちらつく雪がわびさび。
よく分かんない実。渋い。
よく分かんない実。渋い。
木に付いてる赤テープは、『ここがルートですよ』っていう目印です。
木に付いてる赤テープは、『ここがルートですよ』っていう目印です。
ザックに雪の結晶が付いてました。氷点下なので融けません。
ザックに雪の結晶が付いてました。氷点下なので融けません。

楽しいスノートレッキング

景色を見たり休憩したりしながら淡々と雪の道を登っていく。先行者の踏み跡は雪が締まっているので歩きやすいし、道に迷うことも無いので気楽なスノートレッキングである。

汗をかくと体が冷えてしまうので、あまり汗をかかないようにゆっくり登るのが大事だ。乳首の事を考えながら登り続けた。
淡々とゆっくり登るのがコツです。
淡々とゆっくり登るのがコツです。

山小屋が見えてきた

スタートから2時間半ほどで山小屋が見えてきた。だいたい予定通りの時間である。

今日の行程はここまでで、乳首は2日目に目指すことにした。

宿泊はくろがね小屋。温泉がある山小屋です。
宿泊はくろがね小屋。温泉がある山小屋です。
次のページでは山小屋での様子を紹介します。乳首は3ページ目でどうにかする予定。
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山小屋に到着。乳首は明日です

東京から新幹線で1時間半、バスで1時間半、山道を2時間半歩いてようやく着いたくろがね小屋。翌日の乳首アタックに備えて今日はここでゆっくり休むのだ。
格好いいフォルムの山小屋です。
格好いいフォルムの山小屋です。
以前、『21世紀、山小屋は静かにハイテクだった』という記事を書いた。くろがね小屋も南面に太陽電池パネルが付いていてハイテクである。そういえば発電機の音とか聞えなかった。
もしや、これで小屋の電力を全てまかなってる?
もしや、これで小屋の電力を全てまかなってる?
アイゼンを外して雪を落としてから小屋に入る。

1階の食堂では石炭を燃料としたダルマストーブがガンガンに燃えていた。暖かい。ここで温まったら、そりゃもう外には出られまいて。
山小屋では結構よく見るタイプのダルマストーブ。可愛いし超温かい。むしろ暑い。
山小屋では結構よく見るタイプのダルマストーブ。可愛いし超温かい。むしろ暑い。
2階から見るとこんな感じ。1階は半分くらいが食堂、あとは厨房、風呂、トイレなど。
2階から見るとこんな感じ。1階は半分くらいが食堂、あとは厨房、風呂、トイレなど。
部屋はこんな具合。寝るだけの空間です。ドアなどは無く、廊下との仕切りはカーテンのみ。
部屋はこんな具合。寝るだけの空間です。ドアなどは無く、廊下との仕切りはカーテンのみ。
お風呂は源泉掛け流しの濃厚な白濁温泉です。入ると何日か硫黄の匂いが抜けない。
お風呂は源泉掛け流しの濃厚な白濁温泉です。入ると何日か硫黄の匂いが抜けない。
雪山で温泉に入れるなんて、なんて贅沢なんだろう。これで冬の素泊まりなら4,150円である(一般的には風呂無しで5,000円以上する)。安い。

夕食は自炊で

さて、夕食は自炊にした。ここは1000円でカセットコンロと土鍋を借りられるのだ。

六本木で焼き肉屋さん(お店のWebサイトはコチラ。ワインと肉が美味しいよ!)をやっている山仲間が肉やら野菜やらを準備してキムチチゲ(キムチ鍋)を作ってくれた。
金華ハムでお馴染みの金華豚である。脂肪が甘い豚肉です。
金華ハムでお馴染みの金華豚である。脂肪が甘い豚肉です。
焼き肉屋さんのプロの仕事である。滅法美味い。金華豚の脂身は甘く、脂なのにサッパリしていた。自家製というキムチダレも奥深い味だった。
見た目ほど辛くはなく、肉も野菜も激うまでした。
見た目ほど辛くはなく、肉も野菜も激うまでした。

小屋全体がお祭り状態

この日は宿泊客のほとんどが自炊で、あちこちで料理大会が開かれていた。となると、あちこちで料理の交換が行われる。

どれも各グループの料理自慢による作品だ。そりゃ美味いに決まってる。
隣のグループからオム焼きそばと水餃子。どちらもビールに合う。
隣のグループからオム焼きそばと水餃子。どちらもビールに合う。
別グループのプロによる作品。自家栽培ルッコラとオリーブとチーズのサラダ。テーブルいっぱいにアルミホイルを広げて作ってた。豪快。
別グループのプロによる作品。自家栽培ルッコラとオリーブとチーズのサラダ。テーブルいっぱいにアルミホイルを広げて作ってた。豪快。
今まで泊まった山小屋とは雰囲気が違う。聞けば、みんな毎年1月の連休はここで新年会をするのが恒例だという。なるほど、そういう常連が集まる日に当たったのだ。

食堂全体がお祭り状態、みんな雪山なんていう危ない場所に登る物好きである。不思議な一体感があった。そしてみんな乳首を目指しているのだ。そりゃ心も通じ合うさ。
ソテーしたホタテの貝柱に、ニラとエシャロットがベースのソースを掛けた料理。いやー、フレンチっすよ、これ。紙皿だけど。
ソテーしたホタテの貝柱に、ニラとエシャロットがベースのソースを掛けた料理。いやー、フレンチっすよ、これ。紙皿だけど。
14時に着いて15時から始まった宴会は21時まで続いた。6時間の長丁場である。ここまでの登山より疲れたかも知れない。

うっかり乳首の事を忘れるところだった。夜はしっかり寝て、2日目は乳首を目指します。
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朝、起きたら窓ガラスが格好良くなっていた

朝6時。起きると窓が凍って昭和のガラスみたいな模様が出来ていた。綺麗だけど寒い。2重窓だけど寒くてたまらん。
どうしたらこういう模様になるのか。
どうしたらこういう模様になるのか。
そして天気予報は悪い。午後から崩れるのは事前に知っていたが、どうも予報より悪くなりそうな雰囲気である。速攻でなら乳首まで行けるかと思っていたが、甘かったかもしれない。
少なくとも、午後はヤバイ。
少なくとも、午後はヤバイ。

外に出たら、吹雪

装備を付けて外に出ると強烈な風と地吹雪が吹き荒れていた。どうしよう。
手袋が吹っ飛びそうな強風。ヤバイ。
手袋が吹っ飛びそうな強風。ヤバイ。
ただ、常に風が吹いてるわけではなく波があり、風が弱い時は視界も悪くない。風が来れば一瞬だけホワイトアウトするがすぐに回復する感じだ。
乳首を目指します!簡単に乳首を諦めるわけにはいかない!
乳首を目指します!簡単に乳首を諦めるわけにはいかない!
小屋から乳首を目指して斜面を登る。時折強烈な風が吹いて吹き飛ばされそうになる。そして風は登れば登るほど強くなっていった。

乳首までの道は厳しく、遠い。
完全に嵐ですわ。
完全に嵐ですわ。
この青いのが僕です。斜面は急で、まだ朝なのに雪も降ってきた。
この青いのが僕です。斜面は急で、まだ朝なのに雪も降ってきた。
5mほどの距離から撮ってもらった。
5mほどの距離から撮ってもらった。
風が吹くとこんな具合に吹雪の中に消える。
風が吹くとこんな具合に吹雪の中に消える。
さて、雪山では夏山と違って明確なルートが見えない。雪で埋まってしまうのだ。どこを歩くのか判らない。

それだと危ないので、岩に書かれたマークや雪に刺さっている竹竿を目指して歩く。ホワイトアウト気味の日は特に気をつけて歩かなくてならない。

大変だが、これも全て乳首のためである。
こういう、乳首のようなマークを探しながら乳首を目指す。
こういう、乳首のようなマークを探しながら乳首を目指す。
竹竿も大事な目印だ。自然の木と見分けなくてはならない。
竹竿も大事な目印だ。自然の木と見分けなくてはならない。

もうちょい行ってみるか

登るにつれて風が強くなってきた。遠くから白い渦が近づいてくる。風が見えるのだ。

あ!と思ったら渦に飲まれてホワイトアウトだ。『風が見えるとか、俺ってナウシカみたい!』なんて思いながら耐風姿勢で風をしのいだ。
先行パーティーがうっすら見える。
先行パーティーがうっすら見える。
当面危険な場所は無いし、GPSも快調に動いている。もうちょい先まで行くかって事で頑張ってみることにした。なにせ乳首の為である。真っ白な乳首に登りたいのだ!
そして僕は乳首を目指して歩を進めた。これが乳首に命を掛ける男の姿である。
そして僕は乳首を目指して歩を進めた。これが乳首に命を掛ける男の姿である。
30秒後…。
無理っすわ。命あっての乳首ですよ。乳首も大事だけど命も大事。
無理っすわ。命あっての乳首ですよ。乳首も大事だけど命も大事。
撤退することにしました。乳首より命である。

で、こう風が強いと単に降りるのもなかなか危険だったりする。ゆっくりアイゼンの歯を効かせながら登ってきた斜面を降りた。

小屋から下は樹林帯で、嘘みたいに風が無かったので安全に帰れました。
小屋に戻って下山します。今回は乳首まで行けませんでした。
小屋に戻って下山します。今回は乳首まで行けませんでした。
さて、今回のアタックは失敗に終わった。が、実は以前安達太良山に登った時の写真に乳首が写っていたのだ。

次のページではそんな乳首写真をドアップでお届けいたします。
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まずは遠景から

1ページ目で『こう見えるはず』とした写真だが、以前登った時は乳首がハッキリ見えていた。
妄想力で補完した乳首。
妄想力で補完した乳首。
天気が良いとこんな風に見えるのだ。

ドーン!
ほら、どう見ても乳首でしょう。
ほら、どう見ても乳首でしょう。
乳首をアップでドーン!
これを見たらやっぱ『乳首』って名付けるよねぇ。いやらしい意味ではなく、母性的な意味でさ、ほら。
これを見たらやっぱ『乳首』って名付けるよねぇ。いやらしい意味ではなく、母性的な意味でさ、ほら。
もっとアップでドーン!この日は前ページで撤退したところを楽々越えて山頂まで行けたのだ。
いやー、見れば見るほど乳首ですわ。
いやー、見れば見るほど乳首ですわ。
更に乳首に近づくとこんな感じ。ここまで近づいちゃうと『岩』ですな。
更に乳首に近づくとこんな感じ。ここまで近づいちゃうと『岩』ですな。
乳首以外の景色も素晴らしいです。安達太良山はホントに良い山ですよ。
乳首以外の景色も素晴らしいです。安達太良山はホントに良い山ですよ。
山頂に着いて乳首の前で記念撮影。乳首をバックに写真が撮れるのは世界でここだけだろうよ。
タイトルは、『乳首と僕』。
タイトルは、『乳首と僕』。
この時は訳あって乳首に登る事が出来なかった。訳あって、というか単に技術不足っていうか安全の為なんだけど。

じゃあこの記事のタイトル『福島の乳首山に登った』はどうなったのかって話になるだろう。

実は、雪がない時なら一度登ったことがある。
これは秋に来た安達太良山。真冬以外はロープウェイが動いてるので登るのは簡単です。
これは秋に来た安達太良山。真冬以外はロープウェイが動いてるので登るのは簡単です。
これ、乳首に登ってる最中。左の岩が乳首の一部だ。山の乳首にタッチ!
これ、乳首に登ってる最中。左の岩が乳首の一部だ。山の乳首にタッチ!
乳首の上で記念撮影。もうこうなってしまうと乳首感はゼロである。憧れというのは近づきすぎると見えなくなってしまうものなのだ。
僕、乳首に登ったよ!陽で温まった岩がやさしいぬくもりを発していた。
僕、乳首に登ったよ!陽で温まった岩がやさしいぬくもりを発していた。
乳首を見るならある程度離れた方が良い。顔を近づけすぎると見えなくなってしまうのだ。代わりに山のぬくもりは感じられるが、同時には味わえない。

ぬくもりと眼福はトレードオフなのだ。見るなら遠くからである。
この乳首写真が一等賞。
この乳首写真が一等賞。

冬の乳首に再挑戦したい

残念ながら厳冬期乳首登頂は失敗に終わった。近くまで行けたのは春で、登れたのは秋である。でも登るなら、やはり厳冬期の乳首が良い。条件が厳しい乳首ほど燃えるだろう?

こうなったらまた登りに行くか。来年の1月の連休に行けばまた楽しい宴会と、運が良ければ乳首が待っているかもしれない。

乳首への挑戦はまだ終わらないのだ。ところで、この記事を通して乳首って60回書いた。多分世界記録だと思う(なんの?)。
乳首登頂はまた今度!
乳首登頂はまた今度!

※…安達太良山は初心者向けの、比較的安全な雪山です。が、天候次第では遭難の危険がありますので、しっかりした冬山装備と技術を身につけて登りましょう。
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