特集 2014年1月27日

目で味わう、納豆のからしコレクション

納豆にからし、入れますか、入れませんか。
納豆にからし、入れますか、入れませんか。
納豆が好きだ。三度の飯より納豆が好きだし、何より納豆は三度の飯と両立できるから最高だ。

市販の納豆には大抵の場合、調味料として「たれ」と「からし」が付属している。僕はそのうち「たれ」のみを納豆の上にかけ、かき混ぜ、熱々のごはんと共にいただくのが好きだ。「からし」は使わない。からしが嫌いなわけではないが、からしを入れないほうがおいしい、と僕は思っている。

からしを入れずに納豆を食べると、当たり前だが、からしが残る。これがどうにも気がかりだった。これではからしが浮かばれない。そこで、薬味とは別の形で「からし」を愉しむ方法を考える。
1992年生まれ、長崎出身。大学生が嫌いだから友達がいないのか、友達がいないから大学生が嫌いなのか、もうわからないです。

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からしのフォルムは「そそる」

きっかけはある日、冷蔵庫を開けたときのことだった。ふとドアポケットに目をやると、
からしたちが窮屈そうにひしめき合っていた。
からしたちが窮屈そうにひしめき合っていた。
使わないとはいえ捨てるには忍びない、という思いからドアポケットに溜めてきた納豆のからしが、今にもあふれそうになっていたのだ。

このまま溜め続けていてもどうせ使わないし、邪魔で仕方がない。もうまとめて捨ててしまおうかと冷蔵庫から取り出したからしを、少し、眺めてみた。
ん?
ん?
おお。
おお。
なんか、いい。

形がそれぞれ違うし、ビビッドな黄色が綺麗だし、サイズ感とか、大きさのわりに少し持ち重りのする感じが、なんとなく、なんとなく男心をくすぐる。

集めたくなってきた。からしを。僕の中に眠っていた収集癖が、ここへきて、じわじわと頭をもたげてきたのである。

遅れてきた健康ブームか

僕はスーパーへ走った。コンビニへ走った。納豆コーナーにうやうやしく陳列されている納豆を片っ端から買い、大きなレジ袋を両手に提げて、家に帰って来た。
一人暮らしのワンルームに並ぶ、28種、計77パックの納豆。
一人暮らしのワンルームに並ぶ、28種、計77パックの納豆。
袋から取り出した納豆をひとつひとつ床に並べ終わったところで、冷静さを取り戻した。これは「買いすぎ」である。
誰がこんなに食べるというのだ、納豆を。「おもいッきりテレビ」も「あるある大辞典」もとっくに終わっている2014年、取り憑かれたように納豆を買う大学生の姿は、レジを打つパートのおばさんの目にどう映っただろうか。

しかし同時に僕は、ある種の興奮を覚えてもいた。「おまけ」を集めるため無心で物を買うときの、あの感覚。それは僕が中1のとき、スターウォーズのボトルキャップを集めるためにスーパーでペプシを30本買って帰ったあの夏の興奮と同じものだった。
だが言わずもがな、納豆にボトルキャップは付いていない。付いているのはあくまで「たれ」と、そして「からし」である。僕も大人になったものだ。

「あづま」と「おかめ」がダブりまくる

さて、いよいよ開封作業である。普通の食玩とかならいちばん楽しい瞬間だが、今回は納豆だ。スチロール製の白いパックをバリバリ、バリバリ、と一心不乱に開けては、中の「からし」だけを取り出してゆく。ほんと何やってんだ。
開封済みのパックがうず高く積まれてゆく。
開封済みのパックがうず高く積まれてゆく。
からしを取り出す作業は思ったより楽しいが、少しでも視線を横に向けると「納豆の塔」が目に入り、若干、気が滅入る。しかしこれを食べずに捨てる、なんてことをしようものなら、それこそ「仮面ライダースナック」の二の舞である。PTAから怒られること必至だ。
納豆、一斉に開けたらクラフトワークのジャケットみたいになった。
納豆、一斉に開けたらクラフトワークのジャケットみたいになった。
ある程度開封していったところで、あることに気がついた。とにかく「ダブり」が多いのである。当たり前といえば当たり前の話だが、同じメーカーの納豆には、基本的に同じ種類のからしが入っているのだ。納豆としては別の商品でも、からしの種類まで変える必要はたしかに無い。
特にダブりが多いのは、「おかめ納豆」と、「あづま食品」の納豆である。からしコレクターとしてはいわば「スカ」とも思える、両社のメジャーでスタンダードなからしを紹介しよう。
「おかめ納豆」のからし
「おかめ納豆」のからし
見た目としては嫌いじゃない。からし自体の色も綺麗だし、何より特徴的なのが「マジックカット」の文字と、それを表す矢印だ。この赤と黄色のコントラストが鮮やかであるものの、からしとしては少し情報量が多すぎるかもしれない。何だ「からしとしては」って。
「あづま食品」のからし
「あづま食品」のからし
これは正直言ってイマイチである。「からし」のフォントもあまり僕の好みではない上、間を大きく空けて二列に渡って文字が書かれているため、少し散漫な印象を受ける。

決定、納豆のからし五傑

というわけで、今回買ってきた28種類の納豆の中から独断により、「納豆のからしベストファイブ」を決定した。
第5位:三徳「断然お得納豆」3パック78円
第5位:三徳「断然お得納豆」3パック78円
からしがこちら。
からしがこちら。
典型的なL字型のからしであるが、「からし」ではなく「本からし」という文字の表記が個性的で、控えめに崩してあるフォントにも好感が持てる。二列並んだ文字の配置も、この場合は全体に安定感をもたらしている。そのうえコストパフォーマンスも「断然お得」である。

第4位:くめ納豆「丹精」2パック179円
第4位:くめ納豆「丹精」2パック179円
からしがこちら。
からしがこちら。
二つのからしが連なっている。中央に表記された「和からし」の文字は非常に薄いピンク色で目を凝らさなければ見えないほどであるが、その奥ゆかしさはまさに「和」を連想させるものであり、評価に値する。
第3位:登喜和食品「北海道小粒100」2カップ168円
第3位:登喜和食品「北海道小粒100」2カップ168円
からしがこちら。
からしがこちら。
これはマスタードである。からしではない。なんかつぶつぶしたのが入ってるし。しかしながらそれを隠そうとしていない。その証拠に、「からし」という文字はどこにも見当たらない。それどころか文字が一切書かれていない。正直さと潔さに感銘を受けた。
第2位:成城石井「成城石井の納豆」3パック239円
第2位:成城石井「成城石井の納豆」3パック239円
からしがこちら。
からしがこちら。
泣く子も黙る成城石井である。からし自体はいかにも着色料を使ってないと言いたげな優しい黄色をしているが、中央に書かれた細い「からし」の文字が全体を引き締め、色の薄さを上品さとしてうまく昇華している。気品を纏ったからしである。
第1位:くめ納豆「プチ北海道納豆小粒」4カップ149円
第1位:くめ納豆「プチ北海道納豆小粒」4カップ149円
からしがこちら。
からしがこちら。
サイズ感が完璧である。小さい。成城石井の半分ほどしかない。からしの「薬味」たる役割をよくわきまえた大きさである。また黄金色のからしで満たされた中央部は、縦横の長さがほぼ黄金比となっていて美しい。さらに「からし」のフォントが良い。文字色もビビッドな赤ではなく、からしの色に合わせた落ち着きのある朱色である。
らし からし からし からし か
らし からし からし からし か
極めつけはこのギミックである。単体では一見、不揃いに思えた「からし」の文字は、四つが一体となることで初めて、その全貌を明らかにするのである。

コレクションする

納豆のからしをひたすらに愛で続けた。今後からしをどう処理するかが問題である。コレクションというからには、保管をしなければならないだろう。どうしたものかと思っていたところ、東急ハンズで最適な道具を発見した。
切手コレクション用のアルバム。
切手コレクション用のアルバム。
からし用なのかこれ、と思うほど収まりが良い。
からし用なのかこれ、と思うほど収まりが良い。
今回集めたからしはここで大切に保管し、きたるべき時(おでんを食べる時とか)に備えることにする。


もう二年は納豆食わない

ダブりが多かった「おかめ納豆」と「あづま食品」であるが、たくさん開けていくとまれにいつもとは違う種類の「レアな」からしが入っていたりして、射幸心を大いにあおられた。

どんなものにもコレクションの可能性を見いだすことができるというのは、考えてみれば恐ろしい。だがそんなことより僕にとっては、残された納豆の存在のほうが恐ろしい。この記事を書きながら15パックくらいは食べたが、もう納豆なんてしばらくは見たくもない。味に飽きてきたから、からしなんかを試しに入れてみるのもいいかもしれない。
おもしろ冷蔵庫、としか言いようがない。
おもしろ冷蔵庫、としか言いようがない。
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