特集 2014年3月5日

冬のイソギンチャク すぼまりンピック

)いろんな湾ですぼんでもらいました。
いろんな湾ですぼんでもらいました。
干潮の磯に出来た水たまり(タイドプール)でカニやヤドカリなどの生き物を探す「磯遊び」
磯遊びといえば夏だと思っていた。しかし今考えてみると、それは太陽のまやかしではなかっただろうか。

そう思ってこの冬、私は磯に向かった。そこには触るときゅっとすぼまってかわいいイソギンチャクいっぱい。相模湾、東京湾、駿河湾をめぐる、すぼまり三都物語が幕を開けたのだった。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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ほんとに誰もいなかった

海を訪れる人が激減するシーズンオフ、つまり真冬なら誰気兼ねなく磯を満喫できるに違いない。プライベート磯だ。よっしゃ、磯がば回れだ。急げ。
思いつきで1月の下旬、三浦半島は油壺にやってきた。以前夏にスベスベマンジュウガニを探しにやってきた磯である。
2012年の夏に撮影。
2012年の夏に撮影。
そして冬。青藻が岩を覆っている。
そして冬。青藻が岩を覆っている。
プライベート磯だ!よろこぶおっさん。
プライベート磯だ!よろこぶおっさん。
刺すような寒さの冬の海、辺りに人気はない。海の家の焼きそばや浜辺のバーベキューにさえぎられる事のない、ピュアな磯の香りが匂い立っている。
タイドプールをのぞくと、夏に所せましと駆け回っていたカニは数を減らし、かわりに目を引くのは息をひそめるように静かに活動している生き物達。
防水デジカメで水中撮影するといろいろ楽しい
防水デジカメで水中撮影するといろいろ楽しい
ヤツデヒトデもくっきり
ヤツデヒトデもくっきり
ヤドカリがごそごそ重なる動画もかなりクリアに、ただし手が壊死するかと思う程に冷たいです。
でかいウニ!
でかいウニ!
裏返してトリミングするとマンガの集中線に見えないかという試み。
裏返してトリミングするとマンガの集中線に見えないかという試み。
夏はカニがでかく
夏はカニがでかく
冬はウニでかし
冬はウニでかし
そして触手をゆらめかせ、海中に咲く花のようにたたずんでいるイソギンチャク達。
ヨロイイソギンチャク。砂粒や貝殻を鎧のように体に付けて身を守る。
ヨロイイソギンチャク。砂粒や貝殻を鎧のように体に付けて身を守る。
タテジマイソギンチャク。イソギンチャク界きってのモッズ系。
タテジマイソギンチャク。イソギンチャク界きってのモッズ系。
クラゲなどと同じ刺胞動物の仲間で、ゆらんゆらんしている触手に刺胞毒といわれる毒を持ち、小動物を捕らえて捕食する。
ウメボシイソギンチャク
ウメボシイソギンチャク
植物と見紛う程に動きの少ない彼らだが、指等でこつんと刺激を与えると、触手をたたみ、その名の通り巾着袋のようにすぼまるリアクションで防御姿勢をとる。
ヒュッとひっこむ。
ヒュッとひっこむ。
種類や個体によってすぼまりのフォームもそれぞれで、見ていて飽きない。
みゅわっとすぼまる。
みゅわっとすぼまる。
いろいろな磯でイソギンチャクをすぼまらせてリアクションキングを決めよう。ソチの2億倍地味な、冬のすぼまりンピックの開催だ。
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いきなり高得点

相模湾代表として油壺のイソギンチャク達の演技からスタート。
イソギンチャクを指でつついてすぼまり具合を見るという至極単純な採点手法である。
動きのキレやすぼまった後の形、芸術性などを5点満点で勝手に採点した。(☆は0.5点)
なお、イソギンチャクの中にはスナイソギンチャク・ウンバチイソギンチャク等、非常に強い毒を持つ種がいる。この記事に登場するイソギンチャク達はほぼ人体に影響ないレベルだが、潮間帯や海底で遭遇する中型~大型のイソギンチャクには無闇に触れないように注意してほしい。

エントリーナンバー1:油壺のヨロイイソギンチャク

キレ ★★★★★
すぼまり形 ★★★
表現力 ★★
指のしびれ ★★
総合得点(足しただけ):12pt

自由奔放に揺れていた触手達が危機に際して瞬時に規律を取り戻し、中央へ集合する。日体大の集団行動を見ている様な一糸乱れぬパフォーマンス。
すぼまった姿勢のままぴたっと止まるフォームも美しい。ちなみに「指のしびれ」とは触手がからんできた時のひっかかりみたいな感覚のことである。

エントリーナンバー2:タテジマイソギンチャク

熱いのさわって「熱っ!」って感じ。
キレ ★★★★
すぼまり形 ★★★
表現力 ★★
指のしびれ ★
総合得点(足しただけ):10pt

小兵ながらキレのある動きでシュッと直線的に触手を収納し、静物画でよく置いてあるような花瓶状にすぼまる。タテジマのシャープさが効いている。

真鶴岬ンチャクもすぼまらせたい

相模湾では油壺とは反対の西側に位置する真鶴岬からも参戦。
参戦と言っても私が行きたいから行っただけだが。
とびだしちゅういが今風。
とびだしちゅういが今風。
真鶴岬のウメボシイソギンチャクは県指定の天然記念物となっている。看板によれば、関東大震災による地形の変化でほとんどが死滅し、相模湾内では貴重な群生地となっているとの事。
なのでむやみに触れたりせずに観察するだけにしましょう。
なのでむやみに触れたりせずに観察するだけにしましょう。
景勝、三石海岸。干潮になると岩礁が姿を表し、先端まで歩いてゆけるようになる。
景勝、三石海岸。干潮になると岩礁が姿を表し、先端まで歩いてゆけるようになる。
クロヘリアメフラシがのそのそ歩く。
クロヘリアメフラシがのそのそ歩く。
カニダマシ。カニのように見えるが実はヤドカリに近いという多くの人にとってかなり微妙なダマシ具合。
カニダマシ。カニのように見えるが実はヤドカリに近いという多くの人にとってかなり微妙なダマシ具合。
広大な磯の一部を見ているだけなのでなんとも言えないが、油壺であんなに触手をモッシュしていたタテジマイソギンチャクがあまり見られなかった。真鶴から名乗りを上げたのは以下の2キンチャク。

エントリーナンバー3:真鶴のヨロイイソギンチャク

キレ ★★
すぼまり形 ★★★
表現力 ★★
指のしびれ ★★☆
総合得点(足しただけ):9.5pt

ベリルイソギンチャクかとも思ったが体の吸着イボの列が48列っぽいのと付着物が結構あるのでヨロイと判断した。違ってたらすいません。触手を左右から折り畳んだシンメトリーのすぼまりフォームが非常に美しい。最後の指にひっつくねばりもいい。

エントリーナンバー4:ミナミウメボシイソギンチャク

よりすっぱそうな名前だな。
よりすっぱそうな名前だな。
石の下等にへばりついている小さなイソギンチャクである。
キレ ★
すぼまり形 ★★
表現力 ★★★★☆
指のしびれ ★
総合得点(足しただけ):8.5pt

他の種よりも筋肉の力が弱く、力強いすぼまりは期待できない。しかし、そのパワーレスが醸す「なんですかもう」みたいなけだるさの中に現代社会に対する強い批評性を感じた。すぼまりの本質の一端をかいま見た気がした。
真鶴に来てよかった。
帰りのバスの車内灯のかっこよさも加点につながった。
帰りのバスの車内灯のかっこよさも加点につながった。
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雪にめげず東京湾へ

2週に渡って東京を数十年ぶりの豪雪が襲った2月の半ば。京急浦賀駅から観音崎へ向かうバスへ乗り込む。
海に行くテンションをつくるのに苦労した。
海に行くテンションをつくるのに苦労した。
北風が厳しく吹き付ける北側を避け、歩いて尾根を越え観音崎の南側、観音崎自然博物館の隣にあるたたら浜へとやって来た。
透明度高っ!
透明度高っ!
このこぢんまりとして美しい浜は日本が世界に誇る大怪獣ゴジラがはじめて上陸した浜として有名だ。
足型が刻まれるのはスターのしるしだ。
足型が刻まれるのはスターのしるしだ。
なんだこのマインドの奥の方をゆさぶる踊りは。
なんだこのマインドの奥の方をゆさぶる踊りは。
近隣の磯はヨロイイソギンチャク祭り。
干潮の岩礁を覆い尽くすイソギン群。
干潮の岩礁を覆い尽くすイソギン群。
群生するヨロイイソギンチャクからまずはエントリー。身を守るための砂や貝の付き方は真鶴や油壺のものより激しい気がする。つまり防衛に関心が高いという事ではないだろうか。期待してつつく。

エントリーナンバー5:観音崎のヨロイイソギンチャク8

キレ ★☆
すぼまり形 ★★☆
表現力 ★★
指のしびれ ★
総合得点(足しただけ):7pt

大舞台を前にちょっと固くなったか。動きにぎこちなさがあり、触手全体の連動が乏しかった。いや、一番固かったのはお前のつつき方だよと言われたらぐうの音もでない。

ビビッドなやつ登場

ヨロイイソギンチャク以外のイソギンチャクを探したが、なかなかいいポジションに見つからない。
風は強く、寒さで気力と体力が奪われていく。
もういやだ、やめたい。ついでに脱サラして故郷の厚木に書店を開きたい、そうだ店名は「アマゾン書房」がいい。
とくじけかけた時、白い砂地に映えるビビッドなグリーンのイソギンチャクが「ほら、すぼまらせてみろよ。」とでも言いたげに手をふっていた。
どこの国のパビリオンだ一体。
どこの国のパビリオンだ一体。
ミドリイソギンチャク。タテジマイソギンチャク並みに直球なネーミングだが確かにそうとしか言い様がない程に緑あざやか。

エントリーナンバー6:ミドリイソギンチャク

キレ ★
すぼまり形 ★
表現力 ★★☆
指のしびれ ★★★
総合得点(足しただけ):7.5pt


すぼまりの結果としては期待はずれに終わったが、その長く、しなやかな触手をいかしたからみつきはこちらの指まで緑化されそうな癒しを感じた。すごく無理矢理褒めてるな俺。さあ、自然博物館でおみやげ買って次の舞台だ。
「とんびの贈り物」という名でとんびの羽そのものが売られていて斬新な切り口だと思った。
「とんびの贈り物」という名でとんびの羽そのものが売られていて斬新な切り口だと思った。
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伊豆有数のダイビングスポットへ

東名高速道路を沼津ICで降りて海沿いに南へ1時間程走ると駿河湾に1kmほど突き出した半島でスキューバダイビングのメッカとして有名な大瀬崎に着く。
先端部分には伊豆7ふしぎの一つ、神池。海にごく近いのに淡水が湧き、約3万匹の淡水魚が泳いでいる。
先端部分には伊豆7ふしぎの一つ、神池。海にごく近いのに淡水が湧き、約3万匹の淡水魚が泳いでいる。
ダイビングといいえばイソギンチャク・クマノミ・ミノカサゴというしりとりでつながる3大フォトジェニック。イソギンチャクの質・量ともに期待が持てる。

生憎の曇天模様だが、浜は多くのダイバー達でにぎわっていた。そんな中をモッズコートに身を包んでカゴを持った不気味なおっさんがゴロタ(海岸にゴロゴロしている石)の間を覗き込んでいる様は異様の一言。
リュックぐらい下ろせ。
リュックぐらい下ろせ。
アマクサアメフラシがかわいい
アマクサアメフラシがかわいい
油壺や真鶴、観音崎と比べると磯の規模は小さいが、さすがダイビングのメッカ、ダイバー達に鑑賞される事を意識して育ったのか、イソギンチャクがとにかくでかいのだ。
干潮でくたっているミドリイソギンチャク。
干潮でくたっているミドリイソギンチャク。
水を得るとしゃっきりする。観音崎で見た個体の2倍はある。
水を得るとしゃっきりする。観音崎で見た個体の2倍はある。
タテジマイソギンチャクも明らかにでかい。
タテジマイソギンチャクも明らかにでかい。
鮮やかでシャープな縦ストライプにまざって、やさぐれた感じの渋いタテジマイソギンチャクがいたのですぼまりにスカウトした。

エントリーナンバー7:しぶいタテジマイソギンチャク

キレ ★★
すぼまり形 ★★★
表現力 ★★★
指のしびれ ★
総合得点(足しただけ):9 pt

しゅっとすぼまるが、触手を半分以上露出したまますぼまり姿勢を決める「のこし」のテクを使い、厳しい冬を耐えて草木が目覚めようとする春の訪れの予感を巧みに表現している。4年後(なにが)も期待が持てる。

ハーフタイム(全然ハーフじゃないけど)ショー

岩の影で取り憑かれたように赤い髪を振り乱してモッシュしているのがいたがイソギンチャクではなく、ケヤリムシだった。
波に合わせて激しく髪をなびかせる。ちょうどサビの部分か。
波に合わせて激しく髪をなびかせる。ちょうどサビの部分か。
振動や物陰に敏感で、近寄ると素早く管のようなものの中に引っ込むのだが、これは指や棒でつついても全く気にする事なくモッシュを続けていた。完全にトランス状態だ。

真打ちはすぼまらない

そしてこのすぼまりンピックのフィナーレをかざる、最終滑走ならぬ最終巾着はやたらでかいミドリイソギンチャクである。

エントリーナンバー8:でかいミドリイソギンチャク

)触るのを躊躇するほどでかい。
)触るのを躊躇するほどでかい。
キレ ★
すぼまり形 ★
表現力 ★★★
指のしびれ ★★★★★www
総合得点(足しただけ):10.3pt

今大会初の「www」が出た。インターネット文体で笑いを表現するあれである。要するに「わー指ひっかかるやばいwww」みたいな事で、よくわからないが0.3ポイント加点しておいた。そのぐらい食われるんじゃないかと思ったという事だ。すぼまるも何も、もはや敵とみなされていない感じだ。

栄冠は何ギンチャクの手に?

すべてのすぼまりが終了したところで結果を整理してみよう。
金メダルは油壺のヨロイイソギンチャク!
金メダルは油壺のヨロイイソギンチャク!
最初にエントリーしたヨロイイソギンチャクがまさかの逃げ切りという結果になったがそれもまたドラマというもの。
別にすぼまっていたわけでもないミドリイソギンチャクが銀メダルというのも一人採点競技の恐さである。
おめでとう!
おめでとう!

3つの海から8ギンチャクが参加してすぼまりの粋を競ったすぼまりンピック。このすぼまりが敵から身を守るのに最適な方法なのかどうかは正直よくわからないが、外界からのネガティブな要素を拒絶、遮断する儀式としての意義を強く感じた。
仕事で怒られたり、公園でおやじ狩りに遭遇したら取り急ぎすぼまろう。
「考えるな、すぼまるんだ」
イソギンチャクからの熱いメッセージを受け取ったような気がした。そんな冬だった。
「不渡り?聞こえない知らない」
「不渡り?聞こえない知らない」
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