特集 2014年10月24日

色んなきのこが食べられる、きのこ列車の旅

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岐阜県を走る明知鉄道には、きのこ列車なるものがあるという。地元で摂れたきのこを使った料理を食べながら、始発から終点まで鉄道の旅を楽しめるのだそうだ。松茸、ロージ茸といった高級なきのこも料理に含まれているらしい。贅沢な秋の味覚を楽しみながら、ガタゴトと鉄道に揺られる。それはきっと、至極のひとときに違いない。僕はきのこ列車に乗ることに決めた。
1970年神奈川県生まれ。デザイン、執筆、映像制作など各種コンテンツ制作に携わる。「どうしたら毎日をご機嫌に過ごせるか」を日々検討中。


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恵那から明智まで、約50分のきのこ旅

名古屋から快速電車で小一時間、きのこ列車の出発地、恵那という駅にやって来た。

恵那駅から終点の明智駅(路線の名前は明知線で終点の駅は明智駅。ややこしい)まで、わずか25キロほどの区間を走る明知線。その明知線がこの時期に走らせているイベント列車がきのこ列車である。きのこ列車は1日1便、毎日お昼の12時45分に恵那駅を出発する。
明知線恵那駅からスタート
明知線恵那駅からスタート
今回、色々なきのこを食べられると聞いているので、それにふさわしい格好を用意した。
マリオ風の格好で
マリオ風の格好で
ドン・キホーテで購入したマリオ風のコスプレ衣装である。あくまでもマリオ風だから、帽子のイニシャルはRとなっている。
イニシャルはR
イニシャルはR
コスプレ衣装の商品名には「RED CAP MAN」と書いてあった。訳すと「赤い帽子の男」。赤帽さんだ。
ジャンプ!
ジャンプ!
この衣装を購入してから、ずっと気になっていたのだが、赤と青、というアメリカンな色合いは結構目立つ。帽子の形もユニークだ。現地で着ることができるだろうか、と不安を抱えていた。しかし、実際は全く問題なかった。

なぜなら、きのこ列車の乗客は年配の方が多く、僕の格好なんかには一切無関心なのだ。
マリオの格好でも全然大丈夫
マリオの格好でも全然大丈夫
1人くらいは、「その格好はなんで?」と聞いてくれるかな、と思っていたが誰一人として突っ込んでくれなかった。きのこだからマリオなんですよー、と心の中で叫びながら、きのこ列車の到着を待つ。
きのこ列車
きのこ列車
出発時刻の10分ほど前に、きのこ列車が恵那駅に到着した。

きのこ列車は4両編成。先頭から3両目までがきのこ列車で、最後の1両は通常の乗客用とのことだった。
こっちの車両を通常営業
こっちの車両を通常営業
ベージュの3両がきのこ列車
ベージュの3両がきのこ列車
いつもはきのこ列車を入れて3両編成らしいのだが、この日は大盛況で1両増やしての運行だという。ホームが短いので、先頭車両がホームからはみ出ていて、先頭車両の乗客は2両目から乗っていた。昔の代官山駅のようだ。

僕は3両目。普通にホームから乗り込むことができた。
マリオとして乗り込む
マリオとして乗り込む
列車に乗り込むとロングシートの前長机が配置されていてテーブルクロスがかかっている。それ以外は普通の電車と変わらないが、長机の存在感が強く違和感がすごい。

運賃箱の横に合宿所にあるような大きな炊飯器も置いてある。
お見合いのような光景
お見合いのような光景
大きな炊飯器がある違和感
大きな炊飯器がある違和感
車両ごとに給仕を担当する女性スタッフと料理を担当するシェフが1人ずついて、忙しそうに車内を動き回っている。

乗客全員が席に着くと、給仕係の女性から

「発車する前に食べ始めてくださーい」

と声がかかる。運行時間は50分、食べるのが遅い人は食べきれないのかもしれない。
きのこ料理がお重の中に
きのこ料理がお重の中に
中はこんな感じ
中はこんな感じ
シェフの川上さん
シェフの川上さん
お重の上に乗っている献立をみると、全部で15品もある。鮎の塩焼き以外、全てきのこ絡みの料理だ。

何から食べたらいいのか、迷っているうちにきのこ列車はゆっくりと恵那駅を出発した。

揺れながらきのこ三昧

ここで、お重の中のきのこたちを紹介しよう。

献立によると、松茸、ロージ茸、イクチ茸、舞茸、皮茸、赤茸、本シメジ、木茸、といったきのこが入っているらしい。それらのきのこがあらゆる調理法で料理されている。
焼き松茸とロージ茸の生姜和え
焼き松茸とロージ茸の生姜和え
松茸の天ぷら
松茸の天ぷら
揚げ茄子の茸味噌かけ
揚げ茄子の茸味噌かけ
木茸と蒟蒻の酢味噌和え
木茸と蒟蒻の酢味噌和え
松茸ご飯
松茸ご飯
松茸の土瓶蒸し
松茸の土瓶蒸し
明知線は区間内に2つの峠を超える急勾配と急曲線が続く路線である。途中、日本で一番急勾配の駅という飯沼駅もある。

何が言いたいのかと言うと、結構揺れるのだ。松茸の土瓶蒸しを小さいおちょこに注ぐのが難しく、割とこぼした。
土瓶蒸しをこぼす
土瓶蒸しをこぼす
揺れながらきのこ料理を食べる。こんな体験はきのこ列車でしか味わえない。これがきのこ列車の醍醐味の1つなのだ。
揺れながらきのこを食べる体験
揺れながらきのこを食べる体験

司会の女性にいじられる

きのこ列車にはマイクを通して料理の説明や車窓の解説をしてくれる司会のような女性がいる。

きのこ列車に乗り込む前、その女性から「どうしてマリオなんですか?」と聞かれ、やっと突っ込んでくれる人がいた! という喜びと、ちょっと嫌な予感を同時に感じていた。
きのこ列車の司会者
きのこ列車の司会者
ちょうど中間地点くらいにさしかかった頃、僕が感じていた嫌な予感が的中した。

司会の女性がマイク越しに僕のことを紹介し始めたのだ。

「今日は、3両目にマリオが来てくれています」

乗客全員が一斉に僕の方を見て、拍手をしている。

これまで、あれだけ無関心だった人たちから一気に注目を浴びてしまった。しかも拍手までされている。

「どうしてマリオだか分かりますか?」

と司会の女性がマリオについての言及を続ける。車内がざわざわとして、みんながマリオの理由を考えている。

「きのこだからですって」

とマリオの理由を女性が言って、しばらく車内がシーンとなった。

完全にすべっている状態だ。司会の女性もそれに気づき、

「ここから1つ目のトンネルを通ります。トンネルは全部で2つあるんですよ」

と話題を変えた。

今すぐマリオの服を脱ぎたい。そんな気持ちで下を向いていると、隣りに座っていたおばあさんから、

「お酒は飲めるの?」

とビールをすすめられた。
隣りの乗客から
隣りの乗客から
ビールをごちそうになりました
ビールをごちそうになりました
自分でビールを持ってきていたらしく、ずっと気になっていた。

おばあさんから、

「たまには冷たいものもいいでしょ」

と少し意味の分からないことを言われつつ、ごちそうになったビールが体に沁みた。

こういったふれあいもきのこ列車の醍醐味の1つである。

きのこ列車は車窓も見所満載

きのこ列車はきのこ料理以外にも、見所が満載だ。

例えば、恵那は日本のシクラメン栽培発祥の地であったり、
シクラメン栽培発祥の地
シクラメン栽培発祥の地
途中、阿木という駅には高校があるのだが、その高校の時間割は明知線の時刻表に合わせて組まれていたりだとか、
阿木にある高校は明知線に合わせて時間割を組む
阿木にある高校は明知線に合わせて時間割を組む
極楽という駅にはお地蔵さんが居たりだとか、
極楽駅のお地蔵さん
極楽駅のお地蔵さん
しあわせになれますように
しあわせになれますように
列車からしか見ることが出来ない、かかしコンテストが開催されていたりだとか、
かかしコンテスト
かかしコンテスト
この日は生憎の空模様であったが、晴れた日などは車窓から見える風景が美しいに違いない。
田園にもやがかかって幻想的な風景
田園にもやがかかって幻想的な風景
少し席に余裕があれば、横になることもできる。
さっき、すべったよなぁ
さっき、すべったよなぁ
司会の女性がマイクを置いて、お土産の車内販売を始めた。
お土産の車内販売
お土産の車内販売
極楽せんべい各種
極楽せんべい各種
お土産の中に、気になる一品を見つけた。
これは?
これは?
すべらないお守り?
すべらないお守り?
明知鉄道は急勾配が続くため、坂道で列車が滑らないように、滑り止めの砂を線路にまきながら進むのだそうだ。その砂を瓶に詰めて「すべらないお守り」。

お守りの裏には、

「あなたが人生のレールで滑らないよう、このお守りがきっと助けてくれます」

と書いてある。

さっき、みんなに紹介される前に欲しかったが、今後のことも考えて購入しておいた。
司会の女性のスマホで記念撮影
司会の女性のスマホで記念撮影
明智駅でも記念撮影
明智駅でも記念撮影
マリオの格好は司会の女性には気に入られたらしく、3回くらいシチュエーションを変えてツーショット写真を撮られた。

話を聞くと、司会の女性は小崎さんといって、明知鉄道に勤める前はバスガイドさんだったという。道理でしゃべりがうまい訳だ。楽しい時間をありがとうございました。

でも僕は、さっきの車内の静まりをまだ根に持っている。
終点の明智駅到着
終点の明智駅到着
2upくらいしたつもり
2upくらいしたつもり
こうして、僕のきのこ列車の旅は終わった。料理と交通費を含めて5000円。11月一杯は運行しているらしいので、秋の行楽にいかがでしょうか? もし行く人がいましたら、ルイージの格好で挑んでみてください。


そして、最後に、今回撮影に同行してもらった岡崎プロデューサーなのだが、
撮影してくれた岡崎プロデューサー
撮影してくれた岡崎プロデューサー
こっちの方がマリオじゃないか
こっちの方がマリオじゃないか
僕なんかよりも断然マリオっぽかった。

明智駅で電車の折り返し時間を待っていたら、定年を過ぎて1人旅をしているというおじさんから声をかけられた。

「はじめてきのこ列車に乗って楽しかったけど、もう少し松茸の量を増やしてくれませんか?」
と言っている。

この人は僕を明知鉄道の人だと思っているのだ。僕は明知鉄道の人ではないし、松茸の量を増やす権限もない。おじさんの願いを叶えることは出来ないのだ。
帰りは普通の列車だけどマリオのまま帰った
帰りは普通の列車だけどマリオのまま帰った
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