特集 2014年12月2日

しみったれた先輩におごられるツアー

しみったれ飲み会、最高でした。
しみったれ飲み会、最高でした。
大学のサークルやゼミ、あるいは初めて入った会社などで、しみったれてはいるけれど、妙におごりたがる先輩はいなかっただろうか。

基本的にはケチだけど、俺についてこい気質という、相反する要素を持ち合わせた愛すべき先輩の姿は今いずこ。

ということで、しみったれのおごりたがりの先輩と、それについていく万年金欠の後輩の関係を、男四人で再現してみることにした。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 私的標本 趣味の製麺

一人目の先輩はライターの大坪ケムタさん

今回のルールは、男4人のうち1人がしみったれた先輩役となり、金のない後輩役の3人を飲みにつれて行って、全額おごるというもの。

全員が一回ずつ先輩役をやらなければいけないので、都合4軒のハシゴ酒だ。いくらしみったれとはいえ、店や他のお客さんに迷惑を掛けないというのが大前提である。

メンバーは平日の昼間からこんな企画のために、ニヤニヤしながら集まってくれた精鋭ぞろい。落語でいうところの与太郎の集まりだ。

まず一件目の先輩は、ライターの大坪ケムタさん。当サイトでも長年執筆していたので、ご存知の方も多いだろう。ライターとしてリアルに先輩のお方である。
先輩の背中から三歩下がって付いていくのが後輩のたしなみ。
先輩の背中から三歩下がって付いていくのが後輩のたしなみ。

オートレース場へとやってきた

先輩が指定した待ち合わせ場所は、まさかの西川口駅である。わざわざ西川口駅に集合するということは、一体どういうことだろうか。健全な男なら誰しもピンとくるものがあるはずだ。

しみったれた先輩のことだから、多少のデッドボールは覚悟の上でソワソワしながら背中を追うと、着いた場所はバス停だった。
ここからバスで移動するらしい。
ここからバスで移動するらしい。
行き先は川口オートレース場の一択。
行き先は川口オートレース場の一択。
どうやら行き先は川口オートレース場のようである。レースで一山当てて、軍資金を増やそうということだろうか。

このオートレース場行きのバスは、なんと無料で乗ることができる。普通は有料の乗り物に無料で乗れるというお得感を力説する先輩の姿は、いつになく饒舌で誇らしげだ(そういう遊びなので)。
無料なので発券する機械がない!
無料なので発券する機械がない!
「なんだか温泉旅行にでもいく気分ですね~」と、連れてこられた後輩達もご機嫌である。
「なんだか温泉旅行にでもいく気分ですね~」と、連れてこられた後輩達もご機嫌である。

しみったれた男のアミューズメントパークへようこそ!

無料バスに乗ってやってきた川口オートレース場は、入場無料となっていた。先輩の話だと、レース開催日は有料だが、今日は開催日ではないため無料なのだそうだ。

レースをやっていないのになぜ開場しているのかというと、別の場所でやっているレースの券を販売するため。この日は浜松でレースが行われていて、モニターによる観戦ができるのである。
どこか誇らしげな入場無料の看板。
どこか誇らしげな入場無料の看板。
「ここでは俺たちなんて若造だ。人生の先輩方に失礼がないようにな!」「はい!」
「ここでは俺たちなんて若造だ。人生の先輩方に失礼がないようにな!」「はい!」
「レースのある日は入場が有料だけど、芸能人を見るチャンスだから覚えておけよ。HEY!たくちゃんとか」
「レースのある日は入場が有料だけど、芸能人を見るチャンスだから覚えておけよ。HEY!たくちゃんとか」
この日は浜松で東京エレキテル連合が営業していた。ネタではなく客いじりをしている彼女らをみられるのは、とてもレアだなと思った。
この日は浜松で東京エレキテル連合が営業していた。ネタではなく客いじりをしている彼女らをみられるのは、とてもレアだなと思った。
レース前になると、スーっとワイプで小さくなった流行語大賞。
レース前になると、スーっとワイプで小さくなった流行語大賞。
車券の裏のラッキーマークは、ギャンブラー達ののエンゼルマーク。
車券の裏のラッキーマークは、ギャンブラー達ののエンゼルマーク。
オートレース場という場所に初めて連れてきてもらったのだが、雨の平日というシチュエーションもあり、そこには独特の空気が流れていた。昭和を色濃く残すテーマパークのようである。レトロではなくリアルなのに。

私のように興味本位で来るのは諸先輩方には失礼かもしれないが、日光江戸村ならぬ川口昭和村は入場無料のアミューズメントパークだ。

先輩が温かい酒をおごってくれた

先輩は電光掲示板をしばらく眺めると、車券を買うでもなく、「とりあえず酒だよな」と、売店へと足をむけた。

どうやらお酒をおごってくれるらしい。
読みにくい店名ですね。
読みにくい店名ですね。
「…酒、4つね!」
「…酒、4つね!」
エサをもらう野良犬のように大人しく待つ後輩(私含む)。
エサをもらう野良犬のように大人しく待つ後輩(私含む)。
「ほら、温かい酒だぞ!」

先輩がドヤ顔で渡してくれた紙コップには、アツアツの甘酒が入っていた。トンチか!
必勝の紙コップがかっこいい。
必勝の紙コップがかっこいい。
甘酒130円。オロナミンCより安いぞ。
甘酒130円。オロナミンCより安いぞ。
さすがはしみったれた先輩である。ワンカップの熱燗でも買ってくれるのかと思いきや、まさかの甘酒。とりあえずビールでもなく、とりあえず甘酒。

肩すかしを食らった感もあるけれど、なんだかちょっと早めの初詣にでもきた気分で悪くない。体が冷え切っているので、甘さたっぷりの熱い甘酒はとてもおいしかった。

さすがは先輩、きっとこの天気も計算の内なのだろう。
先輩、ありがとうございます!
先輩、ありがとうございます!
「そのコップ、まだ捨てるなよ!なにかに使えるかもしれないからな!」
「そのコップ、まだ捨てるなよ!なにかに使えるかもしれないからな!」

オートレース場グルメをおごってもらう

甘酒で体が温まると、次第に胃袋が動いてくる。こうなるとやはり何かを食べたいところ。

雨に濡れて震える後輩三人が、ひもじさとせつなさと懐の寂しさを訴えると、先輩は「名物料理を教えてやるよ!」と売店へと向かった。
「大人数で行くのはまずいから(人数分注文しないといけないので)、お前らはここで待っていろ!」
「大人数で行くのはまずいから(人数分注文しないといけないので)、お前らはここで待っていろ!」
先輩、あの2個150円の肉まんが食べたいです。
先輩、あの2個150円の肉まんが食べたいです。
しばらくすると、先輩はワニの手みたいな大きなフライを持ってきた。

「ほら、これが川口オートレース名物のゲソフライだ!夕方になると投げ売りが始まるから、本当ならその時間がお得なんだけどな!」
先輩、揚げ物が最高に似合うっす!
先輩、揚げ物が最高に似合うっす!
イカフライならぬゲソフライって初めて見た。博物館とかで「恐竜の足フライ」として売るといいと思う。ゴジラフライでも可。
イカフライならぬゲソフライって初めて見た。博物館とかで「恐竜の足フライ」として売るといいと思う。ゴジラフライでも可。
「さあ、遠慮せずに食べろよ!」と差し出されたゲソフライは1本200円。4本ではなく1本。しみったれだから。

しかし、さすが先輩がおすすめするだけあって、4人で食べても十分に楽しめるボリュームと歯ごたえだった。
「かったい!いやでも、うまいです!」「だめだ、おまえ先に固いっていっただろ!」と叱られる後輩。
「かったい!いやでも、うまいです!」「だめだ、おまえ先に固いっていっただろ!」と叱られる後輩。
「う、うまいです」「そうだろ!」と、先輩に見守られながら他に選択肢のない感想を言わされる後輩。
「う、うまいです」「そうだろ!」と、先輩に見守られながら他に選択肢のない感想を言わされる後輩。
食べてみると、確かに固いが相当うまい。これで温かったら最高なのだが。
食べてみると、確かに固いが相当うまい。これで温かったら最高なのだが。
「かぶりつくなんてできない!」という上品な人、あるいは歯の弱い人のために、切られたものも売っている。
「かぶりつくなんてできない!」という上品な人、あるいは歯の弱い人のために、切られたものも売っている。

先輩、ビールが飲みたいです

渡り鳥が冬になると南へと旅立つように、味の濃い揚げ物を食べたらやっぱりビールが飲みたくなる。口の中に残る油とソースを、ビールの泡と苦みで流したい。

ちなみにルール上、後輩の自腹による飲食は禁止である。どうにかしてしみったれた先輩におごってもらわなくてはならないのだ。
「先輩、ビール飲みたくないっすか?」「一杯だけ、ね!せーんーぱーい!」
「先輩、ビール飲みたくないっすか?」「一杯だけ、ね!せーんーぱーい!」
「ほらほら、おいしいラーメンっていう店もありますよ!」
「ほらほら、おいしいラーメンっていう店もありますよ!」
「ちっ、しょうがねえなあ、じゃあ一杯だけだぞ!」
「ちっ、しょうがねえなあ、じゃあ一杯だけだぞ!」
先輩はしぶしぶ売店へと並び、1杯の生ビールを買ってきてくれた。

「1杯だけっていっただろ!だからみんなで1杯な!甘酒の紙コップ、捨ててないだろうな!」

1人1杯ではなく、みんなで1杯だった。

ちなみにビールを買いに行った先輩は、「ビールを受け取る時にさ、今ならイカゲソ150円ですよっていわれて、チックショウだよ!」と、買った後の値下げに心底ガッカリしていた。
「シェアだ、シェア。流行ってんだろ、シェア」
「シェアだ、シェア。流行ってんだろ、シェア」
三者三様の表情を読み取ろう。
三者三様の表情を読み取ろう。
内側にうっすらと甘酒がコーティングされた紙コップに注がれた生ビールは、美容研究家がおすすめする洗顔フォームのように見事な泡立ちを見せた。

ビールとしては問題ありだが、これはこれでうまいのが悔しい。
ビールの泡好きなのでうれしい誤算っす!
ビールの泡好きなのでうれしい誤算っす!
「さすが先輩、ビールなのにイタリアのジェラートみたいですよ!クリーミー!これ表参道とかで売れるんじゃないですか!」

メガネを掛けた後輩が、適当なことをいって持ち上げると、気をよくした先輩がつまみを追加してくれた。しめしめである。
「だろ、うまいだろ!じゃあもっとうまいものを教えてやるよ!」と買いに行く先輩。実はパシリにしていないかという疑惑あり。
「だろ、うまいだろ!じゃあもっとうまいものを教えてやるよ!」と買いに行く先輩。実はパシリにしていないかという疑惑あり。
コンビニでおなじみの棒に刺さった唐揚げと、コンビニでは見かけない魚肉ソーセージフライを買ってきた。
コンビニでおなじみの棒に刺さった唐揚げと、コンビニでは見かけない魚肉ソーセージフライを買ってきた。
そして荒々しい牛モツ煮。どこの部位なのかは謎。ペットボトルに大五郎を入れて持ってくればよかった。
そして荒々しい牛モツ煮。どこの部位なのかは謎。ペットボトルに大五郎を入れて持ってくればよかった。
唐揚げも魚肉ソーセージフライもモツ煮も、うまくいえないのだがこの場所の空気にあった味付けになっていて、ビールの泡がすすむ味だった。

男だけで来るオートレース場、ヘタなテーマパークにいくよりも断然楽しい。今度はちゃんと車券とやらの買い方を勉強してから、じっくりとこの空間を攻略したいと思う。
一応レース場を眺める後輩。「やってないですね」「雨だしね」
一応レース場を眺める後輩。「やってないですね」「雨だしね」
浜松の結果が発表された。「な、浜松まで旅行にきた気分だろ!」と、感想を求める先輩。
浜松の結果が発表された。「な、浜松まで旅行にきた気分だろ!」と、感想を求める先輩。
すいとんもメニューにあるのか。
すいとんもメニューにあるのか。
レース場をぐるりと一周してくると、入り口横の売店が安売りをはじめていた。
レース場をぐるりと一周してくると、入り口横の売店が安売りをはじめていた。
「先輩、揚げ物とかおにぎりが100円になっていますよ!あと肉まん食べたいっす!できればビールももう一杯!」

「(聞こえないふりをして)さあ、帰りのバスが出ちゃうから、早くいくぞ!」
「次いくぞ、次!」
「次いくぞ、次!」
足早に出口へと向かう先輩。この大きな背中から、たくさんのことを学んだ一日だった。

ケムタ先輩、 ごちそうさまでした!
2軒目の先輩を務めるパリッコさんに、イラストを描いてもらいました。
2軒目の先輩を務めるパリッコさんに、イラストを描いてもらいました。
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池袋へと移動しました

川口のオートレース場を出ると、今度はメガネを掛けたパリッコさんが先輩となった。彼は「大衆酒場ベスト1000」という連載をするなど、酒飲みレポート界としては将来の日本代表クラスの存在である。たぶん。

その独特なタッチのイラストは秀逸で、私を含めて酔っぱらうと彼のLINEスタンプを乱用する輩は多い。きっと。
キュンキュンします。
キュンキュンします。
私の方が今のところ年長ではあるが、しみったれた先輩役としては申し分のない存在である。

そんな彼の背中についていった先は、パリッコ先輩のホームタウンである池袋駅だ。
不動産情報サイトの住みたい街ランキング3位、パリッコ先輩と飲みたい街ランキング1位、それが池袋。
不動産情報サイトの住みたい街ランキング3位、パリッコ先輩と飲みたい街ランキング1位、それが池袋。
雨上がりの池袋で先輩が迷いなく向かったのは、なにやら怪しげな店構えだった。

先輩!昼間っからどこへいくんですか!
「今日はここだから」「え?ここ!」
「今日はここだから」「え?ここ!」
あ、こっちですね。
あ、こっちですね。
先輩が入っていった店は、怪しげな案内所のすぐ横にある、でかんしょという立ち飲み屋だった。

で、ですよねー。

金券がお得な立ち飲み屋、でかんしょ

頭をポリポリとかきながら店内に入ると、まだ先客は誰もいなかった。なぜなら開店の8分前だったからだ。それでも気さくに迎え入れてくれるあたりは、さすが先輩が推薦する店だけのことはある。

さて立ち飲み屋といえば、注文ごとの現金精算、英語でいったらキャッシュオンデリバリーの店が多く、この店もそのシステムなのだが、現金よりも金券を買った方がお得なのだと先輩は語る。
まず2千円分のチケットを購入した先輩。なぜか通販で幸運のネックレスを買った成功者みたいな写真になった。
まず2千円分のチケットを購入した先輩。なぜか通販で幸運のネックレスを買った成功者みたいな写真になった。
500円で550円分のチケットとして使えるのである!
500円で550円分のチケットとして使えるのである!
「じゃあこれでなんでも好きなものを注文してくれ!」と、50円券11枚と50円分お得になった500円分のチケットを各々に配る。

このオマケの50円分のお得さを力説する先輩だが、実は10年くらい前に新小岩にあるでかんしょの本店によく通っていた時期があり、私はこのシステムを熟知していたりする。

それでも立場的に後輩なので、「それはお得っすね!」と初めて聞いた風で答えておいた。これぞ後輩のマナーである。
ちゃんとケムタさんが後輩っぽく、パリッコさんが先輩っぽくなっている。
ちゃんとケムタさんが後輩っぽく、パリッコさんが先輩っぽくなっている。

とりあえずチューハイで乾杯しよう

まず最初の注文は、全員この店の名物ともいえる無色透明のチューハイ。私が知っている頃よりも50円値上がりして200円になっていた。消費税増税のせいだろうか。

デフレがNGでインフレがOKという経済の意味が貧乏人にはわからないよね、なんてことを語りあっている間に、並々と注がれたチューハイが届いた。
とりあえずはチューハイだろうと全員の意見が一致。チューハイボールってなんだろう。
とりあえずはチューハイだろうと全員の意見が一致。チューハイボールってなんだろう。
あと100円でも足すと酒の選択肢は格段に広がるが、我々の目には200円のドリンクしか見えない。
あと100円でも足すと酒の選択肢は格段に広がるが、我々の目には200円のドリンクしか見えない。
先輩、ごちそうさまです!
先輩、ごちそうさまです!
これこれこれ、無色透明無味無臭なんだけど、なぜかうまいんだよな。
これこれこれ、無色透明無味無臭なんだけど、なぜかうまいんだよな。

限られたチケットで如何にして満足感を得るか

何でも好きなものを注文してくれと先輩はいうのだが、手元に残ったチケットは一人当たり350円分である。

しみったれの先輩のおごりだから、これ以上追加はできないものと考えて、これで如何に満足感を得ることができるかの勝負である。しみったれることで金券を使ったカードゲーム的なインテリジェンスをくすぐられる楽しさが生まれるのだ。

先輩は今日の飲み会を通じて、きっと楽しく生きるための知恵を教えてくれているのだろう。
店内にズラッと張られたメニュー。迷うわー。
店内にズラッと張られたメニュー。迷うわー。
ニンニク醤油漬けとガーリックトーストが並んで掲げられている店もそうそうないだろう。
ニンニク醤油漬けとガーリックトーストが並んで掲げられている店もそうそうないだろう。
みんなの出方を伺いながら、チューハイを一気に飲み干さないようチビチビやっていると、まずは先輩が動いた。

注文したのは最安値ツマミの一つである、モヤシのナムルである。
前菜には最適のセレクトといえるだろう。
前菜には最適のセレクトといえるだろう。
なるほど、これなら味付けが濃いので一本ずつでも楽しめる。しみったれた先輩らしい一品だ。

中島らもさんの本で、貧乏時代に納豆を一粒ずつつまみにするという話があったが、モヤシを一本ずつというのも相当のしみったれだ。
箸置きというものがないので、一つの皿をみんなが箸置きにしている景色こそが、この日の我々を表している。
箸置きというものがないので、一つの皿をみんなが箸置きにしている景色こそが、この日の我々を表している。
このモヤシに触発されて、みんなの方針が固まり、それぞれにツマミを注文していく。

その値段を確認した先輩は、「こうすると店員さんが楽だろ?」と、楽しそうに各自のチケットを頼んだツマミの値段分だけ切り取って、獲りやすい位置に並べた。

しみったれの中にも礼儀あり、である。
来たるべきツマミを待ち受けるチケット。
来たるべきツマミを待ち受けるチケット。
しばらくしてやってきたのは、先輩が頼んだかき揚げである。

これはこの店で毎回頼む定番メニューだそうで、200円とは思えないボリュームに後輩からの拍手が鳴りやまない。文字通り皿からはみ出ている。

これも一切れずつ食べれば長持ちするところに、さっきのモヤシと共通点を感じる。先輩、こういうの好きなんだな。
サクッと揚がったほぼタマネギのかき揚げ。オシャレにオニオンフライと呼んでも差し支えないだろう。
サクッと揚がったほぼタマネギのかき揚げ。オシャレにオニオンフライと呼んでも差し支えないだろう。
箸で持ち上げてその大きさを確認する先輩。すかさず「これ、俺も次から毎回頼んじゃうだろうなー」と、ケムタ後輩が気分的に持ち上げた。
箸で持ち上げてその大きさを確認する先輩。すかさず「これ、俺も次から毎回頼んじゃうだろうなー」と、ケムタ後輩が気分的に持ち上げた。
醤油をドバドバと掛け、さらに七味をたっぷりと振って、ツマミとしての完成度(塩分ともいう)を上げる先輩。
醤油をドバドバと掛け、さらに七味をたっぷりと振って、ツマミとしての完成度(塩分ともいう)を上げる先輩。
「この唯一のサツマイモ、いただいちゃいます!」
「この唯一のサツマイモ、いただいちゃいます!」
「やっぱり揚げ物は熱々が一番ですよね!ここは椅子はないけど屋根もあるし最高ですよ!」と、さっきまで先輩だったケムタ後輩が、しきりに感心している。

チューハイ、モヤシ、かき揚げという組み合わせで、綺麗にチケットを使ってしまった先輩は、なんと財布から現金を取り出してウーロンハイを追加オーダーした。あきらかにずるい行為だが、先輩なので文句は言えない。

この店の常連なら金券をもう一枚買って、余ったらまたくればいいのではと思うのだが、ポケットに入れておいた金券が洗濯されてグシャグシャなりがちなので、足りない分は現金精算の方針らしい。
続いてはこちらのナオ後輩が注文したツマミが登場。
続いてはこちらのナオ後輩が注文したツマミが登場。
ぱっと見た感じは少なく見えるか油揚げだが、クロスするように立体的な盛り付けがされており、「スニーカー編みだ!」と盛り上がった。
ぱっと見た感じは少なく見えるか油揚げだが、クロスするように立体的な盛り付けがされており、「スニーカー編みだ!」と盛り上がった。
席を立って(立ち飲みだから立っているけど)店員さんを呼ぶナオ後輩。追加のつまみを頼むのかと思いきや……
席を立って(立ち飲みだから立っているけど)店員さんを呼ぶナオ後輩。追加のつまみを頼むのかと思いきや……
追加オーダーはウーロンハイ!人が頼んだツマミを食べて、自分は2杯目を飲むという、しみったれな頭脳プレイ!
追加オーダーはウーロンハイ!人が頼んだツマミを食べて、自分は2杯目を飲むという、しみったれな頭脳プレイ!
油揚げの薬味もいいツマミになるよね。皿を下げられる前に残さず食べよう。
油揚げの薬味もいいツマミになるよね。皿を下げられる前に残さず食べよう。
ケムタ後輩が頼んだのは、300円の高級品であるガツ刺し。高いだけあって、「ちゃんと味がする!貴族の味だ!」と一同驚愕。
ケムタ後輩が頼んだのは、300円の高級品であるガツ刺し。高いだけあって、「ちゃんと味がする!貴族の味だ!」と一同驚愕。
「僕は中華料理屋で取り皿をすぐ交換しないでほしいんですよ。いろいろな料理のタレの味が混ざるのがうまいんだから!」と力説するケムタ後輩。
「僕は中華料理屋で取り皿をすぐ交換しないでほしいんですよ。いろいろな料理のタレの味が混ざるのがうまいんだから!」と力説するケムタ後輩。
そして私が頼んだのはワカサギの天麩羅。尾頭付きである。
そして私が頼んだのはワカサギの天麩羅。尾頭付きである。
「このワカサギは新鮮だ!魚は目を見たらわかる!」と先輩が力説。ですよねー。
「このワカサギは新鮮だ!魚は目を見たらわかる!」と先輩が力説。ですよねー。
「お前は天麩羅を塩で食べる派なんだろ?焼き鳥も塩か?ツウ振りやがって!」と、楽しそうにパワハラをする先輩。
「お前は天麩羅を塩で食べる派なんだろ?焼き鳥も塩か?ツウ振りやがって!」と、楽しそうにパワハラをする先輩。

もう一杯飲ませてください

ここまででほとんどの金券を使い切ってしまったのだが、気分的にはもう一杯いきたいところ。

「先輩、もう一杯だけお願いしますよー」という後輩からの大合唱に、仕方なく計算を始める先輩。

1000円の金券を買って使い切るべきか、あくまで必要な分だけを現金で買うか、本気で迷っているようだ。
「どうしよっかなー」と、頼られて嬉しそうに迷う先輩。なんだかモテている気分が味わえてお得である。
「どうしよっかなー」と、頼られて嬉しそうに迷う先輩。なんだかモテている気分が味わえてお得である。
後輩からの猛烈なプッシュに押し切られる形で、結局1000円分の金券をご購入。やったー!おねえさん、ウーロンハイを4つください!

「こうなるなら、さっきのウーロンハイを現金で買わなきゃよかったー」と、強く後悔をする先輩であった。
同じドリンクをおかわりをすると、飲んでいたジョッキにそのまま入れられるのだが、氷が減っている分、おかわりの方が中身が多くてお得だと力説する先輩。
同じドリンクをおかわりをすると、飲んでいたジョッキにそのまま入れられるのだが、氷が減っている分、おかわりの方が中身が多くてお得だと力説する先輩。
締めの炭水化物が食べたいですね、でも野菜も食べた方がいいですよね、ということで、ラーメンサラダが選ばれた。
締めの炭水化物が食べたいですね、でも野菜も食べた方がいいですよね、ということで、ラーメンサラダが選ばれた。
さっきのメニューと微妙に書いてある文字が違う。こういう違いを見つけるのが酒の席だと妙に楽しい。ワカメとサラダ!
さっきのメニューと微妙に書いてある文字が違う。こういう違いを見つけるのが酒の席だと妙に楽しい。ワカメとサラダ!
これが届いたラーメンサラダ。全員イメージしたものと少しずつ違った。
これが届いたラーメンサラダ。全員イメージしたものと少しずつ違った。
上のレタスを食べ進めると、そこには揚げたラーメンが。これまた一本ずつ食べると、いいツマミになるのである。
上のレタスを食べ進めると、そこには揚げたラーメンが。これまた一本ずつ食べると、いいツマミになるのである。
最後に残った金券でもう一杯ウーロンハイを頼み、みんなでシェア。シェアの多い日である。SNSは「酒飲み過ぎ」の略なのか。
最後に残った金券でもう一杯ウーロンハイを頼み、みんなでシェア。シェアの多い日である。SNSは「酒飲み過ぎ」の略なのか。
このように先輩のおかげで楽しく立ち飲みを堪能させていただいた訳だが、隠れでかんしょ好きとしては、まず第一に店内の冷蔵庫をチェックしろと、この場を借りてこっそりと言っておきたい。

ここにこそ、メニューにはない隠れた名ツマミがあるかもしれないのだ。
この日は大根ポン酢が隠されていた。
この日は大根ポン酢が隠されていた。
これぞ勝利の方程式。最後まで「あの現金で買ったウーロンハイは余計だったなー」と後悔していたパリッコ先輩でした。
これぞ勝利の方程式。最後まで「あの現金で買ったウーロンハイは余計だったなー」と後悔していたパリッコ先輩でした。
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しみったれ界の裏番長、ナオ先輩

さて次なる先輩は、ここまで大人しく後輩キャラを演じてきたナオ先輩である。パリッコ後輩の強い推薦でやってきた彼とは初対面なのだが、チミドロという恐ろしい名前のバンドのボーカルをしつつ、Excite Bitでライターとして活躍もしている方らしい。

そんな初対面の先輩に連れられて、池袋の街をサンシャイン方面へと歩いていく。

先輩が教えてくれたのは、「コンビニ飲み」という作法なのだが、これが破壊力抜群だった。
ジャンクションとしみったれ。
ジャンクションとしみったれ。
やってきたのは池袋にやたらとある某コンビニ。
やってきたのは池袋にやたらとある某コンビニ。
どこにでもあるコンビニでまず購入したのは、ハム、サラダ用のドレッシング、豆腐である。

どれも立ち食い、あるいはヤンキー座り食いには向かない食材だが、どこでどのようにして食べるつもりなのだろう。
サラダは買わずにドレッシングだけ購入。
サラダは買わずにドレッシングだけ購入。
さらにこれはコンビニ飲みのマストアイテムだというベビースター風のラーメンを追加。
さらにこれはコンビニ飲みのマストアイテムだというベビースター風のラーメンを追加。
「おでんは常識の範囲で汁を多め!」と、大きな容器をセレクト。
「おでんは常識の範囲で汁を多め!」と、大きな容器をセレクト。
「これが結構使えるんだよ」と、おでんの横にあった柚子胡椒ととろろ昆布をいただく。
「これが結構使えるんだよ」と、おでんの横にあった柚子胡椒ととろろ昆布をいただく。
コンビニ飲みといいつつも、お酒をまったく買ってくれない先輩。おでんの汁でも飲んでいろということだろうか。

今後の展開がいまいちピンとこない買い物を終えると、レジの脇に合った給湯器で、なんとベビースターにお湯を入れ出した。

先輩!それカップラーメンじゃないですよ!
「これがうまいだよ~」と、周囲の目など気にしない心の強さを持つ先輩。
「これがうまいだよ~」と、周囲の目など気にしない心の強さを持つ先輩。

屋根のある場所で軽く一杯

コンビニを出て向かった先は、某高級スーパー前にあるテーブル席だった。先輩の話では、ここが公共の場なのか、店舗のスペースなのかがグレーゾーンらしい。たぶん後者なんだろうけれど。

天気のいい日なら公園でもどこでもいいのだが(先輩に言わせると公園で飲む酒は野良ビアガーデンらしい)、この日は雨が降ったりやんだりの天気だったので、できることなら屋根が欲しい。
店内のイートインスペースならぬ、店外のイートアウトスペース。寒いので人の気配ゼロ。
店内のイートインスペースならぬ、店外のイートアウトスペース。寒いので人の気配ゼロ。
ここは風を遮る壁や暖房こそないけれど、屋根も椅子もある先輩のお気に入りスポットだそうで、コンビニ飲みで軽く一杯やるには最高の場所なのだとか。

コンビニ飲みとはいえドリンク類はガラスの向こうにある某高級スーパーで買うこと、混み合う時間はさけること、そして来た時よりも美しく使うことを己の中での条件として、ちょっとだけこの場所を使わせてもらうのである。
喫煙はNGだが、飲酒はNGではないはず。お店の人に聞くとダメっていわれそうなので確認はしない。
喫煙はNGだが、飲酒はNGではないはず。お店の人に聞くとダメっていわれそうなので確認はしない。
高級スーパーのお酒売り場で、好きなものを飲みたまえと胸を張るナオ先輩。
高級スーパーのお酒売り場で、好きなものを飲みたまえと胸を張るナオ先輩。
そうはいいつつも、一番端っこにちょっとだけあった発泡酒を真っ先に選んで、後輩に無言のプレッシャーを掛けるのがしみったれたる所以だ。
そうはいいつつも、一番端っこにちょっとだけあった発泡酒を真っ先に選んで、後輩に無言のプレッシャーを掛けるのがしみったれたる所以だ。
10%引きのチューハイを見つけたパリッコ後輩。果汁10%かと思った。
10%引きのチューハイを見つけたパリッコ後輩。果汁10%かと思った。
「ボジョレーとか飲みたいんじゃないの?ヌーヴォー?遠慮すんなよ」と先輩がいうので、氷結のヌーヴォーにしてみた。
「ボジョレーとか飲みたいんじゃないの?ヌーヴォー?遠慮すんなよ」と先輩がいうので、氷結のヌーヴォーにしてみた。

これがナオ先輩流コンビニ飲みだ!

ドリンクとツマミと素敵な場所が揃ったところで、ナオ先輩プロデュースによるコンビニ飲みのスタートである。
たぶんOLがランチとか食べる場所なんだろうな。ツマミを買ったのがローソンじゃなくてすみません。
たぶんOLがランチとか食べる場所なんだろうな。ツマミを買ったのがローソンじゃなくてすみません。
まずは適度にふやけたベビースターから。ベビースターにお湯を掛けてラーメンにするというのは笑い話としてよく聞くけれど、実際にやっている人は初めて見たかもしれない。

はたして「素直にカップラーメンを買ったらダメなんですか?」という後輩からのまっとうな疑問は溶けるのだろうか。
ちょい太めのベビースターが、お湯を吸ってさらに太くなっている。
ちょい太めのベビースターが、お湯を吸ってさらに太くなっている。
まずは先輩が味見。「めっちゃうまい!」と声を上げる。マジっすか。
まずは先輩が味見。「めっちゃうまい!」と声を上げる。マジっすか。
「でもベビースターにお湯ですよ」と、まずは匂いをチェックするパリッコ後輩。
「でもベビースターにお湯ですよ」と、まずは匂いをチェックするパリッコ後輩。
「うわ、ウメェ!」
「うわ、ウメェ!」
「そんな、これがうまい訳ないでしょう」と怪しむケムタ後輩。
「そんな、これがうまい訳ないでしょう」と怪しむケムタ後輩。
「うぉ!これはうまい!」
「うぉ!これはうまい!」
「やばい、太麺最高!」
「やばい、太麺最高!」
先輩、心の底から疑ってすみませんでした!

太麺のベビースターにお湯を掛けただけのものが、びっくりするくらいうまかったのだ。そして「僕はもうちょっと硬めがいい」とか、「お湯を少なくして味を濃くしたい」とか、これを料理として批評を始める一同。今考えると、ちょっとどうかしているかもしれない。

さらに柚子胡椒を加え、味を変えてもう一周。カップラーメンだったら麺が長いのですぐに食べ終わってしまうが、ベビースターなら長く楽しめるのだ。
「この柚子胡椒が合うんだよ!」「いやいや、そんな訳ないですって」
「この柚子胡椒が合うんだよ!」「いやいや、そんな訳ないですって」
「マジうめぇー!」
「マジうめぇー!」

まだまだ続くコンビニグルメ

続いて先輩がレジ袋から取り出したのは、真っ白い豆腐である。これにサラダの横で売られていた胡麻ドレッシングをドバーッと掛けた。

先輩曰く、「これぞシャレオツなコンビニ料理」ということらしい。これを料理だと言い切る先輩、かっこいいっす!
野菜の要素がゼロの豆腐サラダ。
野菜の要素がゼロの豆腐サラダ。
「今回は贅沢して、これをハムで巻いちゃおうか!」と、さらにオプションを投入する先輩。

コンビニグルメというか、リトルグルメ漫画の「OH!MYコンブ」の世界である。今調べたら、OH!MYコンブの原作は秋元康だったので、ナオ先輩もアイドルのプロデュースとかできるかもしれない。
胡麻ドレッシングを掛けた豆腐をハムにドーン!
胡麻ドレッシングを掛けた豆腐をハムにドーン!
クルクルっと巻けば、こじゃれたバーで出されてもおかしくないオードブルのできあがり、らしい。
クルクルっと巻けば、こじゃれたバーで出されてもおかしくないオードブルのできあがり、らしい。
春巻きならぬハム巻きをパクリ。
春巻きならぬハム巻きをパクリ。
「うーん、これはフレンチだよ!フレンチ!」
「うーん、これはフレンチだよ!フレンチ!」
「ムースですよこれ、豆腐のムース!」
「ムースですよこれ、豆腐のムース!」
「いやいや、白子ですって。あるいはフォアグラ!」
「いやいや、白子ですって。あるいはフォアグラ!」
すごい絶賛のされっぷりである。私のところに回ってきたときはハムが二枚残っていて、「おまえ、二枚いっぺんにいっちゃえよ!」「そんな!先輩が食べてくださいよ!」「いいんだよ、おれは食べ慣れているから!さあさあさあ!」みたいなやり取りがあった。

食べてみると、これが何を食べているんだか一瞬さっぱりわからなくなるのだが、高級料理には間違いない味なのである。豆腐がチーズのようでもあり、これはヨーロッパあたりで流行るかもしれない。今後、豆腐はハムで巻くべきだ。
おでんにいつの間にか買っていた白身魚のフライを入れると言い出した先輩。そんな奇をてらわなくてもいいですよ!
おでんにいつの間にか買っていた白身魚のフライを入れると言い出した先輩。そんな奇をてらわなくてもいいですよ!
「いやあ、さすがにこれなないでしょー」
「いやあ、さすがにこれなないでしょー」
「くー、なんで立ち食いそば屋に白身魚のフライがないんだろ。俺、ナオ先輩に一生ついていきますよ!」
「くー、なんで立ち食いそば屋に白身魚のフライがないんだろ。俺、ナオ先輩に一生ついていきますよ!」
いやいや、これがうまいわけがない。でも食べてみたらびっくり。

そんなことを順番でやり続けるという、テレビにおけるリアクション芸の練習会みたいな飲み会なのであった。

「もう酒を安売り店で買って家で飲めよ!」と思うかもしれないが、こういうのがキャンプで食べるカレーみたいでうまいのだ。
社会的に孤独なグルメ。
社会的に孤独なグルメ。
関係ないけど、証明写真の忘れ物がありました。
関係ないけど、証明写真の忘れ物がありました。
温かさこそが最高のご馳走でした。
温かさこそが最高のご馳走でした。
いったん広告です

わざわざ曳舟まで移動します

さて最後の先輩となるのは、とうとう私の番である。3人の先輩方のしみったれた振る舞いがあまりにも立派で、ここで今更先輩風を吹かすのも恥ずかしいのだが、ここはひとつ胸を張ってやろうではないか。

池袋駅から電車を何度も乗り継いでやってきたのは曳舟駅である。目指す場所は、さらにここから15分以上歩くという、ハシゴ酒の4軒目としてはあり得ない店だったりする。

もうすっかり酒飲みとしての充実感を味わっているので、さぞやもう家に帰りたいだろうが、それは先輩(俺)がゆるさない。駅から遠いからなんだ。歩くのはタダだ。時間を金で買うんじゃない、金を時間で買うのである。
「ほら、あれがスカイツリーだぞ。見るのはタダだからしっかり見ておけ!」
「ほら、あれがスカイツリーだぞ。見るのはタダだからしっかり見ておけ!」
曳舟はめったに来ないけれど、気になる店が多かった。
曳舟はめったに来ないけれど、気になる店が多かった。
味付け肉の専門店、すごく気になる。さっきから写真がぼやけているのは、カメラがファンシーモードとかいうのになっていたから。
味付け肉の専門店、すごく気になる。さっきから写真がぼやけているのは、カメラがファンシーモードとかいうのになっていたから。
意識低い系の男4人がダラダラとした足取りでやってきたのは、暖簾に「大衆酒場」ときっぱり書かれた「かどや」さんだ。

しみったれた一日を締めるのにふさわしい暖簾である。
名前はかどやだけど、角にないというのはきっと定番ジョークなのだろう。
名前はかどやだけど、角にないというのはきっと定番ジョークなのだろう。
大衆酒場とはいえ、椅子も壁も屋根もあるという、今日の我々としては超高級店だ。
大衆酒場とはいえ、椅子も壁も屋根もあるという、今日の我々としては超高級店だ。

ピッチャーが500円という衝撃

先輩風を吹かせて後輩を連れてきたこの店だが、実は一度も来たことがなかったりする。やっぱり行ったことがない大衆酒場スミダという店のツイッターが大好きで、当初はそこに行こうと思ったのだが残念ながらお休み。そこでスミダの女将がおすすめするかどやに来てみたのだ。

この店でしみったれた先輩を演じるためには、ドリンクの注文の仕方にコツがある。それはサワーをピッチャーで頼むことだ。
いわゆるプレミアム焼酎も揃う店だが、そんなのは自腹の時に飲んでくれ。
いわゆるプレミアム焼酎も揃う店だが、そんなのは自腹の時に飲んでくれ。
我々が頼むべきは、この500円のサワーである。ジョッキで500円でもおかしくない世の中だが、なんとジョッキ3杯分が入ったピッチャーの値段なのだ!
我々が頼むべきは、この500円のサワーである。ジョッキで500円でもおかしくない世の中だが、なんとジョッキ3杯分が入ったピッチャーの値段なのだ!
これが500円のピッチャーのサワーである。既に疲れ気味なのでクエン酸サワーだ。
これが500円のピッチャーのサワーである。既に疲れ気味なのでクエン酸サワーだ。
そしてドーンと置かれた空のジョッキ。突きだしがハムでちょっと笑った。豆腐を頼んで巻いて食べようか。
そしてドーンと置かれた空のジョッキ。突きだしがハムでちょっと笑った。豆腐を頼んで巻いて食べようか。
「写真はいくら撮ってもいいけど注文もしてね!」と店のおねえさん。この店員と客のフラットな関係がうれしい。
「写真はいくら撮ってもいいけど注文もしてね!」と店のおねえさん。この店員と客のフラットな関係がうれしい。
ピッチャーは3杯分なので4人で飲むにはちょっと少ないが、とりあえず乾杯。うーん、満足。
ピッチャーは3杯分なので4人で飲むにはちょっと少ないが、とりあえず乾杯。うーん、満足。

しみったれの設定が壊れる魅力的なメニュー

私がこの店でやりたかったことは、500円のピッチャーを頼んでシェアすることだけなので、もうすっかり気がすんだ。

すかさず次のリリーフピッチャーを注文したら、あとはゆったりとツマミをオーダーしようではないか。

この店はメニューが多すぎて何を頼むべきか迷ってしまうので、おねえさんにオススメを聞いてみると、「そのホワイトボードがオススメです!」と教えてくれた。

なるほどと視線を移すと、ホワイトボードの範囲を超えて、びっしりとオススメが張り出されていた。
おねえさん、ちょっとオススメしすぎ!(嬉しい悲鳴)
おねえさん、ちょっとオススメしすぎ!(嬉しい悲鳴)
いい感じでお酒が回ってきたこともあり、ここで今まで抑圧されてきた食欲が一気に爆発。

この中でも特にオススメだというメニューをおねえさんに選んでもらい、しみったれた先輩というテーマを無視したブルジョアみたいな注文をしてしまった。しみったれ界のリバウンド王と呼んでください。
いきなりウニを頼んでしまい、パリッコ後輩が「全然しみったれてないじゃないですか!」と声を荒げたが、スニーカー編みのウニが来てニッコニコ。
いきなりウニを頼んでしまい、パリッコ後輩が「全然しみったれてないじゃないですか!」と声を荒げたが、スニーカー編みのウニが来てニッコニコ。
おねえさんが勧めてくれたタン刺しが、すごく好みの味だった。
おねえさんが勧めてくれたタン刺しが、すごく好みの味だった。
新鮮な牛レバーを自分で焼かせてもらえるという喜び。やったぜバーベキューだ!
新鮮な牛レバーを自分で焼かせてもらえるという喜び。やったぜバーベキューだ!
とりあえず3点盛りといってから、やっぱり5点盛りに変えてもらった刺し盛り。
とりあえず3点盛りといってから、やっぱり5点盛りに変えてもらった刺し盛り。
そういえばしみったれなければいけないんだったと思い直して頼んだハムカツが、まさかのボリュームで全然しみったれてない。
そういえばしみったれなければいけないんだったと思い直して頼んだハムカツが、まさかのボリュームで全然しみったれてない。
「先輩、この店最高ですね~!」「俺、こんなハムカツ初めてっす!」
「先輩、この店最高ですね~!」「俺、こんなハムカツ初めてっす!」
「まあたくさん食え。でも飲み物はピッチャーだからな!ピッチャーでハイボールって、ノーコンピッチャーかよ!ははは!」「……」
「まあたくさん食え。でも飲み物はピッチャーだからな!ピッチャーでハイボールって、ノーコンピッチャーかよ!ははは!」「……」
「先輩、ちょっと相談いいですか。こんなにうまい刺身、俺、日本酒で食べたいです!日本酒を飲ませてください!」
「先輩、ちょっと相談いいですか。こんなにうまい刺身、俺、日本酒で食べたいです!日本酒を飲ませてください!」
「よし、よく正直に言ったな!俺だって話のわからない男じゃないからな。いいよ、日本酒を一緒に飲もうじゃないか!」
「よし、よく正直に言ったな!俺だって話のわからない男じゃないからな。いいよ、日本酒を一緒に飲もうじゃないか!」
「ありがとうございます!じゃあ、あの十四代っていうのを…」
「ありがとうございます!じゃあ、あの十四代っていうのを…」
「よし、わかった。おねーさーん、こいつに250円の巴っていうやつを一合ね!」
「よし、わかった。おねーさーん、こいつに250円の巴っていうやつを一合ね!」
おれは先輩だから300円の天狗舞だけどな。
おれは先輩だから300円の天狗舞だけどな。
「先輩、最高っす。俺、酒の味なんてよくわかんないけど、これがうまいってことだけはわかります!」
「先輩、最高っす。俺、酒の味なんてよくわかんないけど、これがうまいってことだけはわかります!」
「うまいな、うん、うまいよ」
「うまいな、うん、うまいよ」
「そうです、私がヘンな後輩です。ヘンな後輩~だからヘンな後輩~~」
「そうです、私がヘンな後輩です。ヘンな後輩~だからヘンな後輩~~」
こういう店なので、浅漬けを頼んでも当然うまい。
こういう店なので、浅漬けを頼んでも当然うまい。
ワーッと歓声が上がったのは、ケムタ後輩が食べたがった牛筋豆腐。
ワーッと歓声が上がったのは、ケムタ後輩が食べたがった牛筋豆腐。
見た目通りにうまいのだ。豆腐はハムで巻いて食べるべきとかいっていた自分をとっちめてやりたい。
見た目通りにうまいのだ。豆腐はハムで巻いて食べるべきとかいっていた自分をとっちめてやりたい。
先輩、うっかり大トロとか頼んでしまいました。「ベビースターで胃袋を狭めて申し訳ない!」と謝るナオ後輩。いやいやいや。
先輩、うっかり大トロとか頼んでしまいました。「ベビースターで胃袋を狭めて申し訳ない!」と謝るナオ後輩。いやいやいや。
パリッコ後輩がどうしてもというので頼んだ煮アナゴは、「入社して先輩にここ連れてこられたら、いい会社に入ったなって思うね!」と最大の褒め言葉が出る味。
パリッコ後輩がどうしてもというので頼んだ煮アナゴは、「入社して先輩にここ連れてこられたら、いい会社に入ったなって思うね!」と最大の褒め言葉が出る味。
絶品の煮アナゴに、リアル舌鼓を打つケムタ後輩。
絶品の煮アナゴに、リアル舌鼓を打つケムタ後輩。
「野菜もちゃんと食べなきゃな!」「はい、ツマまで旨くて悔しいです!」
「野菜もちゃんと食べなきゃな!」「はい、ツマまで旨くて悔しいです!」
プルンプルンだったフグの煮凝り。これで明日はツヤ肌だ。
プルンプルンだったフグの煮凝り。これで明日はツヤ肌だ。
完全にしみったれモードは崩壊。タラの白子がまたうまいのよ。ワカメのレベルも驚異的な高さ。
完全にしみったれモードは崩壊。タラの白子がまたうまいのよ。ワカメのレベルも驚異的な高さ。
「この倍の値段でも通うのにこの値段だったら、もう住むしかないですよ!」と熱燗を煽る。
「この倍の値段でも通うのにこの値段だったら、もう住むしかないですよ!」と熱燗を煽る。
ファミレスよりも安いカキフライ。パリッコ後輩が今日はここに泊まりたいとか言い出した。朝飯もきっとうまいはずだと。宿じゃないってば。
ファミレスよりも安いカキフライ。パリッコ後輩が今日はここに泊まりたいとか言い出した。朝飯もきっとうまいはずだと。宿じゃないってば。
鶏の西京焼き。この値段でこのクオリティ、なにか裏があるのではと怪しみたくなる。
鶏の西京焼き。この値段でこのクオリティ、なにか裏があるのではと怪しみたくなる。
こういう店であえてピザを頼んでみたのだが、これがシンプルながら酒に合うピザなのである。
こういう店であえてピザを頼んでみたのだが、これがシンプルながら酒に合うピザなのである。
あの店のメニューを紹介する映像、ネットで配信してくれないかな。これを眺めながら家飲みしたい。
あの店のメニューを紹介する映像、ネットで配信してくれないかな。これを眺めながら家飲みしたい。
忘年会だと言い張って、すぐにでもまた来たい店。憧れのスミダとハシゴしたらバチが当たるかな。
忘年会だと言い張って、すぐにでもまた来たい店。憧れのスミダとハシゴしたらバチが当たるかな。
あやまることでもないんだけど、ごめん。俺だけしみったれの先輩になれなかったよ。
あやまることでもないんだけど、ごめん。俺だけしみったれの先輩になれなかったよ。
しみったれた先輩がケチケチしながらおごるという自分で決めた設定を完全に無視して、結局いつも以上のペースで注文してしまったのだが、会計をしてみたらしみったれ飲み会と呼べる金額で驚いた。

このようにして4軒のハシゴ酒をしたわけだが、ただ単に割り勘で飲み食いしただけでは、この充実感は味わえなかっただろう。おごる方もおごられる方も気持ちよく、これぞウィンウィンの関係だ。

社会人になって20年近くも経つと、なかなか先輩後輩という関係の飲み会もなくなるので、その点で懐かしい気分を味わえたのもよかったかな。

先輩、ごちそうさまでした

「昔はこんな先輩いたよなー」という思い出話から始まった今回の企画だが、ちゃんと思い返してみると、赤い手ぬぐいをマフラーにして銭湯へ行ったことのある人なんていないように(いたらごめん)、こんなしみったれた先輩は存在しないような気もする。空想上の先輩だ。

パリッコさんが「この記事、どうやってまとめるんですか?」と聞いてきたが、特にまとめることなんてない。私はなにか理由を付けて、ただ楽しく酒が飲みたかっただけなのだから。
曳舟から見るスカイツリーってかっこいいですね。
曳舟から見るスカイツリーってかっこいいですね。
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