特集 2014年12月28日

書き出し小説大賞・第64回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第64回である。

ついに先日、書き出し小説単行本が発売された。数日後には重版が決定するという好調な売れ行き!これも一重に書き出し作家、ならびに書き出し読者諸君、そしてDPZ殿のおかげである。さらにこの遊びが多くの人に受け入れられ、愉しまれることを願って止まない。どうぞ今後とも布教のほどよろしくお願いします。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご招待しよう!

書き出し自由部門

「これの色違いありますか」八百屋に妙な客が来た。
義ん母
試食室はどこですか?
お客様センターに電話し、どれほど美味しかったか感謝を伝えた。電話口からすすり泣きが漏れてくる。
いがそ君
ホメーターという新しい人種。
国防省からの赤メールが届いた兄は、食べかけのカップ麺を残したままサイバー空間へと赴任した。
g-udon
彼らはニート兵と呼ばれている。
縄跳びは土煙を上げながら黙々と続いていた。
ウチボリ
夜中もヒュンヒュンうるさい。
苦い記憶を総動員してホテルマンは笑いを噛み殺した。
suzukishika
ズラが裏表逆の客に。
食べ残してた冷凍ピラフが、今朝にはひとかたまりの透き通った鉱物になっていて、しばらく飾っています。
人が生きてる
これがクリスタルピラフ!?
桃源郷からの帰路は、石畳の路であった。眼前には広大な駐車場があった。
ボーフラ
やっと現実に戻って来た。
「ちょっと待ちな!新しい上履きは気持ち汚しな!」枯れ草をくわえた先輩がギロリとにらんで顔を近づける。
茂具田
親切なスケバンキャラ。
夫をぐるぐると回すと、どの党の党首にも似るアングルが必ず一つはある。
prefab
ナポレオンズのマジックみたいにして見たい。
毛玉を取るたび、コートは薄く透けていった。
大伴
気がつけばオーガンジー。
本館と新館の間に雪が降りしきる。
xissa
なんという静けさ!
三丁目の路地裏にはいつだって黒猫がいたし、そこを通る僕は決まって傘を持っていた。
早百合
パラレルな世界への予感を感じる作品。
僕は白い息を吐き、隣で君はメガネを曇らせる。カバーをつけていないiPhoneは、火傷するほど冷たかった。
yuuma
最後にもってきたiPhoneのくだりが秀逸。
「亀を一回踏むたびに命を一つあげよう」そう言われた男は永遠に亀を踏み続けた。
ぴすとる
亀の命は……?
裏を取る、という表現がやたらと出てくる絵本であった。
紀野珍
おじいさんは元刑事でした。
湿布のように貼られたハムは起上がると同時に全てはがれ落ちた。
TOKUNAGA
背中むずむずの読後感。
ターザンロープにぶら下がった僧侶が、勢いよく除夜の鐘を鳴らした。
柴咲ハコ
よいお年を~~~~~っ!

書き出し作品の選考の際、考慮するひとつのファクターとして「抜け」がある。これは感覚の問題なので上手くは説明できないが、読んだときふっと力の抜けるモノ、すっと情景が入ってくるモノ、過剰は作為や装飾を感じないものとでも言えようか。おそらく常連作家さんには分かっていると思うが、考え抜いてひねり出したものより、するっと出来たものの方がいい作品が多い。読者は思った以上に作者からの「圧」に敏感なのだ。しかし難しく考えることはない。要は読者とその駆け引きを愉しむことだ。
義ん母氏の作品、抜けの見本のような会心の作。いがそ君の作品、世知辛いいまの時代を一瞬忘れさせてくれるほっこり作。g-udon氏の作品は赤メールではじまる近未来戦争。この書き出しに長編にも耐えうる設定とキャラが詰まっている。xissa氏、蛇足は無用。ただ味わいたい。

つづいては規定部門。今回のモチーフは「2014年」であった。書き出しで振り返るこの一年。どうぞ!

規定部門・モチーフ「2014年」

この年に起こったことは、すべて妖怪のせいだった。
suzukishika
「STAP細胞はありまぁ~す!」突然、現れた彼女に池の女神は困惑していた。
カイテン
存在するかどうか分からないコンビニ「ミニスタップ」の話題で舎内は持ちきりだ。
うにねこ
「この細胞があればあなたの耳、聞こえるようになるかもしれません」互いに真実を知らぬまま、その交渉は始まった。
春乃はじめ
初めて地上波に映ったふるさとの駅は、県議のカラ出張のコースとして、意味のない駅として、調子の良いニュースキャスターによって紹介されていた。
山本ゆうご
最終回の放送を終え、スタッフのねぎらいを受ける森田の電話に着信があった。妻からだった。「32年間おつかれさま。明日、家にいてくれるかな?」
紀野珍
夢枕に立ったおばあちゃんが「あのレシピは割烹着の内側に縫い付けてある」と、教えてくれた。
不眠
今年の実家からの仕送りは、箱いっぱいのSTAP細胞であった。
あつし
画面を左から右に流れるコメントの洪水が、嘘つきたちの顔を覆い隠している。
おかめちゃん
「ほんと、子供の頃から変わってないんだから」テレビの画面の中、子供のように泣きじゃくるその男を見ながら母は懐かしそうに目を細めた。
夏猫
謝っているだけで今年のモノマネと思われた。
俺スナ
嘘をついたらこうなるんだよ、のパターンが多すぎて、娘が混乱している。
ocamo
どんなことでもプライドを持ち、真剣に取り組むことの美しさと恐怖を、羽生くんとデビ夫人から学んだ。
ocamo
落書きの被害は同情されたが、落書きの内容には共感された。
たこフェリー
「いいのよ、好きにして…」そう囁くとアケミは、ボクを見つめたまま動かなくなった。
菅原 aka $UZY
首相の名前をもじった政策名が小学生の必殺技になるのに、そう長くはかからなかった。
スパムちゃん
いつも通り日銀の扉を開けると、一斉にクラッカーが弾け飛んだ。いたずら好きの総裁が歌いだす。サプライズ緩和だ。
アイアイ
「励ましてくる」と出かけたきり、とうとうチャゲは戻らなかった。
TOKUNAGA
近所の小学校の校歌が、May.Jにカバーされた。
本塁MAX
「なんであなた西島秀俊じゃないの?」一片の曇りもない眼で妻は私にそう言い放った。
5時のおやつ
アイスバケツチャレンジを終えた先輩から湯気が立ち昇った。
ぴすとる
ドンとついた手を離すと、言葉に表せない色の体液を出した虫の死骸が、壁を伝って落ちていった。
おかめちゃん
フィリップ・シーモア・ホフマンが死んだ。しかし死んだと言われても誰のことか分からなかった。だから出演作を何本か観てから、悲しんだ。
遊泳禁止
修造が叫ぶたび海面が上昇した。
Mch
きりりと冷えた空気を、百に消費税を足した数の鐘の音が揺らす。
たかだ
今年ほどキャラのたった人物が世間を賑わした年はない。佐・小・野の会見御三家は鉄板ネタであろう。春乃はじめ氏はそのうちに二人を合わせ技にきれいにまとめた秀作。おかめちゃん氏、ocamo氏、俺スナ氏は全員まとめて仕上げた。野々村ネタでは夏猫氏の母目線に笑った。紀野珍氏、本名、森田にすることでいい話度アップ。スパムちゃん氏、アイアイ氏、政治経済ネタをこう料理できるのかと感心。ラストのたかだ氏、鮮やかである。
今回のようなモチーフはネタとどれだけ距離を取るか、難しかったと思う。採用作はどれも適度な距離を置きながら、単なるネタに終わらない空気感を出した。お見事。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「天才」
天才キャラ、実は切れ目なく流行っている人気キャラではないだろうか。やはり人は自分にはなり得ないものに憧れる。知能の高い天才から、悪の天才、料理の天才、遊びの天才、どんな天才でもいい。また天才キャラにはそれと相反する欠点もあるだろう。キャラだけではなく明らかに天才の仕業と言える事象からアプローチするのもいい。書き出し作家たちの天才ぶりを発揮してもらいたい。
締め切りは1月16日正午、発表は1月18日を予定している。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送って欲しい。ちなみに新潮社サイト、矢来町ぐるりの書き出し小説出張版、モチーフ「本屋」は1月12日締め切りです。力作待ってます!
最終選考通過者

こめこ/りずむ原きざむ/流し目髑髏/カイパン/左前珍五郎/ビールおかわり/もんぜん/小夜子/ただの県民/mm_nomad/ammo/平成99年/tawashi_m/トニヲ/哲ロマ/unnnunn//プレミアムバザー高田/yuuma/スリッパ/伊東和彦/マーク・パン助/ブルーザー横浜/
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