特集 2015年2月12日

ベトナムで500円のメコン川クルーズもどきを堪能する

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ベトナムは、日本人の観光旅行先としても人気の高い国だ。

国内の観光地は、世界遺産の雄大なハロン湾、夜に灯る無数のランタンが美しいホイアン、フランス統治時代の建築物が残るホーチミン市…など、選択肢は豊富。

その中でも有名なもののひとつが、ベトナム南部のメコン川を巡る「メコン川クルーズ」。いかにもジャングル感満載な川を下り、メコン川地域の人々のくらしをちょっぴり疑似体験できる点が魅力だ。

しかし実は、都会のど真ん中に、それのほぼ1/6の時間と料金で、よく似た「メコン川クルーズもどき」を堪能できることはあまり知られていない。その正体は「サイゴン川クルーズ」、実態を確かめに行こう。ハプニング続出だった。
1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー


> 個人サイト AbebeTV おきのえらぶ島移住録 べとまる

シンチャオ(ベトナム語でこんにちは)!
ネルソン水嶋です、ベトナムのホーチミン市というところに住んでいます。

観光旅行先としても人気の高いベトナム。
ホーチミン市も含めた南部では、鉄板といってもいいツアーが存在します。

それは、「メコン川クルーズ」です。
こんな感じで、いかにもなジャングルを小舟に乗って突き進む。
こんな感じで、いかにもなジャングルを小舟に乗って突き進む。
メコン川は、タイ・ラオス・ミャンマー・カンボジア・ベトナムといった東南アジアの国々を流れる国際河川。その下流にある三角州・メコンデルタは肥沃な農地と水利に恵まれており、ベトナムからの輸出米のほとんどがここでつくられます。

メコン川クルーズは、ベトナム南部の観光において長年に渡って定番となっているツアー。バナナの葉で出来た天然のトンネルの下、メコン川をボートで進むというものです。

しかしこのツアー、移動だけで往復5時間、料金はオプションによっては一万円掛かります。当たり前といえば当たり前ですが、「トランジットだけど遊びたい!」というビジネスマンや、「なるべく旅費は抑えたい!」という学生さんにとっては難しいかもしれません。


そんなある日、友人のいがちゃん(在住1年・日本人)から連絡を受けた。


いがちゃん「ネルソンさん、都心で500円払えばメコン川クルーズもどきができるって知ってますか?」
ネルソン 「え、都心?500円?もどき?すべてが謎なんだけど!」


映像制作会社に勤める彼の話によると、ほぼ10ヶ月前にロケ地さがしで見つけたとのこと。メコン川ではなく、ホーチミン市内を流れるサイゴン川の方でクルーズが出来て、しかも発着場は都会のど真ん中。料金もたった500円で収まるんだとか。

そういえば、ホーチミン市に10年以上住んでいる人がよく、「昔はこの一帯がもっとジャングルみたいだった…」と話している様子を目にする。それがこの10年の急激な都市開発によって一気に森がビルへと変わったと。それがまだ、残っているということなのだろうか。


確かめに行こう!
ホーチミン市の中心部、一流ホテルが密集している。左下の銅像の人物は「ちんこうどう」。
ホーチミン市の中心部、一流ホテルが密集している。左下の銅像の人物は「ちんこうどう」。
上記写真の左中央の人影は13世紀に活躍したチャン・フン・ダオ将軍の銅像。漢字表記を日本語で読むと「ちんこうどう」になるが、日本語の分かるベトナム人に話すと「バカにするな」と怒られるかもしれません。
この頃、時間は3時すぎ。リバーサイドなのでくつろいでいる人もちらほらと。
この頃、時間は3時すぎ。リバーサイドなのでくつろいでいる人もちらほらと。
ネルソン 「それで、どうやってクルーズに参加するの?」
いがちゃん「川辺を歩いているとおっちゃんが『乗らないか』と話し掛けてくるんです」
ネルソン 「こっちからコンタクトとれねーのかよ!」
いがちゃん「きっといますよ!きっと大丈夫ですよ!」
ネルソン「不安になるから二回もきっとって言うなよ…」
ネルソン「不安になるから二回もきっとって言うなよ…」
いがちゃんの謎の根拠なき自信に押され、言われた通りに川辺を歩く。
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いがちゃん「いました!」
ネルソン 「はや!」
ヨーダみたいなおばちゃんが案内していた。
ヨーダみたいなおばちゃんが案内していた。
おっちゃんならぬおばちゃんだったが、無事にエンカウントできた。
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おばちゃん「3人、3人、50万ドン、50万ドン」
ネルソン 「ん…!?」
これは、おばちゃんに見せられたメニューと同じもの。
これは、おばちゃんに見せられたメニューと同じもの。
ネルソン 「3人から5人で一回50万ドン(2500円くらい)って書いてるやん!」
いがちゃん「書いてますね」
ネルソン 「一人10万ドン(500円くらい)じゃないでしょ!」
いがちゃん「あ、前回5人で乗ったからそう思ったんですね」
ネルソン 「一人およそ17万ドンやないかー!」
怒るネルソン、笑ういがちゃん、言語の壁により状況を飲み込めないヨーダ。
怒るネルソン、笑ういがちゃん、言語の壁により状況を飲み込めないヨーダ。
まーしょうがない、この船であることには間違いないはずだ。乗ってしまおう。
乗ると決めたら何処からともなくクーラーボックスを抱えた男性がやってきた。
乗ると決めたら何処からともなくクーラーボックスを抱えた男性がやってきた。
おばちゃん「ほれ、水を持ってきな」
ネルソン 「くれるんだ、ありがとう」
おばちゃん「ほれ、100円置いてきな」
ネルソン 「押し売りか、うるせーよ」

無視して発着場へ進む。
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ついに乗船!水際と中腰と蹴りたい背中

案内された先には大きな客船が!
案内された先には大きな客船が!
えっ、まさか…。
えっ、まさか…。
これが動くなんて…。
これが動くなんて…。
訳はなく、船の中にある船の発着場というマトリョーシカ構造みたいな場所で待つ。
訳はなく、船の中にある船の発着場というマトリョーシカ構造みたいな場所で待つ。
背中ドーン!したい、背中ドーン!
背中ドーン!したい、背中ドーン!
5分もしない内に、それらしき船の影が見えてきた。
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おっちゃん「へっへへ、今日のババァの被害者はお前らかー!」、とは言ってません。
おっちゃん「へっへへ、今日のババァの被害者はお前らかー!」、とは言ってません。
颯爽と船頭のおっちゃんが登場。
乗り込み!
乗り込み!
地面にしばらくの別れを告げて、サイゴン川へ。
地面にしばらくの別れを告げて、サイゴン川へ。
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ハプニングが止まらない!釣りと小便とまさかのUターン

ちなみに左のビルは三年前からあのままで建設が止まっています、マジで。
ちなみに左のビルは三年前からあのままで建設が止まっています、マジで。
海抜ゼロメートルから眺める高層ビルは迫力がある。
川なので海抜じゃない、というつっこみは今はなし。
屋根があるだけこっちのクルーズの方が上等でした。
屋根があるだけこっちのクルーズの方が上等でした。
メコン川クルーズといえばお決まりのノンラー(笠帽子)。
あちらでは小舟に積んでいますが、こちらはわざわざお土産屋で買ったものを持参。
汚いと見せかけて綺麗と見せかけてやっぱり汚い、クソ汚い。
汚いと見せかけて綺麗と見せかけてやっぱり汚い、クソ汚い。
日光が当たって煌めく水面…。常に砂が舞っているから茶色く見えるけど実は綺麗、という話はメコンでガイドがよくする内容。ここはベトナム最大の商業都市ホーチミン市を流れるサイゴン川だ、ハッキリ言ってクソ汚い。落ちたら死にはしないが死にたくはなるだろう。
橋だ。
橋だ。
下をくぐる時は、
下をくぐる時は、
何故か恐怖心が煽られる。
何故か恐怖心が煽られる。
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ネルソン 「あれは…」
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ネルソン 「釣りしてる!」
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ネルソン 「いや、よく見るとそれだけじゃないぞ…」
ものすごく美しい角度で、アレが見えない。
ものすごく美しい角度で、アレが見えない。
ネルソン 「小便してるよね!彼絶対小便してるよね!!
いがちゃん「してますね~」


サイゴン川には小便が流れているのだ。
むしろ小便くらいどこかで誰かが流しているは思うけど、クルーズ中に見るのはキツイ。
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ネルソン 「あれは…」
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ネルソン 「また釣りしてる!」
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ネルソン 「そもそもなんであんな大人数で釣りしてんだよ…
何か線のようなものが…。
何か線のようなものが…。
ネルソン 「ちょっと待って」
飛行機を大きな鳥と勘違いして弓矢で狙う部族、みたいなシーンを思い出す。
飛行機を大きな鳥と勘違いして弓矢で狙う部族、みたいなシーンを思い出す。
ネルソン 「釣られてる!よく見たら釣られてるよ我々!!
いがちゃん「釣られてますね~」
ここで船と人間の、謎の引き合いがはじまる。
ここで船と人間の、謎の引き合いがはじまる。
全ての争いは、こうして偶然に起こってしまうものなのかもしれない。
全ての争いは、こうして偶然に起こってしまうものなのかもしれない。
そしてこのまま相手が、「うわー!」と川に飛び込んでくれたら楽しいなと悪魔のようなことを考える。
そしてこのまま相手が、「うわー!」と川に飛び込んでくれたら楽しいなと悪魔のようなことを考える。
船頭のおっちゃんの操縦により、巧みに釣り糸を外す。チエッ。
船頭のおっちゃんの操縦により、巧みに釣り糸を外す。チエッ。
一気に景色が変わった!
一気に景色が変わった!
ネルソン 「なんだか一気にジャングルクルーズ感が湧いてきたね~!」
いがちゃん「ここを抜けると本格的にそんな感じになってきますよ~!」


ワクワクドキドキ!
遂に都会のど真ん中でジャングルクルーズが堪能できるんだ!
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いがちゃん「あれ?
ネルソン 「えっ?
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いがちゃん「森が無くなってる…
ネルソン 「なにそのダークサイドに落ちる前の森の精霊みたいなセリフ
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ネルソン 「ちょっと待って、本当にどういうこと?」
いがちゃん「いや、前回はもっと茂っていてこの先も行けたはずなんですけど」
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ネルソン 「前回から今日までの10ヶ月で、開発が進んでつぶれたってこと?」
いがちゃん「そう考えて間違いないと思います…」
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ネルソン 「そんなことって…いや、ある。あったのか…」
いがちゃん「あいにく…」
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ネルソン 「いやでもまだ決まった訳じゃないはずよ!…」
いがちゃん「そうですよ!」
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ネルソン 「…」
いがちゃん「どうしたんですか?」
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ネルソン 「この船」
いがちゃん「はい」
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ネルソン 「さっきからUターンしてね?
いがちゃん「してますね

こういう時、ベトナム語では「チョイオイ!」(オーマイゴット!)と言う。
ベトナムでは予想できないことばっかりだ。
クソ汚いに輪をかけてクッソ汚い。
クソ汚いに輪をかけてクッソ汚い。
でも実は、薄々とは感じていました。
何故ならこの川のクソ汚さ、塞き止めでもされないと流石にここまでならんだろうって
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船頭のおっちゃん、死す!?

景色の大半が街アンド街。
景色の大半が街アンド街。
あとはサイゴン川を淡々と漂うだけ、らしい。
ジャングルクルーズに入らなければ撮るものも無いしなぁ。

そうだ、船頭のおっちゃんの話でも聞いてみようかな。
今まで一言もセリフを発していなかったけど、通訳のホン君を連れてきていたのだ。


ネルソン 「ホン君、おっちゃんにさ、どれくらい船頭やっているのか聞いてみてよ」
ホン君 「あ、はい。おっちゃ…」
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全員 「…」
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全員 「し、死んでる!!
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おっちゃん「あ?何がだよ?
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ホン君 「あ、あの、なんで川に頭…
おっちゃん「だから話は何?
川で何をしていたのかには触れられないまま、おっちゃんについて話を聞いた。
川で何をしていたのかには触れられないまま、おっちゃんについて話を聞いた。
ホン君 「船頭はどれくらいやってるの?」
おっちゃん「24歳から、26年間やってる」
ホン君 「50歳」
おっちゃん「うん」
ホン君 「家族は」
おっちゃん「5人いるけど、近々6人目が生まれるわ」
ホン君 「え、孫?」
おっちゃん「子供だよ、ちなみに長男は24歳だけど」
ホン君 「若いなぁ」
サイゴン川は運河なのでいろいろなものが往来する。これは工事用の土砂。
サイゴン川は運河なのでいろいろなものが往来する。これは工事用の土砂。
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ホン君 「働いてる時間は?」
おっちゃん「朝の7時か8時から、夕方の5時には帰る」
ホン君 「ホーチミン市に住んでるの?」
おっちゃん「ドンナイ省(隣の省)に家族がいる。昔は漁師だったけど、家族と離れるからやめたのよ」
ホン君 「今、心配なことはある?」
おっちゃん「お金。長男の子供が生まれそうで次男がそろそろ結婚で、自分もでしょ。何かと金が要るのよ」
ネルソン 「長男と次男はもう成人でしょ、おっちゃんに直接関係あるの?」
ホン君 「ベトナムだと家族や親戚のことは自分事みたいなものですから」
!
おっちゃん「あ、おめーら!見ろ!!」
全員 「!?」
!
おっちゃん「寺だ!!
全員 「だから何だ!!

おっちゃん「バカヤロー、この10年20年で景色も変わっちまって当時から残ってるもんは寺と教会くらいなんだよ」
ホン君 「おっちゃん、ずっと前からこのへん知ってるんだ」
おっちゃん「そもそも俺の家は教会の隣にあったんだよ、都市開発で住めんくなっちまってな」
ネルソン 「発展めざましいと言われるベトナムだけど裏舞台にはいろいろありそうだな…」
この船だと、タンカーのギリギリ近くまで寄れる。
この船だと、タンカーのギリギリ近くまで寄れる。
イカリの迫力は間近で見ると結構すごい。
イカリの迫力は間近で見ると結構すごい。
ここからおっちゃんの会話は、ほぼ一方通行で仲介役への愚痴になっていた。


おっちゃん「そもそもあのババァ、50万ドンだっつっただろ?」
ホン君 「うん」
おっちゃん「俺はそのうちの25万ドンしかもらってないのよ、半分だぞ!」
ホン君 「うん」
おっちゃん「それが客は俺が全額取ってると思って文句を言ってきやがる!」
ホン君 「うん」
おっちゃん「ふざけんな!文句はババァに言え!」
ホン君 「客に直接そう言ったらいいじゃない」
おっちゃん「外国人相手だから言葉通じねーよ!
ホン君 「どこまでどうやって会話してるんだ
橋の下をくぐると垣間見える生活者。賭けトランプをやっているっぽい、よくある光景。
橋の下をくぐると垣間見える生活者。賭けトランプをやっているっぽい、よくある光景。
ホン君 「お客さん、仲介を通さずに取れないの?」
おっちゃん「昔は港があったんで何処の船もそれぞれで頑張ってたんだけどな」
ホン君 「出来なくなった?」
おっちゃん「あぁ、開拓が進む中で禁止になっちまったんだよ。それであのババァやそのへんのセオム(バイクタクシー)連中が牛耳ってる」
ネルソン 「さっきからババァ批判止まんないな
高層ビル群が待つ、発着場に帰ってきた!
高層ビル群が待つ、発着場に帰ってきた!
!
これにて終わり、乗船時間はほぼ一時間。
ジャングルクルーズ感こそほぼなかったが、有意義なショートトリップだった。
!
最後に二人でパチリ。
仕事後すぐにビールを飲んでいるところがベトナムのオヤジっぽい。

500円でも、ジャングルでもなかったけれど、サイゴン川から眺める景色は新鮮だった。

最後に「自分で(クルーズに)参加したいと思う?」とホン君に聞いたら、「わざわざ参加するものではない」という回答。正直なところ、私だってそう思う。何故なら川も汚いし、とても万人にオススメできるものではないからだ。でも、ホーチミン市の発展のちょっとした影の部分とか、いつも見ているサイゴン川に入って、そこから逆に街を見るという経験は、間違いなく新鮮だったと思う。

在住者や、ベトナム旅行も三度目、という人であれば興味深く楽しめるんじゃないだろうか。
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