特集 2015年3月29日

アートの島ではなんでもアートに見えてしまう

『バランバラン』 作者:苔
『バランバラン』 作者:苔
人やモノに感化されるコトなどない、と信じて生きてきたわたしだが、かつて、秘宝館に行ってしばらくの間、
町中のなにもかもがエロいモノに見えてしまう秘宝館病という病に冒されたことがあった。

あれから8 年、今度はアートの島に行って、なんでもアートに見えてしまうという不可解な現象に襲われてしまった。

ずっとひねくれていると思っていたのだが、あれ?
もしかしてわたし、素直なんじゃねーの?
しかも、とびっきり。
イカとタコが大好きで、食べたり被ったり本まで出版しました。
でもサイコーに好きなのはアワビだったりします。世間に対する謙虚です。

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『アートの島』直島へ

香川県にある直島に行ってきた。
3 年ごとに開催される「瀬戸内国際芸術祭」のメイン会場であるこの島には、島民の生活圏内に、主要な施設や作品が残っているという。それらをほぼ1 年中鑑賞できるのだ。
高松からフェリーで1時間。イベント開催中でもなく、強風注意報が出ていたにもかかわらず船内は満席。海外からの観光者も多数乗船していた。
高松からフェリーで1時間。イベント開催中でもなく、強風注意報が出ていたにもかかわらず船内は満席。海外からの観光者も多数乗船していた。
しかも島! わざわざ島! コーフンせずにはいられない。青い空! 白いフェリー! ただならぬ強風注意報!

甲板ではマジで吹き飛ばされそうなったので、船内でおとなしくしていたが、注意報完全にナメてたな……と少し反省した。
だ、大丈夫なのか。わたしのめざす島は。

アートに出迎えられるとアート島に来たという実感が

港では1番に、水玉模様・カボチャのモチーフで有名な芸術家「草間彌生」の作品が出迎えてくれる。目立つことこの上ない。
港では1番に、水玉模様・カボチャのモチーフで有名な芸術家「草間彌生」の作品が出迎えてくれる。目立つことこの上ない。
宇宙人がイス取りゲームをしそうな休憩所。強風でだれひとり座るものはいなかった。心の中で「赤血球」と名付けた。似てる。
宇宙人がイス取りゲームをしそうな休憩所。強風でだれひとり座るものはいなかった。心の中で「赤血球」と名付けた。似てる。
いくつかの野外展示をながめながら、「アートの島に来ましたよ」と自分にムリヤリ思い込ませ、めざす『家プロジェクト』のある地区へ向かった。

レンタサイクルや徒歩でも行けるが、強風におののいたわたしは、島が運営するバス(片道100円)に乗車。

古い家屋を改修した『家プロジェクト』

島の本村地区で点在している作品はぜんぶで7軒。
世界に名を馳せるアーティストたちにより、古い家屋や神社などを改修して、空間そのものが作品化されている。
それにしてもすごいメンツだ。
『南寺』作品:ジェームズ・タレル 設計:安藤忠雄 暗闇に目を慣らしていくインスタレーションが繰り広げられる。
『南寺』作品:ジェームズ・タレル 設計:安藤忠雄
暗闇に目を慣らしていくインスタレーションが繰り広げられる。
『護王神社』杉本博司 目を引く氷のような階段は地下へとつながっている。
『護王神社』杉本博司
目を引く氷のような階段は地下へとつながっている。
洞窟大好きでコーフン。地下への入り口は狭いスペースだが、中は広く、ガラスの階段から光が差し込まれていて幻想的だった。
洞窟大好きでコーフン。地下への入り口は狭いスペースだが、中は広く、ガラスの階段から光が差し込まれていて幻想的だった。
地下を堪能したあと、帰りに「あーーっ!」と声が出る。ココから見えるのは瀬戸内海の水平線。杉本氏の作品『海景』シリーズを彷彿とさせるのだ。この景色こそまさに作品じゃないか!
地下を堪能したあと、帰りに「あーーっ!」と声が出る。ココから見えるのは瀬戸内海の水平線。杉本氏の作品『海景』シリーズを彷彿とさせるのだ。この景色こそまさに作品じゃないか!
杉本氏が意図したものかどうか、真相はわからない。ただ、わたしはこのあたりから、作品以外でも目に入る様々なモノに注視するようになっていった。

思えばコレが、病の初期症状だったのだ。
『永遠の氷柱』 作者:経年劣化 わたしの目には、もう氷柱にしか見えなくなっていた。
『永遠の氷柱』 作者:経年劣化
わたしの目には、もう氷柱にしか見えなくなっていた。
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ちゃ、ちゃんと作品も見ます

『石橋』千住博 氏の代表作である「ザ・フォールズ(滝)」に圧倒されてしばらく見入ってしまった。
『石橋』千住博
氏の代表作である「ザ・フォールズ(滝)」に圧倒されてしばらく見入ってしまった。
外に出てからもしばらく余韻にひたっていたわたしの目の前に飛び込んできたのは、デジャブ感を引き起こすモノクロの外壁。
ええええーーっ! 奇跡じゃないのかコレ!
『あくまでも滝』作者:経年
『あくまでも滝』作者:経年
ちょっとワケがわからない読者は、お手数ではあるが
千住博 滝」で画像検索していただきたい。
わたしの驚嘆とコーフンぶりが伝わるといいのだけど……。いや、伝わって! おねがい!

実際はこちらの外壁。
『碁会所』須田悦弘 中の作品は本物と見紛うほどの木彫りの「竹」と「椿」。
『碁会所』須田悦弘
中の作品は本物と見紛うほどの木彫りの「竹」と「椿」。
過去に訪れた人のブログ画像を見ると、この外壁はやはり年々黒くなっているようだ。カビの一種だろうか?
『角屋』宮島達男 中にはLEDデジタルカウンターによる作品「Sea of Time '98」 この縦格子からもデジタル数字を見ることができる。
『角屋』宮島達男
中にはLEDデジタルカウンターによる作品「Sea of Time '98」 この縦格子からもデジタル数字を見ることができる。
ではこれはどうだろう。
『さびわび』作者:直島の海風 なんだろう。この、計算し尽くされたような錆のコントラストは。これぞ「侘び寂び」ならぬ「錆び詫び」の世界ではなかろうか。
『さびわび』作者:直島の海風
なんだろう。この、計算し尽くされたような錆のコントラストは。これぞ「侘び寂び」ならぬ「錆び詫び」の世界ではなかろうか。
もうダメだ。なにもかもアートに見えてしまう。
このときからわたしは目につくものすべてにココロを奪われていった。今ならわかる。完全にビョーキである。
『枯木屏風』作者:枯れた草 京都智積院の宿坊に泊まったときに観た国宝「松に秋草図屏風」にも劣らぬ造形美!(にわたしの目には映る)。コーフンして何度もシャッターを押した。
『枯木屏風』作者:枯れた草
京都智積院の宿坊に泊まったときに観た国宝「松に秋草図屏風」にも劣らぬ造形美!(にわたしの目には映る)。コーフンして何度もシャッターを押した。
『バランバラン』作者:苔 思わず声が出た作品(もう作品と言ってもよかろう)である。自然現象のバラン、初めてだ。
『バランバラン』作者:苔
思わず声が出た作品(もう作品と言ってもよかろう)である。自然現象のバラン、初めてだ。
これが正真正銘のバラン。 お弁当によく入れるやつね。
これが正真正銘のバラン。 お弁当によく入れるやつね。
家プロジェクトのうち最後に向かうのは1番楽しみにしていた作品だ。そしてこのアート病が一気に悪化する可能性も秘めている。
『はいしゃ』大竹伸朗 歯科医院兼住居であった建物をまるごと作品化していて、中身は奇想天外のギョーテン・コーフンの連続。実は自由の女神も住んでいるのだ。
『はいしゃ』大竹伸朗
歯科医院兼住居であった建物をまるごと作品化していて、中身は奇想天外のギョーテン・コーフンの連続。実は自由の女神も住んでいるのだ。
外観だけでもおわかりであろう。この作品でわたしのアート病原菌は脳細胞すべてを冒していった。自覚症状はない。これはもう完全に末期だ。
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病気は早急に完治するものではない

アート病に完全に冒されたわたしは、「あっ!」とめざとくコレというものを見つけると、中腰で小走りにその場に行き、いろんな角度から何枚も連写した。完全にイカれていたと思う。

同行者はいいかげん呆れて、「ほかのところを観る」と言って港に戻ってしまった。
それでもいい。アートがわからないものはほっとくのが1番だ。
それでは、わたしのコレクションをごらんいただこう。
『つぎたし』作者:不明 色使い、ボートの青とのコントラストがなんともいえず味わい深い。
『つぎたし』作者:不明
色使い、ボートの青とのコントラストがなんともいえず味わい深い。
『風通しのいい机』作者:不法投棄者 この机(らしきもの)を凝視してわたしは何分か粘った。いったいなぜここに……。 土地とのバランスもよく、もしかしたら集会所なのかもしれない。いや待てよ、まさか神殿か?
『風通しのいい机』作者:不法投棄者
この机(らしきもの)を凝視してわたしは何分か粘った。いったいなぜここに……。 土地とのバランスもよく、もしかしたら集会所なのかもしれない。いや待てよ、まさか神殿か?
『証』作者:飛んでは困る人 タイトルを何にしようか熟考した結果、このようになった。無造作におかれたこの造形物たちだが、わたしには計算され尽くされたアートにしか見えなかった。「飛んではとても困る」という証である。 証である
『証』作者:飛んでは困る人
タイトルを何にしようか熟考した結果、このようになった。無造作におかれたこの造形物たちだが、わたしには計算され尽くされたアートにしか見えなかった。「飛んではとても困る」という証である。 証である
『絶対区域』作者:入られては困る人 都内でも見かける光景だが、このときのわたしはそんなことはみじんも思い出すことなく西日の射す中うっとりと鑑賞していた。
『絶対区域』作者:入られては困る人
都内でも見かける光景だが、このときのわたしはそんなことはみじんも思い出すことなく西日の射す中うっとりと鑑賞していた。
『壁詰』作者:不明 人は、穴を見ると何か詰めたくなるのだろうか。
『壁詰』作者:不明
人は、穴を見ると何か詰めたくなるのだろうか。
『手押し車』作者:不明 持ち手の塗料がはげている所に愛着を感じる。
『手押し車』作者:不明
持ち手の塗料がはげている所に愛着を感じる。
『瓦貝』作者:不明 人の庭先。落ちてきた瓦に貝を置く芸術魂を見た。
『瓦貝』作者:不明
人の庭先。落ちてきた瓦に貝を置く芸術魂を見た。
『火の用心』作者:不明 小さすぎて、用途はあるのかただの警告か不明。
『火の用心』作者:不明
小さすぎて、用途はあるのかただの警告か不明。

とうとう時間が来てしまう

アートに取り憑かれていたわたしだが、かろうじて冷静さは残っていた。最終フェリーの時間から逆算して、港にある銭湯に行きたい。ここはどうしても押さえておきたかった。

だってこれだもの。
『I♥湯』大竹伸朗女湯は大ダコのタイル画、男湯は女性ダイバーと微生物が描かれていたようだ。お風呂ぎらいのわたしも独占長風呂。とにかく見るものがたくさんあったのだ。
『I♥湯』大竹伸朗
女湯は大ダコのタイル画、男湯は女性ダイバーと微生物が描かれていたようだ。お風呂ぎらいのわたしも独占長風呂。とにかく見るものがたくさんあったのだ。
『I♥湯』の側面にはこれでもかと木が茂っていた。
『I♥湯』の側面にはこれでもかと木が茂っていた。
ん? ちょっと待てよ……。こ、これは……! まさにさっき撮ったあの光景じゃないか!
『繁茂』作者:植物 いかにも子どもたちの秘密基地になりそうな佇まい。持ち主のおっさんに怒られるところまで想像してしまう。
『繁茂』作者:植物
いかにも子どもたちの秘密基地になりそうな佇まい。持ち主のおっさんに怒られるところまで想像してしまう。

けっきょくなんだったのか

正直、コーフンしながらこの何倍もの写真を撮った。
帰りのフェリーで嬉々として同行者に見せたものの、その表情は「はあ?」だった。

高松に戻るとものすごい突風で、わたしのアート病もすっかり吹き飛ばされてしまったが、やはり画像を見返すとニヤけてしまう。ここでしか観られないわたしだけの『マイアート』をたくさん入手した満足感。

東京はモノで溢れているが、わたしのアート病は影を潜め、またいつもの日常がはじまっている。あれはいったいなんだったんだろ。
やっぱりアートの島の空気がそうさせたんだろうか。楽しまなきゃ損だ! というわたしのケチな性格が露呈したのだろーか。

ただ、コレだけは言えると思う。
そこにうんちくや深意などいらない。アートといえばそれはアートになる。言ったもん勝ちだ。
ね、そうだよね? あれ? ちがうの?

どちらにしても宗教団体などの勧誘には気をつけようと思った。
前日に行った屋島神社の手水舎には、洗濯物がフツーに干してあった。これもアートだと言えよう。 言えません。
前日に行った屋島神社の手水舎には、洗濯物がフツーに干してあった。これもアートだと言えよう。 言えません。
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