特集 2015年4月28日

沖縄の巨大サヨリを釣って食う

ダツじゃないよ。正真正銘サヨリだよ。
ダツじゃないよ。正真正銘サヨリだよ。
「沖縄にはめちゃくちゃデカいサヨリがいる。サンマよりデカいやつがいる。」そんな噂を耳にした。

サヨリってあの下顎が長くて、針みたいに細っこい弱々しい魚だろう。それがサンマより大きくなる?

これは面白い。真偽を確かめよう。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

ダツではないらしい

巨大なサヨリと聞いてまず最初に思い浮かべたのが「ダツ」という魚だった ダツは確かにサヨリに縁の近い魚で、シルエットはよく似ている。

しかし、サヨリは下顎だけが前方に突き出すのに対して、ダツの上下の顎がどちらも長く伸びて鳥のクチバシのようになっている。

しかも、鋭い歯がたくさん生えてかなりおっかない印象の魚だ。
これはダツ。サヨリに似ているけどちょっと違う。光に向かって突進してくるので、ナイトダイビングなんかするときは注意しないといけない。
これはダツ。サヨリに似ているけどちょっと違う。光に向かって突進してくるので、ナイトダイビングなんかするときは注意しないといけない。
実際、「オキザヨリ」という名前のダツも存在するが、もしもダツの類を巨大サヨリだと謳っているとしたら、それは個人的には承知しかねる。

しかし、よくよく尋ねてみるとその巨大サヨリは紛れもなくあの下顎が長いサヨリであり、本土の魚屋に並ぶサヨリをそのまま大きく引き伸ばしたような姿をしているのだとか。マジっすか。
巨大サヨリは常夜灯の多い港でよく釣れるらしい。
巨大サヨリは常夜灯の多い港でよく釣れるらしい。
しかも、聞けばその巨大サヨリは夏~秋頃、沖縄の港で簡単に釣れるのだとか。

魚屋さんに並ぶことは多くないので、食べたいなら自分で釣るのが手っ取り早いようだ。そしてちょうど先日、沖縄へ出向く機会があったのでチャレンジしてみることにした。

この時はまだ4月の初旬で巨大サヨリにはちょっと早いタイミングだったが、釣具屋さんで尋ねると「数は少ないけど、夜に常夜灯の下へ行けば一応釣れますよ。」とのことだった。一安心!1、2匹釣れてくれれば御の字だ。

早速、よく釣れるというポイントを教えてもらい、釣竿を伸ばす。

その名は「ホシザヨリ」

「サヨリは表層いるから、餌が水面を漂うようにしとけば釣れるよ。」というアドバイスに従って仕掛けを流していると、釣竿がギュギュッとしなった。

足場の高いポイントだったので、魚の正体はまだわからない。早く姿を見ようと勢いよく水面から引っこ抜くと、銀色の魚がミサイルのようにこちらへ飛んできた。
いきなり釣れた!デカい!50センチ以上あるサヨリなんて初めて見た。
いきなり釣れた!デカい!50センチ以上あるサヨリなんて初めて見た。
コンクリートの上で暴れる魚を見て、はじめはバラクーダ(オニカマス)だと思っていた。まさかサヨリだとは思っていなかった。

しかし、ライトを向けた瞬間に心臓がドキンと高鳴った。アホみたいにデカいサヨリが照らし出されていたのだ。
ペットボトルと比較してもこの長さ、この太さ。
ペットボトルと比較してもこの長さ、この太さ。
全長なんと54センチ。本土の「カンヌキ」と呼ばれる特大サイズのサヨリも遠く及ばない大きさだ。

長いだけでなく、サヨリにしては異様に太い。胴のボリュームはむしろトビウオに近い。確かにこれはそこらに出回るサンマよりも大きいぞ。

しかも驚いたことに、地元民が言うには「まだまだデカくなる」らしい。マジかよ…。
口元だけ見れば確かにサヨリ。活け締めの際にクチバシを振り回されて大変だった。
口元だけ見れば確かにサヨリ。活け締めの際にクチバシを振り回されて大変だった。
特徴はそのサイズだけではない。尾ビレの上側と背ビレが黄色く染まり、ちょっとトロピカルな印象を受ける。

また、体側には黒い斑点が並んでいてなかなかオシャレ。この斑点があることから、ついた和名は「ホシザヨリ」。沖縄では「モンツキ」とか「モンツキサヨリ」と呼ばれることもあるようだが、これも由来はホシザヨリと同じだ。

普通のサヨリと比べてみよう

まだ1匹しか釣れていないが、もう十分だ。これ以上釣っても食べ切れないので早めに撤収しよう。つくづくサヨリ釣りに来たとは思えない言い草だが。
本土へ帰るなり、魚屋さんへ
本土へ帰るなり、魚屋さんへ
そうそう、サヨリってこういう一山いくらで買う魚だよね。1匹で腹一杯になる魚じゃないよね。
そうそう、サヨリってこういう一山いくらで買う魚だよね。1匹で腹一杯になる魚じゃないよね。
後日、冷凍便で本土の自宅へ送られたホシザヨリと改めて対面。

比較用に買ってきた普通のサヨリと並べるとやはり異常なデカさ。決して特別小さな、いわゆる「エンピツサヨリ」を見繕ってきたわけではない。標準的な型のサヨリだ。それでもこの差。
この体格差!ミニマム級とヘビー級、いやそれ以上に開きがあるのでは。
この体格差!ミニマム級とヘビー級、いやそれ以上に開きがあるのでは。
「エンピツサヨリ」なんて言葉もあるが、これはエンピツどころか麺棒並みのサイズ。
「エンピツサヨリ」なんて言葉もあるが、これはエンピツどころか麺棒並みのサイズ。
十分に違和感を堪能したら、いよいよ巨体に包丁を入れていく。

そういえば、サヨリといえば外見の綺麗さ、華奢さに反して腹の内側にべっとり黒い膜が張っていることで知られる。「サヨリみたいな女」という喩えもあるほどだ。

このホシザヨリも同じく腹黒いのだろうか?
あー、腹の中真っ黒ですね。こういう女性は勘弁願いたいですね。
あー、腹の中真っ黒ですね。こういう女性は勘弁願いたいですね。
個人的に腹黒さより驚いたのがうきぶくろの造り。泡立ったように細かい室が密集している。気にしたこともなかったが、もしかして普通のサヨリもこうなっているのか?
個人的に腹黒さより驚いたのがうきぶくろの造り。泡立ったように細かい室が密集している。気にしたこともなかったが、もしかして普通のサヨリもこうなっているのか?
ちなみに今回作るメニューは二品。サヨリ料理の定番である刺身と塩焼きだ。

半身を削いで冊を取り、残りは塩を振って網で焼いていく。
ホシザヨリの刺身。トビウオのように赤みの乗った身色を想像していたが、実際はサヨリらしい綺麗な白身。まさか、サヨリをこんなスタンダードな切り方で刺身にする日が来るとは。
ホシザヨリの刺身。トビウオのように赤みの乗った身色を想像していたが、実際はサヨリらしい綺麗な白身。まさか、サヨリをこんなスタンダードな切り方で刺身にする日が来るとは。
ホシザヨリの塩焼き。サンマの塩焼きよりはるかにボリューミー。
ホシザヨリの塩焼き。サンマの塩焼きよりはるかにボリューミー。

さすがに普通のサヨリにはかなわないけど…

…予想通り、どちらもとても一見してサヨリとは思えない見た目に仕上がってくれた。

肝心要の味はどうだろう。これだけ食べでがあって味がそのままサヨリなら最高なのだが。
おっ、おいしいぞ!一般的にイメージされるサヨリの味とはちょっと違うけど!
おっ、おいしいぞ!一般的にイメージされるサヨリの味とはちょっと違うけど!
期待半分、不安半分で口に運んで噛みしめる。クセはなくほんのり甘みがあっておいしい。肉もたっぷり付いているし、かなり得点高いぞ、この魚。

ただ、普通のサヨリと食べ比べるといささか劣っている感は否めない。ホシザヨリの後に普通のサヨリを食べると、「サヨリってこんなに旨みのある魚だったか!」と驚いてしまうほど。ホシザヨリはちょっとさっぱりしすぎているのかな。

無理に例えるなら「ライザップで脂肪をすべて落としきったサンマ」という感じだろうか。

また釣りに行くぞ!

沖縄の巨大サヨリことホシザヨリ。普通のサヨリとまったく同じとはいかないまでも、十分においしい魚だった。

この魚は簡単に釣れる上に味も良いので、沖縄では釣りのターゲットとして密かに人気らしい。

釣具屋の店員さんに聞いた話によると、夏秋の良いシーズンに挑めばそれこそ入れ食いが楽しめるらしい。よし、沖縄へ行ったらまた釣ってやろう。今度は寿司や唐揚げを作ってみようか。
本土で俗に「カンヌキ」と呼ばれる特大のサヨリ。これでも、ホシザヨリを見た後だと小さく感じてしまうなあ…。
本土で俗に「カンヌキ」と呼ばれる特大のサヨリ。これでも、ホシザヨリを見た後だと小さく感じてしまうなあ…。
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