特集 2015年9月28日

カレー粉の缶に描かれた謎を聞いてきた

エスビー食品の赤缶カレー粉。この建物はいったい何?
エスビー食品の赤缶カレー粉。この建物はいったい何?
日本で最初にカレー粉を作った会社はどこかご存知でしょうか?今からおよそ90年前。日本で初めてカレー粉を開発し発売した会社。それはエスビー食品です。

そのエスビー食品の赤い缶のカレー粉を一度ぐらいは見たことがあると思います。あのカレー粉の缶、よく見ると文字の後ろに建物が描かれています。

以前から「なんで国会議事堂?」と疑問に思っていて、ある日何気なく調べてみたところ、この国会議事堂風の建物のヒミツが判明したのです。どういうことなのか、エスビー食品の方に詳しく話を聞いてきました。そして、カレー粉の調合体験をやらせてもらいました。
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

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板橋区の国会議事堂

ということでやってきたのがこちら。
エスビー食品本社ビル。今回はコラボ記事ではありません。
エスビー食品本社ビル。今回はコラボ記事ではありません。
東京都中央区にあるエスビー食品本社です。広報担当の方に話を聞きます。
エスビー食品スパイス&ハーブマスターの磯部さんと、広報担当の長谷川さん。変な質問に答えていただきありがとうございます。
エスビー食品スパイス&ハーブマスターの磯部さんと、広報担当の長谷川さん。変な質問に答えていただきありがとうございます。
まず、赤いカレー缶に描かれている国会議事堂のような建物が何であるか聞いてみました。見せていただいたのがこの写真。
エスビー食品板橋工場(現在は研究開発などを行っている板橋スパイスセンター)。ここです。
エスビー食品板橋工場(現在は研究開発などを行っている板橋スパイスセンター)。ここです。
色が調整されて浮き上がって見える工場部分の中央に、とがった屋根の建物が見えます。

もう一枚の写真がこちら。
エスビー食品板橋工場の正面。正に赤い缶に描かれた建物。手前のキッチンカーはカレー料理や香辛料の普及啓蒙の為、全国で実演調理して回っていたもの。
エスビー食品板橋工場の正面。正に赤い缶に描かれた建物。手前のキッチンカーはカレー料理や香辛料の普及啓蒙の為、全国で実演調理して回っていたもの。
こちらの写真の建物は東京都板橋区にかつてあったエスビー食品の工場の正面部分。1920年から17年の歳月をかけて国会議事堂が竣工されたのが1936年。その前年の1935年に板橋工場が竣工されたそうです。

そして、1947年から48年にかけて、カレー粉増産の為に工場の建物が増築される際、この「板橋の国会議事堂」が建築されました。
奥が現在の建物。とがった屋根はないものの、建物の形状に当時の名残がみてとれる。
奥が現在の建物。とがった屋根はないものの、建物の形状に当時の名残がみてとれる。
なぜこの形にしたのか正確な記録は残っていないので分からないのですが、戦後間もない当時、国会議事堂は日本を代表し最先端をいく建物。それにあやかり議事堂を模した建物を建てたのではないかということでした。
こんな物も見せていただきました。右は発売当初(1950年発売開始)の赤缶カレー粉。左が今の物。基本的なデザインは変わらず。
こんな物も見せていただきました。右は発売当初(1950年発売開始)の赤缶カレー粉。左が今の物。基本的なデザインは変わらず。
では、国会議事堂ではないが、国会議事堂を模した建物があったので缶に描かれた建物も国会議事堂風になったかというとそうでもないようです。
裏はこんな感じ。今の物は原材料が書いてあるが古い物には無い。作り方も最後におろし生姜を入れることを勧める記述がある。
裏はこんな感じ。今の物は原材料が書いてあるが古い物には無い。作り方も最後におろし生姜を入れることを勧める記述がある。
国会議事堂が出来る戦前のカレー粉缶のラベルにも国会議事堂のような建物を図案化した製品があり、デザイン的に古くから使われていたという面もあるようです。ラベルの絵のほうが先で、後から工場の建物となったのかもしれません。
昭和8年(1933年)発売の白いカレー粉缶にも国会議事堂のような建物が。ちなみにS&Bは創業当初はヒドリ印で「SUN&BIRD」の略でしたが、今は「SPICE&HERB」だそうです。
昭和8年(1933年)発売の白いカレー粉缶にも国会議事堂のような建物が。ちなみにS&Bは創業当初はヒドリ印で「SUN&BIRD」の略でしたが、今は「SPICE&HERB」だそうです。
正確なところはかなり古い話で分からないものの、この板橋工場の建物は「板橋の国会議事堂」として親しまれていました。
創業者の山崎峯次郎氏がカレー粉の開発に成功してエスビー食品の前身となる「日賀志屋商店」を創業したのは大正十二年(1923年)。20歳の時。身近な会社の歴史は調べると結構楽しい。
創業者の山崎峯次郎氏がカレー粉の開発に成功してエスビー食品の前身となる「日賀志屋商店」を創業したのは大正十二年(1923年)。20歳の時。身近な会社の歴史は調べると結構楽しい。
しかし、1960年代の初めごろに工場建て替えの為に取り壊され、今はこのように写真で残るのみとなったのです。

生で見てみたかった。残念です。
ちなみにカレー粉だけでなく、こちらのチューブ入り香辛料もエスビー食品が日本で初めて販売。最初は洋風ねりからし。1970年より発売開始。
ちなみにカレー粉だけでなく、こちらのチューブ入り香辛料もエスビー食品が日本で初めて販売。最初は洋風ねりからし。1970年より発売開始。

社員総出でスパイス啓蒙活動

さて、缶に描かれた建物の秘密が大よそ分かった所で、続いてカレー粉の調合体験をやらせていただきます。
磯部さんは社内でも16人(2015年9月現在)しかいない「スパイス&ハーブマスター」の一人。知識、技能、スペシャリストとしての意識を問われる難しい試験だそうです。
磯部さんは社内でも16人(2015年9月現在)しかいない「スパイス&ハーブマスター」の一人。知識、技能、スペシャリストとしての意識を問われる難しい試験だそうです。
エスビー食品ではセミナー講師や各種メディアでの情報発信を行うスパイスやハーブのスペシャリストを認定する社内資格制度があり、スパイスやハーブについての様々な啓蒙活動を行っています。
エスビー食品の社員なら誰でもホームパーティーぐらいのレベルからスパイス調合体験イベントが出来る。エスビー食品の人に名刺を貰ったら大切にとっておきましょう。
エスビー食品の社員なら誰でもホームパーティーぐらいのレベルからスパイス調合体験イベントが出来る。エスビー食品の人に名刺を貰ったら大切にとっておきましょう。
更に、社員の誰でも使う事が出来る専用の体験イベントキットがあって、様々な場所で社員自ら体験イベントを開いているそうです。
私もたまたまエスビー食品の方と知り合う機会があり、イベントでやってもらいました。これは七味唐辛子の調合体験。即予定数に達し私は体験できなかった。
私もたまたまエスビー食品の方と知り合う機会があり、イベントでやってもらいました。これは七味唐辛子の調合体験。即予定数に達し私は体験できなかった。
今回はカレー粉調合用キットを使って実際に体験させてもらいました。7種のスパイスを混ぜることで基本的なカレー粉を調合するというもの。エスビー食品推奨の調合比率だけでなく、好きな配分での調合も可能です。
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7種のスパイスでカレー調合体験

それではカレー粉の調合体験をやっていきます。
カレー粉調合キット。他に七味、ハーブソルトなどの調合体験キットがあるそうです。
カレー粉調合キット。他に七味、ハーブソルトなどの調合体験キットがあるそうです。
用意されているのは以下のスパイス。
コリアンダーとクミン。香り系スパイス1と2。
コリアンダーとクミン。香り系スパイス1と2。
コリアンダーとクミン。コリアンダーはパクチーと同じもの。クミンはエスニック料理でよく使われるスパイス。
ナツメッグとシナモン。香り系スパイス3と4。
ナツメッグとシナモン。香り系スパイス3と4。
続いてナツメッグとシナモン。シナモンはお菓子に使われることもあり、この4つが香りつけの為のスパイスになります。
ターメリックとブラックペッパー。色つけと辛味つけスパイス。
ターメリックとブラックペッパー。色つけと辛味つけスパイス。
更にターメリックとブラックペッパー。カレーの黄色い色の元になるのがターメリック。辛みのひとつとなるのがブラックペッパーです。
チリーペッパー。赤トウガラシの粉末。辛味つけスパイスその2。
チリーペッパー。赤トウガラシの粉末。辛味つけスパイスその2。
最後にチリーペッパー。こちらも辛味をつけるスパイス。以上7種類のスパイスを調合していきます。
それぞれのスパイスにオリジナルキャラクターが。頭には各スパイスの原料が乗っている。
それぞれのスパイスにオリジナルキャラクターが。頭には各スパイスの原料が乗っている。
スパイスのヱスビー食品推奨調合量は各ボードに記載されているので、それを元に好みで調合量を調整します。
辛いのが好きな方はチリーペッパー多め。香りならばクミンあたりを多めで。
辛いのが好きな方はチリーペッパー多め。香りならばクミンあたりを多めで。
例えば、甘口のカレーならチリーペッパーは入れず、中辛なら大さじ1/4ぐらい辛口なら1/3といった感じに調整します。

もちろんチリーペッパー、ブラックペッパー増し増しの限界に挑戦した辛さや、調理中からインドに旅している気分になれるような香りのクミン増量タイプなど各種調整は自分次第です。
まずは推奨量で調合。遊びはそれから。
まずは推奨量で調合。遊びはそれから。
カップに各スパイスを入れてよくかき混ぜれば調合は完了。
試しにブラックペッパー、チリーペッパー倍増しのバージョンも作ってみました。
試しにブラックペッパー、チリーペッパー倍増しのバージョンも作ってみました。
出来上がった物は袋に入れ封をし、日付を書いたラベルを貼って調合体験終了です。
片方は辛さ倍増しの物だがその点を書くのを忘れ調理するまで分からなくなった。違いは先に書いておきましょう。
片方は辛さ倍増しの物だがその点を書くのを忘れ調理するまで分からなくなった。違いは先に書いておきましょう。
調合したカレー粉はそのままでは使わず、一度フライパンで焙煎して香りを立たせてから使います。
焙煎方法やカレー粉を使ったカレー作りのガイドも貰えます。
焙煎方法やカレー粉を使ったカレー作りのガイドも貰えます。
家に持ち帰ったものを使ってみましたが、市販のカレールーを使って作る手軽なカレーとはまた違ったスパイスの香り引き立つカレーとなりました。

数種類のスパイスを混ぜただけなのに結構本格的です。
撮影で同行してくれたライターの玉置さんも調合体験。今度カレーうどん作ってください。
撮影で同行してくれたライターの玉置さんも調合体験。今度カレーうどん作ってください。
しかし、製品となっているカレー粉は焙煎の後に、更に一定期間寝かせて熟成させる工程が入るそうです。また、全部で30以上ものスパイスが使われているとのことで、今回の体験で作る物はあくまで基本的な物。

スパイスの世界は奥が深い。

家でも混ぜて作れる

今回は赤い缶のカレー粉に描かれた建物の謎に始まり、中身のカレー粉の秘密についても聞くことが出来ました。30以上のものを調合、焙煎、熟成。かなりの手間です。

しかも、その調合の比率は秘中の秘。社内でも知っている人はごく限られた人だけだそうです。広報の方に誰が知っているのか聞いてみたのですが、それも知らないとのこと。そりゃそうか。

とはいえ、今回の体験のように市販のスパイスを幾つか調合するだけでも結構本格的な味のカレーが出来ました。家で試行錯誤して色々やってみると楽しそうです。何か新しい料理をやる時に買ってちょっと使い、そのままになっているなんてスパイスが結構家にあったりします。それを色々まぜたら何かいい物が出来るかもしれません。いい物出来なかったときは市販のカレー粉で。うまいです。
昭和29年発売されたモナカカレー。モナカでとろみをつける即席カレー。昔はこんな物も販売されていた。身近な企業の歴史は調べると楽しい。
昭和29年発売されたモナカカレー。モナカでとろみをつける即席カレー。昔はこんな物も販売されていた。身近な企業の歴史は調べると楽しい。
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